AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 16, 1998, Vol.282


生命のサークル (The Circle(s) of Life)

殆どの生物において、染色体末端(テロメア(末端小粒))における DNAは酵素テロメラーゼによって作られる短い繰り返しからなっ ている。テロメラーゼが欠如すると、分裂酵母細胞は徐々にテロ メアとその生存能力を失う。しかしながら、少数の亜集団細胞は 生き残り分裂し続ける。Nakamuraたち(p. 493)は、このような 細胞は染色体を環状にしたり、或いは組換えによってテロメアを 伸長させたりして生き続けることを示している。生き残りにおい て組換えモードが優先するのは、テロメラ−ゼ欠如細胞がテロメ ア結合タンパク質Taz1をも又欠如したときである。このような 結果は、二つのタンパク質が協同してテロメアを完全な状態に維 持していることを示している。(KU)

原始の酸素源 (Early Oxygen Sources)

太陽星雲で最も初期につくられた固体粒子は,原始的隕石中に見 出された難揮発性のCa-Alに富む包有物(CAIs)と推定されてい る。YoungとRussell(p. 425)は、高精度の紫外レーザ・マイ クロプローブを用いてメキシコのAllende地方の炭素質コンド ライトからCAI中の鉱物の酸素同位体組成を測定した。彼らの データーに基づくと,原始太陽系星雲中に混ざりあった酸素の供 給源は二つに限定される:古い酸素−16が豊富な成分(CAI鉱 石中に豊富に存在する)と若い酸素−16の少ない成分(CAIsの 後につくられた普通コンドライトに豊富に存在する)である。 更なる測定により二成分混合モデルが支持されるならば、その 時このような原始物質の最初の形成と二次的分化プロセスが酸 素同位体存在度測定から分類出来非常に簡単になる。(KU,Tk)

化合物を掃き集めて検出する (Sweeping up Compounds for Detection)

微量成分分析法の一つである界面動電クロマトグラフィはいく つかの潜在的な利点を持っている。高性能で取り扱いが簡単で、 必要試料も少なく、多くの化合物に対して広い適用性を持ち、 かつ極めて小さな測定器(チップサイズでの実験)となりうる可 能性を持っている。しかしながら、この形式のキャピラリ電気 泳動法は検出範囲が不十分であった。QuirinoとTerabe(p. 465) は検出限界を5000倍に拡げ、ppbレベルの分析が可能な改良法 (試料注入の間に中性分析ゾ−ンを用いる)を示している。(KU)

Condensinと細胞周期(Condensin and the Cell Cycle)

細胞分裂周期を制御する機構と有糸分裂中の染色体凝縮との間 の機械的な結合がKimuraたち(p 487)によって報告された。 著者は、13S condensinを研究したが、この複合体は5つのサ ブユニットからなり、染色体凝縮に必要であり、試験管内で DNAの超らせんを引き起こす。細胞周期中、condensinの活性 がリン酸化によって修飾されるが、結果は、有糸分裂の開始を 制御するサイクリン依存リン酸化酵素であるCdc2が13S condensinを直接にリン酸化し、活性化することを示す。 (Murrayによる展望参考)(An)

皮膚細胞アポトーシスを防ぐ (Combatting Skin Cell Apoptosis)

いくつかの薬が皮膚が広くむけるという荒廃的な反応を起こす が、この場合の30%が致死的であり、有効な処置がない。有毒 な上皮性表皮壊死症(TEN)と呼ぶこの病状では、真皮と表皮と の接合部におけるケラチノサイトのアポトーシス性細胞死が生 じる。Viardたち(p 490)は、TENの患者を検査し、死受容体 Fasのリガンド(FasL)の発現量が増加していることを発見した が、この状態がケラチノサイトのFas誘発アポトーシスを引き 起こしたようである。ヒトの静脈内免疫グロブリン[健康なド ナーからプールされ、他の病状を処置するために利用される IVIG]がヒトの抗体をFasに結合することによって細胞培養に おけるFas仲介死を遮断することが発見された。TENの患者に IVIGを与えると、10人全員が急速に治癒し、有害な副作用が なかった。(An)

