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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science November 21, 1997, Vol.278
保護性免疫のHIVに対する反応 (Protective immune responses to HIV)
AIDSに対抗するワクチンを合理的にデザインするためには、 保護性免疫の相互関連について理解する必要がある。Rosenberg たちは(p.1447、p.1399のBalterの関連ニュース解説も参照)、 ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)に感染し、抗ウイルス剤治療なしに HIVの増殖を制御した患者について調査した。これらの患者は、 CD4+のヘルパー細胞に対する特異な増殖性反応を示し、その結果 インターフェロン-γと抗ウイルス性βケモキネシスを生産していた。 ウイルスの負荷が増えるとウイルスタンパク質p24の増殖性反応の 力を抑える関係にある。(Na)
樹木境界(At tree line)
過去において、樹木の境界線(tree lines)をシフトさせてきた 主な原因は気温の変化であると一般には考えられてきた。ところが, 最近のモデルでは,最後の氷河期末期での大気中のCO2レベルの 大きな変化もまた影響を与えたことも示唆している。 Street-Perrottたち(p. 1422; Farquharによる見解を参照, p. 1411) は,化石化した葉の蝋と藻類の生物マーカー(biomarker) にある炭素 の同位元素を分析して,大気中のCO2の変化は高い標高の熱帯の生態系 に重大な影響を与えたことを示した.(TO)
偽のギャップを気にかける(Mind the pseud ogap)
高温超伝導物質の親化合物は反強磁性絶縁物質である。Blumberg たち(p.1427)は、超伝導物質の銅酸ビスマス化合物の電子ラマン 散乱の研究を行い、どうしてこのような整列現象によって超伝導 状態が生じるのかを調べた。超伝導遷移温度よりずっと高い温度に おいて、d(x2-y2)対称を持ち、75ミリエレクトロンボルトの結合 エネルギーを有する長寿命ホール状態が、超伝導状態への前駆状態 として生じると思われる。温度が下がると、より大きな干渉が電子系 に見られ、スペクトル中に偽ギャップが生じる。(Ej,hE)
流れの出来事(Current events)
超流動物質や超伝導物質のような、弱く結合している巨視的な 量子的系の間の流量は、各凝縮状態を記述する相互の量子的な 相に依存しているだろう。このような効果は、超伝導トンネル 接合を支配しているのであるが、液体ヘリウム3のような超流 動物質中で直接に観測することは、はるかに困難なことである。 Backhaus たち(p 1435) は、二つの巨視的な液体ヘリウム ため間を連結する 4225 の絞りからなる配列をなす膜を用いる ことにより、超流動ヘリウムの流量と相との関係を直接的に決定 した。そして、かれらは、温度上昇とともに線形から正弦波的な 挙動に至る遷移を観測した。(Wt)
繰り返された生命の供給(Repeated deliveries)
胎盤哺乳類は,6000万年前の新生代のいくらか後,北アフリカから 南極大陸をぬけてオーストリアに広がっていったと考えられてきた。 Richたちは(p. 1438; Wuethrichの新聞記事を参照, p. 1401) 1億1500万年前の白亜紀前期のある初期胎盤哺乳類(またはその祖先) の顎をオーストラリアで発見した。従ってこの化石から,白亜紀には オーストラリアと南部大陸は北部大陸とは動物相的に孤立していな かったことが示される.こうした初期胎盤哺乳類はオーストラリアで 絶滅してしまったのかも知れないが,後に再びオーストラリアに登場 することになる。(TO)
二つずつ(Two by two)
吸着された単一の珪素やゲルマニウム原子(アドアトム)がより大きな 列や島状領域まで成長する時の原子レベルでの経路は複雑である。 Qin と Lagally (p. 1444) は、単分子の吸収と二次元的な島状領域の 形成の間にある見失われた関連について、可能性の高い説明を与えて いる。走査型トンネル顕微鏡の像によると、核形成の前駆体構造は、 以前に特徴を定められた二量体とは電気的には明瞭に異なるような ペアをなすアドアトムから成っている。そして、この表面上でより 大きな列や島状領域を形成する上で決定的な役割を果たしている。 (Wt)
「珊瑚コネクション」(Coral connections)
海洋生物の卵と幼生は非常な遠距離まで運ばれることがある。海洋 表面の流れの詳細な分析と幼生の寿命が1ヶ月から2ヶ月であること を前提に、Roberts(p.1454、p.1414のOgdenの展望も参照)は、 カリブ海の異なる岩礁間を結ぶ潜在的な輸送エンベロップ全てを 描き出した。このような研究は、上流の供給源を探し出し、保存の 優先順位を決定する役に立つだろう。(Na)
解消した協力関係(Dissolved partnership)
HIVが段階的にCD4とコ・レセプター(coreceptor)に結合する 機構についての特徴の多くは、今のところよく分かっていない。 HIVウイルスエンベロープタンパク質のgp120がT細胞に結合 することにより、多分、それまで隠れていたコ・レセプター結合 部位が露出される。 HIV gp120がコ・レセプターCCR5に結合 する場合にはCD4に依存するが、Martinたち(p.1470)は、サル の対応物質SIVmac239の場合にはそうではないことを示した。 この、ヒトとサルの違いは、CCR5アミノ末端の1つのアミノ酸の 変化に起因しており、これはgp120に直接接触する領域に存在して いるようだ。領域全体ではなく、たった1つのアミノ酸が決定的な 役割をしていることの発見は、ワクチンや薬物療法による目的評価 システムの設計を可能にするであろう。(Ej,hE,Kj)
