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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science May 29, 1998, Vol.280
時間に変化するRNA形を予想 (Predicting RNA shape over time)
一次構造(アミノ酸配列)からタンパク質の三次元構造を 予想することは困難である。FontanaとSchuster (p. 1451)は、もっと計算的にしやすい問題であるRNA 配列と二次構造を結び付けることおよび少々難しい問題 であるそれの時間による変化に挑戦した。固定長であり ながら無作為形をもつ配列の集団から、転移RNAよう な標的形への進行をシミュレートした。核酸配列変化が 起こりうるが、二次変化は、特定の時点で現れてくるこ とを発見した。(An)
ミオシンと聴覚障害(Myosin and deafness)
Probstたち(p 1444)とWangたち(p 1447)の2つの報告 は、マウスモデルとヒトの系図を用い、無症候群劣性聴覚 障害に関連するヒト遺伝子DFNB3を発見したことを記述し た(SteelとBrownによる注釈参考 p 1403)。以前にマウス とヒトの染色体のシンテニー(相同性)が用いられ、マウス shaker-2とヒトDFNB3の変異の相同性を示唆した。 Shaker-2マウスは聴覚障害をもち、異常な回転行動を表 す。この表現型に決定的であると思われているマウス第11 染色体の領域からのDNAを細菌性人工染色体(BACs)に挿入 し、変異体マウスの受精卵に注入した。聴覚をもち、回転 行動をしないトランスジェニックマウスは、MyO15と命名 された異常な形のミオシンをコードする遺伝子をもつこと が発見された。3つの無関係なヒトの家族において発病した 人々が、聴覚障害に関連するこの遺伝子の変異をもってい た。MyO15は、内耳を含むいくつかの組織において発現さ れている。(An)
関節の発達(Joint developments )
未分化の肢から、芽体は込み入った構成の脊椎動物の肢の 骨、関節、腱や、成熟した靭帯を形成する。Brunet たち (p. 1455;およびDickmanによるニュースストーリ, p. 1350) は、関節の形成にはNogginが必要であることを示した;こ のNogginは骨格の形態発生タンパク質(BMP=Bone Morphogenetic Protein)であり、発生初期において背化 活性を有することでも知られている。このNogginを欠く マウスでは、肢や関節が十分に分化しない。関節の位置や 構造が正常に分化するためには、BMPの情報伝達因子と、 拮抗的に作用しているNogginの微妙なバランスが必要なよ うに見える。(Ej,hE)
冷たいダークマターが熱くなる (Cold dark matter heats up)
ビッグバン直後に存在する密度ゆらぎは、終局的には現在 我々が観測する宇宙の大規模構造となる。Gawiser と Silk (p.1405) は、10の5乗分の1以下である宇宙の背景マ イクロ波(Cosmic Microwave Background CMB)ゆらぎ が銀河の大規模構造へと進化するかについて、10個のさま ざまな宇宙論モデルがどのように予言できるか確かめた。 彼らは、およそ70%の冷たいダークマター、20%の熱い ダークマター、そして10%の通常の物質からなる宇宙のみ がデータと一致することを見出した。関連するコメントとし て、Kamionkowski (p.1397) は、どのようにして、CMBに より初期の宇宙の幾何学的構造の決定的な状況を垣間見るこ とができるのかを説明している。このCMBは、ビッグバン直 後、銀河が形成される前に撒き散らされた粒子のなごりを表 すものである。また、Primack (p.1398) は、熱いダークマ ターは、豊富な冷たいダークマターと比較しても質量的にも 顕著な寄与がある可能性のあることを述べている。(この熱い ダークマターは、ほとんどがビッグバン直後に宇宙の周りを 回っていた質量を有するニュートリノから成っている。また、 冷たいダークマターはビッグバン直後のゆっくり動いている 粒子である。)(Wt)
赤外線を軟X線に変換する (Converting infrared light into soft x-rays)
