AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 6, 1995


レーザーによる化学反応制御 (Laser control of a chemical reaction)

分子はレーザーで励起されたり光解離されたりするが、複数の生成物の 量を制御するために反応の経路を操作することは一般には難しい。Zhuた ち(p.77)は、ヨウ化水素(HI)の光励起による生成物が、エネルギーの吸 収/蓄積のされかたに応じて制御出来ることを報告している。これは、紫外フ ォトンを3つ一緒に作用させるか、あるいは3倍のエネルギーを持つ真 空紫外フォトンを作用させるかそのどりらかを利用する。2つのレーザーの位相の差 を調節することで、量子力学的な相互作用項を利用し、HI+とI+の相対的 量比を制御した。

アフリカの古代気候 (African paleoclimate)

アフリカにおける主要な気候の変化は過去数百万年の間に起きたものであり これが霊長類の進化と移動に影響を与えたかも知れない。DeMenocal(p.53)はアフリ カ東西海岸の沖合いの詳細な海洋(海底堆積物)データ(特に砂泥の移 動の)を示し、気候の変化を概観し、これを化石の記録と比較している。 アフリカでは顕著な寒冷化と乾燥化が280万年前に見られ、これは北 半球の氷河期と対応している。

より高く飛ぶ (Flying high)

新たな一連の超音速旅客機が計画されているが、エンジンの設計に関し ては、排出物の成層圏化学への影響を考えておく必要がある。Fahey たち(p.70)は、コンコルドが成層圏を超音速飛行する間、その排出物を採集した。 その結果によれば、排気ガスは地上でのテストから外挿推定出来るが、排出物中の多 量の粒子については、まだ十分理解されてない。これら粒子によるエア ロゾル表面積の増大がオゾンを更に減少させるかも知れない。

深くからの反射 (Deep reflections)

440キロと670キロの深さの、地球のマントルからの2つの顕著な地震反射波が認識 されているが、これは、マントル内で圧力が増加するに従って、鉱物組 成の変化に対応したものと思われている。マントル低部では鉱物組成は より安定していると思われているが、ここからの反射の証拠は少なく、 主にサブダクション ゾーン(subduction zone)(沈み込み帯) に関 係しているらしい。Le Stunff たち(p.74)は、アフリカの地下785と 1200キロの低部マントルからの2つの反射体の証拠を示している。 彼らはアフリカとカリフォルニアの基地を使って、最近起きたフィージー の深部地震から得られる地震波を解析した。

小惑星のポートフォリオ (Asteroid portfolio)

地球の軌道の近くに来る小惑星を画像化することは、その光学的サイズ が小さい(暗い)ことから、困難である。しかし、複数のレーダー観察によってこの物 体の詳細な画像が合成できる。Ostroたち(p.80)およびHudosnたち(p.84)は4179 Toutat i s の画像 を描いた。これは地球の軌道と交差する小惑星で3,600,000キロ(月の距 離の9.4倍)まで近付いた。2つのレーダー基地からのデータが一緒に使 われ高解像の Toutatis の画像が合成された。それによれば、長さが数 (several)キロメートルで二股状の形状をしており、たくさんのクレータ ーがある。衝突によって、その異常な回転が与えられたようだ。

着いたり離れたり (Off and on)

サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は細胞分裂周期の進行(cell cycle progression)に不可欠な調節者で、様々なレベルの制御を受ける。その 一つが酵素を活性化させるかあるいは阻害するような複数の部位にお けるリン酸化である。2つの報告がCDKsの制御についての新たな洞察を述 べている。Muellerたち(p.86)はアフリカツメガエル(Xenopus)から得られ たタンパク質キナーゼを同定したが、これはトレオニン-14 とチロシン15上でCdc2をリン酸化することで、Cdc2を不 活性化する。Myt1と呼ばれているキナーゼは間期(interphase)中活性で、 有糸分裂の間不活性である。PoonとHunter(p.90)は、トレオニン-160(この 残基はCdk2が活性であるためには、リン酸化されていなければならない)を Cdk2上で脱リン酸化するフォスファターゼ, KAP,の活性について述べている。 Kapは調整サブユニットサイクリンAが存在 しない条件でのみCdk2を脱リン酸化できる。

TAPの教訓 (TAP lessons)

Class I の主要組織適合性抗原(major histocompatibility complex=MHC) 分子は細胞質基質(cytosolic)ペプチド抗原と結合し細胞 の表面に抗原提示させる。Grandeaたち(p.105)は、class 1 分子の表 面発現が損なわれたヒトの突然変異体リンパ芽球細胞系を研究した。 class 1 H鎖(class 1 heavy chain)とβ2-ミクログロブリンの未成熟なヘテ ロダイマーが細胞内に形成されるが抗原のプロセシングに関連する輸送体 (transporter)であるTAPと会合し損なう。従って、効率的な会合とペプチ ドの負荷(loading)にはもう一つの遺伝子が必要である。

考えている時の言葉と行動中の言葉 (Words in thought and action)

人間の脳の個々の領域は色や動きと言った視覚刺激に対する処理局面毎に 特殊化している。それでは、それらの処理結果は何処に置かれどうやって 取り出されるのか?Martinたち(p.102)は脳の画像化の研究を報告ているが、 その研究では、被験者は 、見た対象物の色やその対象物に関係する行動を表現する言葉を作る ように求められる。これらの言語行動によって活性化される脳 の領域は、以前、色や行動処理に関わ っていた領域と重なっていたり、あるいはこれと近い部分である。蓄積 された知識の分散化は、脳内外皮における 処理の系統化と並列に行なわれているであろうと著者は推察している。

酵母のプリオン (Yeast prions)

プリオン(prion)とは、哺乳類のいくつかの神経退化障害を起こす感染性タ ンパク質であるが、これが最近酵母の中に同定された。Masison と Wickner (p.93)はプリオンの酵母内の表現型(phenotype)の生殖には、プリオン前駆 体タンパク質(prion precursor protein)であるUre2p の特定領域が必要で あることを示した。このUre2pは、通常窒素の異化作用(catabolism)を制御 する役目をする。プリオン表現型の誘導の後は、タンパク質分解に耐性を 示すようになる。プリオン誘導領域がUre2pから取り除かれると、窒素制御 機能はそのまま残るが、酵母細胞のプリオン表現型の発現の感受性 (susceptibility)はなくなる。
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