AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 20, 1997, Vol.276


低緯度の古い氷(Old low-latitude ice)

長期間堆積した氷のコアの分析からその大陸の最も詳細な、過去の気候の記録が手 に入る。グリーンランドや南極に集中している、これら低緯度の万年氷から入手 した過去の大気の記録は、おそらく、およそ1万8千年前の、最終氷期から、 完新世までの気候を溯ることが出来る。Thompsonたちは、(p1821、表紙参照)過去1 0万年前まで詳細に遡り、さらに50万年あるいはそれ以上昔の堆積氷を含んでいる 可能性のあるGuliya(青海・チベット高原の万年氷)の掘削氷コアの記録を示した。 酸素の同位体比データと極地方の氷コア中のメタンを比較すると、水循環と地球規模のメタ ンサイクルがリンクしていることを示唆している。(Na)

無金属の燐光体(Metal-free phosphors)

蛍光性発光において用いられるような多くの白い燐光体は、重金属を含んでおり、水 銀の輝線の放射によって 励起される。これらすべてのものは、潜在的な環境問題を有している。新材料探索に おいて、Green たち (p.1826) は、ゾルゲル法により珪酸塩中に少量のカルボン酸を取り込むことによ り、非常に放射の 強い広帯域燐光材料を合成しうることを報告している。発光種は、珪酸塩の格子中に 炭素が欠損置換さ れることにより発生している可能性がある。(Wt)

ディスクは回る(Disk drives)

太陽系の原始ディスクの中で木星クラスの質量の惑星がコアの付着(降着)成長によ り形成されるにはおよそ100万年かかる。この時間スケールは木星と土星を含む 巨大ガス外惑星の形成を説明するにあたり一つの問題を起こしてしまう。それは、同 じ時間スケールでディスクの中のガスは散逸すると予測されるからである。 Boss(p. 1836) は、3次元の流対力学の計算手法で巨大ガス惑星が引力作用の不 安定性により形成されることを示した。等温性もしは断熱性の不安定性はディス クの端に向かって回転していく材料の中で渦巻き状の分流を発生する。この渦状分 流は必然的に分裂していくつもの巨大なガス状原始惑星の塊へと成長していく。 したがってこの構造のほうがコアの付着(降着)成長より早く惑星を形成することが できる。(Ht)

ガニメデの酸素の起源(Ganymede's oxygen origin)

光反射スペクトルによれば、木星最大の衛星のガニメデには酸素があるら しいことが分かっているが、この酸素の放出源とか 、その性質についてはよく分かってない。Vidalたち(p.1839)は 、実験室において、このガニメデのスペクトルと、薄膜状固体酸素、圧縮 した酸素と水の混合物、および照射された氷のスペクトルを対比した。そ の結果、スペクトルは、26Kの薄膜状固体酸素にもっとも良 い一致を示し、26Kの酸素-水混合物には若干のずれ があったことから、ガニメデには固体酸素の存在が推察される。この固体 酸素は、何らかの方法で、日照による太陽熱による温度上昇から免れてい るか、あるいは、表面近くを薄いもや(haze)として漂っているのか も知れない。(Ht,Ej)

うたないでくれ(Don't shoot)

吸入治療は、呼吸系障害にとって価値ある処置であるが、注射のような、 より浸潤性の治療に代わる治療法としても有用である。Edwardsたち (p.1868)は、大きな粒子で、密度が小さいと言う特徴を持つ吸入エアロゾ ルを開発した。この粒子は、肺の正常な浄化メカニズムを回避することが 出来る。高レベルのインシュリンやテストステロンが、ラットに、比較的 長期間にわたって供給された。(Ej,hE,Kj)

マクロファージ工場(Macrophage factories)

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)病が進行して行く中で、主要なウイル スの標的であるCD4+T細胞の数が減少しつつあるとき、何が原因と なってウイルスを増加させるのか? Orensteinたち(p.1857)は 、感染したヒトのリンパ節組織を生検し、マクロファージがHIVの大 量生産源であると結論づけた。この組織が、放線菌とかニューモシスティ スのような日和見病原体に感染した兆候を見せようものなら、HIV生 産工場としての能力は劇的に向上する。従って、日和見感染を制御する治 療法は、HIVの産生をも制御するのに役立つかも知れない。(Ej, hE,Kj)

ショックを与える構造(Shocking structure)

殺菌透過性を増加するタンパク質(BPI)という抗菌タンパク質は、 細菌外膜のリポ多糖(LPS)に結合し、細菌を殺すことによって、 LPSに誘発されているある種の感染性ショックから人間を保護している。 Beamerたちは(p. 1861)、組換え型ヒトのタンパク質BPIのX線結晶構造が 予想外の構造をもっていることを発見した;BPIは、2つの脂質の結合部位をもっている ブーメラン形の分子である。この構造は、LPSがどのように結合されたかまたは 関連しているヒトのタンパク質がどのように脂質に結合し、輸送するかを示唆してい る。 (An)

