AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 1, 2002, Vol.295


霊長類の単為生殖(In Brevia)

単為生殖とは、卵が精子の存在無しに胚に発達することの出来るプロセスのことである 。このプロセスはヒト以外の霊長類に対しある範囲で実験されているが、このプロセス を用いて胚性幹細胞系を発生させたとの報告はない。Cibelliたちは(p. 819)、心筋細 胞様細胞や、平滑筋細胞、含脂肪細胞、繊毛性上皮細胞や神経細胞などを含む様々な種 類の細胞に分化する多機能性の胚性幹細胞系を霊長類であるカニクイザルから導き出し たことを報告している。この方法で発生させた種々の胚性幹細胞系は、批判の多いクロ ーン技術を用いて胚性幹細胞系を発生させる替わりに使用できる可能性がある。(Na)

高付加価値になったエンドウのさや(Value-Added Peapods)

最近の研究によると、“エンドウのさや”構造として知られる、C60が詰まっ た“単一壁カーボンナノチューブのハイブリッド構造”が作れることが示されている。こ れら“エンドウのさや”構造についてのHornbakerたち(p. 828; カバー参照)による走査 トンネル効果顕微鏡を用いた研究によれば、ナノチューブの状態電子密度が C60分子の添加によって変えられることを示している。ナノチューブ内に置い たC60の分布周期を変えたり、チューブ内のフラーレンを移動することが出き ることから、電子軌道をハイブリッド化して調整し、個々の要素だけでは得られない望ま しい電子特性を持つ構造を形成できる可能性が期待できる。(hk)

集団的ふるまい(Collective Action)

理論によると、金属中の電子が一次元のワイヤ中に閉じ込められると、その電子は 、バルクの金属中における相互作用のように独立的ではなく、集団的に相互作用する ことが示唆されている。これらの予言の立証は、実験的にはこれまでのところ困難で あると判っている。Auslaender たち(p.825; Zulicke による展望記事を参照のこと) は、平行な一組のワイヤうちの一本がそのワイヤに沿ってギャップを有するものにつ いて、その完全なほうの一本のワイヤ中の電子輸送の研究を行って、その中の電子励 起を観察した。電子は切れたワイヤからトンネル効果により、電子状態が整合したと きのみではあるが、その完全なワイヤ中に入り込むことができる。注入電子のエネル ギーを変化させて(電圧バイアスにより)、また、運動量を変化させて(磁界を用い て)、彼らがマッピングした素励起の分散関係は、集団的挙動と一致している。(Wt)

炭素を含まないメタロセン(Metallocenes Sans Carbon)

フェロセンは「サンドイッチ」化合物で、鉄原子が二個の芳香族シクロペンタジエニ ル(C5H5)環に結合している。ベンゼンと同様、フェロセン や他の多くのメタロセンはベンゼン類似の熱安定性と反応性を示し、重合触媒といっ た幾つかの用途が知られている。この構造により芳香族化合物が安定になるため、芳 香族リン化合物の合成が可能となり、C5H5環が P5(PはCHと等電子構造である)に置換される。Urneziusたち(p.832)は 、高度に還元されたTi化合物と黄リンから 〔(η5‐P5)2Ti〕2‐の「ワンポット 」合成を報告している。電子が不足しているにもかかわらず、この化合物の塩は空気 や熱に対して非常に大きな安定性を示している。(KU)
訳註:金属と結合している原子の数を表現するときη(イータ)という記号を用い、5つ の原子と結合しているときにはη5であらわす。

腸-レベルのゲノム(Gut‐Level Genomics)

線虫(C.Elegans)のpha-4遺伝子を含んでいる転写因子FoxAファミリーは、広範囲な 種における消化器官の発生に重要である。ゲノム-スケールの方法を用いて、Gaudetと Mango(p.821)は、咽頭の無い線虫の胚のマイクロアレーと過剰の咽頭組織を持つ胚の マイクロアレーを比較した。この分析では咽頭において優先的に発現する240の遺伝子 を同定し、タンパク質PHA‐4が、詳細に調べられた咽頭−特異的遺伝子の殆ど総てを 制御している。更に、この遺伝子に関係している様々なDNAサイトに対するPHA‐4の相 対的親和性が、その遺伝子が生体内で活性化される時期と関係している。(KU)

ゴールを見ながら(Glancing Goals)

