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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science May 2, 1997, Vol.276
概日性時計を羽織る(Collaring circadian clocks)
ほとんどの生物は、たとえ定常な明るい場所でも、あるいは定常に暗い場 所であっても 1日周期を刻み続ける生物時計(概日性時計)を持っている。この時計の いくつかの構成 要素が知られている−パンカビ属の菌(Neurospora)の"frequenc y"と、ショウジョウバエの"period"と "timeless"である.Crosthwaite たち(p. 763;および、 Kayによる展望 p. 753) によると Neurosporaの2つの遺伝子であるwhite collar-1(wc-1)とwc-2も また、生物時計の基本 要素をコードしていると言う. PAS領域における転写活性化因子 であるwc-1,wc-2は、時を保つ以外に、Neurosporaが光に対し て反応するために 必要であることから、概日性時計は、初期の生物体の光制御経路から進化 したものと 思われる.(Ej,Kj)
明るい赤外光レーザー(Bright infrared lasers)
明るくその波長を精密にチューニングできる赤外光レーザーがあれば、通信分野において重要な応用が存在す る。Scamarcio たち (p.773) は、分子ビームエピタキシー(MBE)により作成した半導体の超格子に 基づく長波長(8μm)の赤外光レーザーについて記述している。光子は電子が二つの超格子の伝導帯間をト ンネル効果により移動する時に放射される。これらの微小なバンド間のエネルギーギャップを変化させること により、様々な波長の光子を発生することができる。離散的な状態よりもバンド構造をを用いることにより、 レーザーを高出力状態で運転することができる。(Wt)
微小領域に配送される分子(Microdelivered molecules)
微量の反応物を制御して配送し、固定化することは、多くの生物学的分析試験や組合わせによるスクリーニン グ技術において必要なステップである。Delamarche たち (p.779)は、微小な流動性ネットワークを設計 した。これは、制御された配送やサブミクロンレベルに制御された固定化が可能なものである。毛細管のネッ トワークは弾性重合体の鋳型から作成された。免疫グロブリンのような分子は流れによって運ばれ、基板上に 固定化された。鋳型を取り除いた後、パターニングされた領域は高い特異性とコントラストを示した。(Wt)
地質時代の植物のパターン(Paleo plant patterns)
熱帯における地質時代の植生の変化については、最後の最大氷期(LGM) の期間に、最大5℃寒冷化したと見積もられていたが、他の地質時代 気象に関するデータや気象モデルにおいては、気温の変化はそれほど でもなかったと見られていた.しかし、LGMの期間、大気中のCO2 濃度もまたずっと低くなっていたが、これが植生にどう影響したか についてはよく分かっていなかった.Jolly とHaxeltine (p. 786)は、気象と生物圏の相互作用モデルを使って、もっとCO2 濃度が低かった場合には、これ単独で植生に変化を与えるで あろうと見積もることが出来ることを見つけた.(Ej)
カルシウム情報伝達と心疾患(Calcium signaling and heart disease)
高血圧症は、先進国の主要死亡原因である心肥大と心不全の原因となる. しかし、この原因となる、個々の心臓細胞を制御し協調させる興奮収縮 カップリング機構のどこに欠陥があるのかについてはよく分かってない. Gomezたち(p.800,およびYueによる展望、p.755)は、ラ ットにおける2つの 心臓機能障害について研究し、興奮によって(膜電位の脱分極)収縮が 起きる機構のほとんどは正常に行われていることを見つけた. しかしながら、原形質膜内のチャネルを通って細胞内に流れるカルシウム イオンの流れは、カルシウムの細胞内貯蔵に依存するカルシウム依存性チャネル を開くことにあまり貢献してない(通常は、カルシウム貯蔵によって もっとカルシウムの放出を促し、その結果収縮を促進する).少なくとも テストしたモデルにおいては、結果的に心不全に陥るような細胞 レベルの無応答性を減少させうる治療のために介入が可能な部位 を限定することが出来た.(Ej,Kj)
DNAを後で作る(Making DNA late)
細胞が分裂するとき、他に先駆けてDNAのある部分は複製される.酵 母において、 染色体の末端の特殊な構造であるテロメアは、その近くにDNA複製の 起源を持つ プロセスを遅らせることに関与しているように見える.Raghuraman た ち (p. 806)は、この効果は細胞周期毎に毎回構築されているに違いないこと を 示した.この複製開始点が、細胞内のテロメアの近くに位置している場合 は 遅れて複製されるが、誘導性組変えによってテロメアの近くから除かれる と すぐ次の細胞周期においては複製が早くなる.(Ej,Kj)
作用中の反応中心(Reaction centers in action)
