AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science May 28, 1999, Vol.284


シリカにプレッシャーをかける (Putting the Squeeze on Sillica)

シリカの最もありふれた形は石英である。圧力を増すと、石英は最終的 にスティショバイト(stishovite−超高圧下で作られる石英の多形の一 つ)に転移する。この鉱物は激しい衝撃を受けた岩石中で見出されてお り、地球の下部マントルにおいて重要なものと考えられている。より高 い圧力のもとで、幾つかの相の形成が示唆されている;Sharpたち (p. 1511)は、火星からの激しい衝撃隕石の中にこのよな相の一つを見 出した。この相がα-PbO2に類似の構造を持っていることを電子線回 折データーは示している。この新しい相は地球の下部マントルにおいて 安定なシリカの相であるが、いままで激しい衝撃を受けた岩石中では、 より低い圧力相に変化したために見逃されていたのかもしれない。 (KU,Og,Tk)

超伝導ナノチューブ(Superconducting Nanotubes)

単原子層カーボンナノチューブは、それらの直径とヘリシティに依存 して、半導体的なったり、あるいは金属的になりえる。そして、ほん の直径約10nmのナノチューブは、1次元的な導電体であると予想 されている。Kasumov たち (p.1508) は、直径約1nmのナノチュ ーブの一本々(これらのナノチューブ100本の束も同様であるが) は、超伝導電流を流すことができることを示している。そのナノチュ ーブは、二つの超伝導電極に接続している:彼らは、電極を超伝導状 態にするための低温(1K)において、もしナノチューブに接続する 電極の抵抗が十分に低いならば、そのナノチューブは超伝導状態にな り、超伝導電流が流れうることを示している。(Wt,Nk)

エウロパの夜(Europan Nights)

ガリレオ探査機に搭載された偏光光度計 (PPR: photopolarimeter-radiometer)を用いて、木星の衛星エウ ロパの表面熱放射分布が測られた。Spencerたちは(p. 1514)、PPR データを用い、ユーロパの夜間地表温度マップを作成し、緯度により 温度が変化し、ある地域ではその差が最大5度に達することを発見し た。未だこれらの温度変化の説明はついていない、しかし、興味ある 可能性として、昼間と夜間の温度差に関係すると思われる氷の温度慣 性の変化や、エウロパ内部の未確認の熱源等の可能性があげられてい る。(Na,Og,Nk)

火星の高地と低地(The Highs and Lows of Mars)

惑星の地形にはその進化に関する多くの情報が含まれている。 Smithたちは(p.1495、表紙とWuethrichのニュース解説も参照)、 マーズグローバルサーベイヤーで観測された高解像度の全火星表面の 地形データを入手した。このデータは、南半球の高地は、火星内部の 活動を反映していることを裏付けており、また、激しい衝撃を受けた 火星から来た隕石が多くの高地を形成したことを示している。(この データによると)火星地表上の水の大半は北半球の大規模な盆地に吸 い込まれたと思われる。(Na,Tk,Nk)

より若く、より速く、より軽く(Younger, Faster, Lighter)

ビッグバン後の最初の一秒で、宇宙は急速に展開した。そして、天 体物理学者が宇宙の構造と進化の理解を助けるような結果を導くペ ースもそれに劣らす急速に進展してきた(Glanz による解説を参照 のこと)。 Bahcall たち (p.1481) は、最近の理論的および観測結 果をレビューして、宇宙を単純化して、3つの特性で記述している。 すなわち、物質の密度、膨張率、そしてその形態であり、これらを 「宇宙三角形」として表現している。彼らのレビューは、宇宙は軽 量で、加速しており、そして平坦であることを示唆している。関連 する研究記事では、Lineweaver (p.1503; Finkbeinerによる解説 記事を参照のこと) は、「宇宙三角形」に関する類似した最近のデ ータを集め、そして、宇宙年齢の最適推測値を計算している。彼は、 134億年と言う、若々しい年齢を得ているが、これは、以前のある 推測値よりもおよそ10億年若い。しかし、なおわれわれの銀河の生 成を許容できるほどには十分な年齢に達している。(Wt)

漁業を救う(Saving Fisheries )

漁業での生物多様性や補給能力を保証するために、2つのアプロー チがある。1つは現在実践されている捕獲力の制限であり、もう1 つは、ストックを保護するための海洋保護区の設定である。保護区 の導入は、2つのシステムからの相対産出量(relative yields)の情 報が欠けていたために、うまく行かなかった。Hastingsと Botsford (p.1537)は、単純化した仮説群を用い、2つの産出量は 同じであり、ある環境の下では、海洋保護区の設定は漁獲割り当て 制よりも、顕著な効果があることを示した。(TO)

