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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science March 2, 2001, Vol.291
ボルテックス磁性(Vortex Magnetism)
最も良く知られた超伝導体の性質は、散逸することなく電流を維持することができ、また 、小さな磁場を排除すること(マイスナー効果)が可能なことである。しかしながら、タ イプIIの超伝導体は、大きな磁場中でも超伝導電流を維持することができる。このタイプ II超伝導体は、高温(高Tc)超伝導体である銅塩の族をも含んでいる。このような材料では 、単一の磁束量子を含む非超伝導性のボルテックスは、超伝導体を貫いて、超伝導流体全 体に分散している。ボルテックスのスピンダイナミクスは、高Tc 超伝導体が示すいくつ かの特性についてある役割を果たしていると考えられているが、実際は、ボルテックスの 磁気特性についてほとんど判っていない。 Lake たち (p.1759) は、中性子散乱を用いて 、最適にドーピングされた超伝導体のボルテックスの磁気構造を直接に見た。そして、ボ ルテックス内部のスピンは、反強磁性的な秩序を持つ強い傾向があることを示す証拠を与 えている。(Wt)
【訳註】超伝導については
http://www.aist.go.jp/ETL/etl/divisions/‾5830/
電総研 超伝導材料特性ラボ等が参考になります。
混合とふぞろい(Mix and Unmatch)
コンビナトリアル・ケミストリーは巨大な化合物ライブラリーを作り---そして、又、大 きな分離上の問題をももたらす。様々な反応経路を追う簡便な方法では、反応物の一つを 固体支持体へ付着させ、反応が終了した後にその支持体を用いて分子を分離する。しかし ながら、多くの場合、固体支持体によって作ろうとする反応のタイプとスピードが限定さ れてしまう。Luoたち(p. 1766)は、反応物を異なる鎖長のフッ素化合物でタギングして 、その混合化合物を単一ポットの中で反応を行ない、その後にフッ素クロマトグラフィに よりすばやく分離できることを示している。(KU)
可逆的な結晶の階段としわ(Reversible Crystal Steps and Wrinkles)
異なる二つの波長の光で、前後に変化する可逆的反応を行うホトクロミック材料はデ ータの保存やメモリーに用いることが出来る。しかしながら、このような材料の多くは 熱的反応で一つの状態からもう一つの状態へと変化し、この材料の有用性を限定してい る。Irie(入江)たち(P. 1769;SchefferとScottによる展望参照)は、最近、光化学的 に分子内の環を可逆的に形成したり切断したりするが、熱反応にも安定なジアリールエ テン化合物に関して報告している。彼らは紫外線(UV)と可視光照射の前後でこの化合物 の単結晶表面の原子間力顕微鏡の研究に関して記述している。UV露光すると短時間の誘 導期間後、無色の結晶を青色の結晶へと変化させ、そして一つの表面には階段(ステッ プ)を形成し、他の表面には谷を形成する。この効果は可視光によって消色し元に戻る 。X線解析研究との比較により、この結晶は一単位セルで段階的に伸び縮みすることを 示している。このことはナノスケールアクチュエータとしての応用の可能性を示唆して いる。(KU)
それの電荷を保持する(Holding Its Charge)
エレクトレットとして知られているトラップされた電荷や分極を維持することができる 材料は、もし、それらを微細なスケールでパターニングすることができるならば、ナノ スケールでの製作やデータ記録への手ごろな一方法を提供することができるであろう 。Jacobs と Whitesides (p.1763) は、金属の導電体でコートされた柔軟なゴムは、接 触してその層を通して電圧パルスが印加されると、導電性の支持体上のポリメチルメタ クリレート(PMMA)膜中に電荷パターンを誘起することができることを示している。1平 方センチメートルの広さを20秒以内に150nmの分解能でパターニングすることができ 、帯電した表面上で粒子を集めることができた。パターニングする電極をより剛直な基 板で支持すると、このような電荷移動は不完全であった。(Wt)
極めて強かったスーパークロン時代(Super-Intense Superchron)
地球磁場の逆転がなかった長い期間(スーパークロン)には、磁気双極子は、もっと強 かったことを、地球ダイナモ(Geodynamo)に関するシミュレーションは示唆している 。 以前に測定された過去1億6500万年間における磁気双極子の古磁気強度 (paleointensities)は、この関係を実証していない。Tarduno たち(p. 1779; Banerjeeによる展望記事を参照)は、白亜紀の正磁極スーパークローンの300万年内にイ ンド・ Rajmahalトラップから噴出した一連の溶岩流の斜長石結晶の古磁気強度を測定 した。これらの測定は、岩石全体での以前の測定より、さらに強い古磁気強度を得た 。今や観測とシミュレーションとを結びつけることができる。このようにして磁場が安 定であるときと、磁場が反転するときに、地球ダイナモがいかに作動しているかを理解 する方法を明らかにしている。(hk)
最初のコンドルールか?(The First Chondrules?)
