AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 14, 1999, Vol.284


リボソームRNAの折り畳み構造を維持する (Holding a Ribosomal RNA Fold)

酵素と異なり、遺伝情報をペプチド配列に翻訳するリボソームは、 多数のタンパク質に加えて数個のRNAサブユニットを含んでいる。 RNAは触媒作用というよりむしろより大きな構造的役割を果たして いるものと期待されているが、Connたち(p.1171)によって決定さ れた結晶構造は、大きなリボソームRNAのサブユニットの異常なヘ アピン型の折り畳み構造をどのようにしてタンパク質L11が安定化 させているのか、そしてなぜ高度に保存された塩基を露出させるの かを示している。このRNAにはペプチド鎖延長因子Gがペプチド結 合を形成する時可逆的に結合したり、抗生物質のチオストレプトン (thiostrepton)がタンパク質合成を阻害したりする部位含んでい る。RNAのラセン体の部位は塩基スタッキング、及び3個の塩基ト リプレット間の水素結合によって集められ、別のラセン体の塩基と の密な相互作用によるこの絡み合ったラセン形を安定化するのに L11タンパク質は役立っている。(KU)

木星のかすかな環を彫り出す(Sculpting Faint Jovian Rings)

木星は、観察困難な主にミクロンサイズの粒子で出来ている gossamerリング、メインリングとインナーリングの3つのかすか な環を持っている。Burnsたちは(p.1146)、ガリレオ探査機とハ ワイのケック望遠鏡からのデータを分析しモデル化し、gossamer リングは実際には2つの環であること、そして横から見るとおおよ そ長方形の断面(レンズ形状の断面に対して)をしていることは、主 に小さな衛星のアメルテアとテーベからの噴出物により制御されて いる、と結論つけた。粒子が太陽の輻射を吸収することで運動量が 衰え軌道が内部へ向かう。木星のメインリングもまたおそらくアド ラステア衛星の噴出物に由来するのだろう。これらの観測とモデル は木星型惑星、おそらく火星もそれらの衛星に関連するかすかな環 を持っていることを示唆している。(Na,Nk)

超伝導性をスイッチングする (Switching Superconductivity)

高温超伝導体の電気特性は、材料中の正電荷キャリア(ホール)のド ーピング量に敏感である。このドーパントの密度を可逆的に制御す ることができれば、それは有用なデバイスを開発する上で決定的に 重要である。Ahn たち (p.1152) は、薄膜状の銅塩の超伝導状態と 絶縁性の状態との間を、銅塩層に隣接して存在する強誘電体層にバ イアスをかけることにより、どのような具合にスイッチングするか を記述している。強誘電体によって与えられる電界は、その層中の ドーパント密度を変化させるのには十分な強さである。この電界に より、分極状態に応じて銅塩の層からホールを引き寄せたり、逆に そこから追い出したりするりすることができる。強誘電体の分極状 態が制御できれば、銅塩層の非揮発性のスイッチングが可能とな る。(Wt,Nk)

高分子から強靭な小胞を (Tougher Vesicles from Polymers)

親水性基と疎水性基の相互作用を組み合わせることによって脂質は 膜や小胞を形成できるが、このような組み合わせを合成高分子中に 組み込むことは可能である。Discher たち(p.1143) は、脂質小胞 の柔軟性を、短いポリエチレンオキサイド(polyethyleneoxide ) -ポリエチルエチレン(polyethylethylene)のコポリマー中に複製 することができることを見出した。このコポリマーは、(破裂する 前の)強靭さではおよそ一桁改善され、水の透過性に関しても少な くとも1/10に減少している。このような調整可能性は、薬剤送 達への応用に向けて小胞を設計するのに有用となる可能性がある。 (Wt)

深海の食料不足(Famine of the Deep)

SmithとKaufmannは北大西洋東部の沈降物に依存する生態系の酸 素消費量と有機炭素微粒子の沈降の比較を7年間行ってきた (p. 1174、DruffelとRobisonの展望も参照)。この結果、現時点の この深海生態系の食料要求は海洋表面から得られるものでは不足し ていることを示唆している。この差は海洋表面の温度上昇によって 引き起こされたと思われるプランクトン生物量の減少の結果である。 このような傾向は深海生物体系と地球化学循環にインパクトを与え るであろう。(Na)

CO2を捉まえる.(Capturing CO2)

二酸化炭素の濃度は、既知の放出量に基づいて想定される濃度に比べ、 それほど速くは増加しない。全世界の森林はこの過剰なCO2を消費し ているのかもしれないが、その検出は困難であった。なぜなら、森林 はいくつもの炭素のプール(木材、茎葉,落葉落枝そして土壌を含む) があり、それらもまた互いに炭素を速やかに交換しているからである。 Deluciaたち(p.1177)は,こうした炭素のプールと流転の評価を目的 とした外部からの干渉を排除した生態系において実験を行ない、その 結果を示した。実験は2年間にわたって続けられ、閉鎖された環境か、 あるいは、高いCO2濃度にさらされた幾つか森林調査区 (forest plots)が含まれている。この期間中に、トータルな一次 (生物的)生産量の正味量は、CO2高濃度区域で25%増加した。こうし た増加は、全体的には2050年の人為的なCO2の放出の(最大に見積 もって)約半分を固定することになるであろう。(TO,Nk)

