AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 15, 2002, Vol.295


速報(Brevia)

餌を探すアホウドリの行動をGPSで計測する(GPS Tracking of Foraging Albatrosses) 衛星利用の位置計測機器の進歩により大型野生動物の広範囲な行動様式の研究は大幅に 進歩したが、精度不足から中型から小型動物への利用は不可能だった。Weimerskirchた ちは(p. 1259)、南インド洋の島に生息する、繁殖中のアホウドリに小型GPS機器をとり つけることで、彼等の飛行パターンや餌を取る行動などを調べた。彼等は飛行中には風 にのって様々な方向に時速18 kmから135 kmというスピードで飛び回り餌を探す、又 、着水中は潮流にのり漂いながら餌を採る。(Na,Og)

衝撃波の画像(Shocking Images)

多くのガソリンやディーゼルエンジンにおいて、燃料は加圧されてエンジン内部に噴霧さ れ、その結果酸化物と一緒に急速に均一に拡散する。このプロセスを最適化することは 、燃料とエンジンの効率にとって決定的に重要であるが、今なお、設計を合理的に最適化 するに足るほど、このような噴霧状況の力学を十分詳細に調べることは困難である 。MacPheeたち (p.1261) は、シンクロトロンによるX線撮影により、高圧の噴霧の高速 な力学挙動を明らかにできることを示している。彼らの解析は、多くのエンジンの典型的 な条件では、衝撃波が噴霧中で発達し、伝播することを示している。(Wt)

ヒトの行動のより早い進化(Early Rise of Human Behavior)

10万年前の解剖学的に現代人(modern human)である標本が、アフリカのサハラ砂漠以南 で見つかっている。しかし、抽象的あるいは象徴的なアートとして証拠を残している 、行動的に現代人として進化したのがいつであるのかについては議論が多い。ある考古 学者たちは、遅くしかも急速な行動的進化が、ヨーロッパ北部の旧石器時代そしてサハ ラ砂漠以南の後期石器時代にあたる4万年から5万年前に起こったと主張していた。しか し、他の学者たちは、アフリカ中期石器時代に始まった、より早くしかもゆっくりとし た進化を主張していた。Henshilwoodたち(p.1278;ヒトの進化に関するニュース欄と1月 11日のニュース記事を参照)は、アフリカのBlombos洞窟において、幾何模様のあるオ ーカー(黄土、ochre)の2つの破片を発見した。彼らはそれには象徴的な芸術作品である と解釈した。その岩石層(the rock deposits)や焼かれた石質岩片(lithic fragments)の熱ルミネッセンス年代測定により、そのオーカーの破片は中期石器時代で ある約7万7千年前のものであることが分かった。このことは、サハラ以南のアフリカで は早くゆっくりとしたヒトの行動面での進歩があったことを証拠付けている。(TO)

南半球の温暖化(Southern Warmth)

Southern Ocean(南氷洋:南極大陸を囲む全海域)では、太平洋、大西洋そしてインド洋か らの海水が、速い流れの南極の極周海流の中に混ざり合っている。このため、全 世界の海洋の条件を均質化する働きがあると考えられている。Gille(p.1275)は、1930年 から2000年までの期間におけるSouthern Oceanの深さ700メートルから1100 メートルの海水温を比較した。この海域の海水温は、1950年から1990年の間に全海洋の平 均水温の上昇に対してほとんど2倍も上昇した。この上昇は、南半球におけるこ の期間の大気温度の上昇に匹敵し、表面大気の平均温度よりも正確に決定できる 。Southern Oceanの中程度の深さにおける海水の測定は、赤道以南の温暖化の進捗を追 跡するために有用である。(TO)

マントルの流れ:古いのか新しいのか?(Mantle Flow: Old or New?)

