AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 31, 1997, Vol.275


タイタン上の氷河時代?(Ice ages on Titan?)

凝縮を避けるのに十分な太陽からの輻射や熱的な輻射を維持するために必要なタイタン の窒素の豊富な大気は、メタンや水素のような気体の供給源が必要と考えられてきた。 しかし、メタンがある一定のレベルに維持されていることを示唆する直接的な証拠は存在しない。 Lorenz たち(p.642)は、タイタン上のメタンの枯渇の効果を、輻射−対流モデルと輻射飽和状 態のモデルとを用いて考察した。十分なメタンがなければ、タイタンの大気は冷えて窒素は凝縮す る。メタンの豊富に放出する継続的な火山活動があると、大気は最終的には暖かくなり、再膨張す ることとなる。そして、このサイクルはくり返され、タイタンではくり返し起こる「氷河時代」が 存在した可能性がある。これは、タイタン表面の形態に記録されている可能性がある。(Wt)

ガリレオ探査機を盗み聞いて(Eavesdropping on the Galileo probe)

ガリレオ探査機が木星の大気中へ降下し、そのすべての機器の測定結果を探査機の上方にあるオー ビターへ送り返している間、地球上にある2つの大きな電波望遠鏡を通して、ある科学者のグルー プがこの活発な通信を注意深く聞き取った。Folkner たち(p.644)は、この電波信号がいかにして 探し出され、また、探査機の軌道に沿う風の速さを評価するのにいかにして用いられたかについて 記述している。探査機突入の間、地球は木星の地平線近くにあったため、この探査機−地球間の風 速の測定は、ある別の方向に対して行われた。これらのデータは、探査機とオービター間の風速測 定結果を確かめたばかりでなく、別の方向に対しても測定された。これは、一次元方向以上の 次元において、木星の風のデータを修正し、また特定することに役立つであろう。(Wt)

ナノチュープの成長(Nanotube growth)

合成条件に依存して、カーボンナノチュープは、単層または多層の壁面の構造をとることができる 。単層の壁面のチューブが成長するには、一般的には金属触媒が存在することが必要であるが、多 層の壁面のチュープはそれらがなくても成長可能である。Charlier たち(p.646) は、アブイニ シオ計算(非経験的分子軌道法による計算)により、多層の壁面のチューブでは、シートのエッジ間 で揺動しているボンドの網状構造が、炭素が容易に吸着する活性サイトを与えることを示している 。単層の壁面のチューブでは、自発的なドーム状の閉止構造が観測される。これは触媒なしで成長 するには不利である。(Wt)

一時に一電子(One electron at a time)

金属酸化物の半導体トランジスターでは、浮遊ゲート上に貯えられた電荷によって、情報を表現す ることができる。この浮遊ゲートは、デバイスのチャネルと制御ゲート間に作られる。メモリーの 密度を増加する一つの方法は、デバイスの状態を変化させるのに必要な電荷量を少なくすることで ある。 Guo たち(p.649) は、ポリシリコンのドット(大きさは数ナノメートル)を浮遊ゲートと して実現した単電子メモリーを作成した。このデバイスは、室温において一電子の増加による浮遊 ゲートの帯電と呼応して、その出力を変化した。(Wt)

膜の囲い(Membrane corrals)

普通、半導体デバイスを作る ために用いられている技術が、細胞膜の液体2重層を制御するために利用された。 Grovesたち(p.651)は、親水性酸化シリコンウェーファーにパターン形成し、金、 酸化アルミニウム、あるいはフォトレジストで分離された「囲い」を作った。こ れらの「囲い」の中では容易に液体2重層が形成され、各「囲い」の中の蛍光プ ローブの濃度は光退色や電圧印可によって変えられる。このような「囲い」の配 列は、膜内拡散のような基礎的研究に有用なだけでなく半導体デバイスのパター ン形成にも有用であろう。(Ej)

Akt作用(Akt actions)

