AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 2, 1999, Vol.284


ヒトの始まり(Human Beginnings)

ホモ属はおよそ200万年前に現れたとみられ、現在の人類も それに含まれているわけだが、ホモ属の起源およびそれにど のような種がいくつ含まれるかは、議論され続けてきたがい まだ決着をみていない。WoodとCollardは、ホモ属の状態 についてレビューし、従来この属に入るとされていた二つの 種、ホモ・ハビリス(Homohabilis)とホモ・ルドルフェンシ ス(Homo rudolfensis)がホモ属には所属しないと結論づけ ている(p. 65)。(KF)

.超発光をともなう衝突(A Superradiant Collision)

ガンマ線バーストは短時間の内に膨大な量のエネルギーを放 出する。だが、このエネルギーの源は未だに謎である。 Van Putten(P.115)は、こうした高エネルギーの爆発をも たらす中性子星とブラックホールの衝突を含んだモデルを示 している。中性子星はが、大質量のブラックホールに近づく と、その軌道は円形にされる。そして潮汐破壊された星の破 片と、星の残存磁場は共にドーナツ上のリングをブラックホ ールの周囲に形成する。そして、新たに形成された磁気圏と ブラックホールの時空の地平線は共に作用して、プラズマ波 の共振空洞を作り出す。そしてこの空洞でバブルが形成され て、それが不安定になったときに爆発する。その結果、乱流 状態のトーラスによって起こされたプラズマ波の超放射は、 ガンマ線爆発のもっともらしい説明を与えてくれる。(TO,Nk)

珊瑚礁の危機(Coral Reef Peril)

大気中のCO2濃度の増加が海洋生態系にどのような影響をも たらすのだろうか?Kleypasたち(p.118)は、珊瑚礁にとっ ては深刻なマイナスの影響を与えるだろうと予想している: 海水に溶解したCO2濃度の増加によって炭酸カルシウムの溶 解性を 高め、あられ石(aragonite:生物代謝に起因する炭酸 カルシウム)の飽和状態を低 下させ、結果として石灰化を減 少させる。著者たちは,産業化以前の時代から次の21世紀中 頃の間で珊瑚礁の石灰化が14〜30%落ちるだろうと予測し ている。(KU,Nk)

移動している境界(Shifting Boundaries)

地震波のデータによると地球の核とマントルは複雑な境界を 持っているらしい。境界のある部分は溶融しており、その結 果、境界の性質は場所によって異なっているようだ。従来の ほとんどの研究は縦波か、あるいは横波のいずれかについて 調べていた。Wysessionたち(p.120)は、その両方の波を解 析し、境界層の太平洋中央部の深部が異方性であると推測し ている。これらの観察結果によれば、境界層が流動している か、あるいは、テクスチャーの違いがあるらしい。(Ej,hE)

スムーズにする(Smoothing the Way)

単結晶基質上において原子的に平らな単結晶の厚いフィルム を成長させるためには、一般に超高真空条件が必要とされる。 電気化学析出は、ずっと単純ではあるが、粗い、あるいは多 結晶のフィルムを形成すること、そして10単分子層の厚さに 限られてしまう、という結果となる。Sieradskiたち(P.138) は平坦で厚い銀のエピタキシャルフィルム(〜250単結晶層) を金の上に沈積できることを示した。この時、鉛や銅などの 媒介物を使い、周期的に同時析出させ、それらを表面から除 去した。銀の媒介物は銀の2次元状の島(islands)の成長の核 形成を助ける働きがあるが、銀の2次元状の島(islands)は層 から層へと、スムーズな成長を促進する。(TO,Tk)

岩を運んで(Transporting Rock)

大陸の衝突期間中の沈み込みは、岩石を非常な深さにまで沈 めることがあるが、しかし、それはまた深く沈められていた 岩石を表面に運ぶこともある。侵食と断層形成により、いく つかの山岳にある岩石が 100km以上の深さから表面まで運 ばれた。Bozhilov たち (p.128; Kerr による解説記事を参 照のこと) は、スイスアルプス中の Alpe Arami カンラン岩 (peridotite)の材料中に 単斜がん火輝石(clinoenstatite) が存在することを記述している。この岩石は、以前に、数百 kmの深さから露出させられたと提案されてきており、これ には異論も存在している。著者たちは、clinoenstatite は、 250km 以上の深さにおける他の鉱物である透輝石から高圧 相の単斜がん火輝石として析出(離溶)析出したと示唆して いる。(Wt,Tk)

メゾスコピック磁性分子クラスター (Mesoscopic Magnetic Molecular Clusters)

