AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 9, 1998, Vol.279


臨死経験(A near-death experience)

カスペース(caspases)は、細胞自身によって細胞の中から殺す タンパク質分解酵素として知られている。しかし、カスペースの 活性化が必ず細胞死を起こすわけではない。McCallとSteller (p. 230)は、ショウジョウバエの卵形成中では、卵母細胞の成長 のために、DCP-1カスペースが決定的役割を果たすこと発見した。 普通、卵母細胞は、最終的に死亡する周囲の保育細胞からの細胞 質から栄養を摂る。この過程は、「細胞質ダンピング」と呼ばれ、 細胞骨格と核の変化を惹起するために、哺育細胞の細胞質内のカス ペースの活性化が必要である。多分この活性化カスペースが他の細 胞質タンパク質と一緒に保育細胞から卵母細胞内へ輸送されているが、 卵母細胞は死亡せずに、成熱のためにこの段階を必要とする。この ように、死経路の終点に影響するものが関連してはいるが全く別の 機能のために利用されることができる。(An,SO)

ニトロシル化による一酸化窒素(NO)調節 (NO control via nitrosylation)

細胞内貯蔵からのカルシウム徐放性は、心筋細胞の収縮力の一次調節 機構である。このようなカルシウム放出は、リアノジン受容体と呼ぶ 筋小胞体チャネルを通して発生する。Xuたち(p. 234)は、刺激した心 臓細胞内に生成した一酸化窒素がこのような調節機構に影響する分子 機構を研究している。著者は、NOの効果は酸化還元電位の変化による ことではないことを発見した。むしろ、NOは、リアノジン受容体の特 定チオール基のSニトロシル化による特異的共有結合性修飾を起こした とみられた。このようなSニトロシル化の増加によって、チャネルを もっと開くことになった。このようなニトロシル化の効果は、チオール が酸化されてジスルフィドになる効果と異なっている。従って、NOと、 その関連している化合物がカルシウム放出チャネルを調節することは、 細胞酸化還元電位の一般変化によるのではなく、多様なチャネル機能の 特異的な調節を許容する特定化学修飾によるのである。(An.SO)

古土壌とデボン紀の森(Paleosols and Devonian Forests)

ローズマリー土壌型(Rosemary pedotype)とは、南極大陸のビクト リア・ランドの土壌断面である。G. J. Retallackは、この「地質学 的にもっとも古い古土壌は、よく乾いた森を支えていたと考えられる」 と述べ、「その他の古生代の古土壌の中でのその重要性」を評価して いる(4月25日号の報告 p. 583)。D. Dahmsたちは、「その 時代面が どこにあるかの指定、土壌断面の記述とデータ、さらにはそうした特徴 的な時代面に発達するのが,デボン紀の森林の特性であるという推論に ついて疑問を呈し」ている。それに応えて、Retallackは、「その土壌 の組織と化学的データ」および報告で用いた「図の記載方法」に関して、 より詳細な情報を提供している。彼はそうした古土壌に関するより長文 の複数の研究報告に言及し、「この単純だが重要な」場所に関する「継 続的なテスト」を期待している。これらのコメントの全文は、www. sciencemag.org/cgi/content/full/279/5348/151a で見ることが できる。(KF,Og)

ヌクレオチド 配列の訂正(Nucleotide Sequence: Correction)

D. MathisとC.Benoistによれば、 31 January1997 (N. Nakano et al., p. 678)の報告にある図 5 (p. 682)中のヌクレオチド 配列にはいくつかの間違いがある。これらの間違いは書き誤りによるもの であり、報告している物質や結論を変えるものではない。正しい図は www.sciencemag.org/cgi/content/full/279/5348/151b参照のこと。 (Ej)

レームシフトする突然変異と神経変性 (Frameshift mutations and neurodegeneration)

アルツハイマー病とダウン症候群患者の神経縮退している脳の内部の 予期せぬ異常なタンパク質群がvan Leeuwenたちにより発見されて いる(p.242、表紙とp.174のVogelのニュースストーリーも参照)。 フレームシフト突然変異を持つこれらのタンパク質はコード化された RNAからジヌクレオチドが欠失することにより生産される。ユビキチン タンパク質とβ-アミロイド前駆物質タンパク質を含むいわゆる+1タ ンパク質がこれらの患者に特徴的な神経突起斑の中に蓄積されている。 あるタイプのユビキチンタンパク質は高齢の対照群患者に見られる。 (Na)

