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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science August 27, 1999, Vol.285
粒径を小さなままに(Staying Small)
多くの科学技術的に重要な金属酸化物は、微結晶及び細孔のサイズが 減少すると更に性能向上する。しかし、通常、前駆物質のゾルを焼成 する際には粒径が大きくなる。Wuたち(p. 1375)は、水酸基を不活性 にする試薬を用いて前駆物質のゾルを処理すると、スズやチタン、及 びジルコニウムの酸化物粒径の増加が抑えられる事を示している。反 応性の水酸基による塊状化を防ぎ、更に極めて小さなシリカ粒子の核 をつくる事によって粒界の動きを押さえているようである。前駆物質 ゾルの処理によって、スズ酸化物センサーの一酸化炭素に対する感度 は、劇的に改善された。(KU)
処理を受けた隕石の親たち (Processed Parents of Meteorites)
変質した隕石の母天体(Processed Parents of Meteorites) 隕石は地球外物質についての最も豊富な試料である。そのさまざまな 隕石の種類の中で、コンドライトは、私たちの太陽系中の他の物体に 比べ、最も原始的な物質であるとみなされている。コンドライトは、 初期太陽系中に存在した母天体上で発生した水による変質に関する重 要な手がかりを与えてくれる可能性がある(Claytonによる展望を参照 のこと)。Zolensky たち(p.1377) は、もっとも変化を受けていない Hグループの通通コンドライト中に見つけた岩塩 (NaCl塩) 集合体を分 析。この隕石は1998年に、乾燥した西テキサスの町 Monahans に落 下したものである。紫色の岩塩結晶は、その物質がまだその母天体の 一部にあったあいだに形成された、KCl 結晶と、NaCl と KCl の塩水 からなる流体の含有物を含んでいる。この発見は、母天体上を流れて いた水の存在を示唆しているものであり、それゆえ、水質変成このコ ンドライトの基質が形成されたときに母天体上で起こったものである ことを示唆している。炭素質コンドライトは、太陽系の原始星雲中で 形成された原物質を表しているのかもしれない。この原物質は、主に は高温のガスと星間塵からの無機物の凝縮により形成されたものであ る。Brearley (p.1380)は、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて、す べての炭素質コンドライトのうち、最も徹底的に研究されてきたア イェンデ隕石(Allende )を調べた。そして、ペントランダイ鉱 (pentlandite 鉄・ニッケルの硫化物の一つ)のナノメートルサイズの 粒子と、基質物質である鉄に富むカンラン石内部に存在する非晶質炭 素を同定した。この集合体は、太陽系の原始星雲中での凝縮によって は形成され得なかったものであろう。そして、著者たちは、これらの カンラン石は、母天体上の蛇紋石(じゃもんせき)の脱水によって形 成されたことを示唆している。このように、アエンデ隕石は、以前に 考えられていたのとは違って母天体の上で、広範囲に渡る変質作用を 受けてきた可能性がある。(Wt,Og,Tk)
持続するd波(Persistent d-Waves)
正孔のドープされた高温超伝導体であるイットリウムバリウム銅酸化 物において、遷移温度Tcよりはるかに低温での電子対形成がd波対称 性によって形成されていることは、今までに明らかになっている。し かしながら、Tc近傍の温度において電子対形成がどのように生ずる かを示すデータはほとんどない。このTc近傍は、正しい理論が開発さ れるべきかどうかどうかを把握する上で重要な温度領域である。 Kirtley たち(p.1373) は、改造した超伝導量子干渉装置(磁気顕微 鏡)を用いて、dgの対形成のしるしである半整数の磁気フラックス 量子を測定した。彼等は、それが温度Tcまでずっと持続することを 示している。これは、超伝導体は主にd波であることの直接的な証拠 を与えている。(Wt)
ヒトの祖先(Hominid Origins)