ある視点から別の視点に注視点が動くとき、微小な目の動きであるサッカード(眼球運 動)のほとんどは前脳皮質で制御されている。Seidemannたち(p. 862)は、電子的微小 刺激と光学的画像形成法を組合わせ、サルを使って、前脳皮質視覚野と、それに隣接す る皮質領域8Arにおけるサッカードの計画と実行を支配しているメカニズムを研究した 。これらの領域に刺激信号列を入れると、容易にサッカードが脱分極性の拡散波を発生 させ、さらに続いて、過分極状態が長く継続する。発生した眼球運動の方向と振幅は 、入力信号列に関してサッカード開始タイミングに依存する。サッカードが脱分極中に 開始すると、サッカードは対側性(体の外側への眼球運動)を示すが、過分極中に開始 すると、同側性(体と同じ側)を示す。サッカード振幅は、脱分極や過分極状態の相対 的な大きさと関連している。(Ej,hE)

大気中を通過するエネルギーや流体の現状(The State of Atmospheric Flux)

地球の放射(radiation)に影響する主要なプロセスを理解し、かつ長期的なフラックス (エネルギーや流体)の傾向を観察するために人工衛星のデータが使われてきた。エア ゾールは、直接には放射(radiation)を反射あるいは吸収することによって、あるいは 間接的には雲の形成に対して影響を及ぼすことで、地球のアルベド(反射率)に作用する 。Breonたち(p. 834)は、大気中の小さなエアゾールの量と雲小滴半径の衛星測定を比 較し、エアゾールがどのように雲滴半径サイズに影響するかについて包括的な考え方を 構成した。彼らは、陸上や海洋上にまたがる雲の特性に明確な違いを見つけ、人為的な 放出ガスやチリが全世界規模の変動の多くの原因であることを示した。地球の放射フラ ックスにおける年間変動は、エルニーニョ-南方振動(ENSO:El Nino-Southern Oscillation)のような大規模な大気の循環変動と関係していて、それは特に熱帯地方に 顕著である。さらに最近の衛星による測定から、より長期的な傾向も検知した (Hartmannによる展望記事を参照)。Chenたち(p. 838)は放射された熱と反射した太陽放 射物とのフラックスに関する過去15年間データに基づく分析を行い、放出される波長の 長い放射における観察された10年間の増加傾向は、より強いHadley-Walker循環の結果 であることを示した。主に1990年代前半に起こった熱帯循環の強まりは、自然な気候の 変動のせいなのか、あるいは人為的に生じたかのいずれかの結果である。Wielickiたち (p. 841)は、衛星からの20年間の測定による、エネルギー供給を示す熱帯の大気上部の 放射フラックスデータを収集し、これまで信じられたよりはるかに動的で、より変動的 であることを示す。1平方メートル(W/m2)当たり1ワットの放射フラックス の変化でも気候モデルの結果に影響をおよぼす。彼らは、ENSOあるいは大きな火山噴火 にしばしば関連づけられる8W/m2程度の波長の長い放射の急激な変化、波長 の短いフラックスにおける5W/m2の季節変動、および10年規模の 2〜4W/m2の変動(drift)を報告する。(TO,Nk)

一歩一歩進んで(Inching Along)

微細管に沿って8ナノメートルステップで動くキネシンの2つの異なった機構案が提案 されているが、「手をねじりながら進む」機構と、「尺取虫」機構である。前者はキ ネシンの両端が交互に入れ替わりながら進んでいくが、尺取虫機構は両端の順序が変 わることはない。Hua たち(p. 844; Couzinによるニュース記事参照)は、ネック領域 のカルボキシ末端を介してキネシン分子を固定して、1個の酵素分子によって動かされ た微細管の向きを測定した。キネシンによって仲介された微細管と表面との結合は捩 れに対して十分硬い。手を交互にねじって進む方法は微細管部分が固定されたネック に対して180度の回転を生じさせるはずである。この180度の回転は観察されなかった ので、尺取虫のような機構が存在していることになるであろう。(Ej,hE)

 神経変性の介添え(Chaperoning Neuronal Degeneration)

ドーパミン作用性ニューロンの変性を引き起こすショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のパーキンソン病モデルにおいて、Auluckたち(p. 865;Helfandによ る展望記事を参照)は、パーキンソン病の病因に関与しそしてタンパク質性のレーヴ ィ小体の主要な構成要素であるalpha-synucleinが病理学的レベルで存在する際に、分 子シャペロンHsp70がドーパミン作用性ニューロンを保護する役割を示した。著者たち が、死後のヒト患者から採取したサンプルにおいてレーヴィ小体を調べ続けたところ 、これらの特徴的な病変部位には、高濃度の分子シャペロンも含まれていた。これら の結果から、シャペロンタンパク質の活性を調節することが、この衰弱性疾患を治療 する際に役立つ可能性があることを示唆している。(NF)

トランスジーンに青信号(A Green Light for Transgenes)

