AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 1, 1999, Vol.286


気候がつくった金星のひだ(Climatic Wrinkles on Venus)

金星の表面のほとんどは,大規模な火山性噴火によって形成され そして地殻変動プロセスによって変形した,変形した嶺が多く発 達する面(ridged plains)に覆われている。これらの波打った平原 の幾つかにあるひだ(wrinkling)は,表面ができたすぐ後の短い期 間(1億年未満)に生じたことが示唆されていた。Solomonたち (p.87)はモデルを利用した研究において,ある大きな火山噴火が放 出した水蒸気,亜硫酸ガス等の温室効果ガスが原因となり,大気の 温度の上昇が引き起こされ,それが地表下に充分な熱応力を与えた ことにより,ひだを生じさせたことを見つけた。(TO,Og)

より古い火星の変化(Older Martian Alteration)

有機生命体の痕跡を持っていると考えられてきた火星からの隕石 ALH84001は,同位元素の分析手法によって年代測定されてきた。 こうしたこれまでの調査では,一次鉱物(primary minerals)の年 代は約45億年(4.5 Giga years ago=4.5Ga)であることを示したが, しかし一次岩石の水質変成によって形成された二次鉱物 (secondary minerals)の年数は13億年でしかない。Borgたち (p.90)は,侵出法(薬剤で溶かして,抽出・分離して,分析する) によって抽出した炭酸塩に対して,鉛-鉛年代測定により約39億年 という古い年数を,ルビジウム-ストロンチウム年代測定により40 億年という年数を得た.。これらのより古い年数は,火星表面に水の 流れが存在したときに炭酸塩鉱物が形成され、おそらく小天体など の衝突が非常に高い率で起こった時である,火星の激しい衝突期の 後期に形成されたということを示唆している。(TO,Og,Tk)

エウロパ上の硫黄の循環(Sulfur Cycles on Europa)

ガリレオの近赤外イメージング分光計は、エウロパの氷の表面のスペ クトル中に、ある種の水和物を検出した。Carlson たち (p.97) は、 実験室において、エウロパのスペクトルに適合する水和した硫酸 (H2SO4・8H2O)のスペクト ルを得ることができた。水和した硫酸の存在は、エウロパ表面上で循 環が(重合した硫黄、二酸化硫黄、硫酸の間の)生じていることを示 唆している。この循環は、木星のプラズマからの放射と、おそらくは、 地底からの硫黄に富む液体の噴出によって駆動されたものである。こ のような硫黄の循環の存在によって、エウロパ上の暗い地形と明るい 地形のパターンが説明できる可能性がある。(Wt)

内部にはメタンだけではない?(More than Methane Inside?)

天王星と海王星は高温、高圧状態でのメタン、水、アンモニアに富ん だアイス中間層を有していると考えられている。Benedettiたち (p. 100;Kerrによるニュース解説参照)は、対応する条件を得るため ダイアモンド・アンビル圧力セル中でメタンをレーザ加熱すると,メタ ンが部分的にダイアモンドやアモルファスのカーボン、そして炭水化 物に変化していることを見い出した。このような実験によって、天王 星や海王星内部の動力学モデルとしては、不安定なメタンよりむしろ カーボン相や炭水化物の影響を考慮すべきであることを示唆している。 (KU)

火星の重力を調査する(Surveying Martian Gravity)

マースグローバルサーベイヤ探査機をドップラー追跡した結果、 Smithたちは(p. 94)、重力異常を測定することが出来た。全火星規模 で重力場をマップ化し、Tharsis、Olympus MonsとAlba Patera火 山に関連した顕著な正の重力異常を明らかにした。これらの結果は、 各々の火山は異なる源泉を持つマグマを持っていることを示唆してい る。11Kmの深さを持つヴァレス・マリネリス渓谷 (Valles Marineris)に関連する大規模な負の重力異常はChyrse盆地 まで広がっており、この盆地は渓谷から供給された物質を水が浸食し て形成されたことを示唆している。(Na)

層状セラミックスに捕らえられた亀裂 (Arrested Cracks in Layered Ceramics)

金属や他の延性を持つ物質は可塑的に変形するため、亀裂や穴が広が るのを押さえ、修復するが、セラミックスは亀裂の成長を妨げたり鈍 らせたりする内部機構を持たないために通常、一気に破壊が進行する。 Raoたちは(p. 102)、厚いアルミナの層(0.6mm)とアルミナとムライ トの薄い層(0.04mm)を交互に持つ、層間境界の近傍で480メガパス カルの引張力まで亀裂を押さえる材料を作った。彼らは薄い圧縮性の 層が亀裂の進展に抵抗する役割を説明することができる理論的解析を 示している。(Na)