類人猿やヒトを含むクレード(共通の祖先から進化した生物群)は、約 1500万年前に中新世の中期に現れたことが明白である。Wardたち (p.1382)は、ケニアの新たな原人について述べているが、この原人 は、明らかにこのクレードの系統派生(stemradiation)のメンバで あり、幾つかの正体不明の化石を新たな属に分類することを可能に してくれるものである。その原人の骨化石には、顎部の大部分と多 くの歯のみならず、数本の肋骨と腕と手の部分も含まれていた。こ れらの骨のサイズはその原人の体重が約27kgであることを示してい る。この化石は、Zimmerによるニュース記事で議論されているよ うに、アフリカ原人とアジア原人とを結びつけるものとなるかもし れない。(TO)
暑さに打ち勝つ葉(Leaves that Beat the Heat)
三畳紀-ジュラ紀の(T-J)境界では、地球史上3番目に記録される動 物相の大量絶滅があった。また植物相の種の95%が入れ替わった。 McElwainたち(p.1386)は、化石の葉を詳細綿密に分析した結果か らT-J境界における環境条件,特にCO2濃度と気候を再構成した。 彼等は、温室温暖化効果が植物に対して厳しい淘汰を課すこととな り、細くて葉縁の切れ込みが特に深い葉を持っている植物だけが葉 の温度が致死温度になることを避けることができた、ということを 示している。(TO,Og)
高齢での発現(Age-Old Expressions)
生物の年齢と共に、その細胞や組織は様々な仕方で変化する。Lee たち(p. 1390)はDNA配列の解析手法を用いて、この変化に関する 分子論的な基礎を明白にしようとしている。マウスにおける一連の 6500個の遺伝子発現の調査により、年と共にストレス応答に関連 した遺伝子が多く発現する事、そして一般的な代謝や生合成を制御 する遺伝子発現が小さくなる事を、彼等は見い出した。しかしなが ら、マウスにカロリーを押さえた餌を食べさせると(この処理は寿 命を延ばす事が知られている)、老齢の動物が若者の遺伝子発現パ ターンを保つようになる。これは、乏しい食餌が効いていること を示す新たな知見である。(KU)
精子とセレン(Sperm and Selenium)
ほ乳類ではセレンは雄性成熟のためには必須である--セレンが欠 乏すると精子の運動性が損なわれる。以前の研究によると、精子 ミトコンドリア付随のシステインに富むタンパク質(SMCP)は、 雄性を成熟させるセレン含有タンパク質である。Ursiniたち (p. 1393;およびStraussによるニュースストーリ参照)は、 SMCPではなく、リン脂質ヒドロペルオキシド グルタチオン ペル オキシダーゼ(PHGPx)が雄性成熟に必要なセレン含有タンパク質 であることを示した。PHGPxは精子形成初期に酵素学的に活性が あるが、成熟した精子には不活性である。精子形成の後期には不 溶性のPHGPxは構造タンパク質であり、セレン欠乏状態によって これが存在しないときには、精子の構造と運動性の欠陥を説明で きると思われる。(Ej,hE)
全体的な分析で隣接効果を明らかにする (A Global Analysis Reveals Nearby Effects)
生態学的コミュニティが、そこからある種や資源が取り除かれた り、追加されたりする事態に対応する方法を研究することは生態 系プロセスを理解する上で重要で、議論が多い。そこには、これ らの疑問に答える大量の理論とデータがある。しかしながら殆ど のデータは淡水系システムのものである。展望研究において、 Micheliは(p.1396)、時間空間的に広い範囲の多数の海洋環境か らのデータを統合させた。彼は、様々なスケールを通して非常に 一貫したパターンで、(海洋漁業などによる)肉食生物の除去によ るトップダウン効果や、(農業活動による海水への窒素の流れ込 みなどによる)栄養分の追加によるボトムアップ効果が、隣接栄 養レベルへの影響はあるが、生態系全体にはわずかしか広がら ないことを発見する。(Na)
新しい習慣になじむ(Adapting New Habits)
フランス南部メインランドに棲むアオガラの2つの集団を研究 し、その内の1つ(常緑のオーク森林に棲む)が適応性がないこ とが明らかになった、彼らは常緑オーク森林に餌があらわれる まで待って巣作りを行わず、(もう一方の集団が棲んでいる)落 葉性オーク森林の毛虫の大量発生に合せて巣作りを行っている。 この場合、遺伝子の流れは局所性順応に圧倒される、と言える。 Blondelたちは(p. 1399)、極めて地域限定した範囲における種 内での変化の実例を発見した。コルシカ島において、わずか25 Kmだけ離れた2種類の各々隔離したアオガラは、それぞれが局 所的な条件に適した、繁殖的にも形態学的にも異なる特徴を持っ ている。このように鳥のように高度に移動性の高い種であって も隔離により局所的順応が起きる。(Na)
GTP依存性転写制御因子 (A GTP-Dependent Transcription Factor)