リチウム・ニオブ酸塩のような非線型光学材料は日常的に レーザー光線を高い周波数に変換するのに用いられている。 効率的な変換にはフェーズマッチング、すなわち、入力色と 出力色両方が材料の中を同じ速度で進行しなければならない (同じ屈折率を持つ)、さもないと、ビームは位相(フェーズ) を外れカップリングを中止する。わずかな固体材料しか200 nm以下の波長で透明とならないので、フェーズマッチング の技術は高い周波数では、制限が大きかった。Rundquist たちは(p.1412、p.1348のKestenbaumのニュース解説も 参照)、ウエイブガイドに囲まれているガスが非線型材料と して使用出来ることを示した。このレーザー光の封入法に より入力レーザー光線とガス中に放出されるX線の位相速 度をマッチングさせるもう一つの幾何学的なパラメーター が得られることになる。このアプローチは800nmの赤外光 を17-32nmのコヒーレントな軟x線に変換することを可能 とする。(Na,Nk)
2段階の伝導率(Conductivity two-step)
地球のマントルの電気伝導率のモデルは地磁気場の地表へ の伝播を理解するために用いられ、地震データと鉱物学デ ータから引き出されるマントルモデルに制約を与える。い くつかのモデルが現存のデータに適合しており、遷移帯内 のマントル(深さ410-660km)のバルク電気伝導率に2か3 つの不連続点の存在を示している。Xuたちは(p.1415)、モ リブデン電極で高圧(最大20ギガパスカル)、高温(1400℃) 下でマントルを構成する鉱物の電気伝導率を直接測定した。 マグネシウムに富むワーズレイアイトとマグネシウムに富む リングウッダイト(橄欖石の高圧多形、上部マントル内に存 在する豊富な鉱物相)の伝導率は、類似しており、マグネシ ウムに富む橄欖石の伝導率よりはるかに高い。これらのデー タを使用したモデルは2段階の地球物理学的な伝導率モデル と合致している。およそ100℃の側面温度の変化があった としても、これらのバルクマントル内での鉱物の伝導率が 遠隔法で検出される値ほど変えることはない。(Na,Nk)
我々は塵から作られた(From dust we are formed )
非平衡の普通コンドライトであるKhohar に見られるコンド ルールを含んでいない断片中には、マイクロメートル・サイ ズのニッケルの少ない金属粒子と、微細なグラファイトが存 在し、グラファイトの方は、異常に高濃度の重水素と窒素- 15の同位体値を示すが、これは他のコンドライトや惑星間宇 宙塵粒子において計測された値よりも大きい。Mostefaoui たち(p.1418)は、この同位体値の過剰が星間空間の分子雲の 特異性を表しており、多分、後に太陽系を形成するに至った 分子雲ではないか、と議論している。これらの断片中の鉄と ニッケルに富む粒子にはこのような同位体の特徴は見られず、 太陽系星雲中で形成された非平衡状態の金属粒子を表してい るのであろう。(Ej,hE)
二次元の融解の特別のステップ (An extra step in 2D melting)
二次元状物質の物理は、通常の物質のそれとは異なっている。 たとえば、理論によると、二次元的固体が等方的な液体に融解 するとき、最初に中間的なヘキサティック(hexatic)相を通過 する。このヘキサティック相は、分子の向きに関して長距離に 渡る秩序を有し、その位置に関して短距離秩序を有している。 しかしながら、ヘキサティック相を明らかにする実験的研究結 果は、理論的予測のすべてを満足させるものではない。例えば、 連続的な Kosteritz-Thouless (KT) 相変化の代わりに、強い 熱的な刻印が見られる。Chou たち(p.1424) は、この問題につ いて、スメクティック液晶を容器などで封入しないまま開口部 に張り渡した膜(シャボン玉の膜のように自由表面を持って) に対して電子散乱、熱容量、光学散乱実験を行なうことにより、 再度考察している(この液晶のスメクティック相は、この状況で は自由に動く液体である)。彼らの結論は、固体と等方的液体 との間に実際には二つの相が存在する。これはヘキサティック 相と、通常のスメクティック相に比べより位置的な秩序を有す る第二のスメクティック相である。ヘキサティック相とスメク ティック相の間(これはKT相変化的な挙動を示す可能性がある) よりもむしろ、これら二つのスメクティック相の間(これは一次 の相転移である)に熱容量の大きな相違が見られる。(Wt)
凍ったケンタウロス(An icy Centaur)
