AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 21, 1997, Vol.275


アポトーシスの分子結合(Molecular connections in apoptosis)

プログラム化された細胞死、すなわちアポトーシス、を制御するためにこれと相 互作用する分子の役割についての議論が4つの報告に紹介されている(Golstein, p.1081による展望も参照)。線形動物(線虫,Caenorhabditis elegans)に関する 研究によると、CED-9(哺乳類のBcl-2に相当)は、CED-3(哺乳類のICE、即ちイ ンターロイキン-1β変換酵素に相当)やCED-4によって誘発される細胞死から細胞 を守るが、その抑止メカニズムは良くわかってない。Chinnaiyanたち(p.1122)は、 CED-4はCED-3とCED-9に同時に結合することを見つけ、また、Wuたち(p.1126)は、 CED-9がCED-4を細胞内膜に局在化させることによって、これをサイトゾルから除 去することを示した。Yangたち(p.1129)とKluckたち(p.1132)は、Bcl-2のもう一 つの役割を見い出し、Bcl-2がミトコンドリ アからチトクロムCの放出を防ぐことによってアポトーシスをブロックしている ことを示した。(Ej,Kj)

超伝導性と対称性(Superconductivity and symmetry)

高温超伝導体の中でなぜ電子がクーパー対を形成し、その遷移温度以上では超伝導性が停止するの かを説明する完全なモデルは未だ存在しない。Zhang (p.1089)は、5次元における回転対称性 SO(5) を用いて、d 波の超伝導状態をより高温の絶縁状態における反強磁性に関連付ける理論を与 えている。遷移をこれらの酸化物の化学ポテンシャル(ドーピングレベル)に関連付けるモデルを用 いて、一般化された相図を構成することができる。展望記事の中で、Nagaosa(p.1078)は、どのよ うにしてこの理論と過去のモデルとが関連しているのかを議論し、高温超伝導体を理解するために 今なお為されているいくつかの挑戦について概略を与えている。(Wt)

銅による装飾(Copper decorations)

トンネル走査顕微鏡は、小さな銅のクラスターを金の電極の表面上に配置するのに用いられてきた 。Kolb たち(p.1097)は、銅を電気化学的に溶液からチップの終端上に堆積した。このチップに は、表面に瞬間的に接触し、一つの小さなクラスターを移動させるように制御された電圧パルスが 与えられている。このプロセスを繰り返すことにより、いくつかのパターンや配列を形作ることが できる。(Wt)

5つの配位をもつ水素(Five-coordinate hydrogen)

水素は、通常、一つか二つの原子にのみ配位するが、いくつかのまれな場合には、3および6の配 位数が観測されている。Bau たち(p.1099) は、水素がある金属クラスターの化合物中の5個の ロジウム原子に配位しているような化合物を合成した。水素原子は、クラスターの表面の四角形の ピラミッド状サイトに位置している。6つの四角形のピラミッド状サイトのうち、2つのみが占有 されている。(Wt)

分子を1つ選び出す(Singling out molecules)

単独分子の測定に焦点を当てた報告が2つなされている。分子が自由に動き回れ る溶液中の単独分子の拡散をモニターするには、時間的、空間的に高い解像度が 必要である。XuとYeung(p.1106)は、増幅CCDカメラによる溶液薄層の蛍光像の 連続記録によって、サブミリセカンドの時間スケールで単独分子の連続観察が可 能になったことを報告している。これらの測定から、分子の拡散係数が求められ た。NieとEmory(p.1102)は、現在、単独分子の研究に利用されている、レーザ誘 導蛍光のような方法によって得られる情報を、相補うような情報が得られる新た な手法を示した。ナノ粒子に付着する単独分子の表面誘導ラマン散乱は、選択さ れたナノ粒子に対して驚くほどの散乱効率の向上が見られた。これは、蛍光測定 の測定結果に比べ、信号は、より強くて安定である。(Ej,Kj)

大量の絶滅回避(Mass survival)

白亜紀末期の恐竜絶滅を記した生物消滅の影響に関連して、鳥類の起源と初期進 化が広く議論されてきた。CooperとPenny(p.1109)は、近代(modern)鳥類の分子デー タを利用し、近類の鳥類の対が分岐するのに必要な最低時間を化石から見積り、 大量絶滅のあった期間を生き抜いて来た近代鳥類の系統数を見積った。彼らの解 析によると、多くの系統が絶滅を回避して来たことが推察される。この研究の対 象とされた化石の対に関して、それの意味するところや、不確実性について、 Gibbons(p.1068)がニュース解説で論じている。(Ej)

七面鳥の走り(Turkey trot)

走るには多くのエネルギーを必要とするが、七面鳥にとって、平地を走り、筋肉 を収縮させることは、それほどの仕事でもない。Robertsたち(p.1113;および Pennisiによるニュース解説p.1067)は、ファイバー製の長さと歪ゲージを埋め込 み、走っている野生の七面鳥の、大ふくらはぎ筋の力を測定した。それによれば、 腱と伸びた筋肉(バネの作用をする)による伸展と反跳が、ほとんどの仕事をし ている。活動している収縮筋肉は七面鳥を立たせるための強い力を生み出してい るが(それによって代謝エネルギーを消費する)、収縮は短距離だけであり、従っ て、その仕事量も小さい。(Ej,Kj)

忙しい末端(Busy terminal)

TATA-box結合タンパク質(TBP)は、3つのRNAポリメラーゼすべてに必要である。 非保存性のアミノ末端の機能はよく分かっていなかったが、保存性カルボキシ末 端は、通常、全長タンパク質に置換しうる。MittalとHernadez(p.1136)は、非保 存性アミノ末端は、RNAポリメラーゼIII-U6核内低分子RNA(snRNA)プロモータの部 位において活性を仲介し、この部位へsnRNA活性化タンパク質複合体を補充する。こ れは、また、U6-TATA-boxへのTBP結合を下方制御することが出来、U6転写を増強 する。(Ej,Kj)

緑藻類による一斉産卵(Mass spawring by green algae)

珊瑚虫などのなぎさの動物の一部に、特定の日に一斉産卵があることは良く知られて いるが、今回カリブ海において、緑藻(最大、9種類の藻が同じ朝に)が、夜明け前 に一斉産卵することが観察された。1連の異形接合の配偶子の中で、特定の朝、同期 した放出現象が起きた。近縁の種は、時間を違えて放出があった。Clifton(p.1116) によると、この現象は、潮汐や日周期には無関係であり、その原因はわかってない。 この藻類の繁殖の特殊性について、Hay(p.1080)は展望記事で解説している。(Ej)

ヒッパルコス人工衛星の天体データ(Hipparcos charts the heavens)

ヒッパルコス人工衛星は、ヨーロッパ宇宙局が1989年打ち上げた宇宙観測衛星である が、打ち上げの予定から大きく外れた軌道になってしまった。しかし、直後に 衛星の制御ソフトを変更し、大きな楕円軌道に合致した観測を可能にし、広範囲 のデータが入手可能になった。しかしそのデータの補正には大量の計算を要し、 詳細な観測結果がまとまったのは最近のことである。これが今回CDーROMとし て一般に売られることになった。精度の高いデータが入手出来た結果、従来HR 図や、Cepheid変数がかなり改められている。精度は現在に比べ2桁良くなっていて 400ドルの販売価格。(Ej)
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