AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 22, 1995


ニコチンと神経伝達(Nicotine and synaptic transmission)

ニコチンは数多くの心理物理的作用を及ぼす。しかし、ニコチン性アセチルコリン (nicotinic acetylcholine)受容体(nAChRs)の役割について、中枢神経系(CNS)における 電気物理的研究によっても、後シプナスnAChRsによって直接仲介され、伝達される ことは明らかにされてない。McGehee たち(p.1692; Calquhoun による解説参照p.1681) によれば、ニコチンのナノモル程度の濃度でも(通常の喫煙者の血中濃度)前シナプス nAChRsを活性化させ、前シナプスの細胞内カルシウムを増加させ、グルタミン酸の ような高速興奮性伝達物質によって神経伝達を強化している。


混乱する対流(Convection confounded)

地球大気では水分子が雲を作るとき熱が放散される。対流が起きる1つの理由は水分子 は酸素分子や窒素分子に比べて軽いからである。しかし、巨大な惑星においては、主要 な凝縮可能な物質は、占有している水素分子やヘリウムに比べて重い。Guillot(p.1697 ) による理論的解析によれば、もし凝縮可能物質が充分豊富であれば(木星や土星におい ては 水、天王星や海王星においてはメタン)、その物質の移動による対流は起きない。熱は 放射、 あるいは拡散によって運ばれるであろう。


エルニーニョの予報(Forcasting El Nino)

エルニーニョ周期の長期予報に関するほとんどのモデルでは、いわゆる「春の障壁」と 呼 ばれているシステム固有の予測不能性に突き当たる。Chenたち(p.1699)は、初期条件の 設 定に大気と海面の相互作用を考慮し、それ以外では風のデータだけを考慮することでこ の 「春の障壁」を克服できることを、1970年代から1980年代のテストデータで示 した。 この改良は、初期条件から高周波数成分を取り除くことであるが、これは、初期条件が 、 大規模な低周期の気象現象にほとんど影響しないことに由来する。


螺旋とスピン(Spirals and spins)

螺旋構造を持つカオス的な流れがRayleigh-Benard対流の中に最近観察された。その他 の 欠陥構造は常にペアで現れるのに、この個々の螺旋にはそれぞれ手の形の構造が存在す る。 Ecke たち(p.1704)は、この系の対称性を破るために、回転を加えたところ、対称性を 破る磁場の存在のもとに、磁気スピンを持った多数の平行模様を見つけた。最近接相互 作用の仮定のもとに、 スピン-1 の要素によって螺旋が構成されているとする理論的モデルは、流体力学のデ ー タと定量的に合致する。


筋肉中のカルシウム(Calcium in muscle)

筋肉細胞の収縮は筋小胞体(SR)からのCa++の放出によって制御されている。SR 中の単 一 のチャネルの開口に連動しているように見える骨格筋細胞内のCa++の放出現象を検出す る ため、Tsugorka たち(p.1723)は、共焦点レーザー走査顕微鏡とCa++に敏感な蛍光染料 を 利用した。顕微鏡下の脱分極(depolarization)によって、各事象(収縮)に伴って Ca++の放出量が増加するのではなく、心筋の場合のように、基本的事象の回数が増加す る。 これらの事象の大きさの差が、これら2種の筋肉細胞におけるCa++放出制御の差を反映 するのであろう。


穀物と共に移動する(Going with the grain)

人間の力添えなしには伝搬しない、こうりゃん、米、とうもろこしのような大きな粒の 穀物は、自分で伝搬出来る少粒の野生種から突然変異によって得られた。Patersonたち (p.1714)は、これら野生種の多くの定量的な特徴の遺伝子座が、栽培種化に本質的で不 可欠の特徴;種の重量、成熟種の粉砕性、日照時間への開花依存性、を支配している。 6、500万年、遺伝子的に隔絶していたにもかかわらず、これらの穀物の特徴は小数 の 類似遺伝子によって説明される。


魅力的で刺激的(Attractive and stimulating)

Chemokinesはサイトカイン(cytokine)の仲間で、両者は構造的に類似しており、細胞の 増殖を推進するものと思われてきた。例えば、chemokine RANTES は低濃度ではリンパ 球や白血球の走化性と関連がある。今回、Baconたち(p.1727)は、高濃度のRANTESでも タンパク質のリン酸化、リンホカイン生産の促進、および、T細胞に加えた場合、増殖 を促進することを示した。したがって、RANTESは、すくなくとも試験管内では、抗原非 依存性のT細胞活性化剤として機能しうる。


インターフェロンによる規制(Interferon regulation)

STATs(signal transducers and activators of transcription=転写におけるシグナル の 伝達と活性化因子)はインターフェロン(IFNs)やサイトカインで処置された細胞で活性 化 される転写因子である。STATsはチロシンのリン酸化によって活性化され、この活性は セリンのリン酸化によって制御されている。David たち(p.1721;およびBarinaga によるニュース記事p.1673)は、マイトジェンによって活性化タンパク質(MAP)キナーゼ (a serine-threonine kinase)は生体内でも試験管内でも、インター フェロン-α/β受容体に会合する。大多数を占める陰性MAPキナーゼもまたIFNによる転 写 を阻止する。他の型の受容体からのシグナルを伝達することでよく知られているMAPキ ナ ー ゼもIFNによる転写の規制に関与しているらしい。


後シナプス クラスター(Postsynaptic clusters)

一群のグルタミン酸受容体、すなわち N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体が、なぜ特 別 に後シナプス原形質膜の特定領域のみでクラスター化するかについて、2つの論文が明 ら かにしている。Ehlersたち(p.1734)は、NMDA受容体サブユニットの細胞質尾部 (cytoplasmic tail)は、サブユニットDNAを導入した(トランスフェクト)細胞の原形 質 膜に伴う受容体のクラスター形成に不可欠であることを示した。このクラスタリングは そ の領域のリン酸化による制約を受けているだけでない。クラスタリング領域を含むよう に サブユニットをコードするメッセンジャーRNAのスプライシングを変更すること によっても、クラスタリングは制御されている。Kornauたち(p.1737)は、NMDA受容 体サブユニット2型の細胞質尾部と特異的に相互作用する後シナプス密度タンパク質,P S D-95,を同 定した。この相互作用は神経細胞同志の強力なシプナス接続を作り、維持するのに役だ っ ているようだ。


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