磁性粒子の量子波動関数がその物理的長さに匹敵する広がり にまで縮小されると、量子ドット中の電荷について見出され たものと類似のスピン系の干渉効果を観測することができる。 Wernsdorfer と Sessoli (p.133) は、非常に高感度の検出 器を用いて、単一結晶の磁性クラスターの磁化の転位を記録 した。この転位は、量子力学的トンネル効果を通してのみ二 つの安定状態間で発生する可能性がある。スピン状態が取り うる二つのトンネル効果経路は干渉しあい、これにより、磁 気系の量子スピンフェーズに対する直接的な観測が可能とな る。(Wt)

分子スクランブルのスペクトル (Spectra of a Molecular Scramble)

プロトン化メタン,CH5+,はある種のプラズマ条件のもとで作 られる事が知られているが、実験面及び理論面からも研究が 困難であった。計算によると三つの構造がほぼ同じ基底状態 のエネルギーを持つため、明瞭なC-H結合距離を持つにもか かわらず、結合間の角度が不明瞭な分子として考えられる事 を示している。極めて変化の大きい特徴を持つにもかかわら ず、Whiteたち(p.135;MarxとPerrinelloによる展望も参 照)は、CH5+が明瞭なC-H伸縮バンドを持つ事を示している。 CH5+を明らかにするには、作成条件を調整して関連する炭 化水素化合物種のスペクトル線を除く事が必要であり、そし てスペクトル線の実際的な同定を行う前にもっと理論的研究 が必要であろう。(KU)

光を局在化させる(Localizing Light)

物質は通常その材料の持つ電子バンドギャップ以下の波長で は光の吸収率が小さく、材料を多孔性(ポーラス)にすると、 その波長でより透明となる。Schuurmansたちは(p.141)、 マクロポーラスなガリウムリン材料は、よりポーラスなほど、 透明度が低くなり、より多くの光を散乱するようになること を報告している。電導性物質では電荷のキャリアーが構造欠 陥に散乱され、その欠陥の数密度が十分に高いときには「ア ンダーソン局在化」していると呼ばれるが、ここに見られる 散乱の増加はその現象とそっくりである。極度に整列してい ない状態では、光の散乱は、伝播が拡散モードを終息し、代 わりにトンネルモード輸送に切り替わるまで増加する。しか しながら、電荷を与えられた電子と異なり、光系ではより単 純であり、光子は互いに相互作用を起こさない。これらの結 果は、理論家に、整列していない材料における光の散乱の予 測をモデル化する理想的な系を与える。(Na,Nk)

古い酵素からの新たなトリック (New Tricks from an Old Enzyme)

アミノアシル-トランスファーRNA(tRNA)シンセターゼは、 タンパク質の合成中にアミノ酸を適当なtRNAに連結させ、 翻訳の忠実性を守るための基本的な役割を演じる。 WakasugiとSchimmel(p.147;およびWeinerとMaizels による展望記事参照)は、ヒトのチロシル-tRNAシンセタ ーゼ(TyrRS)の天然型酵素がタンパク質分解により切断さ れると、マスキングされない2つのサイトカイン活性をも つことを報告している。カルボキシ末端のTyrRS断片の組 換え型は白血球や単球の走化性を誘発し、アミノ末端の断 片はインターロイキン-8と共通の性質を持っている。天然 型TyrRSは培養中のアポトーシス細胞から分泌され、生物 学的に活性な断片に類似したサイズの断片へとプロセシン グされる。著者たちは、このTyrRS切断がアポトーシスに とって重要なものであり、タンパク質合成の静止と、アポ トーシスによって生じた細胞のカスを飲み込む細胞の補充 の両方を制御するものと仮定している。(Ej,hE)

新しい葉を出す(Turning Out a New Leaf)

トウモロコシがきんぎょそうとあまり似ていないのに、こ の2つの植物の葉と花器官のパターンを開始し、指示する 分子がよく似ている。Timmermansたち(p 151)と Tsiantisたち(p 154)はどちらも、トウモロコシ rough sheath 2; (rs2)遺伝子をクローニングし、rs2が キンギョソウのphan遺伝子と類似していることを示して いる。この2つの遺伝子は、配列が似ており、転写制御因 子の典型的な特色をもつ。更に、この遺伝子の変異がいず れも葉発生の障害を引き起こす。この比較は、調節制御の カスケードに関する興味深い洞察を支持し、rs2遺伝子が knox型遺伝子を、おそらくは後成的に、制御することを 示唆する。knox型遺伝子も葉形成を指示する。(An)

腫瘍の制御(Tumor Control)