ある特別の方向へのマントル物質の全体的な流れは、橄欖(かんらん)石粒子を一つの軸 に沿って並べる傾向がある。この軸は、電気伝導度における非等方性としてとして明ら かにすることができる。Bahr と Simpson (p.1270) は、オーストラリアおよび速く動 いているオーストラリアプレートの地下と、Fennoscandia およびよりゆっくり動いて るユーラシアプレートの地下の電気伝導度の非等方性を測定した。彼らは 、Fennoscandia地下のマントルにおける橄欖石粒子の配列に非等方性がより大きいこと を見出した。これは、流れはプレートの動きとは独立にマントル対流によって支配され ているか、あるいは、その流れは、より古く、そしてより速かったユーラシアプレート の動きの化石的な痕跡であるかのどちらかを示している。いずれのメカニズムにしても 、緩和時間や対流パターンのようなマントルの力学的挙動の有用な評価が得られる 。(Wt,Og)

高い湿度(High Humidity)

成層圏の水蒸気増加は、地球全体の温度傾向に影響を与え、かつ破壊メカニズムを増長し て南北両極のオゾンの中和を阻んでいる可能性がある。成層圏における水蒸気濃 度は、過去50年間で約2倍になった。この水分を生み出すたった一つのよく知られたメカ ニズム(メタンの酸化)は、この増加のたった2分の1を説明できるに過ぎない。 Sherwood (p. 1272)は、最近約20年間の人工衛星データを調査し、成層圏の水分変動は 、熱帯の圏界面かその下付近での相対湿度変化までたどれることを見つけた。これ らの変化は強い上昇気流で打ち上げられる氷結晶のサイズ分布の影響を受けているように 見える。寄与している要因としては熱帯の生物量燃焼の加速が考えられる。そし て、熱帯でのバイオマス(biomass)燃焼は、この提案されたメカニズムに対して必要と される小さなエアロゾル(浮遊粒子)を作り出すことができる。(hk,Nk)

陸と海からの保存(Conservation by Land and by Sea)

世界のサンゴ礁の四分の一は、今や人間活動によって激しく崩壊しており、更に多くの サンゴ礁が絶滅の危機に瀕している。3235種のサンゴ礁に棲む生物の地理的分布データ を用いて、Robertsたち(p.1280)はサンゴ礁崩壊と生物多様性の危険地域を正確に示し 、保存活動を最も必要とする地域をどのように定めるべきかを報告している。陸生と海 洋の生物多様性の危険地域に関して驚くべき一致が見出された。海洋の危険地域の多く は陸生の危険地域に隣接しているか、或いは重なり合っており、このことは陸生と海洋 の統合的保存活動を展開する必要性を示している。(KU)

膜におけるキラリティの高まり(Chirality Enhancement on Films)

生命の起源に関連した問題でキーとなる疑問の一つは、ラセミ混合体の分子が反応して キラルなポリマーを形成するかどうかに関してである。Zepikたち(p.1266)は、化学修 飾して両親媒性を付与した三種類のリジンとグルタミン酸類似体を合成し、その後水面 にラセミ単分子膜を形成した。不規則な単分子膜ではランダムな、或いは二項分布をも ったオリゴマーを形成した。しかしながら、規則的な単分子膜の場合、最近接分子が逆 の立体配置をもったラセミ化合物では交互にかわるオリゴマーが優先的に生じ、最近接 分子が同一の立体配置であるラセミ化合物ではホモキラルなオリゴマーを優先的に形成 する。単分子膜表面内での遅い分子拡散とオリゴマーの成長が単分子膜の結晶構造内で 適合する必要性を考慮すると、この発見は意外な出来事である。(KU)

 固定的か可塑的か?(Programmed or Plastic?)

脊椎動物において頭蓋神経冠細胞は頭部の骨や結合組織を特定する働きがある。ニワト リ胚を使った古典的実験において、第1アーチ(鰓弓)骨格誘導体を特定するニワトリ 後脳部分が、後脳の後側部分に移植された。こうして移植された材料は、移植された部 位によらず第1アーチを複製しつづけることから、神経冠は特異的な頭部構造を作るよ うに予めプログラムされていることが推測されていた。しかし、その後の解析によって 、神経冠はもっと可塑的であることが分かってきた。Trainorたち(p. 1288)は、移植で の中脳/後脳接合部が含まれていれば、第1アーチ構造が出来るには十分であり、この峡 部からの線維芽細胞成長因子8が複製を生じるのであり、従って神経冠細胞が周囲の情 報によってパターン化されることを示した。(Ej,hE)