黒体化学(Blackbody chemistry)

単分子の崩壊は最も基本的な化学反応である;すなわちA分子が 活性化し、そして解離してBとCを作る。初期の仮説によると、 熱反応が生じるためには、黒体輻射によって分子にエネルギーが 与えられるのではないか、と言うものであったが、実際は、Aは もう1つ別のM分子と衝突することでエネルギーを得ていると長 い間思われてきた (Lindemann- Christiansen仮説)。 DunbarとMcMahon (p. 194)は、フーリエ変換イオンサイクロト ロン共鳴実験結果を見直すことによって、弱く結合したクラスター の解離のような反応においては、黒体輻射場が活性化のエネルギー 源になっていることを示した。この反応条件は、 F-(CH3OH)3の ようなクラスター種間の衝突を防ぐようになっている。このデータ を詳しく説明出来る動力学的モデリングによって、親クラスターイ オンの結合エネルギーを解明することができる。(Ej,hE,Kj)

もっと受入れる(More accepting)

エリスロマイシンのような抗生物質がポリケチド合成酵素という 大規模多酵素複合体よって合成されている。 この多酵素複合体を誘導して異る基質を出発物質として受け入れる ことができるならば、構成物質の耐性の問題を解決し得るような この抗生物質の変異体を生成することができる。Marsdenたちは (p. 199)、エリスロマイシン生成酵素の第一モジュールに avermectin生成ポリケチド合成酵素をくっつけることによって、 多種のカルボン酸から多様なエリスロマイシン誘導体を生成する ことができることを示している。(An,hE)

電子を捕らえる(Trapping electrons)

界面(金属と誘電体間の界面のような)における、あるいはその近傍に おける電荷担体の動力学は複雑であり、電荷担体の分極や局在化ある いは非局在化現象を含んでいる。このようなプロセスはフェムト秒の 時間スケールで生じ、ほんの最近になって実験的に詳細な特徴づけが 可能となってきた。Ge たち(p.202; Hferによるコメント(p.190)も 参照のこと) は、アルカンと銀の界面における光励起により、最初 は界面に平行に自由に移動できる界面電子が生成されることを見出した。 数百フェムト秒以内に、それらは局在状態に補足され始め、数ピコ秒 以内にそれらは金属の中へ崩壊して戻っていく。これらの結果に対して、 電子輸送理論に類似の理論を適用した結果、十分良く説明ができた。 (Wt)

光子チャネリング(Photonic channeling)

ネットワーク全体にまたがる情報伝達において、セキュリティ上の 問題を抱えるホストは悩みの種である。量子力学は可能性のある解 決手段を提供する。すなわち、量子状態の特別な性質のため、第三 者が、量子的信号を理解している受けとり手がなくては、ある量子 的信号を傍受したり複写したりすることは不可能であることによる。 Van Enk たち(p.205)は、光子によるコミュニケーションのための 量子論的ネットワークを実装化する理論的な方法について記述して いる。量子的情報処理を物理的に実装化することには、非常に多く の現実的な障害があるが、このような理論的な努力は情報蓄積や量 子論的システムにおける誤り訂正のわれわれの理解に根本的に寄与 するものである。(Wt)

時はすべての裂け目を強化する (Time strengthens all ruptures)

地震が繰り返し発生する断層地帯は、新たな裂け目を生み出すのに 十分なストレスを貯えるために、地震の間にそれ自身を強めておか なければならない。Liたちは、3つの断層のうちの一つが1992年の マグニチュード7.5のカリフォルニア州ランダースの地震で裂けた Johnson Valley断層帯の回復を、2つの試錐孔での爆破を3成分 の地震計を多数並べて測定することでモニターした(p. 217)。断層 のそばの狭い地域での地震波の速度は、1994年から1996年にかけて、 密度を1パーセント減少した裂け目(crack)を介して、増加した。 この結果は、Johnson Valley断層沿いの主として乾いた裂け目が 閉じていくことに関する2年以上にわたる非常に詳細な観察結果を 示すものである。これは、断層帯が次の裂け目の発生に備え てどうやってそれ自身の強度を高めていくかについて地震学者が 理解するのを助けることになろう。(KF,Og)

珪素とゲルマニウムのナノチューブ (Silicon and germanium nanotubes)