癌を防ぐために、生物体は、正常な状態からそれた細胞の 死亡を誘発する。p53がどのように腫瘍細胞の死に関与す るかを解明するために、Soengasたち(p 156)は、細胞が Myc発癌遺伝子を発現し、この細胞が、腫瘍における条件 と似た条件(低酸素や成長因子の欠乏や懸濁液における成 長)に応答して死亡するシステムを用いた。このp53依存 の細胞死は、アポトーシス制御因子Apaf-1とアポトーシ スタンパク質分解酵素caspase-9によって仲介された。 このアポトーシス作動因子のいずれをも発現しない腫瘍 は、増強した腫瘍形成能をもっている。このように、ア ポトーシス作動因子の干渉がトランスフォーメーション と腫瘍発生に関与できる。(An)

骨髄幹細胞(Bone Marrow Stem Cells)

定義によれば、幹細胞は自己永続化するが、特異的系列 にも分化し、完全成熱細胞を生成する。成人において、 造血幹細胞の最も多いところは、骨髄である。 Pittengerたち(p 143)は、ヒトの骨髄から間充織幹細 胞を単離でき、試験管内培養の条件によって、この間充 織幹細胞が脂肪細胞か軟骨細胞か骨細胞に分化すること を報告している。このように、骨髄が多数の系列の幹細 胞の豊富な源であるのかもしれない。(An)

転写における不貞(Transcriptional Infidelity)

メッセンジャーRNA(mRNA)を合成するためのテンプレー トとして働くには、DNAコードが忠実に転写されることは 重要なことである。化学薬品や電離放射線はDNA塩基のシ トシンを脱アミノ化してウラシルを作ることによってDNA を損傷することが出来る。転写中、RNAポリメラーゼはシ トシンの対となる部位にグアニンを置くが、DNAテンプレ ートに脱アミノ化したシトシン(ウラシル)が含まれてい ると、アデニンが挿入される。Viswanathanたち (p.159;Bridgesによる展望記事も参照)は、このような転 写における突然変異誘発が生体内の非分裂性細胞中で起き て、変異したmRNAの転写によりタンパク質の機能が変化 することを示した。長期のDNA損傷が蓄積することで、転 写における突然変異誘発が加齢と共に起きる細胞機能の減 少にかかわっているのかも知れない。(Ej,hE)

脳の機能をイメージする(Imagine That)

活動している脳の機能の画像化により、対象が感覚性の入 力を受けた時、運動性の行動を起こしたとき、又は思考を 行った時に脳のどの部位が活動的になるかの観測を行え る。例えば、従来の研究で、視覚的入力が全くない状態で イメージを思い浮かべる場合にも一次視覚野が活性化する ことを明らかにした。この視覚の第一段階の処理が可視化 に必要なものか、それとも単に処理の後工程で行われた画 像生成(想像中でのイメージ化)の活動を反映しているだ けなのかが不明であった。Kosslynたちは (p.167、Barinagaのニュース解説も参照)、経頭蓋磁気刺 激を用い視覚野における視覚処理を妨げたところ、画像化 が損なわれることを発見し、画像化に必要なものであると 主張している。(Na)

ある湖の上昇と下降(The Rise and Fall of a Lake)

最初の主要な文明は、およそ4500年前、強まったインド・ モンスーンによって特徴づけられた湿潤な期間に、北西イ ンドで生じたと考えられている。Enzelたちは、北西イン ドの干上がった湖の中心部から得られた気候に関する詳細 な記録を提示している(p.125)。そのデータと年代は、湿 潤な気候の期間が従来想定されていたよりも早い時期に終 了したこと、文明が生じたのはむしろ半乾燥気候の時期で あったこと、を意味している。(KF,Nk)

リン酸化と可塑性(Phosphorylation and Plasticity)

CamKIIは、シナプス可塑性に関与するイベントの連鎖に おいて重要なプロテインキナーゼの一つである。神経細胞 はどのようにして、この酵素を、それが作用する場所へ補 充するのであろう。ShenとMeyerは、アクチンからサイト ゾルへのβ-CamKII異性体の解離が自己リン酸化あるいは カルモジュリンの結合によって引き起こされることを示し た(p. 162)。第2段階では、それぞれ異なった仕組みによ り、カルモジュリン結合したα-またはβ-CamKIIは、シ ナプス後密度へと場所を移され、そこで標的となるタンパ ク質をリン酸化することになる。このプロセスは、NMDA 受容体の活性化とそれに続くニューロンへのCa2+イオン の流入によって引き起こされる。こうして、自己リン酸化 およびカルモジュリン結合は、この酵素の活性を制御する だけでなく、ある細胞部位から別の細胞部位への移動をも 決定するのである。(KF)
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