AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 3, 1998, Vol.281


胸の張り裂ける悲嘆への経路(Pathway to Heartbreak)

ヒトの4室からなる心臓は、元々は一心房一心室の2室のチューブ状心臓から発達したも のである。これらの原始的な室が分離(中隔形成) することは心臓が正常に機能するため にはきわめて重要なことである。しかし、心房中隔欠陥(ASD)は、生児出生1500に対して 1の割合で生じるほど、よく見られる。Schottたち(p. 108; およびBarinagaによるニュ ースストーリ, p. 32)は、ASDのサブセットである(心房の収縮刺激の)伝導欠陥や、他 の心臓異常が、心臓に特異的な転写制御因子のNKX2-5をコードしている遺伝子中の変異に 原因があることを示している。この遺伝子の相同体は、ショウジョウバエやマウスの心臓 発生に関与することがこれまでに示唆されている。 (Ej,hE)

内胚葉の決定(Determining Endoderm)

脊椎動物胚性発生の初期に、3つの胚葉が特定される。 この3つの胚葉、つまり外胚葉と中胚葉と内胚葉、がそれぞれに 特定の器官と組織を将来生じうる。HenryとMelton(p 91)は、 内胚葉の主体性を特定するホメオボックスを含んでいる遺伝子 Mixerを同定した。もっと特異的な前後パターンが他の下流の因 子によって特定されている。このアフリカツメガエルの研究は、 内胚葉発生が全体的な階層状になった定義付けに従って行われ、 その後さらに特定化が行われることによって、内胚葉から由来 した器官を生じうることを示している。(An)

高温高圧下でのβ鉄の構造 (Structure of beta-Iron at High T and P)

D. Andrault たちは、レーザーで加熱されたダイヤモンドアン ビルセル中の高温(T)高圧(P)下での鉄の構造を調べた(31 Oct., p. 831)。彼らは、鉄は相変化を受けて「斜方格子」を示すこと を見出した。 L. Dubrovinskyたちは、「この結論には二つの 問題がある」と認識している。彼らは、「『構造モデルの定量 的評価』のために用いられた精密構造決定の方法はよくない」 と述べている。彼らはまた、「集められたX線パターンに関す るの鉄の相の解析が、既知の鉄の相あるいは鉄の酸化物や加圧 媒体などの混合物として説明できるかどうか疑問」を呈してい る。Andrault たちは、「私たちは、実験的に得られた特徴に ついて、斜方晶系の鉄とする解釈を支持している。それらは最 も無駄な解釈を倹約した説明のように見える。」と返答してい る。そして、彼らは、交互に、互いの批判について議論してい る。技術的なコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/281/5373/11a を参照のこと。(Wt,Tk)

リポソームにDNAを放出させる (Getting Liposomes to Give Up DNA)

最近の研究によると、遺伝子の送達に用いられる一価陽イオン性 のリポソーム(CL)をもったDNAの複合体は、DNAがリポソームの 層状のシートの間に整列する、ある明瞭な構造を採りうることが 示されている。Koltoverたちは、X線散乱法を用いて、遺伝子導 入にもっとも望ましいDNAとCLの比率においては、DNA分子が リポソームの小管に包み込まれるという別の構造が形成されるこ とを示している(p. 78)。光学顕微鏡によると、この後者の形状は、 陰イオン性の細胞膜と急速に融合して、DNAを遊離するが、層状 の複合体の方は安定しており、DNAを保持することが分かった。 (KF)

柔らかな昔の靴(Old Soft Shoes)