胚発生のあいだレトロウィルス性配列の発現を抑制することは、これらの病原体が制 御不能なように増殖してしまうことに対する、発生の防衛手段であると考えられてい る。しかしながら、遺伝子発現のこの遮断は、トランスジェニック動物を作出しよう としている科学者にとっては、大きな障害となっている。Loisたち(p. 868)は、一 細胞期胚にin vitroで組換えレンチウィルスベクターを感染させることにより、トラ ンスジェニックマウスおよびトランスジェニックラットを高頻度で作出することがで きることを示した。そして、適切なプロモーター、たとえば筋肉特異的プロモータ ーやTリンパ球特異的プロモーター、とともにレンチウィルスを使用して作出された動 物は、高レベルのトランスジーン(この場合には、緑色蛍光タンパク質、GFP)を、適 切な細胞において組織特異的に発現することができた。トランスジーンは、生殖系列 を介して、次世代に移行した。このアプローチは、他の方法に代わるものとして提案 するのではないが、迅速に、そして費用がかからずに、多くのトランスジェニック系 統を開発するため、そして前核注入あるいはその他の方法が機能しなかったその他の 種に対して、特に有用である可能性がある。(NF)

細菌のアミロイド(Bacterial Amyloids)

アミロイド線維は、プリオン病や全身性アミロイド症といった様々な病状に関与する 。Chapmanたち(p 851)は、大腸菌で発現される細胞外線維は細菌型のアミロイドである ことを示している。curli線維がいくつかのアミロイドに特異的な特徴をもつ。例えば 、Congo赤の色素に結合する線維を形成するように集合する。しかし、無傷の細菌中で curliが発現するには、いくつかの遺伝子産物が協力して働くことが必要である 。curliがどのようにして形成されるかを理解することにより、ヒトの疾病における病 理アミロイドも理解できるかもしれない。(An)

柔軟性が鍵(Flexibility Is the Key)

細菌のRNAポリメラーゼは、DNA結合サブユニット(δ)に加え、5つのサブユニット (α2ββ'ω)を含む。多くの細菌の遺伝子には、δサブユニットが直接に 2つのプロモータ要素に結合するが、その2つの要素は、転写開始点から約-10と-35を 中心とする位置にある。しかし、δは自力でこの要素に結合できない。Kuznedelovた ち(p. 855)は、δ結合のメカニズムを研究している。δがコアポリメラーゼに結合し た後、RNAポリメラーゼのβサブユニットの"柔軟フラップ"領域が直接にδと相互作用 することによって立体配置の変化を誘発する。この変化によって、δが同時に-10と- 35のプロモータ要素に結合することができ、その後の転写が開始する。異なるδ因子 とコアポリメラーゼが結合することによって、プロモータ認識の特異性が区別できる のかもしれない。(An)

ゴルジの分配(Golgi Partitioning)

ゴルジのようなシングル-コピーの細胞小器官は、細胞分裂の際に、娘細胞に正確に分 配されなければいけない。ゴルジ複合体が分配される機構については、たくさんの議 論がなされてきた。ゴルジ酵素が、有糸分裂の初期に小胞体(ER)に定量的に再循環さ れることで、新しいゴルジが有糸分裂後に新規に形成されるという可能性があるし 、あるいは、ゴルジが小胞化して、有糸分裂後のゴルジの再構成に必要なマトリック ス成分とクラスター化した膜組織の鋳型を残すという可能性もある。Seemannたちは 、有糸分裂に入る前に処理を施した後に、ゴルジ膜構造がERに再循環された場合の 、有糸分裂の際のゴルジのマトリックス成分に注目した(p. 848)。マトリックス成分 は、正確に娘細胞に分配された。かくして、次の両方の伝達モードともが必要である 可能性があるのである。膜の分配に関する分配と、有糸分裂に入る際のゴルジの状態 に依存した、マトリックスの特異的な分配と。(KF)

酸素検出モデルのさらなる改訂(O2-Sensing Model Further Modified)

酸素が限られて(低酸素)くると、哺乳類の細胞は、酸素の配達を増強させる遺伝子、あ るいは減少した使える酸素に合わせて代謝の調整を促進する遺伝子の転写を増加させる よう反応する。低酸素-誘導性の転写制御因子HIF-aが、この適応応答において中心的役 割を果たしており、最近の研究ではHIF-aの活性が、タンパク質の安定性を減少させる 酸素-依存的なプロリン水酸化によって部分的に制御されているということが明らかに なってきた。Landoたちは、HIF-a活性を調整している第2の酸素-依存的タンパク質修飾 としてアスパラギン水酸化を同定し、重要なアスパラギン標的がHIF-aのトランス活性 化領域にあることを示している(p. 858; BruickとMcKnightによる展望記事参照のこと) 。このアスパラギンの水酸化は、正常な酸素条件で生じるのだが、HIF-aの転写性活性 を、活性化補助因子タンパク質p300との相互作用を阻害することで、抑制するのである 。(KF)
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