カロテノイドの切断(Carotenoid cleavage)

ビタミンAと他のアポカロテノイドは、種々の重要な機能をもっており、これには 動物における発生制御や光感受性色素の役割を含む。 しかし、生体内でカロテノイドから生体分子が合成される経路が不明瞭であった。 Schwartzたちは、(p. 1872) アブシジン酸を合成するために、 トウモロコシのVP14タンパク質がカロテノイド切断を触媒していることを 決定した。 VP14の突然変異をもつ植物は、アブシジン酸ホルモン欠乏性であり、 種子成熟に欠損を示す。 (An)

CMVがHIV感染を援助している(CMV assisting HIV infection)

ヒトのサイトメガロウイルス(CMV)にコードされているケモカイン 受容体は、ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV-1)がCD4+ T細 胞に侵入することを可能にする。 違った種々の系統のHIVがヒトのCD4+T細胞に感染するには 、補助受容体を利用する必要がある。Plesko ffたち(p.1874;およびBalter;p.1794によるニュースストーリ 参照)は、ヒトのCMVは、ケモカイン受容体US28をコー ドすることを見つけた。このUS28は、マクロファージ向性HIV系 統による感染を許すとともに、CD4+細胞と、HIV-1外被タンパ ク質を発現している細胞との融合を許す。多くのHIV感染者はCM Vに感染しており、同時感染はHIV病の進行に影響を与えると疑われ ている。(Ej,hE,Kj)

海洋混合を強化(Enhanced ocean mixing)

深海ではどのように混合が起き、どのようにエネルギーが再分配されるかについ て、その多くの理由は観察が限られていたというだけで、はっきりしていない。 LueckとMudge(p.1831)は北太平洋のCobb海山のまわりの海流とエネルギー消滅を計測した。 そのデータによれば、海洋混合は海山付近でたいへん強化されたので、混合は地形 の境界付近で集中的に起こっていることがわかった。(Ht)

珪酸塩は風化されたのか(Silicates, weathered or not)

過去5千万年から6千万年間にヒマラヤが隆起するにつれ、大量の物質が侵食された 。サンプル中のス トロンチウムの同位元素比(87Sr/86Sr)は、4千万年前の海洋の組成を反映している のであるが、これ はストロンチウム量の多い鉱物が顕著に風化されたことを示唆している。もしこれ らが珪酸塩である ならば、この過程により大量の大気中の CO2 が消費されたであろう。Quade たち(p.1828) は、ヒマラヤの川 の堆積物から、貝の化石や古土壌(paleosol)炭酸塩を調べた。その再構成された 87Sr/86Sr の記 録は、中央および西部ヒマラヤでは風化は主に変成を受けた石灰岩(metalimestones)であ ることを示唆して いる。これらの結果は、Sr のデータは珪酸塩の風化の記録としては正確ではない可 能性のあることを示 している。(Wt)

氷河期の終わり(Ending a glacial age)

完新世、我々が現在住んでいる気候期間、を通しての突然で厳しい気候変化の変遷 を理解することは、将来起こり得る気候の変化を予測するために重要である。 StagerとMayewski(p.1834)は完新世のおよそ8000年前、すなわち氷期から後氷河期へ の移行期、の北半球の数多くの気候の記録を調べた。2人は、南極のTaylor Domeからの新しい氷のコアの記録からも同じような気候変化の変遷が見られること を示した、又、赤道近くのVictoria湖とグリーンランドの氷のコアの記録からも同 じように気候変化の変遷がデータの分解能の範囲で観察された。(Na)

核の輸送(Nuclear transport)

2つの報告は、核膜を横切るタンパク質の輸送制御について焦点を当てている。 小さなグアノシントリホスファターゼ(GTP加水分解酵素)Ranは、 核内移行に必要である;Richardsたち(p.1842)は、核外移行シグナル(NES)を輸送する タンパク質の搬出にもRanが必要であることを報告している。 RanのようなGTP加水分解酵素は、グアノシン三リン酸(GTP)に 結合した活性型で存在するが、GTP加水分解によって不活性化される。 タンパク質移入はRanによるGTP加水分解を必要とするが、 搬出はGTPに結合したRanを必要とし、GTP加水分解を必要としない。 これらの結果は、核内移行にも核外移行にもRanが必要であるが、 それぞれの場合にはRanの役割が異り、この2つのプロセスが 密接に関係していないことを示唆している。 核の輸送は、遺伝子発現に必要であり、ウイルス破壊の標的である; Herたちは、水瞹性口内炎ウイルスのマトリックス(M)タンパク質が アフリカツメガエル卵母細胞における移入および搬出を遮断している ことを報告している。 Mタンパク質は、明かにRan-TC4とその関連因子に依存している輸送を 妨害している。(GoldfarbによるPerspectiveを参考) (An)

