AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 27, 1995


突如一斉に飛び出して (Springing forth together)

先カンブリア紀の終わり近くに生物種が発散したことは、Vendian紀の大型軟体動物 が初めて現れるきっかけになり、続いてカンブリア紀の貝類相の発生につながったと 思われている。Grotzinger たち(p.598およびKerrによるニュース解説p.580)は、 ナミビアにおいて、これら出来事を含んだ堆積岩に挟まれた火成岩の年代を測定した 。この測定年代と、地球化学的、生物層位学的データとその他の岩石薄片の比較によ れば、このVendian動物相は5億4900万年から5億4300万年前まで残存し、これは先カ ンブリア紀とカンブリア紀の境界に対応する。2つの動物相の間には大きな中断があ るようには見えない。

膜に光を注ぐ (Shedding light on membranes)

脂質単層は2次元格子を作るのに使われるが、これはまた生物的な膜のモデルとなっ ている。この単層は化学成分、圧力、温度によって変化するドメイン構造を持ってい るが、この詳細なドメイン構造の情報を得ることは難しい。Hwangたち(p.610)は近接場 走査光学顕微鏡(near field scanning optical microscope)を使ってドメイン境界の 画像を作り、化学組成を測定し、そして探針物質を複数の相に分割する過程を追跡し た。この様な特徴は通常の蛍光顕微鏡(far-field epiflurorescence microscopy)では 観察できない。

弧状溶融 (Arc melting)

海洋地殻のサブダクション(沈み込み)は、これを覆うマントルの溶融燃料となり、 その結果は火山列島を形成する。理論的には、火山島弧(magmatic arc)を横切って採 集された火成岩の成分は、マントル上の沈み込んだ地殻板の系統的な脱水効果を示す はずである。Ryan たち(p.625)は、千島列島の溶岩中の流体成分の割合の変化を反映 する数種の元素の変動について調べた。その結果、強親水和性元素は、サブダクショ ン帯から遠ざかるにしたがって減少することが解った。

大気圧まで上がってきた (Coming up to air)

多くの触媒プロセスにとって表面反応は重要であり、その運動論は研究の中心課題で ある。この研究の問題点の一つは、利用される多くの技術は、高真空が必要で、その ため現実の反応条件(特に気圧)と観測条件が大きく異なる点である。Rotermundた ち(p.608)は、高真空から大気圧まで白金表面での一酸化炭素の反応運動論を実時間 で観察する光学的手法を開発した。彼らはパターン形成に関する新しい現象も観測した 。

高い起伏の山脈 (Mountains in high relief)

山の起伏を決めているのは何であろうか? 局所的には、強固な岩が侵食によって急 峻な断崖を作ることが原因のように見える。しかし、SchmidtとMontgomery(p.617)は、 山塊規 模の大きさで計った物質強度と、岩磐層の地滑りが地形を決めているのではないかと 提案している。この規模で強度を見積ると、最も強度の弱い岩石の影響が強い。著者 は米国西部のカスケード山脈とサンタクルツ山脈のスロープの輪郭形状を、スロープ 安定性モデルと岩石強度の実験値を使って比較した。

多細胞の起源 (Multicellular origins)

先カンブリア紀において、いつ多細胞微生物が発生したかははっきり解ってない。問 題点の一つは、これら微生物が硬い部分を持ってないため化石になりにくいことにあ る。ShixingとHuineng(p.620)は、北部中国の集賢(Jixian、双鴨山のすぐ北)のTua nshanzi層群から17億年前の多細胞藻類に似た化石について報告している。この藻類化石 は最大1センチメートル長にまで達する。

母親なら我慢できること (What mother will tolerate)

父親からの遺伝の為に、通常、胎児は母親には組織適合性を示さない。では何故、胎 児が母親に接続している間に、母親の免疫システムが、胎児を攻撃しないのか? Ta furiたち(p.630)は、妊娠期間中、父親のアロ抗原に反応する母親のT細胞は免疫寛容と なる ことを示した。この免疫寛容は、胎児が誕生した後は喪失する。このことは 、妊娠中、なぜ自己免疫疾患の症状が、しばしば軽減されるかを説明しているように 見える。

ストレスのもとで働く (Working under stress)

餌食になる動物がその天敵を認識するように、ストレスに対する反応として、交感神 経システムが心臓血管活動を活性化し、エピネフリン ホルモンを放出する。Jansen たち(p.644)は、Cannonによって何年も前に仮定されたように、一連の神経細胞は、 これら両方の機能を合わせ持つことを示した。ラットの心臓と副腎神経細胞に2つの 異なるタイプの弱められたウイルスを注入した。これらウイルス性ラベルは視床下 部と脳幹の中の共通に見られる神経細胞にまで追跡可能である。

分離されて不平等に (Separated and unequal)

発生学において、どのようにして細胞が特殊化していくか、は中心的な疑問点である 。2つの報告がBacillus subtilis バクテリアにおける非対称細胞分裂で2つの異な る運命の子孫細胞;つまり母細胞と前駆芽胞(forespore)、を作るメカニズムを調べ ている(Roushによるニュース解説参照p.578)。Arigoni たち(p.637)は、胞子形成時 に胞子特有な遺伝子発現を活性化させるのに必要なタンパク質であるSpoIIE の局在 化について研究した。SpoIIEは分裂時に極隔壁に非対称に局在し、分裂が完了したと き、分裂部位にそのまま居る。Duncanたち(p.641)は、SpoIIEがセリンフォスファターゼ である ことを見いだした。局在化したSpoIIEは、胞子特異的転写因子σF の阻害に打ち勝つ ように作用をする。
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