上皮ラインを補給する(Replenishing Epithelial Lines)

肝臓のオバル細胞は、肝臓を構成する主な細胞種類である肝細胞や胆 管上皮(bileductal epithelium)等に対する前駆物質(幹細胞)と考え られている。これらの細胞は、急性の肝臓障害の後におこる器官の再 生に対する、潜在的な供給源である。しかし、これらの起源は不明瞭 であった。Petersenたち(p. 1168)は、こうした細胞が骨髄に見つ かったことを報告している。骨髄は、血液細胞や間充織細胞の幹細胞 の源であり、また上皮系統(epithelial lineage)の幹細胞の源である かもしれない。(TO)

動く図(Moving Pictures)

視覚的場面に含まれるある部分と別の部分とが同調して動いている、 ということをわれわれはどのようにして決定できるのだろうか?われ われが利用している可能性のあるのは、色や明るさ、あるいは動きの 方向などの一般的な特徴である。LeeとBlakeは、ある特定の向きか らなる輪郭線をもつパッチ(Gabor elements)が予告なしに向きを変 えるようになっている新しい種類の視覚ディスプレイを作った (p. 1165; またBarinagaによるニュース記事参照のこと)。図-背景 分離のための通常の手がかりが役に立たない条件においても、小さな 領域における方向の変化が同期している場合には、観察者は背景から 図を区別して知覚することができる。この結果は、次のような疑問を 投げかけることになる。場所的な相関が異なっている条件の下で、視 覚系はどのようにして精妙な時間的な相関を検出したり、境界を同定 したりできるのであろう。(KF)

精子を麻痺させた遺伝子伝達 (Disrupting Sperm for Gene Transfer)

外来遺伝子を胚の中に移す際の既存の方法は、総て様々な欠点を持っ ている。精子の外表面にDNAを携えて卵子の中に送り込むというアプ ローチの一つは再現性がなく悪評をかっていた。Perryたち(p.1180) は、精子頭部の膜を麻痺させる事によってマウスの未熟卵の中に二つ の異なるプラスミドを高い確率で導入できる事を見出した。グリーン 蛍光タンパク質(GFP)をつくる伝達遺伝子が次世代に発現し、そして その伝達遺伝子が子孫にも受け継がれた。この方法は小核注入が容易 でない種に、そして大きなDNAの断片を導入するとき潜在的な応用可 能性を持っている。(KU)

海馬の発生(Hippocampal Development)

哺乳類の脳において、学習や記憶のような高認識機能は、海馬を通す 回路に依存している。Zhaoたち(p 55;表紙参照)は、正常な海馬の発 生に必要であるLhx5というLIMホメオボックス遺伝子を同定した。 Lhx5遺伝子を欠失させたマウスにおいて、前駆細胞が増殖する間、 海馬の発生が比較的に正常に始まった。しかし、変異体マウスにおい て、海馬を形成するはずの細胞は、異常に遊定し、分化することがで きなかった。海馬に影響する他の変異によって生成した表現型との比 較することによって、海馬発生の中間相が発見され、この相は増殖の 後で起り、決定的な細胞の最終的な配置と分化の前に起る。この配置 と分化には、Lhx5の機能が重要である。(An)

GADとI型糖尿病(GAD and Type I Diabetes)

I型糖尿病において、免疫系は、インシュリンを生成する膵臓のβ細胞 を破壊する。疾病の初期にグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)を認識する 特定抗原に応じるT細胞が発生する。このT細胞を非糖尿病性動物に移 すと、疾病を惹起することができる。Yoonたち (p 1183;BoehmerとSarukhanによる展望記事参照)は、I型糖尿病の マウスモデルであるNODマウスにおいて、糖尿病の発生には、β細胞 におけるGADの発現が必要であることを報告している。GADメッセン ジャRNAに対するアンチセンス遺伝子の量を増加して発現する一連の マウスが開発された。発現が高ければ、β細胞におけるGADはほとん ど検出されず、NODマウスは糖尿病が発生しなかった。このマウスか らのβ細胞を糖尿病性NODマウスに移すと、NOD糖尿病が治療された。 このように、糖尿病発病T細胞の発生にGADが必要であるだけではな く、GADを発現していなければ糖尿病が進行中のマウスでもβ細胞は 破壊されない。(An)

免疫系を2回襲う(Hitting the Immunie System Twice)

