AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science October 30, 1998, Vol.282


捩じれると良くなる(Better with a Twist)

キラルな分子が示す、周波数の倍加などの二次非線形な光学的反応は、 超分子的な秩序によって増強される。Verbiestたちは、置換ヘリセン (helicene)分子のラングミュア-ブロジェット薄膜がらせん状のファイ バーを形成することを示している(p. 913)。分子の掌形が一方のものだ けからなる薄膜の方が、ラセミ混合物からなる薄膜よりよく整列し、非 常に強い(30倍もの)二次の非線形性を示す。こうしたhelicene分子は 通常高い二次の効果を期待されないものだが、キラルならせん状の束の 形成によって、光学的な非線形性を記述する感受性(susceptibility)テ ンソルの何らかの要素が増強されたのである。逆のキラリティを有する 複数の層を形成する能力は、こうした非線形の特性を維持するより厚い 膜を、準位相整合法(quasi-phase-matching methods)によって生成 するために有用となるだろう。(KF)

濡れていない部分のパターン(Patterns of Dewetting)

液体フィルムを、それまでそのフィルムにより濡れていない基板上に析 出する時に、スピノダールモード、と呼ばれる、特定のパターンを形成 する理論的な研究が行われている。しかし、これらの現象はサブストレ ートの欠陥におけるドライパッチの析出のような、他の表面現象からは 容易に分離されていなかったため、実験的に観察することは困難であっ た。Herminghausたちは(p.916、Reiterの展望も参照)、液晶と液体 金属フィルムの2つの系におけるスピノダールデウエッティングの挙動 の実験的証拠を提供した。それらの行動は2つの系で支配的な異なる影 響力でその観測を理論的に説明するとが出来る。(Na)

化学反応を形作る(Shaping Chemical Reactions)

原理的には光解離反応のような化学反応の生成物を制御するため、レー ザーパルス列を注意深く用いることは可能ではあろうが、実際は、さま ざまな状態がさまざまな時間スケールで相互作用するため、すべての可 能な結末を予測することは困難である。Assion たち(p.919) は、進化 的なアルゴリズムを用いて、ある特別の生成物の生成量を最大にするた めある反応に対する入射レーザーパルスを調節することにより、この困 難を避けている。フェムト秒のパルス列を調整して、鉄の複合物の二つ の異なる結合切断反応の一方を選択することができた。(Wt)

乳白色の炭素(Opalescent Carbon)

可視光波長のスケールの三次元的周期性のような秩序構造を持つマクロ ポーラス材料は、たとえば可視光のバンドギャップの材料として興味を 引くものである(これは、特定の周波数の光子の伝播できるバンドギャッ プを持つ材料であり、その材料そのものにより光の制御が可能となる)。 Zakhidov たち(p.897; 表紙と van Blaaderen による展望を参照のこと) は、オパールの地質学的な形成に類似した合成経路により、微視的多孔 性炭素材料を作成している。このオパールは、小さな球状のシリカとそ のシリカの間の空隙を埋める含水性のシリカとからなる宝石である。彼 らは、焼結した球状のシリカからなる結晶を炭素の前駆体にしみ込ませ、 続いてシリカを抽出した。ある範囲に渡り、その壁面が合成条件に依存 したさまざまな特性を持ち、秩序構造を有する材料を作成することが可 能である。その材料は光学的波長領域に周期構造を持っている。(Wt)

長期に渡る農業生態系の実験 (Long-Term Agroecosystem Experiments)

世界の食料生産は維持できるであろうか?地球規模の変化が生態系にど んな影響を与えるであろうか?大気中の汚染物質における歴史的な傾向 を測定できるであろうか?このような問いに答えることは難しいとされ る理由は主に、関連する生態的プロセスは緩慢であり、短期間で行う研 究では傾向を検知することにしばしば失敗するからである。Rasmussen たち(p. 893)は、少数の長期にわたる農業生態系の実験(ある場合には前 世紀の中期にまで遡る)について調べ、そうした実験では、環境の変化や その変化が農業や自然生態系への影響があったといいう事を明らかにし た。(TO)

内核を包む薄い皮(A Thin Skin on the Inner Core)

内核を通る地震波は東西方向より南北方向の方が早く伝わる。Songと Helmbererは(p.924)、太平洋中央部の下の内核を横断したり、反射する 地震波の解析から内核の中の薄い層の存在の証拠を示した。彼らは、内核 の長い周期の地震波からの異常に広いパルスと短い周期の内核地震波の変 則的な反射波、存在する可能性のある短周期地震波の3重波(triplication) を用い、薄いランダムな方向性を持つ鉄粒子を含む等方性の最も外側の地 殻(最大およそ200Kmの厚さ)が、異方性の鉄粒子が南北方向に並んだ最も 内側の内核を囲んでいるモデルを作った。このようなモデルは、内核の冷 却や、内核の内側と外側の構造的な遷移などの地球力学理論の検証に用い ることが出来ると思われる。(Na)