細菌性光合成反応中心 (RC)において、光吸収は一次ドナーグループ から ユビキノン受容器グループであるQAとQBへの電荷の伝達を生 じさせ、その結果 生じた電荷の分離によってフォトンエネルギーが化学的な勾配に転化され る. Stowell たち(p. 812) は、暗闇において成長し、続いて光活性化さ れたRC の結晶構造をx線によって決定した.光活性化は末端受容器であるQB( -)を 約5オングストローム移動させ、そして約180°回転させるが、この 観察された 構造変化に基づく動力学的モデルは電子伝達率をうまく説明する.(Ej ,Kj)
マウス、ハリネズミ、そして皮膚癌(Mice, hedgehogs, and skin cancer)
基底細胞母班症候群(BCNS)は遺伝病の1つで、進行性欠陥や、基底 細胞癌(BCC) を含むある種の癌への素因によって特徴づけられる。BCNS患者はパ ッチ遺伝子 に変異を持っており、この遺伝子は、より低級な生物体においては重要な 生長性シグナルを伝達する膜貫通受容体をコードする。Oroたち( p.817)は、 皮膚にSonic hedgehog(SHH)と呼ばれる、この受容体のリガンドを過 剰発現する トランスジェニックマウスを作った。このマウスは、複数のBCCや、 骨格異常性 などのBCNSの多くの特徴を発達させている。Shh遺伝子の突然 編糸思われるものが、小数のヒト腫瘍で同定された。(Ej,Kj)
より高電流を得るための化学的方法( Chemical routes to higher cur rents)
超伝導の多くの応用においては、高電流−すなわち高電流負荷を要求され て いる。高電流が超伝導物質中を流れると、誘導磁力線動きはじめ、エネル ギー を散逸し、その結果超伝導状態が破壊される;この閾値が臨界電流である 。Chongたち (p.770)は、単結晶のBi2Sr2CaCu2O8(+)に高い濃度の鉛を加えたもの は ピン効果を改善し臨界電流値を増加させた。超伝導応用において、 臨界電流値を向上するためのテクニックは、単純な化学的方法論に 置き換わるかも知れない。(Ej,Kj)
カチオンを捕らえる(Catching a cation)
HF-SbF5のような超酸は無水硫酸より強く、極度に弱い塩基をプロトン化することができる。それらのアルカ ンをプロトン化する能力は、石油化学工業において利用されてきた。超酸の媒質中で行われる重要な反応の一 つは、CO を含む芳香族化合物の反応によって、芳香族アルデヒドを作ることである。提案されているホルミ ルカチオン中間体である、HCO+ の生成は溶液中で観察することは困難であったが、de Rege(p.776) たち は、‾高 圧化の(26 atmospheres) CO を用いることによって、HF-SbF5 中の HCO+ を赤外および核磁気共鳴分光法 により観察した。[Prakash による展望を参照のことp.756] (Wt)
第4紀の気候の校正(Calibrating Quaternary climate records)
地球の公転起動が変化することによって地球の気候が変化すると言う( Milhankovitch forcing)議論の核心は、海面位置が上昇するときのタイミングによって氷 床の融解が影響 を受けると言うものである。以前の間氷期の海面位置上昇時期の決定には 、主にバルバドス海の珊瑚礁によって支持されていたが、ネバダのDav ils Holeの石灰石に見られる最近の気候データは、ミランコヴィッチ理論 による時期よりも以前に生じていた。Edwardたち(p.782) は 最近開発されたプロトアクチニウム年代測定法を両方の記録に適用した結 果、両方のデータとも正しいと結論した。その理由説明は、Davils Ho le近郊の気候は、太陽日射を単純に反映したものではないかも知れない、 と言うもの。(Ej)
チべットの動き(Movement in Tibet)
インドプレートがヨーロッパプレートに衝突したことによってヒマラヤや チベット高地を作ったが、同時に複雑な変形をもたらし、これを解読する ことは、地質学者にとってプレートのレオロジーや動力学を理解するきっ かけ になる。Roydenたち(p.788)は、上部地殻の粘性が深さととも に変化するという 理想化されたモデルを使い、3次元の解析解を利用して、プレートの基礎 的変形の収束性を論じた。それによると、南部チベット高原の地殻が短縮 することなく時計方向に 回転し、東縁部は伸長していることを説明した。これらのモデルから、 比較的強い下部地殻と弱い上部地殻が同調しなかったことに,帰せられることを示唆している。(Ej,Og)
NF-1の情報伝達経路(NF-1 signaling pathways)
ヒトの神経線維腫症1型(NF1)タンパク質は良性腫瘍や、その他の多 様な症状を生じさせやすい。NF1の腫瘍抑圧機能は、グアノシントリ フォスファターゼRasの抑止によって仲介されていると考えられている。 Guoたち(p.795)はショウジョウバエのNF1の役割について調べ 、Rasを経由する情報伝達は正常であるように見えることを見つけた 。しかしながら、神経筋接合部や、NF1変異のハエにおける情報伝達 の異常性は、酵素のアデニル酸環化酵素を活性化しそこね、その結果アデ ノシン3',5'一リン酸依存性タンパク質リン酸化酵素を活性化したこ とに起因するように見える。(Ej,Kj)
