AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science Jaunuary 4, 2002, Vol.294


速報(In Brevia)

セキセイインコの鶏冠と頬羽の蛍光は性的シグナルであり単に羽毛色素の副産物ではな いことがArnold たち (p. 92)によって示された。彼らは、実験的に鶏冠の蛍光発生を 減らしたグループと減らさないグループを作り、鶏冠の蛍光が“社会的なシグナル”な のか“性的シグナル”なのかを確かめた。(hk)

クローンブタが拒絶反応を解決してくれるかも知れない(Cloned Pigs May Help Overcome Rejection)

ブタ臓器はヒトへの移植用として最も期待されているが、移植後の拒絶反応が問題であっ た。ヒトにはないある種の糖をブタが産生するために移植後にヒトの免疫系で拒絶反応が 生じるのである。この度、この糖を産生する酵素であるガラクトシルトランスファラーゼ 遺伝子をヘテロで欠失させた4匹のクローン子ブタの作製に成功した。これは今週の Science Online に発表されたが、このことは研究者たちが、遺伝子をホモで欠失する生 きたブタを作るという最終目標の半分を達成したしたことになり、同じ目標を目指してい る一群の会社の中でのトップに立つことになった。(Ej,hE)

電気的に励起された単一光子(Electrically Excited Single Photons)

実際的な量子情報処理を発展させるには、要求された時点で単一の光子を発生する能力 が必要である。単一光子を提供できるいくつかの手法が開発されてきたが、そのすべて は光学的に励起されたシステムに基づくものであった。理想的な単一光子源は、室温で 電気的に駆動され、作動するものであろう。Yuan たち (p.102) は、量子ドットが p-i-n ダイオード中に埋め込まれたデバイスを構築した。そのデバイスは 200mK 以下 の温度において作動するものではあるが、必要時点でのナノ秒以下の電圧パルスによっ て、単一光子を射出する。(Wt)

火星における凍結・解凍のサイクル(Freeze-Thaw Cycles on Mars)

現在の火星表面の環境では液体水は安定に存在することはできない。しかし、中部-高 緯度地方の極側の斜面の微小な峡谷の形状からは液体水による侵食が起きたかもしれな いことが推察できる。Costard たち(p. 110)は、約30万年前、火星の自転軸がもっと傾 いていたころの、全火星の気象モデルを作った。そのモデルによると、現在以上の極冠 融解が生じ、その結果中高緯度の夏期表面気圧が上昇し、液体水が流れた可能性がある 。類似形状の周氷河土石流が、東部グリーンランドの峡谷で観察されている。これらの 観察とモデルの両方を勘案すると、帯水層による流れではなく、むしろ凍結・解凍サイ クルによって火星の峡谷が出来た可能性が推察される。(Ej)

中央海嶺におけるマグマ流(Magma Flow at Mid-Ocean Ridges)

一般論ではあるが、海底火山活動は中央海嶺拡大中央部に限定される。中央海嶺拡大中 央部におけるマグマ流速度を追跡するために、引き上げられた玄武岩試料中のウラン 、トリウム、鉛の同位体濃度が利用されてきた。Zouたち(p.107, およびElliotによる 展望記事参照)は、東部太平洋海膨軸から20キロメートル離れた場所から採集された玄 武岩から、230Th/238U比の異常値を見つけたが、この値からは 、軸から離れた場所にマグマ溜りが存在するか、あるいは、海嶺軸から横方向への溶融 物の流れの存在が推測される。どちらにしても現在の中央海嶺の動力学の見直しが迫ら れる。(Ej,Nk)

不確かな未来(Uncertain Futures)

