AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 23, 1996


触媒性抗体へのステップ (Steps toward catalytic antibodies)

抗体による、極めて特異的な抗原の認識はアフィニティ成熟期間の結果として生じ る。この期間に、それぞれが異なるB細胞クローン数が増加して、同じ抗原と結合する ために 競合する。Pattenたち(p.1086;およびDavisによる「展望」;p.1078)は、エステル加水分 解を触媒する抗体の生成期間中に生じた生殖細胞から、9つのアフィニティ突然変異体 を クロン化し、発現させた。速度論的解析の結果、抗体が進化するとき 、遷移状態類似体へのアフィニティは、10の4乗増加し、エステル基質 反応速度は10の2乗増加することが解った。抗体の結晶構造解析から、突然変異体 は直接ハプテン(hapten)と接触したのではなく、コンフォメーションとしての役割を 演じたらしい。(Ej)

粘土の膨張 (Clay swelling)

ある種の粘土は、水の存在下ではその本来の厚さの数倍まで膨張することができる。 しかし、その粘土の中の層の間へ水が吸収されるメカニズムの詳細はほとんど判っ ていない。Karaborni et al.(p.1102)は、ナトリウム-モンモリロナイト(sodium- montmorillonite)のシミュレーション結果を与えている。この粘土は豊富にあり、 掘削時の油井の安定性に影響がある。とりわけ強力なこの粘土の膨張は、粘土の 層の間の水の層の数に依存して、二つの異なるタイプの安定構造が発生すること の帰結であるらしい。これらの二つの異なる安定状態の間の転換は、粘土の膨張 を促進している可能性がある。(Wt)

あるレベルの上に (On the level)

海面レベルの過去の変化を再現することは難しいことが分かっている。しかし、海面 レベル変化の原因(例えば、テクトニックス起源であるのか、あるいは気候によるも のか)や堆積物の制御機構を評価するには、過去の再現は不可避である。Vailによる 研究と、Haqたちによる2つの研究は、議論を呼んできたが、これらは 時系列的なバウンダリーと他の地球規模での海洋層位学的記録の分布特 徴とを相関させて海面の過去の変化を描き出している。Millerたち(p.1092)は、 酸素同位体カーブと、ニュージャージーの海岸に沿う漸新世=中新世堆積物の中の時系 列バウンダリーの年代を比較して、 この解釈をテストしている。なお、この同位体カーブは氷河による海面変化の指標で ある。不整合の年代は、酸素同位体値から推測される海面低下と相関している。(Ej)

大気を聴く (Listening to the air)

電波の掩蔽(覆い隠すこと)を用いることにより、最近完成された24個のGPS(Global Positioning System)ネットワークが、地球大気の構造を聴くことに利用された。Kursinski et al.(p .1107)は、予備的 な垂直方向の温度と水蒸気の分布を決定した。これは、限られた大地を基準とする気球 によるラジオゾン デとモデルデータに対して、この技術がより高い分解能を持っていることを示している 。さらに測定を追 加すれば、成層圏の構造の理解を深めることや、天気予報精度を強化することに寄与す るであろう。(Wt)

彗星のコマの中のCO (CO in a comet coma)

高感度なミリメータ波の望遠鏡の発展により、天文学者は、離れた彗星を観測すること が可能となった。 これは、氷となっている水を昇華させるには冷たすぎる彗星において、なにがガス状の コマを生み出して いるのかを理解するための観測である。Jewitt et al.(p.1110)は、Hale-Bopp彗星の明 るいコマは、COの ガスの吹き出しによるものと決定した。このCOのガスの吹き出しのまれな観測は、過渡 的な輝きらしく、 これは、ずっと明るい水蒸気の吹き出しに進化するであろう。この水蒸気の吹き出しは 、Hale-Boppが1997 年4月に太陽に最も接近するにつれて、裸眼でも見えるようになるであろう。(Wt)

変化する発現多様性 (Varying variegation)

遺伝子座制御領域(LCR)は、結合した遺伝子のハイレベルの組織特異的発現を許可す る。Festensteinたち(p.1123)は、トランスジェニックマウスに導入されたヒト CD2遺伝子由来のLCRを研究してきた。それによると、この遺伝子を動原体(セントロメ ア)ヘテ ロクロマチンに挿入したとき、CD2 LCRは、まだらな発現(ある組織中の部分的な細胞の みで発現する)を防ぐために必要であることを見つけた。この様なまだらな発現は閉じ たクロマチンの立体配置と関連がある。彼らは、LCRが、開いたクロマチンの領域を 作ったり、これを保持したりすることによってその機能を果していると結論している。( Ej)

放出による制御 (Regulation by release)

他の受容体のように、トランスフォーミング成長因子(TGF)-β受容体は、関連するタ ンパク質との相互作用によって細胞内部にシグナルを伝達すると予想されている。Wa ngたち(p.1120)は、TGF-β受容体と相互作用するタンパク質を捜し、その結果、ファ ルネシルトランスフェラーゼ(farnesyltransferase(FNTA))のαサブユニットを見つ けた。FNTAは、シグナリングの多くの経路に関与しているRasのように、小さなグア ニンヌクレチオチド結合タンパク質の活性を制御する。TGF-βが受容体に結合すると き、FNTAが放出される。このようにして、TGF-β受容体によるシグナリングは、少なく とも部分的には、 リガンド誘導によるFNTAの放出と、その結果、低分子GTP結合蛋白質 制御によって仲介されている。(Ej)

肝臓に特有な複数薬剤運搬屋 (Liver-specific multidrug transporter)

胆汁が出来るためには、肝臓から細管性多用途有機陰イオン輸送体(canalicular mul tispecific organic anion transporter=cMOAT)を通って胆汁酸が分泌されることが 必要である。このcMOATは、生理学上は定義されているが、分子的な定義はよく解っ てない。胆汁酸分泌の欠陥から病気になる。Paulusmaたち(p.1126)は、cMOATをエン コードする配列の分離について述べている。このタンパク質は既知の複数薬剤輸送体 に関連しており、肝臓細胞の細管膜内で特異的に発現される。(Ej)
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