些細な効果ではない(Not marginal effects)
川の周辺部は、川岸領域として知られているが、生物が最も豊富な環境の 1つでも ある。世界のほとんどの川は、水規制事業計画によって揺れ動いているが 、その環境的影響はほとんど理解されてない。Nilssonたち(p.7 98)は、年齢が1年から70年の範囲に渡る、43の貯水池と、45の流水 関止めの水際の植物の種多様性と植生についてのデータを集めた。貯水池 の開発は一様に長期的な植生の貧弱化を招いた。この特徴はまた、関止め 湖にも当てはまる。このような発見は、特に向こう数年間、ダムの再承認 が計画されているこのようなとき、亜寒帯の河川の管理システムに影響を 与えるべきである。(Williamによるニュース解説も参照;p.68 3)(Ej)
ヌクレオソームの内と外(In and out of nucleosomes)
核の内側では、DNAはヒストンの周囲にまきついている。これら のヌクレオソームは、その他の多分子複合体と同様に、染色質の構造を作 り上げている。遺伝子発現の変化には転写制御因子が染色質の所に来て、 侵入することが多分必要で、これには、多分、その過程のなかで、覆って いる染色質の組織を変化させている。Pazinたち(p.809)は、 特定の転写性リプレッサーが染色質から離れたとき、最初の結合を置換し たヌクレオソームは、その過程でアデノシン三リン酸がこれらヌクレオソ ームがオープンスペースに巻き戻されるまでずっと外されたままでいるこ とを示した。(Ej,Kj)
作業記憶(Working memory )
視覚情報の処理における主要な分業の一つは「何」と「どこ」に現れてい る; すなわち、視野の中で対象物(およびその形状や色)を同定することと、 対象物の位置を同定すること。「何」は、下部側頭皮質を経由して腹側経 路 で処理され、「どこ」は後頭皮質の助けを借りて背側の経路で処理される。 Rao たち(p.821)は、サルの前頭葉前部皮質に、両方の種類の情報を 処理 しているように見えるニューロンを見つけたが、このことは、すぐに 利用するために短時間だけ保持しておく作業記憶として知られている 脳の領域に、これらの経路が集約されているいることを示唆している。 (Ej,Kj)
微生物生物学の傷ついた革命
Carl Whoeseが科学革命を開始したが、ここに来てその価値が認められた。 20年前、イリノイ大学の1人の進化論者が、単細胞生物の1つであるA rchaeaは、細菌を含む 他の生物と余りにもかけ離れ、異なった領域に生存していると発表した。 これは、生物の主要な 5分類との1つと言うのではなく、微生物は3つの広い範疇のうちの2つ を占めている:細菌、 ArchaeaおよびEukarya(これは、植物から人に至る多細胞生物を含 む)。驚いたことに、ほとんど の生物は単細胞で、すべてのEukaryaは、多量の微生物の大きな分類 枝の上の小枝に過ぎない。 この生物の木を変更することを認めるのに、他の生物学者は何年もかかっ た。(Ej,Kj)
すべての細胞の母親をたどる(Tracing the Mother of All Cells )
初めての完全な微生物種の木を描くことによって、進化論者であるCar l Woeseは 研究者たちが、木の基の近くの細胞型ーー先祖型に近いーーを探すことが 出来るようにした。 これらの多くの生物は極限環境を生き抜くArchaeaである。その特徴 から、最初の生物は 沸き立つ硫黄泉か、あるいは深海の鉱物に富む火山性噴出泉に生まれたの かも知れない。(Ej)
生物は深海の極限にまで至る--その他にも?
最近、微生物学者と地質学者は協力して生物の深さの記録を探索しようと している。 彼らは、バージニア州の地底、約3キロメートルに何百万年も閉じ込めら れた生物や、 コロンビア高原の地底1.5 km の裸岩と水に住んでいる微生物や、大 洋海嶺の下で ガラスや鉱物に富む水で生き長らえていると思われる生物の痕跡を見つけ た。地下 深く何百万年も隔離され、微生物は風変わりな代謝と、非常にゆっくりと した生殖率 で適応して来た。研究者たちがやっと測定でき始めるようになった程の地 下深部 や水を形作っている。(Ej)
産業界では極限環境を好む生物が注目(In Industry, Extremophiles Begin to Make Their Mark)
産業界では、温泉やアルカリ湖のような極限環境に生きる微生物の酵素が だんだんと 注目を集めはじめた。このような酵素は摂氏100度以上でも、あるい はpHが10でも生きている。 新しい研究が、新しい会社が、あるいは新しい学術雑誌さえも--Extre mophilesが2月に創刊 された--が始まり、商業的開発と基礎生物学の研究が混ざり合って いる。 研究機関は自然界を新たな熱意を持って調査しており、極限酵母の新しい 特徴づけや生産 方法を急速に見つけている。このようなタンパク質は化学薬品や食物など の処理に役立つだけ でなく新しい分類の抗生物質につながるかもかも知れない。(Ej,Kj)
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