しとやかな退場(A Graceful Exit)

多くのウイルスは、細菌細胞の細胞壁を溶解して、その中で増殖す ることによってその細胞を殺すが、繊維状ファージf1は、大腸菌を 殺さずに、大腸菌から出ていく。Marcianoたち (p 1516;Zimmerbergによる展望記事参照)は、バクテリオファー ジによってコードされたタンパク質pIVを精製し、これが細菌宿主 からf1が退場するためのチャネルとしてpIVが作用することを示し ている。変異体と野生型のタンパク質活性の差によって、pIVがゲ ート開閉チャネルであり、チャネル性質の変化がバンコマイシンと いう抗生物質に対する感受性に影響する可能性があることが示唆さ れた。タンパク質pIVは、グラム陰性細菌病原体からの病原性因子 分泌に関与するタンパク質のファミリのメンバーである。(An,SO)

古いワクチンを理解(Understanding an Old Vaccine)

結核予防ワクチンファミリBacille Calmette-Guerin (BCG)は、 1921年に、モルモットにおいてウシの結核菌を連続継代した後、 たまたま得られたワクチンである。しかし、継代を繰り返したた めに、最近の結核菌株が元の祖先株と異なってきており、これが 現在、世界の異る地区におけるワクチンの効力の可変性の原因で あるのかもしれない。Behrたち(p 1520;YoungとRobertsonに よる展望記事参照)は、ミクロアレイアッセイと蛍光インサイチュ ハイブリダイゼーションを用い、BCG株のゲノムと結核菌 (Mycobacterium tuberculosis)とウシ結核菌(M. bovis)のゲノ ムを比較し、BCG株において一連の欠失を発見し、BCG株の進化 の過程を観察できた。この結果は、新しい結核予防ワクチンの設 計の試みを助けるであろう。(An)

ブドウ球菌感染に対して糖を出す (Sending Sugars Against Staph Infections)

細菌病原体は一組の遺伝子セットを予備として保持しており、宿 主に入った時だけこの遺伝子が活性化される。細菌の生存と感染 促進のためにこの遺伝子が特に有用であると考えられているため、 理想的なワクチン標的になるかもしれない。ワクチンが微生物に とって特異的となるだけではなく、細菌の生存にとって決定的な 毒性を妨害するかもしれない。McKenneyたち(p 1523)は、黄色 ブドウ球菌感染時、主に生体内でPNSGという表面多糖体の発現 について報告している。精製したPNSGは、抗体応答の誘発によっ て、致死的な黄色ブドウ球菌感染からマウスを保護した。抗生物 質耐性の黄色ブドウ球菌の有病率が増加している現状を見ると、 これは予防戦略の代替法となるかもしれない。(An)

同期して(In Sync)

細胞外信号伝達分子のあるものは細胞表面の受容体に結合して、 イノシトール1,4,5−三リン酸(IP3)が制御するCa2+放出チャン ネルを通して細胞内貯蔵場所からCa2+放出のトリガーをかける。 自由になったCa2+は、その後分泌や増殖、及び遺伝子発現といっ た様々な細胞反応の制御に有用となる。Hiroseたち(p. 1527)は、 グリーン蛍光タンパク質で標識したプローブを用いてIP3の濃度 を調べ、単一細胞内において振動したり、或いは伝幡する波の中 で、Ca2+がIP3の濃度変化や局在化に同期して移動している事を 示している。このような事象の空間的、時間的な一致は、IP3の 挙動がCa2+の信号伝達パターンを支えている事を示している。 (KU)

注意を払っている?(Paying Attention? )

自覚を伴った学習は、自覚を伴わない学習とは、異なった脳の組 織を使っている。前頭葉前部の皮質は、連想の自覚に対して重要 な役割を演じていることが知られている。しかし、自覚は大規模 な神経系の内部において複数の分離した脳の領域間での相互作用 を必要とするという、対立仮説がある。McIntoshたち(p.1531) は、被験者に、視覚の判別課題を行なうよう求めて、それと同時 に音(tones)を示した.しばらくしてから、あるグループは音と 視覚的な刺激間の関連を意識的に気がついた。気がついた被験者 は、テストでよい点数を得ただけでなく、ポジトロン放出断層撮 影走査の間に、脳の活性に異なったパターンを示した。前頭葉皮 質の左側は最も高いレベルの活性化を示したが、他にも幾つかの 領域で、自覚と関係しているかもしれない増加が示された。(TO)

