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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science December 13, 1996, Vol.274
ハインリッヒ事象は南へ行く(Heinrich events go south)
ハインリッヒ事象(複数)は最終氷河期において北米大陸を覆う大陸氷床から一 気に氷山として流れ出た現象である。これらの事象についての気象学的な原因や、 この現象が局地的なものであるか、あるいは北半球規模的なものであるかはっき りしてない。McIntyreとMolfino(p.1867)は、赤道地帯大西洋の過去45000年間の 高解像度の気象記録としての海藻量の極大値が、最後のいくつかのハインリッヒ 事象と年単位の解像度で同時に起きていることを示した。彼らは、約8400年サイ クルで起きるこの事象は、究極的には地球の軌道変動が原因であろうと推察して いる。(Ej,Nk)
急速に鉄で覆われて(Quickly ironed out)
ビッグバンに引き続いて、デブリ(砕片)は、内部太陽系中で付着し合い、微惑星を形成した。Lee と Halliday (p. 1876) は、隕石中の182W(タングステン182)の同位体の異常を測定した。 この182Wは、182Hf(半減期は900万年である)の崩壊によって生じたものであり、 これらの隕石の母天体中では 、鉄のコア(これはHfによりもWを選択する)の集積と分離の年代を定めるものである。鉄隕石(恐 らくはコアを代表している)中のタングステンの同位体異常は、通常の隕石(珪酸塩からなるマン トルと地殻を代表している)中の金属粒子の異常に類似している。この結果は、母天体と それらのコアとは同じ時代に、太陽系の起源から数百万年以内に形成されことを示唆している。 (Wt)
まわりで元気づける(Zipping around)
最近、Song & Richards は、地球の内部コアは、およそ年あたり1度だけマントルよりも速く回転 していることを示している。Su たち(p. 1883) は、コアを通過する地震波の29年に渡る独立 な観測を用いて、内部コアは、恐らくは1年当たり 3度だけマントルよりも先行して、確かに速く回 転していることを示している。Glatzmaier と Roberts は(p. 1887と表紙を参照)、地球内部 のダイナモ機構をシミュレートして、内部核のスーパーローテイション(内部核がマントルよりも速 く回転すること)は、内部核の磁界が、流体である外部核中の東側へ移動する熱風(thermal wind) と結合することに よって説明できる可能性のあることを見出した。(Wt)
濡れると滑ります(Slippery when wet)
1995年1月に起きた、マグニチュード7.2の日本の神戸の地震の原因は判っていない。Zhao たち (p. 1891) は、震源の下の地殻と広範な余震の発生した地帯の、速度構造の断層撮影モデルを 開発した。それらのイメージは、次のことを示している。震源は以下のような非常に特別な場所に ある、すなわち、こ の場所は、P波、S波の速度が低く、高いポアソン比を持っているという特徴がある。これは、地 震発生を促進する可能性のある流体が存在することを示唆している。(Wt)
微小な試験管(Tiny test tubes)
カーボンナノチューブの内部空洞は、カプセル化された微細構造物の統制された 製造や、微細な試験管として利用可能性がある。しかし、どうやって制御しなが ら中に詰めるか、或は、試験管壁の反応性、と言った多くの問題点も残っている。 Ugarteたち(p.1897)は、溶融銀塩をナノチューブに充填することについて研究し、 最低4 ナノメートルのチューブ径が必要であることを示した。チューブ内での銀 塩の分解によって銀粒子が生じ、その結果チューブ内が高圧になり、酸化ガスが 発生し、これによってチューブ壁を侵食する。(Ej,Kj)
忘れ易さへの適応(Fits of forgetfulness)
成長したゼブラフィンチ(zebra finche)は、他の鳥の歌声を認識し記憶すること が出来るが、その記憶の長さは歌声のタイプに依存する。Chewたち(p.1909; Doupeによる展望p.1851参照)は、覚醒したゼブラフィンチに色々な歌を提示しな がら、そのときの聴覚中枢のニューロン活性をモニターした。その中で予期しな かった発見は、タンパク質あるいはDNA合成阻止剤の注入によって、4日間のテス ト期間中の1ー4時間の6つの狭い時間幅でのみ、覚えていた歌を忘れたように 見えることであった。これら時間幅は、遺伝子発現と、長期間記憶に必要なタン パク質合成の期間と一致した。これらの事から、歌の記憶には巨大分子合成の量 子的な波に依存しているように見える。(Ej)
私を起こして(Start me up)
インターロイキン4(IL-4)のようなサイトカインの発現には、NF-ATファミリー( 活性化T細胞の核因子)のようないくつかの転写制御因子を必要とするが、再構 成されたシステムでサイトカイン発現が低いと言うことから、NF-AT仲介転写にお いて未知のタンパク質が作用していることが示唆される。Hodgeたち(p.1903)は NIP45タンパク質を同定し、これが、既知のどのタンパク質とも類似性がないが、 NF-ATタンパク質やc-mafと組み合わせると、IL-4プロモータを活性化することを 示した。B細胞中でのこれらタンパク質の一過性過剰発現によってIL-4の内在性 の産生が見られる。(Ej,Kj)
傷ついた反応(Wounded reaction)
植物が傷つけられたことに反応して、タンパク質分解酵素阻害性遺伝子の産出を 増加させるが、これが食主として植物に損傷を与える昆虫の摂食を阻害する。O' Donnellたち(p.1914)は、これら遺伝子の発現を制御しているシグナルには、エチ レンやジャスモン酸が含まれていることを示している。エチレンの産生は、傷発 生の直後に検出でき、タンパク質分解酵素阻害性遺伝子の転写が検出されるずっ と以前から見られる。(Ej,Kj)
広がる損傷(Extended damage)
外傷性脳障害の後、色々なイオンに対するニューロンの透過性が変化するが、こ の変化によってニューロンへの損傷の度合が影響を受ける。Zhangたち(p.1921)は、 この透過性の変化の1つに、NMDA-型グルタミン酸受容体として知られているカル シウムチャンネルが含まれていることを示した。ニューロンが外傷性ストレスを 受けると、NMDA受容体の分子特徴が変化し、カルシウムチャンネルは、より容易 にカルシウムイオンを透過させるようになる。このカルシウムイオンの流入が、 引き続いて、ニューロン損傷を更に促進する。(Ej,Kj)
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