初心者の視力(Eyesight for Beginners)

動物における実験では、視覚的な遮断があると視力は新生児のときの 状態、あるいはその近くにとどまるが、視覚への入力が始まると、正 常なレベルに向けて、急速な視力の発展が誘発されることがわかって いる。Maurerたちは、ヒトの病気の状態、つまり先天性の水晶体混 濁を有する子どもたちを用いて、この問題を研究した(p. 108;また、 Perspective by Sireteanuによる展望記事参照のこと)。生後1週間 らか9ヶ月で水晶体混濁を除去された子どもたちは、劇的な視力の回 復を示し、ある場合はピントの合った視覚が見え始めた後1時間で視 力を回復した。このように、視覚的経験がパターン化されることが、 視力の発展に必要なのである。(KF)

小さなLTD(A Little LTD)

ニューロンの樹状突起における可塑性を示す最小の局在場所がどこか は、いまだに知られていない。Dodt たちは、この問題に取り組むた め、空間的に制御された条件下で、紫外線レーザーを用いて、ニュー ロンのグルタミン酸を解放した(p. 110)。彼らは、樹状突起上の1マ イクロメートル大のスポットに5ヘルツの一連の光フラッシュを提示 することで生じる、シナプス後興奮性電流と誘発された長期抑圧 (LTD)を記録した。誘発されたLTDは、NメチルDアスパラギン酸受容 体に依存的で、かつカルシウムに依存しており、刺激によって誘発さ れたシナプスのLTDを完全に隠蔽ことができた。樹状突起に沿った LTDの伝播は、10マイクロメートル以下であり、このことは、LTDが 純粋にシナプス後的に生じ発現しうるものであり、単一シナプスに局 在化しうることを示している。(KF)

マトリリシンと生得的免疫(Matrilysin and Innate Immunity)

抗菌性ペプチドは、肺や腸などの粘膜表面に見いだされるものであり、 細菌の浸潤に対する体の第一線での防衛であると考えられている。し かし、ペプチドが複数の遺伝子に由来する切断されたタンパク質の大 ファミリであるため、本当の役割を評価することが困難であった。 Wilsonたち(p 113)は、抗菌性ペプチドであるαデフェンシンを生成 する腸内細胞と同じ細胞によって生成されるマトリリシンというマト リックスメタロプロテイナーゼを欠乏するマフスが切断されたペプチ ド形も欠乏し、感染にもっと感受性であることを報告している。マト リリシンは、試験管内でデフェンシンを切断できた。このように、マ トリリシンは、生体内でデフェンシン活性を制御し、生得的免疫の鍵 になるかもしれない。(An)

テロメラーゼをつなぎ留める(Tethering Telomerase)

Est1とCdc13というタンパク質は、テロメア(染色体の末端小粒)に結 合し、テロメラーゼという酵素と共に、酵母におけるテロメアの複製 を制御する。テロメアにテロメラーゼを繋ぎ留める一連の融合タンパ ク質を構築することによって、EvansとLundblad(p. 117)は、Cdc13 はテロメラーゼ複合体へのテロメアの接触性を仲介することと、Est1 はその機能を補助することを示している。この結果は、染色体末端への テロメラーゼの接触を制限することによって、ある程度、テロメアの長 さの恒常性が維持されることを示唆している。(An)

小さなパッケージに(In Small Packages)

プロタミンは、DNAを精子細胞中の染色体にうまくパッケージする。 Brewerたちは、「レーザー・ピンセット」と蛍光顕微鏡とを用いて、 このパッケージ化のプロセスを調べた(p. 120)。単一のDNA分子をレ ーザーによって捕捉し、プロタミンをそのDNA分子に適用してから除 去することで、凝縮と脱凝縮のそれぞれのプロセスを観察したのであ る。ここで使われた、単一DNA分子上での生物物理学的計測の実施と 反復の技法は、他の多くのタンパク質DNA分析にも適用可能である可 能性がある。(KF)

塩基のモチーフ(Base Motifs)