コンドルールはコンドライト(球粒隕石)と呼ばれるもっとも始原的な隕石の殆どに含ま れるミリメートルサイズのガラスと結晶の丸いかけらである。それらは太陽系星雲内の 突発的な高温事象で形成された、と思われている。Krotたちは(p. 1776)、化学的な累 帯構造を示す鉄-ニッケル金属粒子を含む一般的ではない2つのコンドライトを調査した 。そのコンドライトの岩石的な特徴から、それらは、物質が蒸発しガスから液体へ分留 されるある大きな領域で形成されたことを示唆している。コンドライトが変成を受けて ない特徴を持っていること、また、その形成のために大きな高温領域が必要であったこ とから、それらは太陽系星雲のライフタイムから推測すると、これが初期に形成された ことが示唆される。(Na,Tk)
性における消毒薬(Sex Antiseptic)
性的に伝播する病気は、多くの生物にとって災いの種であるが、性的な交渉の際に病原 体に出くわしたとき、オスの生殖器官に生じる反応についてはほとんど知られていなか った。Liたちは、オスのラットの精巣上体のある領域から特異的に分泌される抗菌性の ペプチドがあること、また霊長類にもこれに相当するものがあることを発見した(p. 1783)。このペプチドは、defensinと似た配列をもっていて、淋菌やトレポネーマなど の侵入してくる微生物から保護するだけでなく、正常な発生過程のあいだ、精子の成熟 を助けている可能性がある。(KF)
哺乳類年代記(Annals of Mammals)
哺乳類の主要グループ間の関係は、長い間、強い興味と論争の対象であった。Liuたち は、分子面から見た、あるいは形態学的に見た、大量の系統発生データについてメタ分 析を行ない、胎盤性哺乳類の科レベルでの関係を表わす「スーパー系統樹」を作り上げ た(p. 1786; また、Springerとde Jongによる展望記事参照のこと)。期待をもたせるこ とに、彼らは、同じ目の中に科を配置するという意味で、分子面から見たものと形態か ら見たものの間に実質的な対応関係のあることを発見しているが、これは双方のデータ とも引き続き重要であるということを納得させるものである。(KF)
細菌性抗生物質ラボ(Equipping Bacterial Antibiotic Laboratories)
薬物の発見は、多くは、微生物および植物からの天然の産物をスクリーニングし、有望 なリード化合物を同定し、そして研究室でその化学構造を細工して、薬物動態を改善し そして副作用を減少させるという方法である。最近では、酵素が立体特異的に反応を行 えるという比類なき技術を利用するために、この細工する工程を天然の生産者の元へ戻 す方向へ努力が向けられている。Pfeiferたち(p. 1790;Ferberによるnews storyを参 照)は、エリスロマイシンの大環状コアを合成するポリケタイド生合成遺伝子を、エリ スロマイシンの生産者である土壌細菌、Saccharopolyspora erythraeaから、細菌の働 き者、Escherichia coliへ、転移させることによる、代替のアプローチを作成した。こ のE. coliの系統からは、親であるS. erythraeaとほぼ同量のエリスロマイシンのコア を得た。(NF,Tn)
オリーブ、ちょっと待ってて(Eat Your Spinach)
“ポパイ”のファンであれば、食事で摂る鉄の重要性を知っているだろう。しかしな がら、我々が摂食した鉄が、現実にどのように消化管から取り込まれ、体内に吸収され るかについては、ちょっとしたミステリーである。酸化鉄(III)は、きわめて不溶性 であり、そして酸化鉄(II)に変換して生物学的に利用可能にしなければならない 。McKieたち(p. 1755)は、鉄吸収に中心的な働きをしているとみられる消化管内タン パク質、Dcytb(Duodenal cytochrome b、十二指腸のチトクロームb)を同定した。こ のタンパク質は、十二指腸の腸細胞の細胞膜の刷子縁で発現しているが、食餌性の鉄を 還元して、消化管壁を介して輸送することができる型にすることができる。(NF)