メタンを作る(Making methane)
メチル補酵素M還元酵素はメタン生成の触媒をする。Ermlerたち (p.1457;およびFerryによる展望記事;p.1413)は、この酵素の 高精度の構造を提示した。この構造は、めずらしくNi-ポリフィノ イド補助因子を含んでおり、これがメチル補酵素Mからメチル基を 受け取り、これを補酵素Bから得られた水素原子と結合させ、 メタンと、補酵素M-補酵素Bの混合ジスルフィドを生成する。長い 疎水性チャネルが、2つの直線状の補酵素が整列配向することを 助けている。(Ej,hE,Kj)
受容体をもつ細胞を標的に (Targeting cells with receptors)
従来、細胞の表面受容体によって、レトロウイルスのベクターが 細胞を標的にする。最近の研究は、リガンドを表現する細胞を標的 にするために、受容体をベクターに付ることによって、この過程を 逆にすることができることを示唆している。Endresたち(p. 1462)は、 HIVとSIVの外被糖タンパク質と細胞の受容体との相互作用は一方向 性ではないことを示している。機能的ウイルス受容体複合体を含む ベクターは、慢性的に感染している細胞と感染している マクロファージを標的にすることができる。(An)
トカマクの代替え(Tokamak alternative)
核融合エネルギーは通常、大型になり易いトカマク型の構造によって プラズマを閉じ込めている。最近のトカマク型プラズマ閉じ込めの 研究によって、これと異なる、衝突ビーム融合反応炉が、小型炉として 可能性があることが示唆されている。Rostokerたち(p.)は、陽子とホウ 素-11が反応する新しい考え方の概要を示している。これによって生じ る融合物質はすべて荷電粒子であり、従ってこれらは直接電力に変換可 能であり、しかも物質疲労の原因となる中性子の流量は無視出来るほど 少ない。(Ej,hE)
それほど正常でもない(Not so normal) (Quasi-periodicity in nonlinear optics)
通常反強磁性物質は超伝導性を示さないと思われているが、ただし、 銅化合物の高温超伝導物質はこれに当てはまらない。高温超伝導は 層状の銅化合物によって保証されているが、これら物質の通常の 絶縁状態は異常な振る舞いを示す。Aeppliたち(p.)は、中性子の 非弾性磁気散乱を利用して、超伝導物質、La1.86Sr0.14CuO4も また、スピンの振る舞いが異常であることを示した。磁場のゆらぎ が観測されたが、これはゼロ度における量子臨界点と同じ状態が 存在することを示唆している。 (Chakravarty による展望記事p.参照)(Ej,hE)
軌道による修正(Orbital forcing)
海洋の生産性はいろいろな要因に影響を受ける。過去や現在の気候が 及ぼすこれら異なる原因を分離することは、大きな課題である。 Beaufortたち(p.)はインド洋のモルジブにおける90万年に渡る堆積物 の記録を解析し、日射量(太陽の回りの周期に応じて地球が受ける日射量) と、地球全体の氷の量(氷河周期)が、赤道地帯のインド洋の一次産生に 影響を与えているかどうかを調べた。その観察によれば、赤道帯の生産性 は(産生)は直接日射量に支配されているが、地球の氷の量の変動とは 独立であることを示唆している。地球軌道の歳差運動が南方振動 (Southern Oscillation)を強制的に変え、これが次々に古産生に影響を 及ぼした。(Ej,hE)
下流に洗い流す(Washed downstream)
都市化は、河川の流れに有害な影響を及ぼすことが知られているが、 長期間に渡る研究はほとんどない。Trimble(p.)は、カリフォルニア のサン ディエゴ クリークの10年間にわたる都市化の間に、 流れによる侵食が、流によって運ばれる堆積物の2/3に達することを 示した。(Ej,hE)
細胞を止める(Halting cells)
細胞骨格のタンパク質への影響によって、Rhoファミリの小さいな グアニンヌクレオチド結合タンパク質が細胞の運動性に影響を及ばす。 こういうタンパク質であるRacとその活性化交換因子Tiam1は、リンパ 系腫瘍細胞による浸潤を誘発する。Hordijkたちは、上皮細胞において、 Tiam1とRacは、Eカトヘリン仲介の細胞と細胞の接着の増強によって、 逆の効果、つまり運動性の抑制、も実行できることを報告している。 Tiam1とRacの表現は、Rasによって変換したMadin-Darbyイヌの腎臓 細胞の侵襲性を減少した。この結果は、細胞接着の受容体経由の制御に おける役割がTiam1とRacにあることを示唆している。(An)
まだ、細菌との共通(Still shared with bacteria)
タンパク質がソートされ、細胞内の特異的な目標地を目的とされる分子 機構のいくつかの中、2つが細菌から植物まで保在されていたことが 知られたが、もう一つが高等植物の進化によって発生された新しい特性 である思われていた。Settlesたちは、トウモロコシ変異hcf106を コードする遺伝子をクローン化し、この3つ目の経路は細菌にもあるこ とを示している。輸送された基質が変化されても、輸送機構を構成する タンパク質には、配列が完全に決定された細菌ゲノムからの機能不明読 み枠の関連する遺伝子がある。この細菌タンパク質の特異的な機能の研 究から他の驚くべき結果が得られるiかもしれない。(表紙参考)(An)
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