均一分布を保つ(Maintaining Even Distributions)

細胞の周囲に均一に接着性接触面を分布させるには、小さなグアノシントリホスファタ ーゼ(GTPase)のRap1に依存した情報伝達経路が必要と思われる。Knox and Brown (p. 1285)は、ショウジョウバエ上皮組織中のRap1機能喪失によって接着接続の分布が不均 一になり、正常な細胞移動が阻害されることを明らかにした。またRap1は、新しく細胞 分裂した姉妹細胞間の接合部で多く認められた。このGTPaseは、細胞と細胞の接合を制 御し、多分、細胞移動度や分裂に不可欠な細胞骨格に変化を起こす情報伝達経路に接合 部複合タンパク質を結合させている可能性がある。(Ej,hE)

二重の責務を果たす(Doing Double Duty)

細胞周期の制御には、キーとなるタンパク質のnedd8ユビキチン様修飾が生じている 。Kurzたち(p. 1294)は、この修飾が線虫(C.elegans)の胚の細胞骨格の制御にも重要で あることを見つけた。Nedd 8と結合すると前核の移動中や細胞質分裂中に細胞皮質での ミクロフィラメントの収縮が阻止される。さらに、微小管切断複合体のkataninは、減 数分裂の末梢のneddylation(訳注)の後で分解する。(Ej,hE)
訳注:neddylation とは、NEDD8と呼ばれる小タンパク質が、他のタンパク質に物理的 に付着することであり、これによって、NEDD8が付着したタンパク質の機能を変化させ ると考えられている。例えば、SCF酵母に付着するときはSCFの活性が劇的に増大する 。このNEDD8をタンパク質に付着させる酵素は知られているが、これをタンパク質から 取り除く酵素はまだ知られていない。

免疫学的多様性をAIDが助ける(AIDing Immunological Diversity)

抗原受容体遺伝子の現象の多様性は、V(D)J組換えによるそれ自身の組み立てのし方に 部分的には起因しており、3つの異なったプロセスが、再配列された免疫グロブリンの さらなる多様性を生み出すのである。再配列されたV要素は体細胞性超変異と遺伝子変 換を受けやすく、クラス・スイッチングがその免疫グロブリンの効果を及ぼす機能を変 えるのである。活性化によって誘導される脱アミノ酵素(AID)は、RNA編集に関与すると 予測されているタンパク質であるが、体細胞性超変異とスイッチの組換えの双方の活性 を制御していることが示されてきた。Arakawaたちはこのたび、免疫グロブリン遺伝子 変換もまたAIDによって調節されていることを示したが、これは体細胞性超変異と遺伝 子変換が同じイベントによって起こされている可能性があることを指摘するものである (p. 1301; またFugmannとSchatzによる展望記事参照のこと)。このことから、AIDは3つ のプロセスすべての主要な制御をつかさどるように見える。(KF)

強力な抗マラリア薬剤(Potent Antimalarial Agent)

マラリアに感染したヒトの中では、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium. falciparum)の無 性段階のものが、赤血球細胞中にとどまっている。その宿主細胞とは違って、寄生体は 大量の膜を合成することで、おそらくは栄養分の取り込みを補助している 。Wengelnikたちは、寄生体のリン脂質生合成を抑制する方法について、コリンの構造 的類似物を用いることに焦点を合わせた研究を続けてきた(p. 1311; またTaubesによる ニュース記事参照のこと)。リード化合物G25が、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)と三日熱マラリア原虫(P. vivax)に重く感染した(赤血球が5から14パーセ ント寄生された)サルでテストされた。彼らは、筋肉内処置後、60日を経た後も再発す ることなしに、サルを治癒させることができた。G25は、現在の抗マラリア剤よりもず っと少ない量でマラリアのサルを治癒し、現在用いられている薬剤が効かない寄生虫に 感染したマウスに対しても効果がある。(KF)

氷の中のプロトン(Protons Through Ice)