昔の文化の進化に関する証拠のほとんどは、陶器や道具類である が、これは、それらが分解しにくく、保存されやすいからである。 しかし、より脆弱なものから得られる記録も、より広範な展望を 与えてくれるという意味から重要である。Kuttruffたちは、ミズ ーリ州のアーノルド・リサーチ洞窟に埋蔵され保存されていた、 注目に値する1かたまりの靴について、記述と年代測定を行なって いる(p. 72; Pringleによるニュース記事 p. 23参照)。18個の靴と サンダルが完全またはほぼ完全な状態で残されており、別の17個 は断片として残されていた。これらによって、靴はおよそ8000年 前まで遡る作り方のスタイルの記録を提供してくれる。作り方の スタイルは、時間とともに複雑になってきたのではないらしい。 早い時期の靴のあるものは非常に込み入った作りになっていた。 また、すべては草で作られているか木の繊維で作られていた。 (KF)

選択的振動(Selective Vibrations)

イオンと自由電子の解離的再結合は、プラズマ過程や燃焼と同様、 天体物理や上層大気の研究においても重要なものである。分子ビ ームによるこのような反応の実験的研究は、振動励起が緩和され た、十分に強いイオンビームを発生させることが困難であったた め、これまで実施できなかった。イオン蓄積リングはこの問題を 克服し、分子イオンの振動準位を基底状態まで緩和することが可 能となった。Amitay たち(p.75) は、この手法を拡張して、反応 物のイオンの振動励起の関数として生成物の分布を決定すること を可能とした。彼らは、電子と HD+の解離再結合を研究して、再 結合反応係数は、解離の新しい反応路が可能になるような振動高 励起状態に対しては一般に、反応係数が増加する事を示している。 この高振動励起状態では、新しい解離経路を採ることも可能であ る。しかし、孤立した振動状態に対しては、理論計算では再現さ れないような非常に低い反応係数が観測された。これはまだこの プロセスは完全には理解されていないことを示唆している。 (Wt,Nk)

シフトする氷床(Shifting Ice Sheet)

西部南極の氷床が溶けることにより、海面水位を5から6メートル 上昇させるかもしれない。現在の気候の変化に応じた氷床の安定 性については、間氷期での氷床の振る舞いが一つの手がかりにな る。この疑問を調べるため、Schererたち(p. 82;Kerrによる ニュース記事を参照,p. 17)は、氷床を貫く数本の穴を掘削し、氷 床の底から氷河の堆積物を収集した。数本の穴において、氷床の 底の物質には第四紀の海洋性珪藻植物が含まれており、さらにこ のサンプルには,宇宙起源(cosmogenic)の、半減期150万年の 同位体であるベリリウム10が高く濃縮されている。こうしたデー タを合わせると、ここ130万年のある時に氷冠は大きく減少し、 そしてそれは多分過去60万年の間であろうということを示してい る。その期間の間,珪藻植物やベリリウム10を含んだ堆積物は、 掘削穴の上流で堆積されたと思われる。(TO)

水を加えると弱くなるマントル(To Soften, Add Water )

マントル中の多くの鉱物は、いくらかの水分を含むことができる。 これらの鉱物の一つにワズレー石(wadsleyite)がある。これは、 440から660キロメートルの深さにある上部マントルの下層部分に 大量に存在する。マントルの圧力と温度のシミュレートした実験か ら、Kuboたち(p.85)は少量の水をワズレー石に加えただけで、そ の強度が大きく減少することを示した。そして、この深さのマント ルにある水が少しの量であったとしても、そのマントルは弱くなり、 乾燥した条件の下で行われた実験が示す強さよりかなり弱いと思わ れる。(TO,Tk)

沸騰する珪酸塩(Sizzling Silicates)