平べったいナノマグネット(Flat Nanomagnets)

強磁性粒子を小さくすることは、デバイスのメモリーを増やす 理想的な方法のように見えるが、一つの心配は、形状により選 択的な磁化方向が定まってしまうことと、境界が接近している ことにより、粒子内部に磁区が形成されてしまうことである。 このような結果は、以前、粒子の平らな面に垂直方向に磁化さ れた粒子に対して見られてきた。Stamm たち (p.449) は、 コバルトの薄膜(2〜10の原子層厚さ)は小さな大きさ (1mm 〜 100nm)に側面方向にパターニングして、それらを 平面内で磁化したとき磁区が形成されないことを示している。 彼らは、また、磁気記録において望まれるように、近傍隣接領 域に影響を与えることなく、一つの粒子の磁化をスイッチする ことができた。(Wt)

炭素収支についての考察(Carbon Budget Considerations)

炭素収支についての最近の研究に焦点を当てた3件のレポート が報告されている。これは、自然発生と人類による発生の両方 による二酸化炭素(CO2)のような温室効果ガスの消滅域と発生 域を定める上で決定的に重要なことである(Kaiserによる関連 解説記事を参照のこと)。 Frankignoulle たち (p.434) は、 広い範囲に渡るヨーロッパの河口からの CO2 放出を測定し、 その河口からは西ヨーロッパにおける人類が発生源の全 CO2 放出量の5〜10%を放出していると見積もっている。同様に 世界中で高い値が推測されうる。老年期にある熱帯林における 炭素蓄積の重要性については論争の的となっている。Phillips たち (p.439)は、熱帯地方を横切る数百のある固定した試料調 査区を用いて広範囲で長期間に渡るモニタリングを行なった。 全体として、また新熱帯区[訳注]の大部分において、樹木の成長 は樹木の消失を上回っているが、旧熱帯区では感知できるほど の変化はなかった(特に、アフリカやアジアにおいて)。老年期 の新熱帯区の森林は、特にアマゾン地方においては、確かに重 要な陸上の炭素消滅域である可能性がある。これは、新熱帯区 と旧熱帯区との相違は気候的因子か人類による撹乱によって説 明できうることを示唆している。近年、いくつかの研究が、北 半球における大きな陸上の炭素消滅域が存在することを指摘し ている。しかし、多くの研究が東西方向よりは南北方向のデー タのみが含まれているため、この消滅域の位置は確定するのは 困難である。Fan たち (p.442) は、CO2放出データと海洋に よる取り込み評価とともに、1988年から1992年の高分解能大 気 CO2 データを用いて、北アメリカ、ユーラシア、北アフリカ、 および世界の大地表面の残りに対して陸上の消滅域を評価した。 北アメリカに顕著な消滅域が存在することが示唆されているが、 一方、他の領域はそれをさらに正確に確定することはできなかっ た。(Wt,Og)

若いスターを捕まえる(Catching Young Stars)

不安定な塵とガスの星間雲が、大きくて高密度の塊へとつぶれる ことにより星が生まれると考えられている。Cernicharoたち (p.462)は、地上に設置された電波および光学望遠鏡と、宇宙の 赤外望遠鏡(ISO)を利用して、極めて若い(10万年以下)銀河系 内にある Trifid星雲を観測した。この三裂星雲(Trifid nebula) は、若い中心星の周りを電離水素、他の電離元素、それに塵の シェルが取り巻いている電離水素領域(H-II(H-2))である。著者 たちは、1つの明るいガス塊と4つの点光源を星雲中に観察した が、これは形成されつつある星であると解釈している。これらの 原始星は、中心の星のイオン化したガスやチリの気泡中に形成さ れていたが、一旦十分に発達すると、更に新たな星の形成のきっ かけになると思われる。(Ej,hE,Nk,Ym)