気候研究者たちが地球温暖化についてある程度の確信を持って言えることは過去100年 間で地球は温暖化したことと、恐らく、その主な原因は人間が排出した各種の温室効果 ガスである、というくらいである。しかしながら、この温暖化が続くとどのくらいの大 問題になるかは、気象をつかさどるあらゆる要素の貢献度を解明しようとする従来から のボトムアップ方式の気象学ではこの問題に応えることは出来ていない。Forestたちは (p. 113、Kerrによるニュース解説も参照)、1860年から1995年までの温室効果ガスの蓄 積と気候をシミュレートし、実際の上空温度、地表温度、海洋温度記録との比較を行っ た。彼らのシミュレーションでは、温室効果ガスが気候に与える影響の感度、海洋が温 度を吸い取る度合い、汚染物質のエアロゾルが太陽熱上昇として気候へ与える影響を考 慮している。過去の記録と照合して、それらの結合確率分布を決めると、5−95%の確度 で、気候Sensitivityは1.4−7.7K、深海洋水の熱の吸い込みはうまく決まらなかったし 、空中微粒子による熱吸収は0.3−0.95W/M2である。(Na,Nk)

水の付着とは?(Just Add Water)

貴金属は空気酸化や水による腐食に強い。実際に、ルテニウムのような金属の清浄な表 面への水吸着の初期段階に関する構造的研究では、単純な氷状構造の二分子層が形成さ てれていることを示している。別の分光学的研究結果では、この様な構造と相矛盾して いるようである。Feibelman(p. 99;Menzelによる展望参照)は密度汎関数計算を行な い、最密充填のRu(001)表面における最初の吸着層の水分子は、実際には解離してい る事を示している。計算による構造では、第一番目の層の酸素原子は同一平面上にある こと、解離による水素原子は金属に直接結合していることを示しており、より一般的に は水が金属表面を濡らすためには解離が必要である事を示唆している。(KU,Nk)

星への出発(A Start for Stars)

新しく創造された宇宙における最初の発光天体は、ひとつの星だったのだろうか、ある いは、何かもっと風変わりなものだったのだろうか?シミュレーションによると、収縮 する原始銀河ハロー中での大きな密度コントラストは、何らかの原始星のコアに分裂し 、星形成を抑止するであろうと示唆している。Abel たち (p. 93; Rees による展望記 事と、星形成に関する特別号を参照のこと) は、平坦で冷たいダークマターにもとづく 宇宙論から始めて、宇宙論的なスケールから星の長さのスケールまでのハローの収縮に 関する三次元流体シミュレーションを完了した。三体衝突による水素分子の形成は、十 分に長く、また、十分に早く、分裂することなく進展するため、安定で完全に分子から なるコアの発達が可能であった。分子コアは、安定的により多くの質量を降着させ、星 を形成することができた。かくして、最初の光は星からのものであった可能性がある 。これらのシミュレーションは、また、重元素(天文では水素とヘリウム以外の元素の 総称)を含まない星が収縮分子雲とは独立に形成されうることを示している。(Wt,Nk)

 長く生きるには酸素ラジカルを避けよ(Live Long and Avoid Oxygen Radicals)

ラット、或いはマウスの食物摂取を厳重に制限すると極端に長寿命の動物となる。 Larsenたち(p. 120;TatarとRandによる展望参照)は、補酵素Qを除いた食餌を与える と、線虫(C.elegans)も、又、より長寿命となることを示している。補酵素Qはミトコ ンドリアにおける一連の呼吸作用が正しい機能を果たすために必要な脂質電子受容体で ある。この二つの事例には逆説的類似性がある--好ましいエネルギー生成の欠如が、何 故により長寿命をもたらすのか?著者たちは、線虫におけるより少ない補酵素Qとげっ 歯動物におけるより少ない食餌が、呼吸の副産物として遊離される有害な活性酸素種を 低下させるものであることを提案している。あるいは、補酵素Qのアンバランスが遺伝 子の転写を変えて、加齢プロセスに影響を与えている可能性がある。(KU)

細菌による鉱物化(Mineralization by Bacteria)