1979年のボイジャー1号(Voyager 1)による、木星の月である イオ(lo)の表面の最高温度の見積もりは650kelvin(K)だった。 この温度は地球で観測される珪酸塩岩石性の噴火活動とするには 低すぎるが液体イオウをつくるためには十分高温である。このよ うに、火山活動が活動的なこの月の明るい黄色の景色には、イオウ が多量に含まれた溶岩流、イオウの溶岩湖やイオウのプルームなど が支配していると思われる。イオにおける珪酸塩の探査はVoyager 以降もいくつかの、より高温の「ホットスポット」の観測で続けら れた。しかし、今日McEwenたちは(p.87)、Galileoからの赤外線 波長観測により、すくなくとも1ダースのホットスポットでは最低 温度が1700Kを超しており、Pillanと呼ばれるホットスポットでは 2000K以上であると見積もった(表紙参照、いくつかのホットスポッ トが赤色で示されている)。これらのイオの高温地域の存在から、 イオウで覆われたイオに珪酸塩岩石性火山活動が数多くあり、いく つかの珪酸塩は地球の玄武岩性火山活動に比べて極度に高温である ことを示唆している。(Na,Nk)

森の開発と関連性(Relationship Fragmentation)

森林の開発が引き起こす、木々とその花粉媒介者の関連性へ与える 影響にはどのようなものがあるだろうか。AdrichとHamrickは (p.103)、植物の繁殖力(遮光木、Symphonia globulifera)と花粉 媒介者(ハチドリ)の、過去10年から30年間にわたってあちこちが 切り開かれた雨林における行動の劇的な変化を発見した。研究には 遺伝的分析を用い、大量の苗と若木の家系について決定した。牧草 地に隔離されていたある木は繁殖力が非常に増加し、取り残された 森林での若木生産の殆どを占めていた。ハチドリの行動は牧草地の 木の花の増加と、これらの木での自家受精の増加から変化した。 これらの変化によって、植物再生産に関わる遺伝子のドナーの範囲 が狭められ、その結果、遺伝的ボトルネックを生じさせている。 (Na)

多数の電動ポンプ(Electric Pumps)

ミトコンドリアのエネルギー発生器である多サブユニット酵素複合 体は、NADH(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチドの還元型) から酸素への低エネルギーに向かう電子の流れを利用し、ミトコン ドリアの膜を通過させて高エネルギー側へ、プロトンを押し上げる。 Iwata たち(p. 64; およびSmithによる展望記事, p. 58) は、チト クロムbc1としても知られている11個のサブユニット-複合体 IIIの 詳細構造を明らかにし、”Rieske”サブユニット(Rieske型鉄- 硫黄タンパク質サブユニット)が35度回転することによって、はじ めにユビキノンによって凝集していた電子がチトクロムc1受容体に 移動するかを明らかにした。(Ej,hE)

リンパ節でのランデブ−(Lymph Node Rendezvous)

抗原に対して特異的にはたらくT細胞とB細胞は、抗原が通常見出 されるリンパ節内で何かしら相互に連携しあっているに違いない。 Garsideらは(p.96),抗原特異性のリンパ球どうしの同源の相互作 用がその場観察できるシステムを開発した。この方法により、クロ −ン増殖のさいのCD40リガンド(CD154)の役割が明瞭となった。 (KU)

メタンの代謝(Methane Metabolism)

古細菌(Archaea)の嫌気的なメタン生成とメチロトローフの好気的 なメタン酸化は全く無関係な経路であると思われていた。 Chistoserdovaたち(p 99)は、この2つの経路が一炭素(C1)分子処 理に関与する酵素をいくつか共有することを発見したが、この2つの 生物体がとても異る生態学的地位を占めるため、この発見は意外で ある。この結果は、酸化/還元経路の進化の理解に役に立つ。(An)

アクチン尾部核形成(Actin Tail Nucleation)

リステリア菌という病原性細菌は、細胞に浸潤した後、細胞内に 細菌を推進するアクチンの尾部を獲得する。ActAという細菌性 タンパク質がアクチン尾部の形成に重大である。Welchたち (p 105)は、アクチン尾部構築を促進するために、ActAと共に 作用する宿主細胞タンパク質複合体の役割を詳細に説明している。 この結果は、リステリア浸潤のメカニズムを明確にするだけでな く、ActAと同様な機能を持つ内在性宿主タンパク質が他の分極 したアクチン構造の形成にも重大であることを示唆している。(An)
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