氷原の今昔(Ice Sheets Then and Now)

およそ400万年前、北半球で大規模な氷原が急激に広がり始めた、 しかし、その原因となった気候の変化については依然不確かであ る。一つの徴候としては、海洋の熱塩循環(海水の温度と塩分の変 化により発生する密度の差により引き起こされる)が、この時期、 パナマ地峡が閉じられ、より高い緯度の海洋でより強い降水量を 引き起こし、強まった、ということがある。しかしながら、メキ シコ湾流の強まりは、北大西洋を暖め、氷原の成長を妨げること にもなる。一方、DriscollとHaug(p. 436)は、ヨーロッパにお ける沈降の増加が北極海への大量の淡水の流入を引き起こすこと で、海水よりも凍結を容易にしたことを示唆した。現在と将来の 海面水位上昇を予測する上での最も主要な不確実さは、南極の氷 原との質量のバランスである。質量のバランスを説明するために は、時系列的な水位の上昇と降雪の正確な測定が必要である。 Winghamたちは(p. 456)、1992年から1996年までの南極の広 範な地域の人工衛星による高度測定データを示した。南極大陸内 側にわずかながら氷の軽微な不均衡があることが確認された。 (Na,Nk)

NAOの今昔(NAO Then and Now)

北大西洋振動(NAO: North Atlantic Oscillation)は、より大きく てよく知られている太平洋のエル・ニーニョ-南方振動 (ENSO: El Nino-Southern Oscillation)に比べると、さほど優勢 ではなく、そんなにしばしば生じることのない気候現象だが、それ でもヨーロッッパや地中海、北アフリカに対して強い影響をもって いる。Appenzellerたちは、グリーンランドで得られた氷の掘削コ アのデータを用いて、過去350年にわたるNAOの代理指標を構成し、 NAOは、ENSOとは対照的に、この期間中、活動的なフェーズと受動 的なフェーズを有する間欠的な現象だったことを示している(p.446)。 この結果は、気候の予測という面で意味をもつものであろう。(KF)

イエローストーンの下での蠢き(Unrest Under Yellowstone)

熱水の活動で有名なイエローストーン国立公園はまた、じっくり見る 価値のある活動的な火山性カルデラを有する地域である。およそ60万 年前、そこでは、1980年にセント・ヘレナ山が放出したマグマの 1000倍以上のマグマが放出された。Wicksたちは、衛星からの電波干 渉計を用いて、1992年以来、イエローストーン・カルデラにおけるマ グマの流れと関連する表面の変形を観察した(p.458)。カルデラ地域は、 1995年半ばまでは沈下していた。その後、カルデラの北東の隅が上昇 を始め、その上昇はカルデラの南西の隅へ移っていった。この詳細な表 面変形に関するモデルの一つによれば、流体を多く含むマグマの垂直方 向のパルスがカルデラの北東隅の下およそ8キロメートルにある水平な テーブル状の貯蔵所(貫入岩床)に入り込み、それから南西にあるより大 きな貫入岩床に向けて側方に移動した、ということが示唆されている。 (KF,Og)

太い血管(Big Vesseles)

angiopoietinは、血管の発生と成熟とに関連するとされてきたタンパ ク質である。Suriたちは、マウスの皮膚においてangiopoietin-1の 遺伝子組み換えによる過剰発現があると、野生型のマウスにおけるよ りも太く、数が多く、分岐の多い血管が生じる、ということを示した (p.468)。血管の発生における分子レベルの制御を理解することは、 臨床面で意味があり、四肢や心臓の虚血に対するより良い治療法につ ながるものでもあろう。(KF)

カッコーの交尾戦略(Cuckoo Mating Strategies)