木星型惑星の軌道を横切るような、力学的に不安定な軌道を もつ天体はケンタウロスと呼ばれ、太陽系外側における比較 的太陽系の比較的初期の成分を代表するものだと考えられて いる。今までに12個のケンタウロスが見つけられているが、 これは、この物体が太陽系の境界付近、つまりカイパーベル ト(Kuiper Belt)かオルト雲(Oort Cloud)、あるいはさらに その外側から太陽系に次々と供給されていることを示してい る。Brownたちは、ケック(Keck)望遠鏡による近赤外スペ クトルの分光観測によって、Centaur 1997 CU26の表面上 に、凍った水の痕跡を同定した(p. 1430)。凍った水は、組 成が測定されている他の2つのケンタウロスのうち、Pholus 上でも検出されたが、Chironの上では検出されていない。ケ ンタウロスは、その化学組成が多様であるのかも知れないと すれば、それによってそれらがどこから来たのか決定するこ とが難しくなる。ケンタウロスは、炭化水素に富んだ表面を 示している、すでに観察されたカイパーベルトの天体と関係 がない可能性がある。(KF,Nk)
ダイアモンドの起源(Diamond origins)
ほとんどのダイアモンドは、マントルの奥深くからマグマに よって地球の表面に運ばれる。ダイアモンドは、その含有物 と組成をもとに、2つの主要なタイプ、かんらん岩 (peridotitic)とエクロジャイト(eclogitic)に分けることが できる。eclogiticダイアモンドの炭素同位比がいろいろな ものからなっていることは、このダイアモンドを作り出すの に使われた炭素が、古い時代の、浅い地殻内で、海溝から沈 み込んだ有機物に富んだ堆積物の再利用され、地球のマント ルに取り込まれたことを示唆する。この仮説を検証するため、 Cartignyたちは、40個のダイアモンドを対象に、対となっ た窒素と炭素の同位比を調べた(p. 1421)。窒素同位体比は、 古い時代の堆積物に由来するものと一致してはいなかった。 炭素同位体比がさまざまであるのは、マントル内で反応が生 じる場所に依存した結果であると考えられる。(KF,Nk)
高次らせんの形成(Superhelix formation)
分子のキラリティは、それを用いた超分子の組み立てに影響 を与えるために用いられる、その超分子は次に、より大きな 構造の光学的な反応などの特性に影響を与える。ナノサイズ の超分子の、らせん体などのキラル構造は、比較的小さな、 分子からなるブロックをもとに形成されることが示されてい る。Cornelissenたちは、この概念をより大きなブロック共 重合体のブロックにも適用し、超分子構造の形態が高分子の 特性を変えることで制御できることを示している(p. 1427)。 中でも、らせん状のサブユニットから大きな高次らせんを形 成できることが観察された。(KF)
免疫におけるTH1の役割(TH1 role in immunity )
ヒトにおける新しい遺伝性免疫不全症がAltareたち(p.1432) と、de Jongたち(p.1435)によって報告されている。サルモネ ラ菌や放線菌の感染に特に感受性の高い患者は、インターロイ キン-12受容体を欠乏しているが、この受容体はいわゆる細胞 性免疫と呼ばれている1型Tヘルパー細胞(TH1)応答を引き起こ すタンパク質である。通常、感染を制御する肉芽腫(granulomas) が患者に形成されるが、この場合は感染性が保たれている。マ ウスにおいてIL-12受容体欠乏の場合とインターフェロン-γ受 容体欠乏の場合について知られていることが何であろうとも、 この表現型は予想されたものより穏やかであった(幼児期のウイ ルス性感染や細菌性感染は明らかに正常に処理されている)。 この結果は、免疫におけるTH1の本当の役割について疑問を呈す ることとなった。(Ej,hE)
聴覚の棒(Audio bars)
初期の聴覚処理経路のニューロンの刺激応答性(頻度や強度など) がわかっているのに、哺乳類の聴覚皮質ニューロンの特徴、例え ば視覚皮質ニューロンの受容野においては、特定方向に伸びた棒 状のパターンを、それぞれ特定の受容野で認識しているが、これ に類似するものが哺乳類の聴覚皮質ニューロンの特徴として存在 しているかどうかは分かっていない。deCharmsたち(p 1439; Youngによる注釈参考p1402)は、逆相関方法を用い、ヨザルの 聴覚皮質ニューロンの「最良刺激」を与えるニューロンを探索し た。単調な刺激に比べ、時間変化頻度と頻度あるいは時間のエッ ジ(刺激の時間的密度の変化点)をもつ刺激に対して、このニュ ーロンが優先的に応答することを発見した。(An)
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