生物学的制御についてと、Akt発ガン遺伝子の生成物であ るタンパク質リン酸化酵素Akt(PKBとも呼ばれている)の機能についての2つの 報告が新たな洞察を与えてくれる。多くの成長因子受容体は、ホスホイノシチド 3ーリン酸化酵素を活性化する。Frankeたち(p.665)は、この酵素の生成物である ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸が、Aktに結合し、活性化することを 示した。他方、Dudekたち(p.661)は、活性化したAktの生物学的作用を調べ、 Aktは、小脳のニューロンの初代培養の生存を促進するためのインシュリン様成長 因子1に必要であることを見つけた。Aktとその機能についての理解が最近進歩し たことの意味が、Hemmings(p.628)によって展望で議論されている。(Ej,Kj)

緑内障遺伝子(Glaucoma gene)

原発性広角緑内障(primary open angle glaucoma) は、失明の主要原因の1つであるが、もし視神経に不可逆的損傷がなされる前に 処置を受ければ、これを免れることが出来る。Stoneたち(p.668;およびVogelによ るニュース解説p.621)は、遺伝的連鎖とハプロタイプ共有分析(haplotype sharing analysis)を使って、若年性開始型(juvenile onset form)の候補遺伝子 であるTIGRを同定した。変異スクリーニングによって、330人の非血縁患者の内 13人は、染色体1のこの遺伝子に変異を持っていた。遺伝的スクリーニングは、 この病気に対する危険率の高い人を同定する助けになるかも知れない。(Ej,Kj)

T細胞にバイアス(Biasing T cells)

T細胞は胸腺で成熟する間、これらの受容体は 自己ペプチドに対してバイアスを受ける(ネガティブ選択)が、非自己ペプシド に対しても受ける。では、後者のポジディブ選択のプロセスはどのようにして、 非自己との遭遇に対して、途方もない種類のDNA配列を伴うT細胞のレパート リーを用意出来るのか? Nakanoたち(p.678)はこの質問に応えるために、クラス II主要組織適合複合体のインバリアント鎖(Ii)と共に、非自己ペプチドを発現す るアデノウイルスベクターを胸腺に注射されたマウスを研究した。このようにし て、ペプチドはその結合溝の近くで発現されていた。T細胞は近縁のペプチド配 列に対しても、無関係のペプチド配列に対しても反応することが出来るが、特定 のレパートリーグループは、もとのペプチド配列の僅かな変化に対しても変化し た。(Ej,Kj)

細胞分裂時の染色体制御(How cells get the right chromosomes)

細胞分裂の際、 染色体は分裂した娘細胞に正確に受け継がれなければならない。もし、染色体の 欠失や余剰が生じれば、これは、新生児障害や癌につながる。この分裂の伴う染 色体の2分割のメカニズムは、巧妙に行われていることが分かってきた。 Nicklaus(p.632)によると、エラーが起き易いのは分裂初期段階であると言う。有 糸分裂の糸の張力を利用して、このエラーを防いでいる。糸が対になった染色体 を両側から引っ張ることにより、染色体の形状を安定化させ、セルサイクルのチェ ックポイントをうまく探り当て、正常な染色体化学に変える。(Ej)

2つのボーズ凝縮の間の干渉(Interference between two Bose condensates)

Bose-Einstein凝縮の直接観察は、つい最近のことであるが、近距離の2つの凝縮 原子間で干渉が観察されたとAndrewたち(p.637)が報告している。磁力と光によっ て作られた約40マイクロメートル離れた2つのポテンシャル井戸の中に、蒸発冷 却するナトリウム原子によって2つの凝縮状態が形成された。スイッチを切って ポテンシャルを解消し、凝縮を40ミリ秒拡散させ、互いにオーバーラップさせる ことによって、高コントラストの物質波の干渉が観察された。この実験は、ボー ズ凝縮された原子はレーザーのようにコヒーレントで長距離の相関があることを 示している。この結果は、原子レーザーや、原子に対するジョセフソン効果に直 接関わりあっている。(Ej)
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