膜を掴む方法(How to Grab a Membrane)
エンドサイトーシス後、エンドソームが互いに融合する。ひとつのターゲティング因子 は、膜において生成するホスファチジルイノシトール3リン酸のようである。その後 、この脂質頭部は、あるエンドソームの融合タンパク質におけるFYVE領域によって認識 される。KutateladzeとOverduin (p. 1793)は、ホスファチジルイノシトール3リン酸と 初期エンドソーム抗原1との複合体のFYVE領域の構造の分析を報告し、この相互作用が エンドソーム認識を促進する機構を示唆している。(An)
テロメラーゼなき生きかた(Life Without Telomerase)
真核生物ゲノムの完全性は、染色体の端をキャップするDNA配列であるテロメア(末端小 粒)の機能と関連している。シロイヌナズナを研究対象とし、Rihaたち(p 1797)は、テ ロメアを維持する酵素テロメラーゼを欠乏した植物の運命を検査した。変異体植物は 、10世代に渡って生存したが、そのうちの後の方の世代になるほど多く細胞遺伝的ダメ ージがあるという証拠が示された。このようなテロメア機能障害に対する耐性は、動物 における観察と対照的であり、植物成長とゲノム組織の柔軟性を示している。(An)
数字と注視物(Of Digits and Distractors)
長年、注視と作業記憶の両方が研究されてきた。De Fockert たち(p.1803; Wickelgrenによるニュース記事参照)は、行動性および機能性脳イメージのデータを示 し、前頭葉前部皮質の作業記憶負荷の大きさによって後部視覚皮質(posterior visual cortex)の処理量が調整されていることを示した。被検者には連続する数字列を同じ順 序で見せながら、同時に顔画像を見せ、顔の方を無視するように指示しておく。数字処 理作業負荷を高め、前頭葉前部皮質における活性が大きくすると、顔の干渉によって数 字処理課題の効率が減少し、顔に関係する活動が増加する。(Ej)
成層圏のミクロな隕石(Micrometeorites in the Stratosphere)
地球外のミクロンサイズの微粒子は殆ど地球表面に落ちてこない。代わりに、それらは 大気中で消滅したり蒸発してしまう。そのため地球外物質の総量を正確に見積もること は困難である。Cziczoたちは(p. 1772)、成層圏の最高部で凍結している硫酸と水の粒 子を蒸発する前に凝固させ、スペクトルを測定した。この成層圏で凍結している粒子の スペクトルと実験室でシミュレートした隕石エアロゾルのスペクトルを比較した結果 、従来見積もられていたよりかなり低い、年間8から38ギガグラム、という総量見積も りが得られた。(Na)
スフィンゴシンの取り込み(Talking of Sphingosine)
最近、哺乳類細胞内の情報伝達経路間のクロストークに注目が集まっている。実際 、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の活性化によって、チロシンキナーゼのリガンドが 存在していない時でも成長因子受容体チロシンキナーゼを活性化させる。Hobsonたち (p. 1800)は、チロシンキナーゼ受容体である血小板由来成長因子受容体(PDGFR、受容 体型チロシンキナーゼ)の刺激によって細胞運動性が引き起こされるには、受容体 EDG-1(GPCRの一種)を経由する情報伝達が必要であることを示した。この場合、PDGF受 容体の刺激によってスフィンゴシン-1-リン酸の産生が増加し、これがEDG-1の活性化リ ガンドとしてオートクリン(自己分泌)、あるいは、パラクリン(傍分泌)様に作用する 。スフィノシンキナーゼ、つまり、EDG-1欠乏のマウス胚において、PDGFへの細胞の走 化性は抑制された。(Ej,hE,Tn)
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