Shewanella putrefaciensによる酸化鉄結晶の生産能力については今まで良く分かって いなかったが、明らかに、細胞極における膜に囲まれた区画内で行われていたと思われ る。Glasauer たち(p. 117)は、自然状態の土壌に似た含水三価鉄酸鉄といっしょに成 長させると、Shewanellaが細胞内に微細で多様な鉱物を析出させることを示した。これ らの細菌においては鉄は再利用されているらしく、この特異な結晶をトレーサとして利 用することによって、原核生物化石の生活が明らかになるであろう。(Ej)

近くの親戚や遠くの親戚からの手がかり(Clues from Close and Distant Relatives)

真核生物のDNA損傷への応答(DDR)プロセスには、DNA損傷で生起されるチェックポイン ト制御経路とDNA修復プロセスがある。Boultonたち(p. 127)は、タンパク質-タンパク 質の相互作用マッピングとハイスループットのRNA仲介干渉の組み合わせについて記述 し、これを用いて、線虫(C.elegans) のDDRに不可欠な23個の遺伝子を同定した。その 中の11個は未知のものであった。その中の1つの遺伝子はヒトのBCL3と類似(ortholog) であった。このBCL3は慢性リンパ性白血病患者においてしばしば変異している遺伝子で ある。
チンパンジー・ゲノムの最初の物理的マップが作られた。これはゲノム解析の確固たる 基礎となるし、資源となるであろう。Fujiyamaたち(p. 131)は、チンパンジーゲノムラ イブラリーから60,000以上の細菌性の人工染色体(BAC)をヒトゲノムにマッピングした 。そのために彼らはBAC-end配列を利用して、比較的大きな両者の再配列の可能性の中 から効率よく探索を行った。その中で,ヒト染色体21に対応する、大きな非ランダムな 違いを持つ2つのクラスターが見つかった。(Ej,hE)

4番に進んでから再結合(Go Fourth and Recombine)

ショウジョウバエの他の染色体とは異なり、ショウジョウバエの第4染色体は組換えを しないと何年にも渡り報告されてきた。Wangたち(p. 134)は世界中の天然のショウジョ ウバエについて全染色体の多型をくまなく調べ、変異も組換えも予想外に多いことを発 見した。第4染色体は異なる変異領域に分けられることから、第4染色体の各領域は異な った進化の歴史を持っているらしい。(Ej,hE)

前立腺ガンへの遺伝的手がかり(Genetic Clue to Prostate Cancer)

Tumstatinとは28キロダルトンのIV型のコラーゲン断片であり、血管形成阻害効果とア ポトーシス促進効果の両方の効果を示す細胞外基質由来のタンパク質であるが、これが 、血管形成の無毒の阻害機能を有することから、潜在的抗ガン剤として注目を集めてい た。Maeshimaたち(p. 140)は、このtumstatinがタンパク質合成において、内皮細胞に 特異的な阻害剤として機能することを見つけたが、これはメッセンジャーRNAの5’のキ ャップ構造に依存する。この活動にはtumstatinとαVβ3インテグリンの相互作用が必 要で、その結果として内皮細胞アポトーシスが出来る。(Ej,hE)

後ろから押してくれ、そうすれば引っ張ってやる(Push Me, Pull You)

枯草菌のBacillus subtilisが胞子形成する際、その細胞は不均質な分裂プロセスを経 るが、その間、染色体DNAは中隔を横切って母細胞から、隣接する娘細胞に輸送される 。Sharp and Pogliano (p. 137)は、上記プロセスの仲介を助けることが知られている SpoIIIEタンパク質が、母細胞中に優先的に存在することによって輸送の方向を決定す ることを示した。このタンパク質は母細胞から積極的に染色体DNAを前駆芽胞 (forespore)に送り込む。もしSpoIIEが前駆芽胞中に無理やり集積させられると、DNA輸 送の方向は逆転する。(Ej,hE)

苔状線維LTPの分子的基礎(Molecular Basis of Mossy Fiber LTP)