カッコーは他の鳥の巣に卵を産むが、その他の交尾行動や宿主特異性 についてはほとん知られていないが、その理由は、両親が巣に来るこ とがなく、研究することが難しいためある。Marchetti et al. (p. 471; Morellによるニュースストーリも参照)は、託卵性のトリあ る日本のカッコー集団からサンプルを入手し、ミクロサテライトDNA マーカーによる析を行った。カスミ網を使って群の大部分の成鳥を捕 らえ、実験室で卵が孵化された後、彼らの巣にひな鳥が返された。そ の結果、オスもメスも両方とも複婚であるが、メスが宿主特異性を保っ ている反面、オスはつがいを選ぶのに1つの血統にこだわらず、異な る宿主の巣に卵を産むメスを選んでいた。この行動によって、カッコ ーに何故宿主の系統が存在するのに、血統が存在しないかが説明でき る:メスによる宿主の特異性は種分化の段階となっているが、オスの 系統を通じての遺伝子の流れがこれを抑制している。(Ej,hE)

再び危機に瀕するラッコ(Reendangered Sea Otters)

25年前に、EstesとPalmisanoはアラスカ沿岸西部におけるラッコの 重要な役割について報告した。過去に殆ど絶滅近くまで乱獲された ラッコは、その数がふたたび増加することで、草食性のウニの分布を 制限し、かれらの復活は、海藻の繁殖にプラスの効果を与えた、とい うものである。Estesたちは(p. 473、表紙とKaiserのニュース解説 も参照)、1990年代に入り、明らかにシャチによる捕食の結果ラッコ の数は急激に減少した、という続報を報告した。このシャチの嗜好の 変化は、彼らの通常の餌である、アシカやアザラシが(人間による漁業 資源の乱獲により彼らの食料資源が減少す ることで)いなくなったことによると思われる。その結果、ウニの数は 劇的に増加し、海藻は減少し、広範な生態系の破壊を示している。(Na)

DNAワクチンの活性(DNA Vaccine Activity)

動物モデルにおいて、抗体とかT細胞応答を誘導するために「裸の」 DNAを使うことに成功したことは、ワクチン供給に重要で新たな方法 を提供するという希望を持たせた。DNAワクチンはすでにHIV-感染し た個人に対してテストされてはいるが、HIV患者の免疫状態は余りに も異常であるためこれがそのまま正常な個人に適用できるとは思えな い。マラリアの効率的なワクチンを作ろうとして、Wangたち(p.476) は、変形体熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium flaciparum) circumsporozoiteタンパク質をコードするDNAは、健康なヒトの ボランティアの細胞毒性T細胞の応答を誘起することを実証した。 (Ej,hE)

1つのチップ上で配列を決定(Sequencing on a Single Chip)

少量のDNA試料の完全自動化した分析によって、異なる個体や種の間 でゲノムを比べることが極めて容易になる。Burnsたち(p.484)は、 フォトリソグラフィーの技術を使って、試料から120ナノリットルを 取り出し、試薬と混合し、DNA増幅反応を行い、試料を電気泳動ゲル に載せ、移動するDNAバンドを検出する、シリコンをベースにした装 置を作った。これについては、Serviceによるニュースストーリ、お よび、Sikorski & Petersによるテクノロジーサイトを参照。(Ej,hE)

樹状細胞の起源(Dendritic Cell Origins)

免疫反応を開始するには、樹状細胞が抗原を拾い上げ、これを持って リンパ節まで移動し、そこでリンパ球と出会う。では、樹状細胞はど こから来たのか? ある種のサイトカインと一緒に試験管中で培養され た単球は、約1週間で樹状細胞に分化する。Randolphたち(p.480;お よびShortmanとMaraskovskyによる展望記事参照)は、内皮細胞の 単層と食作用の粒子と一緒にして2日間培養した単球は、この単層の 下から再出現する樹状細胞集団を作る。このような訳で、樹状細胞の 源は、内皮下環境において微粒子刺激にさらされている血液単球かも 知れない。(Ej,hE)
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