AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 14, 2000, Vol.288


塩辛い界面(Salty Interface)

大気と海水塩からなるエアロゾルとの反応は、多くの大気圏のプロセスにとって重 要なものである。ガスとバルク水の相からなる従来の化学モデルでは、しかしなが ら、これらの観測粒子の化学作用を説明することはできなかった。Knipping たち (p.301;Seinfeldによる展望記事を参照のこと) は、実験的な観測、計算のための力 学モデル、分子動力学と量子力学計算を結合して、OH- 存在下では、どのように塩 素ガスの生成が NaCl エアロゾルから生ずるのかを示している。彼らの結果は、塩 素イオンの濃度がエアロゾル表面で強められ、空気−水の界面における反応が支配 的にならざるを得ないことを明示している。(Wt)

火急の疑問(Burning Questions)

一酸化炭素は、大気汚染物質であり、その発生源を見つけ出すことは、科学的な理 由のみならず、環境政策に関係する懸案に対しても同様に重要である。森林火災は よく知られる発生源であり、そして人為的な化石燃料の燃焼ももう1つの発生源であ る。WotawaとTrainer(p.324)は、トランスポートモデルを用いた地表での計測と航 空機による計測とを組み合わせることにより、1995年夏の米国南部に影響を与えた 一連の汚染発生を明らかにした。一酸化炭素の発生源としてカナダの森林火災から の放出を追跡し、亜寒帯の火災(boreal fires)は中緯度地域での汚染物質の供給の 重要な原因となることを示した。(TO)

チタニアの歴史(History in Titania)

岩石中の鉱物相は岩石の過去の環境への糸口を与える。Hwangたち(p.321)は、ドイ ツErzgebirzeのダイアモンドを生じている超高圧変成岩の中で二つのルチル結晶の 間にはさまされたα-PbO2-型構造を持つナノメートルサイズの TiO2(チタニア)の包有物について解明した。このチタニアの相は自然界 では以前観測されたことがなく、その認識は変成岩変形の歴史に対する重要なる温 度と圧力の指標を与えるものである(例えば、このような岩石中でダイアモンドは 広範囲にわたる温度と圧力で造られる)。この発見はマッシフ(塊状岩)が 200km(或る鉱物相に記録されている最も深いうちの一つ)以上の深さに急激にもぐ り込み、そして埋もれたことがあることを、そしてその後急激に地表に出現した事 を示している。(KU,Tk)

認識のナノ力学(The Nanomechanics of Recoginition)

表面における分子の吸着から生じる分子間力は表面応力を引き起こすことが知られ ている。Fritzたち(p.316)はこの効果を利用して、分子の認識をナノメカニカルな 応答に変換した。カンチレバー(片持ち梁)がDNAといつた生体分子と作用するよう に作られた。相補的DNA鎖のようなリガンドの分子認識を種々の異なった作用をする カンチレバーの間で相異なるナノメカニカルな応答として測定された。この方法は タンパク質-タンパク質の認識においても実証されたが、標識したり光学的励起や外 部プローブの必要もなく、シリコン技術と適合し、そして並列に進歩するものであ ろう。(KU)

自分が保有する酸素を使って酸化物を成長させる(Self-Contained Oxide Growth)

MOSFET(電界効果型金属酸化物半導体)においては、SiO2層はゲートと して使われているが、この層の厚さが原子数個分にまでなるともはや絶縁体ではな くなる。これらデバイスをさらに微小化するには、より誘電率の高いアルミナやジ ルコニアが誘電体として利用可能であるが、シリコンを析出中し、これを酸化して 使うには、その電気容量が低過ぎる。Ritala たち(p. 319) は、原子析出法を改良 し、外部から酸素を供給しないで、アルコキシド中の金属と酸素の両方を直接利用 するようにした。この方法では多様な金属の酸化膜を形成することが可能である 。この手法で、シリコン層上に高誘電率のアルミナ層や他の薄膜酸化物層を直接析 出可能であり、従来のようなSiO2界面層が形成される心配がない 。(Ej,hE)

星の残骸(Stellar Remnants)

アモルファスグラファイトに覆われた炭化チタン粒子は、隕石中において記載され ている。そして、それらは漸近巨星枝(AGB)の星から進化したものと推論されて いる。Von Helden たち (p.313) は、これらの粒子と、星の死後のポストAGB天 体からの炭素やチタンの豊富なスーパーウィンドの噴出との間の直接的な繋がりを 与えている。彼らは、実験室で TiCクラスターの赤外スペクトルを測定し、赤外線 宇宙観測機(Infrared Space Observatory)によってポストAGB天体中にのみ探知 されていた20.1μmのピークと類似した波長幅と強さを持つ、 20.1μmのピークを 見いだした。隕石とスペクトル観測とを組み合わせて、彼らは、これらのポスト AGB天体からやってくるスーパーウィンドの密度と質量損失率を計算した。(Wt)

熱を受け入れる(Can Take the Heat)

唐辛子や酸の火傷による熱さは、痛痒性の熱さの感覚に寄与するある同一種類の受 容体を刺激することで起きることが分かっている。Caterinaたちは(p. 306、表紙と Vogelのニュース解説も参照)、神経節内に選択的に存在しカプサイシン又はプロト ンにより活性化してチャンネルが開かれる、痛痒を仲介する陽イオンチャネルVR1受 容体の欠乏した遺伝子組換えマウスを作った。これらのマウスは唐辛子を平気で食 べることが出来る。これらのマウスは有害な熱を自覚する能力は損なわれてはいる が、完全に無くなってはいない。このことは、熱の検出には他のシステムも寄与し ていることを示唆している。VR1受容体はダメージを受けた組織から放出される刺激 剤(例えばproton)と痛痒性の熱さを組み合わせ、動物を刺激剤から遠ざけるよう急 速に脳に危険シグナルを送っているようだ。(Na)