筋を失う(Losing Muscle)

脈管系の破裂という特徴を有する遺伝性出血性末梢血管拡張の患 者は、トランスフォーミング成長因子(TGF-β)を結合するタンパ ク質、エンドグリン(endoglin)をコードする遺伝子に突然変異を もつ。Liたちは、血管の発生におけるエンドグリンの役割を、エ ンドグリンを欠くマウスを調べることで、突き止めようとした (p.1534)。そうしたマウスでは、血管形成の初期の段階は正常に 進んだが、内皮の管の成熟した血管への再造形が行われなかった ため、マウスは子宮内で死亡した。この再造形における欠陥は、 血管平滑筋の発生に失敗することが原因であり、これによって、 ヒトにおける病原性も部分的に説明できる可能性がある。(KF)

天体物理に明るくなれたのはレーザーのおかげ (Intense Lasers Enlighten Stellar Physics)

星の爆発における核融合反応とその動力学は理論的にモデル化可 能だが、それを補うものとして、そうした大規模なエネルギー過 程の類似物を実験室において開発するというアプローチがある。 Remingtonたちは、天体物理学の分野で、制御された実験室環 境において星の反応を研究するために使われている、小さな領域 内に膨大なエネルギーを生み出す強烈なレーザーの最近の発展に ついてレビューしている(p. 1488)。レーザー実験は、観測やモ デル化と組み合せることで、超新星の爆発、すなわちγ線のバ ーストや巨大惑星の形成の機構に関するわれわれの理解をより 良いものにするのに役立っている。(KF)

赤い光に反応して(Responding in the Red)

スペクトルの赤、および近赤外光を受容する植物フィトクロム (phytochrome)は、植物の発生的、生理学的な変化を引き起こ す信号伝達鎖を引き起こす。Fankhauserたちは、フィトクロ ム結合タンパク質PKS1を同定した。これはその信号伝達経路の もっとも早期のある段階で働くものである(p. 1539 )。PKS1は、 フィトクロムが存在するとき、光に依存してリン酸化されるが、 このことは、フィトクロムがリン酸化によってそうした信号を 引き起こしている可能性があることを示している。(KF)

IL-13 遺伝子プロモータ中に見られない多形 (Polymorphisms Not Found in the IL-13 Gene Promoter)

M. Wills-Karp たち(Reports, 18 Dec., p. 2258)は、喘息の マウスモデルにおける2型サイトカインインターロイキン (IL-13)の役割について研究した。彼らは、「アレルギー性喘息 を発現させるにはIL-13が必要でかつ十分である」と結論付けた。 K.L. Andersonたちは「英国人のある集団中の129人のゲノムに おけるIL-13プロモータ領域を詳細に調べた」。その結果「喘息 患者のサブセットには「多形がみられない」ことを見つけたが、 このことから「IL-13プロモータはアトピーとか他の関連する状 況の感受性座位として重要であることが疑わしく」なった。これ に応じて、Wills-Karp とL. L. Rosenwasserは、彼らもまた問 題のゲノムの「その領域には集団的な有意な多形は見られなかっ た」ことを発見したことを述べているが、「下流の受容体と情報 伝達分子の多形」を含む「別のメカニズム」が存在する可能性の あることも指摘している。この全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5419/1431a を参照。(Ej,hE)

Fas, p53, とアポトーシス (Fas, p53, and Apoptosis)

M. Bennett たち(Reports, 9 Oct., p. 290)はp53遺伝子を研究 し、これが「成長の静止とアポトーシスの両方を誘発することに よって腫瘍サプレッサーとして働く」ことを見つけた。彼らは、 「p53は細胞質貯蔵所からの[腫瘍壊死因子]Fas輸送によってアポ トーシスを仲介する」と結論付けた。L. O'ConnorとA. Strasser はこれに対して「他の人も結論づけたように、p53によって活性 化された細胞死にはFasは必ずしも必要ではない」し、「p53は Fasに誘発されたアポトーシスにも必要ではない」ことをコメン トしている。これについて、Bennettたちは、「これらの研究を 直接比較することは難しい」。「明らかにp53とFasは複数のレ ベルで相互作用して、多くの異なる細胞型におけるアポトーシス を誘発するのかも知れない」と述べている。この全文は、以下を 参照。(Ej,hE,SO)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5419/1431b
[インデックス] [前の号] [次の号]