何種類かの炭素や窒化ホウ素のナノチューブが現在知られては いるが、ナノチューブ形状の珪素とゲルマニウムの結晶を容易に 合成することは非常に困難なことと判っている。Morales と Lieber(p.208)は、より大きなチューブ状の構造を作るための蒸 気-液体-固体合成法(vapor-liquid-solid synthesis methods) とカーボンナノチューブ合成で用いられるレーザー切除法とを組み 合わせて、これらの半導体のナノチューブを作成した。このナノ チューブ形状は、電子的および光学的な応用上、特性が向上された 材料を与える可能性がある。(Wt)

大気中の一酸化窒素の源(Atmospheric NO source)

一酸化窒素NO(そしてまた他の反応性窒素酸化物)は成層圏に おけるオゾンの破壊に重要な役割を果たしている.ほとんどの NOは二酸化窒素が酸化されて生成されると考えられている。 しかし、ZipfとPrasad (p. 211)は,成層圏においてN2, O2と N2:O2二量体が関与する反応からも,かなりの量のNOが光化学 的に生成されているかもしれないことを示す一連の実験結果を 示している。この反応において,得られるNO中の窒素-15/ 窒素-14の比率は大変低く,成層圏でのトレーサーとして使用 できるであろう。(TO)

大気中のCO2の発生源(Atmospheric CO2 source)

北半球の広大な亜寒帯の森林は,地球大気の主要なCO2の発生源 の1つであると考えられてきた。様々な計測により,Gouldenら は(P.214),最近の気候温暖化は,炭素源としての機能を持って いる亜寒帯森林から排出されるCO2を少なくとも局所的に増加さ せていることを示ている。温暖化の結果,高緯度地域における解凍 が土壌深くまで進行し,そこでの分解により,有機物質の中に含 まれていた炭素が放出された。 (TO)

言語の場(Language locations)

言語に関与する脳の部位の一つが、側頭平面(planum temporale) である。これは、他の霊長類の脳では左右が同じ大きさであるのに、 人間においては左側が右側より大きいということで良く知られている。 Gannonたちは、このたび、チンパンジーにおいてもplanum temporaleにおける同様の非対称性が存在することの定量的な形態 上の証拠を呈示し、この発見がよく知られている人間の言語機能に とっての左半球の優位性にどう関連しているかを論じている(p. 220)。 (KF)

匂いをつかさどる受容体(Receptors that make scents)

数年前に、匂い物質受容体と推定される一連の物質が特定された、 しかし、これらの受容体が現実に哺乳類の匂い物質受容体であると いう直接的な証拠はなかった。Zhaoたちは(p.237、p.193 のReed による注釈も参照)、ラットの鼻部にある特定の推定上の受容体が 発現すると、特定な匂いに対するラットの嗅覚神経の応答性が増加 することにより、この証拠を提供した。(Na)

MとFMのカルシウム信号(AM and FM calcium signals)

細胞内カルシウム濃度([Ca2+]i) は、厳密に制御されており、これ はまた、細胞の機能をするのに決定的役割をもつ制御物質でもある。 色々な刺激に対して、([Ca2+]i)全体が変化するだけでなく、 [Ca2+]i の濃度の振動が起き、その結果、周波数、振幅、持続時間、 その個数が変化する。ほとんどの注目は [Ca2+]i の変化の 振幅に集まっているが、その理由の1部分は、周波数変化を検出 する、或いは復号化するメカニズムが知られていないからである。 De KoninckとSchulman (p.227;Putneyによるコメント参照, p. 191 )は、in vitro において、Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク 質リン酸化酵素II(CaMキナーゼII)) の単独酵素は、自立性 (Ca2+-independent)活性を変化させることによってCa2+振動 の周波数変化に応答することが出来ることを示した。CaMキナーゼII の応答の振動の振幅や持続時間によって変調することから、 キナーゼ活性の微妙な制御は、様々な細胞活性の制御に関与するとき に生じているものと思われる。(Ej)

しだいに探さなくなる(Slowing their search)

若いニューロンは、結合する相手を探して成熟した結合を形成していく 際には、すでに結合を確保しているより成熟したニューロンよりも多く の樹状突起を伸ばす。アフリカツメガエルの視蓋ではニューロンが成熟 していくにつれ、樹状突起を伸ばす比率は下がっていく。WuとClineは、 細胞の活動におけるこの変化は、カルシウム-カルモジュリン依存性 リン酸化酵素II(CaMKII)の発現の開始と相関していることを示した ( p. 222)。CaMKII活性の発現過剰あるいは発現不足によって、樹状 突起の進展の比率がそれぞれ減少したり、増強されたりするのである。 (KF)
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