一緒にいなくなる(Leaving Together)

一般に想像されるように、絶滅危惧種動物の属全体が絶滅し、その結果、その属の 進化の歴史がそっくり消失してしまうことは、絶滅がランダムに生じる場合よりず っと影響が大きい。Purvis たち(p. 328)は、近縁種の少ない鳥類や哺乳類は、より 一般的な種より絶滅リスクが高く、また、近縁種同士の絶滅リスクは似ていること を示した。(Ej,hE)

シャペロンの選択(Chaperone Selection)

分泌タンパク質と形質膜タンパク質は、同時翻訳されて小胞体(ER)にトランスロケ ーションすることで産生が始まる。ER内には、新しく合成されたタンパク質の正常 な畳み込みは、結合タンパク質(BiP)とcalnexinとcalreticulinというレクチンを含 むシャペロン分子グループによって補助される。MolinariとHelenius(p. 331)は 、シャペロンの選択が同時翻訳的に行なわれることを発見し、特定のシャペロンを 選択する判定基準のいくつかを記述する。タンパク質の新生鎖における炭水化物鎖 の位置は、BiPとの相互作用からcalnexinとcalreticulinとの相互作用へ転換させた 。(An)

毒素とファージの分泌(Toxin and Phage Secretion)

コレラ毒素は、糸状のバクテリオファージCTXφを持つコレラ菌から分泌される 。Davisたち(p 333)は、感染した細菌から新しいファージを遊離する条件を研究し 、コレラ毒素の分泌に関与することで知られているEpsDというタンパク質もファ ージの遊離に必要であることを発見した。タンパク質毒素とタンパク質被覆のDNA分 子との異なっているサイズと性質のため、この結果は予想外である。(An)

死刑執行人を執行する(Executing the Executioner)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳や脊髄にある運動性ニューロンの急速な死によって 特徴づけられる病気であり、病気の始まりから通常5年以内に、麻痺や死に至るもの である。この病気のある家族性形態において、銅亜鉛スーパーオキシドジムスタ ーゼをコードするSOD1遺伝子の突然変異が発見されたことで、ALSのマウス・モデル が作れるようになったが、そのマウスはヒトSOD1の変異体を過剰発現するものであ った。Liたちは、このたび、そのALSマウスの運動性ニューロンがアポトーシスによ って死ぬことを実証した(p. 335; また、Gurneyたちによる展望記事参照のこと) 。アポトーシスの際のその細胞の死刑執行人の役割を果たすカスパーゼ酵素の活性 を、阻害薬zVAD-fmkによってブロックすることで、彼らはALSマウスの生存期間を劇 的に延ばしたのである。こうした知見は、カスパーゼ阻害薬がALSの処置に有効であ る可能性があること、他の神経保護薬剤と組み合わせた場合にはとくにそうである ことを示唆している。(KF)

進化するHCV感染についての見方(An Evolving View of HCV Infection)

C型肝炎ウイルス(HCV)への感染は、世界中の1億7千万に影響を及ぼしている公衆衛 生上の大きな問題である。感染した人のうち、非常に多くの人が何十年にもわたっ て固定してしまう慢性的病気にかかる一方、感染直後にウイルスを追い出すことに 成功する人たちもある。こうした多様な臨床結果をもたらすことになる要因を同定 するために、Farciたちは、感染初期段階におけるHCV外被遺伝子中の配列の進化に ついて吟味を行なった(p. 339)。慢性的病気を発症した患者では、ウイルスを追い 出すことに成功した患者に比べて、HCVは急速に進化しており、遺伝的な多様性もよ り大きいことがわかった。こうした結果は、感染初期におけるウイルス配列の変化 を分析することが、臨床上の結果がどうなるか予測する有効なツールになりうるこ とを示唆している。(KF)

作用の場を切り分ける(Dividing Up the Work Place)

発生過程において、哺乳類の新皮質の各領域は特殊化し、結果として、接触を感じ たり、手をある方向に延ばしたりというようなさまざまなタスクは、それぞれ別の 領域に分配されることになる。少なくともそうした特殊化には、脳の別の領域から の入力によって方向づけられるものがある。Bishopたちは、このたび、特殊化はニ ューロンへのインプットのみに全部が依存しているのではなく、むしろ領域特殊化 におけるいくつかの要素が皮質細胞自身において発現する遺伝子によって決定され ているということを示している(p. 344)。Emx2とPax6という2つの遺伝子が、拮抗し て逆向きに作用することで吻側-尾側パターンを決定しており、それによって皮質領 域の特殊化の基盤が確立されるのである。(KF)

言葉を認識する(Recognizing Language)

言葉は、一般的に理解される通り、人間に限られた能力であるという共通な了解が あるのだが、にも関らず言葉は人間以外の霊長類にもある程度見ることができる幾 つかの要素スキルに依存している。Ramusたち(p.349;WerkerとVouloumanosによる展 望記事参照)は、並行訓練と実験モデルを用いて少なくとも1つのスキルの証拠を示 して、人間の新生児とシシザル(tamarin monkeys)における相対的能力を評価した 。以前になされた研究を再度試みた結果、新生児は異なるリズムの言葉を正しい順 序に話した時には、識別することができ、逆の順序に話した時には識別できなかっ た。驚くべきことに、シシサルも等しく熟達し、このことは音声の並びを言葉とし て判別する処理能力を持っていることを示している。(TO)
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