クラスIIトランス活性化因子(CIITA)は、グローバルな転写制 御因子であり、免疫応答における抗原提示に関与する主要組織 適合複合体(MHC)クラスII遺伝子の発現を制御する。これは、 DNAに直接に結合せずに、MHCプロモータ結合因子RFX5に結 合する。Hartonたち(p 1402;Machによる展望記事を参照)は、 CIITAは異常なグアノシン三リン酸(GTP)結合タンパク質であ り、GTP結合がタンパク質の転写活性に直接的な効果を与える ことを示している。GTP結合を減少するような、CIITAにおけ る変異は、トランス活性化活性をも減少させるが、小さな低分 子量GTP結合タンパク質Rasからの類似の配列によって、この 活性は復旧される。Rasスーパーファミリのいくつかのメンバ ーと同様、CIITAは非能率的なGTPaseである。機能的分析に よれば、GTP結合がCIITAの核への局在化の直接的な制御を補 助することがわかる。(An)
補聴器となる線維芽細胞(Fibrocytes as Hearing Aids)
X染色体性の非症候群性混合聴覚障害(DFN3)は、転写制御因子 Brn-4をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる。可 能な病原性の機構を研究するために、Minowaたち (p 1408;Steelによる展望記事を参照)は、標的にした変異誘 発による障害をもつマウスモデルを作成した。このBrn-4欠乏 マウスは、重度の聴覚障害になり、蝸牛内の電位の相当な減少 を示した。中耳と蝸牛の構造には重度な欠損はなかったが、線 維芽細胞における重大な病理学的異常がみられた。これら線維 芽細胞は蝸牛のカリウム恒常性の制御に関与していると示唆さ れている。このように、DFN3は、非感覚性の細胞型の機能不 全から起こるので、聴覚障害の他の形とは違ったものである。 (An)
対照させる機構(Contrasting Mechanisms)
現在まで、視覚野においては2つの型のニューロンの順応 (adaptation)が記述されている。1つは、皮質の反応を正規 化する、ほとんど即効性のゲイン・コントロールであり、も う1つは、何秒もかかって生じるゆっくりした順応である。 Mullerたちは、高コントラストの刺激の短い提示に対する応 答において生じる新規な現象について記述している(p. 1405) 。この順応の時間経過は、前述の2つの機構によるものの中間 であり、このパターンに特有なものである。ある方向での刺激 が、複合細胞の向きを調節するカーブを刺激の方向から遠ざか るようにスキューさせることになる。この知見は、それに引き 続く眼の位置合わせのために、方向におけるわずかの違いの識 別をよりしやすくする機構である可能性がある。(KF)
長期抑制と介在ニューロン(LTD and Interneurons)
伝統的に、海馬における長期増強(LTP)または長期抑制(LTD) の研究は、この領域にある大きなニューロンである主要なニュ ーロン間の接続、つまり主要シナプス接続に焦点を絞って行な われてきた。しかし、脳における微細な調整の度合いは、同種 の可塑性がより小さな介在ニューロンにおいても可能であれば、 はなはだしく増強されることになる。Laezzaたちは、シナプス 前代謝調節型受容体とカルシウム浸透性シナプス後AMPA受容 体との結合活性に依存する、海馬のCA3領域の介在ニューロン の亜集団におけるLTD誘導の機構を記述している(p. 1411)。 この知見は、哺乳類の中枢神経系の可塑性と潜在的な処理経路 に新たな1つの次元を加えるものである。(KF)
大域的最適化(Global Optimization)
自然科学における多くの問題では、大域的極小(最小)の探索が 必要となる。たとえば、所与の原子ないし分子のシステムにお ける最小エネルギー状態にある異性体や結晶の構造探索など。 これらのシステムについてのポテンシャル・エネルギー表面は 複雑であることが多く、多数の局所的極小が探索中のシステム をトラップすることがある。それゆえ、効率的であるためには、 探索方法は単純な分子動力学的方法を超越したものでなければ ならない。WalesとScheragaは、ポテンシャル・エネルギー 表面を平滑化する超表面変形手法 (hypersurface deformation techniques)が、原子や分子の クラスターから結晶、さらにはタンパク質構造まで、幅広いシ ステムに適応可能である様を論じている(p. 1368)。(KF)
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