CD8T細胞が生き延びるためにはT細胞受容体(TCR)と接触し続ける こと(continuedengagememt)が必要であるが、実際のところCD8 がどんな役割を果しているかは良くわかってない。Pestanoたち (p.1187)は、CD8細胞が同時にTCRとCD8タンパク質の両方を結合 しないならばCD8遺伝子は再メチル化されて細胞は結局のところ Fas-FasL経路によって死んでしまうことを報告している。CD8T細 胞の生存には外部のシグナルを受け取ることよりもこの暗黙の死の経 路を遮断することがもっとも重要であるように見える。即ち、もし CD8T細胞が、CD8(主要組織適合複合体クラス1)のリガンドを十 分発現しない標的(例えば、ウイルスに感染した細胞や多くの腫瘍細 胞のような)に結合するなら標的が生き続けるだけでなくCD8T細胞 も死ぬであろう。(Ej,hE)

オーストラリアの昔の気候(Ancient Australian Climate)

中央オーストラリアの植生は、過去6万5千年間で大きく変化を蒙って きた。GaganとChivas は、Eyre Basin湖から得られたエミュの卵殻 の炭素同位体を測定することで、草地の拡大と収縮の歴史をトレース している(p.1150)。炭素同位体は、エミュの食餌の変化、ひいては草 の豊富さを反映しているわけであるが、これはモンスーンの強さを反 映しているのである。データが示しているのは、オーストラリアにお けるモンスーンは、およそ4万5千年前に弱まったということである。 この時期は、人間がオーストラリアにやってきた時期と近い。人間が、 草地を焼くことによって土地のありさまを変えていったことが、オー ストラリアの気候に影響を与えた可能性があるということである。 (KF)

どこを見るかを決める(Deciding Where to Look)

脳は、次にどこを見るかを、どのようにして決めているのだろう? HorwitzとNewsomeは、動く視覚的刺激のグループに応答している サルの脳の上丘におけるニューロンの活動を記録した(p. 1158)。脳 のこの領域では、眼の運動の直前にニューロンが発火している。彼ら は、眼球運動の方向の選択に関与しているらしい細胞があること、そ の他の細胞は実際の眼球運動の遂行という運動性のタスクに、より 深く関わっているらしいということを発見した。(KF)

タンパク質合成の制御(Controlling Protein Synthesis)

ニューロンの樹状突起などで見出された局所性のメッセンジャー RNA(mRNA)の調整は、ニューロン間の信号伝達における長期変化な どの多くの生物学的プロセスに貢献していると考えられている。 Sabatiniたちは、樹状突起のシナプス領域に局在化していてグリシ ン受容体や細胞骨格のタンパク質と相互作用するタンパク質 gephyrinが、タンパク質合成を調整するタンパク質であるRAFT1と も相互作用すると報告している(p. 1161)。RAFT1は、ホスホイノシ チド・キナーゼと似た配列を有するキナーゼのあるファミリのメンバ ーだが、タンパク質キナーゼのように振る舞うらしい。RAFT1タン パク質は、免疫抑制薬ラパマイシンの効果を仲介するように機能し、 mRNA翻訳を増強する信号を増すのである。gephyrinを結合できな いRAFT1の変異体は、翻訳の活性化に貢献する信号を生み出すこと に失敗した。この結果は、ニューロンの樹状突起におけるタンパク 質合成がRAFT1を介して制御されている可能性があることを示して いる。(KF)

新原生代の雪だるま地球を考察する (Considering a Neoproterozoic Snowball Earth)

P. F. Hofmanたち(Reports, 28 Aug., p.142)は、「ナミビアにお いて、新原生代(Neoproterozoic)の氷河堆積物を包んだ炭酸塩岩石 中に炭素同位元素の異常」を見つけ、熱的な沈積物の履歴 (thermal subsidence history)を推測した。彼らの結論は、約7億 年前に起き、海洋生物を激減させたという「地球規模の氷河期( 即ち、雪だるま地球説)」仮説を支持するものである。彼らの結論で は、「火山性の噴出ガス」が「極端な温室効果」を作り、これが最終 的に氷を溶かした。N. Christie-Blickたちは、これにコメントして、 彼らの報告書にある「急激な」氷の溶融仮説に反して、オーストラリ アや北アメリカでの「緩やかな氷河先端の後退」が記録されている証 拠を示している。彼らはまた、同位体が枯渇したと思われるデータか ら、海洋における「一次生産性の崩壊??」は海洋が氷結した後に起 きたのであろうと述べている。これに応答して、HoffmanとSchrag は、複数の力の「複雑な相互作用」について述べ、「通常の氷河形成」 がまず起きて、「小規模の水の循環系」がその後の雪だるま地球にも 存在し続けたであろうと述べている。彼らは同位体値は「堆積物に埋 め込まれた炭酸塩中の炭素と、有機炭素の相対比」を表していると解 釈し、「これは雪だるま地球を支持するものである」としている。こ のコメントの全文は以下を参照。
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5417/1087a (Ej,hE)
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