同位体の成長(Isotopic Growth)

ある一つの元素の同位体が異なっただけの結晶同士は、異なった格子定数 を示しているだろうが、これが格子定数に表れる効果は極めて小さく、典 型的には10万の1のオーダーなので、測定するのが困難である。従来の測 定は、純粋な同位体の単結晶に対して行われてきたが、そうした測定に要 求される完璧なレベルの結晶を入手することは困難なことがあった。 Kazimirovたちは、通常のゲルマニウムの基層の上にゲルマニウム-76の 薄膜をエピタキシャル成長させ、それらの間での小さな格子ミスマッチを Bragg回折によって測定した(p. 930)。その効果の温度依存性に関する理 論との良い一致が得られた。(KF)

働いている酵素を見る(Watching an Enzyme at Work)

遺伝学者にとって、RNAポリメラーゼとは、二重らせん状のDNAゲノムの 複製である一本鎖のRNAを作ることで遺伝子発現のプロセスを開始するも のである。生化学者にとって、RNAポリメラーゼは、DNA鋳型によって支 配される配列に従って単一のリボヌクレオチド三リン酸塩を並べるもので ある。Wangたちは、オンラインで力と速度を測定できる光学的に制御さ れたゲージを用いて、物理学者にとってRNAポリメラーゼがどう見えるか を明らかにした(p. 902)。それは、あるときは一定速度で動き、別のと きには休止し、たまに後ろ向きに移動さえする、というものであった。 (KF)

オスの適応度の検証(Testing Male Fitness)

Haldaneの規則は、異種交配による適応性の損失は、同型配偶の性より異 型配偶の性の生存度と繁殖力に対して影響を与える、と予言している。 PresgravesとOrr は、蚊の二つの属を研究し、Haldaneの規則の理論的 な説明について検証した(p.952;Turelliによる展望記事参照)。Yクロモソ ームの構造と生存度と繁殖力に対する雑種化の影響の分析によって、 Haldaneの規則の背後で働いている機構についていくらかが明らかになっ た。(KF)

コロニーの設計(Planning a Colony)

藍藻類Anabaenaの繊維状多細胞性コロニーには、光合成と窒素固定の両 方が必要であるが、この過程が異なった細胞で行えなければならない。コ ロニー内のこの2種類の細胞の運命と組織の決定が単純化したパターン形 成の例である。YoonとGolden(p935;Haselkornによる展望参考)は、ひ とつの細胞の種類から発出し、周辺の同様な細胞の分化を抑制する小さな ペプチド信号を同定した。このように、細胞間の情報伝達によって、窒素 固定化する細胞が藍藻類のコロニー中に分布したパターンを形成する。 (An)

C型肝炎ウイルスの標的(Hepatitis C Virus Target)

世界中で、約7千万人がC型肝炎ウイルス(HCV)で慢性的に感染され、肝 炎か硬変か肝臓癌の患者になりうる。試験管内で細胞をHCVで感染させる ことができないゆえ、ウイルス生活環中のイベントの研究が困難となり、 ワクチンや治療の戦略の手掛りを得られなかった。Pileriたち(p 938)は、 ウイルス外被タンパク質E2がヒトのタンパク質CD81の主要な細胞外ルー プに結合することを発見した。ウイルス外被でワクチン接種され、その後 のウイルス感染に耐性であったチンパンジーのみがHCVのCD81に結合す る能力を抑制する抗体をもっていた。(An)

接着(Sticking with It)

炎症部位があると、白血球を循環系から出して炎症部位や、周囲の組織に 入るようにさせる。この過程に関与するひとつの接着分子がCD44である。 Maitiたち(p 941)は、このような部位で普通に産生されるサイトカインで ある腫瘍壊死因子αが、CD44産生増加を誘発することではなくて、むしろ 細胞を刺激してCD44を硫酸塩にすることによって、白血球に対するCD44 の接着性を増加することを発見した。このように、硫酸化は、制御され、 誘導できる過程であり、白血球の接着性増加に関与し、炎症中の白血球機 能を補助するようである。(An)

蠅よ、長命なれ(Long Live . . . the Fly)

加齢プロセスの理解は、寿命の延長および改善された生活の質 (quality of life)の維持の助けになるかもしれない。Linたちは、平均 寿命が35%長い蠅の変異体、メトセラを分離した(p. 943; Pennisiによ るニュース記事参照)。この変異は、ストレスに対する抵抗もより高める ことになる単一の遺伝子に限られている。このメトセラ遺伝子産物は、 細胞の信号伝達に関与する一連の受容体と関連している。(KF)

攻撃的でないほどうまくいく(Less Aggressive, More Successful)