プロトンは液体水を急速に拡散するが、氷の中では分子拡散が大気圧下において支配的 である。高温、高圧下で氷が存在している惑星内部において、プロトン拡散過程が重要 となるであろう。Katohたち(p.1264)は、400Kの温度で圧力が10乃至63GPaでの氷Ⅶに 対するプロトンの拡散係数を測定した。彼らは一個のH2Oの隣に D20のブロックを配置して、O‐DとO‐Hの伸縮運動の変化を測定した。この ような条件のもとでは、分子拡散が何ら起こっていないことが酸素同位体測定で確認さ れた。(KU)

活性化するために、TAB1を引く(Pull TAB1 to Activate)

分裂促進因子活性化タンパク質リン酸化酵素(MAPK)ファミリのメンバーは、広範囲の細 胞プロセスを制御するが、連続リン酸化によって活性化されるタンパク質キナーゼのカ スケードの一部として制御される。従って、MAPKキナーゼが特異的なスレオニンとチロ シン残基におけるMAPKをリン酸化することによってMAPKが活性化される。Ge(p. 1291;Johnsonによる展望記事参照)は、いわゆるストレス活性化MAPKであるp38αを活性 化する別の方法があることを示している。著者は、酵母システムにおいてヒトの p38αと相互作用するタンパク質を単離し、TAB1[トランスフォーミング成長因子β活性 化タンパク質キナーゼ1(TAK1)結合タンパク質1]を発見した。TAB1は別のタンパク質キ ナーゼTAK1の活性化に関与することが以前に示唆されていた。TAB1は直接にp38αと相 互作用することによって、p38α酵素の自己リン酸化と活性化を増強した。培養細胞に おけるp38αへの情報伝達の研究によれば、いくつかの刺激は通常のキナーゼカスケ ードによってp38αを活性化するが、他の刺激はTAB1との相互作用およびp38αの自己リ ン酸化の活性化を必要とする。(An)

植物ステロイドの制御(Regulating Plant Steroids)

植物ホルモンは、小さなペプチドと複雑な化学物質とブラシノステロイドというステロ イドを含む。ブラシノステロイドは、とりわけ植物の対光反応や成長体質や開花パタ ーンを制御する。ブラシノステロイドによって制御される情報伝達経路は、複雑で多岐 にわたっている。LiとNam(p 1299)は、SHAGGY型キナーゼと類似するタンパク質をコ ードするBIN2遺伝子をクローン化し、分析した。SHAGGY型キナーゼはショウジョウバエ と酵母と哺乳類の細胞における様々な代謝経路を制御することがよく知られている 。BIN2タンパク質産物は、ブラシノステロイド情報伝達応答経路の初期に機能するよう であるが、その機能が、ブラシノステロイドの最初の反応とその受容体にどれほど関係 するかということはまだ不明である。(An)

染色体の三次構造(Tertiary Chromosome Structure)

染色体構造は、光学顕微鏡の初期の頃からずっと研究のトピックであり、そして初級生 物学講座ではギムザ染色した試料中での明暗バンドのパターンがよく知られている。こ のような低解像度の観察を補うものとして、ゲノム配列解析プロジェクトにより一次構 造情報が作成され、そして結晶学的研究により二次構造または局所構造と同等と考える ことができるヌクレオソームの知見が提供された。Dekkerたち(p. 1306)はここで 、染色体内および染色体間の中距離の相互作用を世界的に測定するための、個体群ベ ースの方法を記載する。彼らは、酵母(Saccharomyces cerevisiae)の核にこの技術を 応用して、核内での染色体統合化の既知の定量的特徴を確認しそして減数分裂の間の染 色体のダイナミックな動きを追跡し、そして細胞周期G1期の平均的な染色体IIIがゆが んだ蹄鉄型をしていることを見いだした。(NF)

頭の制御(Control Your Head)

眼球の制御に関与する中脳におけるニューロンおよび構造に関しての実質的な文献は存 在しているものの、頭部姿勢の制御についての神経学的メカニズムはほとんど知られて いない。電気刺激法および薬理学的不活性化を使用して、Klierたち(p. 1314)は、ね じれ眼球運動を制御する中脳におけるカハール(Cajal)の間質核が、頭部姿勢の制御 についての神経統合もしていることを示す。これらの結果は、斜頚のような症状の病因 を理解するための補助となるだろう。(NF)
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