タンパク質ベースの酵素の主要な能力の一つは、反応における一般的 な塩基(あるいは酸)触媒作用である。細胞内pHは狭い範囲に維持し なければならないので、水酸化(あるいは水素)イオンの濃度を増加 させて、反応速度を増すわけにはいかない。酵素は、水素イオンの除 去(あるいは付加)のためにアミノ酸側鎖に頼っており、たとえば攻 撃する側の求核基分子の陰性形質を増加させることができる。リボザ イム(RNAベースの酵素)は、より限られた側鎖レパートリしかもた ず、しばしば、金属イオンを用いて、中性pHにおいて水酸化イオンを 産生する。Perrottaたちは、このたび、肝炎デルタ・ウイルスの自己 切断性(self-cleaving)リボザイムのシトシン残基が、一般的塩基触 媒作用を行ないうることを示している(p. 123; またWesthofによる展 望記事参照のこと)。(KF)

ママの好み(Mom's Favorite)

鳥において、より飾り立てたオス鳥は、メス鳥により好まれることが 知られている。また、より飾り立てたオス鳥を父とする子供鳥の生存 率は、そうでない場合に比べ、しばしばより高くなっている。これは、 見てくれの良いオスの方が遺伝子的に優れているからなのか(良遺伝 子が性選択される例なのか)、あるいは、メス好みのオスの卵の孵卵 には、メスはより大きな投資をするのだろうか? Gilたち (p. 126; およびVogelによるニュースストーリ参照)は、実験的に、 より飾り立てたオスと交尾させたメスのゼブラフィンチにおいては、 飾りのないオスに比べ、卵中のテストステロンの量が多かった。テス トステロンの量が多いとその後の成長率が向上し、兄弟雛鳥たちの中 で優位に立てる。従って、交尾後の母性効果が、子供の発達の差異に 重要な影響を与えているように見える。(Ej,hE)

ネアンデルタール人の食人習慣(Neandertal Cannibalism)

ネアンデルタール人には食人習慣があったのかどうかというテーマは 古人類学において何度も議論されてきたことであるが、その証拠は乏 しかった。今回、フランス、ローヌ河岸の10万年前の古代洞穴の発 掘での堆積物から、Defleurたち(p. 128;およびCulottaによるニュー スストーリ)は、その場所から数体のネアンデルタール人と鹿が食肉処 理されたと思われる骨の遺物が多量に見つかった。骨に切った跡が見 られることは、骨がはずされ、肉が取り出された証拠であろうし、ハ ンマー石と台座石によるものと思われる骨の損傷から、骨髄が取り出 されたことを示唆している。食人習慣は深く先史にまでつながりを 持っているようだ。(Ej,hE)

抗精神病薬作用(Antipsychotic Drug Action)

非定型の抗精神病薬のクロザピンが出来たことで、精神分裂症のドー パミン仮説は揺らいでいる。これがドーパミンD2受容体 へのより低い親和性に加えて、クロザピンはα2アドレノ セプターとも相互作用することが示されている。Hertelたちはラット の前頭葉におけるドーパミン遊離と条件回避応答を研究するために、 D2受容体とα2アデノセプターそれぞれの 選択性拮抗物質を利用した。これらの計測は、抗精神病薬の治療効力 と関連していると思われる。このα2拮抗物質そのものは何の効果も ないが、選択性ドーパミン受容体遮断薬として可能性がある。しかし、 D2受容体拮抗物質によって引き起こされるカタレプシー (随意運動の消失)は、α2拮抗物質の影響を受けない。 これらの結果から非定型的な抗精神病薬の作用するメカニズムの理解 を深めてくれるであろうし、さらに、副作用の影響を最小にする効果 的な治療法の開発に役立つであろう。(Ej,hE)

結び目のあるポリマーと結合の切断 (Knotted Polymers and Bond Breaking)

M.Grandboisたち(Reports, 12 Mar.,p. 1727)は、多糖類分子を表面 に共有結合させ、そしてその後に原子間力顕微鏡を用いてその分子を引 き離した。切断事象の解析に基づき、彼らは伸長に伴う力の変化が表面 結合の段階的な切断と対応しており、Si-C結合の強さを決めることが出 来たと結論づけている。Stasiakたちは、著者たちの解釈は間違ってお りその代り「最終的な切断の起こる前に観測されているピークは多糖類 鎖における複雑な結び目が解けて徐々にぴんと張ってくる”証拠”であ ること」を示唆している,とコメントしている。H.Gaubたちは「結び目の あるポリマーはからみ合いのないポリマーより小さい力で切断するとい うことには同意する」が、著者たちのデータを再度解析することにより 観測された切断事象の約5%だけが、結び目の張ってくる様子を反映して いる、と応えている。このコメントの全文が
www.sciencemag.org/cgi/content/full/286/5437/11a で見られる。(KU)
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