発ガン性脂質リン酸化酵素(Oncogenic lipid kinase)

ホスホイノシチド3キナーゼ(Pl 3-kinase)は、細胞の成長情報伝達 において、重要な節点の役目を持つと認識されてきた。Pl 3-kinaseは 、細胞が成長因子によって刺激された時細胞膜に補充され、特異的に脂質 基質をリン酸化することによって成長シグナルを伝達する。Changた ち(p.1848)は、ニワトリの血管肉腫(hemangiosarcoma)からレトロウイルスを 単離し、これが、Pl 3-kinaseの 触媒部位のサブユニットであって、ホストにある遺伝子の相同遺伝子をコードし ていることを見つけた。 ウイルス遺伝子も、これに 対応する細胞内物質も、ニワトリ線維芽細胞において、強力な形質転換活 性を持っていることから、Pl 3-kinaseは、腫瘍形成の役割を、持っ ているのかも知れない。(Ej,hE,Kj)

多発性骨髄腫に伴うウイルス会合(Virus association with multiple myeloma)

多発性骨髄腫(MM)は、骨髄の癌である;この前駆物質である「未決 定有用性モノクロナル免疫グロブリン血症(MGUS)」は、毎年、アメ リカだけで100万人に影響を及ぼしている。Rettigたち(p.1851)は、M MやMGUSにヘルペスウイルスが会合しているのを見つけ、これがカポ ジ肉腫の原因ではないかと考えた。このウイルスは悪性細胞中には見つか らなかったが、骨髄の樹状細胞中に見つかった。このウイルスは、MGU SからMMへの形質転換や、ウイルスにコードされた成長因子(特に、 ウイルス性インターロイキン-6)に関与している可能性があり、さ らに、悪性細胞の成長促進に関与している可能性がある。(Ej,hE,Kj)

遺伝子の流動に逆らう多様化(Divergence despite gene flow)

遺伝子の速い流動が存在する中で、どのくらいの集団の分岐が起きうるの だろうか?伝統的な考え方では、それは大きくはなく、小さな孤立集団が形態学的多様性をもた らす主要な源であると、議論されてきた。しかし、Smithたち(p.1855)は、遺 伝子の流動と、選択が組み合わされると進化に変化が生じてくる証拠を示 した。彼らは、little greenbulの遺伝子交換と形態的多様性の割合 について、雨林とエコトーン(雨林とサバンナの遷移地帯)の集団の相関 をとり、かなりの遺伝子の流れがあるにも関わらず大きな形態学的差異が 2つの生息地の間に(同じ生息地ではなく)存在することを見いだした。 このことは、自然選択が起きたことを示唆している。更に言えば、以前は 見過ごされていたエコトーンが雨林の生物多様性に、より大きく寄与して いると思われる。(Ej)

早期のオーキシン応答(Early auxin response)

植物ホルモンであるオーキシンは、種々の方法で植物の成長と発生を制御している。 オーキシン効果の早い応答経路の部分を形成する遺伝子は、 同定しうる配列モチーフをプロモーター内に含む。 Ulmasov たち(p.1865)は、このエレメントに結合し、それによって オーキシンに応じてこの遺伝子転写を活性化しているタンパク質を発見した。 このタンパク質がDNAおよびタンパク質の相互作用領域を含むことは、 オーキシン応答の転写制御因子の検索が始まったばかりであることを示唆している。 (An)

Gタンパク質をオンにする(Turning on G proteins)

チロシン残基におけるタンパク質のリン酸化は、真核生物細胞の重要な調節機構であ る。 細胞情報伝達のためのもうひとつの主要な機構は、 ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質) の活性化に共役している細胞表面受容体の刺激である。 Gタンパク質に共役している受容体の活性化は、 特定のタンパク質のチロシンリン酸化を増加している。 Umemoriたち(p.1878)は、受容体仲介の活性化には、Gタンパク質のaサブユニットの チロシンリン酸化が必要である証拠を提出している。 タンパク質チロシンリン酸化酵素の阻害薬は、 関連している受容体によってGタンパク質の活性化を遮断したが、 チロシンリン酸化は、Gタンパク質と受容体の相互作用に影響した。 (An)

隕石の成因

隕石には、コンドライト、コンドルール、隕鉄と呼ばれるものまで 色々存在し、多様性において特に目立つコンドライトの成因について、 様々な説が出されてきた。今度の アメリカの天文学会において、UC BerkeleyのFrank Shuは、これら の多様性を説明する新しい説を提案したとGlanz(p.1789)が報告して いる。それによれば、コンドライト初期物質は、初期太陽系のガス円盤近くで、高エネルギー 粒子によって照射され、太陽風で、溶けた物質を遠くまで吹き飛ばされ、 ここで、更にダストと混ざり合ってコンドライトが形成されたという。 この説の大きな難点の1つは、古いはずのコンドライトの一部に半減期100万年のアルミニウム26 含まれていることである。(Ej)
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