新しい環境に導き入れられたとき、ある種の生物が非常にうまくやって いけるのはなぜなのか? 一つの可能な解は、行動の変化である。Holway たちは、新しい環境に導入されたあるアリの種で、種内における侵襲行動が 失われること、またそれに伴って縄張りの習性が失われることを確認した (p. 949; Straussによるニュース記事参照)。アルゼンチン・アリは、それ が生まれた環境では、明白な侵襲行動を示すが、南カリフォルニアに導入さ れたコロニーでは、めったにそうした行動は示さない。実験室での組み合わ せ比較では、非侵襲的なコロニー同士は死亡率が低く実際に協力しあうこと で、攻撃的で縄張りの習性のあるコロニーの組み合わせに対して有意に利点 をもっていた。(KF)

地球のマントルの配線(Wiring Earth's Mantle)

マントルの電導率は、地球を通しての地磁気場の伝搬に影響を与える。 Xuたちは、マントルの低い部分ではペロブスカイト(perovskite)の三価鉄 イオンが全体としての電導率に大きな影響を与えていることを示している (p. 922)。三価鉄イオンは、アルミニウムとともに、ペロブスカイトに多 く含まれている。ペロブスカイトが適当なアルミニウムと三価鉄イオンを 含んでいることを考慮すると、電導率の変異は、地球物理学によるモデル と矛盾していないことになる。(KF)

白亜紀‐第三紀の衝突物の組成 (Composition of the K-T Impactor)

約6500万年前の白亜紀‐第三紀(K-T)境界での数多くの種の死滅は、希金 属や、高圧相鉱物が濃縮された、地球規模で分布している堆積岩層や、ユ カタン半島沖にある巨大なChicxulub衝突口の確認と関連付けられてきた。 ShukolyukovとLugmair(p.927)は、K-T境界とその上下において、堆積 岩中のクロミウムの同位体比を計測することにより、地球圏外の衝突物の 組成を評価した。K-T層の同位体比はその上側や下側の岩石と異なってお り、炭素質コンドライトで計測される同位体比と類似していた。(TO)

模様替えの専門家(Remodeling Specialist)

血管内皮成長因子(VEGF)は血管発生の中心的な制御因子である。Dumont たち(p.946)は、VEGF-Cに関連する受容体であるVEGFR-3を欠失するマ ウスを作ることによって、この受容体の特別の役割を評価した。変異体胚 は、大動脈のような大きな血管の再造形に際してひどい欠陥を示し、その 結果囲心腔で血液が溜まり、子宮内で死んでしまう。このように、 VEGFR-3情報伝達経路は心血管系の初期発生に必須であることがわかる。 (Ej,hE)

量子ドットデバイスにとって有害な振動 (Bad Vibrations for Quantum Dot Devices)

半導体の量子ドットに基づくデバイスは、特別なエネルギー状態への電子 の配置に依存することになろうが、それは自然放出と競合することとなる。 この自然放出は、電子状態が求められてはいないような変化を引き起こす 可能性がある。Fujisawaたち(p. 932) は、二重量子ドットデバイスにお いて直流電子電流を測定し、二つのエネルギーレベル間の弾性的および非 弾性的遷移の特徴を調べた。彼らは、非弾性散乱は格子振動(音波のフォノ ン)とエネルギー交換を行なうことを示している。このような結合は、量子 的コンピューティングにおける可干渉過程に対する量子ドットの利用を制 限する可能性がある。このため、このカップリングはデバイスの幾何的は 位置を巧妙にすることによって取り除かれなければならないであろう。 (Wt)

エボラウイルスと好中球と抗体特異性 (Ebola Virus, Neutrophils, and Antibody Specificity)

Z.-y. Yang たちの報告によると、エボラウイルスの分泌された糖タンパク 質(sGP)は、CD16b表面受容体を通じてヒトの好中球(neutrophils)と相 互作用をしたと言う(Reports, 13 Feb., p. 1034). T. Maruyama たちは これにコメントして、この研究はエボラsGPの結合を検出するために使わ れたウサギの抗体がウイルスと細胞との相互作用を仲介している可能性を 排除していない、と述べている。彼らはフローサイトメトリによって、 sGPに特異的なヒトとウサギの単クローン抗体断片を用いて、sGPが好中 球と相互作用をしているという推定について研究した。彼らは、sGPが好 中球に結合している証拠を全く見つけることはできなかった。また、精製 した好中球によるsGPの吸収も観察することが出来なかった。これから、 彼らはエボラのsGPはFcgRIIIb(CD16)や、好中球上の他のどの受容体と も結合していない、と結論づけた。これに対して、Yangたちは、抗体断片 との結合は検出できなかったことを確認した。しかし、これに対するいく つかの理由を示し、新たな実験を行った。その結果Maruyamaたちによる 説明は、全ての入手可能データに対して成り立つわけではないことを示し た。CD16が直接にあるいは間接に相互作用と関係しているかどうかを決 定するには、更に研究が必要であることを認めている。Yangたちは更に 彼らの報告中の図ー1Aの最左グラフの訂正もしている。コメントの本文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/282/5390/843a参照(Ej,hE)。
[インデックス] [前の号] [次の号]