海馬苔状線維シナプスでの長期増強(LTP)は、ほとんどのその他のLTPの形態とは異な る。Mellorたち(p. 143)は、過分極により活性化された混合カチオンチャンネルIhが 思いがけず重要な働きをすることを見出した。反復刺激のあいだの海馬顆粒細胞中への カルシウム流入により、カルシウム/カルモジュリン感受性アデニル酸シクラーゼが活 性化される。それに引き続いて起こるサイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)の上昇 により、タンパク質キナーゼAが活性化され、それによりIhの増加が引き起こされる 。結果として生じる脱分極により、苔状線維シナプス伝達が引き起こされる。(NF)

パラジウムを経由してフェノールを(Phenol Via Palladium)

重要な商品化学物質であるフェノールは、エネルギー的に非効率的であり、そして望ま しくない副産物を産生する3工程のプロセス(クメン法)により、ベンゼンを出発原料 として合成される。Niwaたち(p. 105)は、シェル-チューブリアクターを使用して 、担持パラジウムメンブレンで精製された種における酸素および水素によりベンゼンを 部分的に酸化する、1工程の方法を報告している。水素をメンブレンの片面に供給し 、そしてメンブレンのもう片面において酸素を原子状水素と反応させて、反応性酸素種 を生成し、その後その酸素種がベンゼン環を攻撃する。変換効率は幾分低いものの (250℃で2〜16%)、フェノールに対する選択性は高い(80〜97%)(フェノールの収率 :150℃、触媒kg、1時間あたり1.5 kg)。(NF)

早過ぎる出発(Leaving Too Soon)

細胞表面グリコシドは細胞相互作用において機能すると信じられているが、Akamaたち はこのたび、ある特異的なN-グリカンが精子形成に関係しているということを示した (p. 124; Muramatsuによる展望記事参照のこと)。マウスにおけるヌル突然変異を調べ ることによって、中間体であるN-結合炭水化物を形作る酵素であるαマンノシダーゼ IIx(MX)が、生殖細胞がSertoli細胞に付着するのに必要である、ということが示された 。MXがマウスから除去されていると、精子形成細胞はSertoli細胞に付着することがで きず、精子形成細胞は、精巣から精巣上体へ成熟前に放出されることになり、不妊のオ スができることになる。マウスにおける精子形成のよりよい理解は、ヒトの雄性不妊症 で生じる類似の事態について光を投げかける可能性がある。(FK)

セルロース入門(A Cellulose Primer)

セルロースは、さまざまな場所にある複雑な重合炭水化物であるが、一度に一ブロック ずつ合成される。しかし、まず最初に重合を開始するためには、重合を連続させるもの とは異なる生化学的機構が必要である。Pengたちはこのたび、セルロース高分子の最初 の重合はステロール-グルコシドの形成とともに始まるということを提唱している(p. 147; ReadとBacicによる展望記事参照のこと)。このステロール-グルコシドから、グル カン鎖が引き続いて延びていくのである。このステロールは、後になって、最初の一次 ユニットから、遺伝子Korriganによってコードされた膜関連セルラーゼによって取り除 かれるのである。(KF)

Isomapアルゴリズムと位相幾何学的安定性(The Isomap Algorithm and Topological Stability)

Tenenbaumたちは、「高次元の観察結果...に隠されている有意味な低次の構造を発見す る」問題、非線形次元縮退への一つのアプローチを提供する、Isomapと呼ばれる計算ア ルゴリズムを提示した(2000年12月22日号の報告 p. 2319)。Balasubramanianと Schwartzは、「Isomapの基本的アイディアは昔から知られていた」とコメントし、また 、Tenenbaumによる実装は、「位相幾何学的に不安定」であり、計算上適切な近傍サイ ズを選択するには「高次元データ多様体のグローバルな幾何学的配置についてのア・プ リオリな情報」を必要とする、とコメントしている。Tenenbaumたちは、自分たちのア ルゴリズムは従来の方法にくらべ実質的に単純であり、より効率的かつ応用範囲も広い 、と応じている。彼らはまた、データの幾何学的配置についてのア・プリオリな情報な しに最適な近傍サイズを選択する一つの方法を示唆している。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/295/5552/7a で読むことができる。(KF)
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