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Science October 7, 2005, Vol.310


自覚していない自己の決定(The Blind Decision-Maker)
意図・選択・内省はどのような関係にあるのだろうか?Johansson たち(p. 116)は
カードによる簡単なトリックを使って、初期選択したときの自覚と、これをこっそ
り変更したときの結果が異なった場合の解離をどのように意識しているかの単純な
決定問題に関する実験をした。披験者には、女性の顔印刷された2枚のカードのう
ち、より魅力的な方を選択させる。そして、すでに選択された他の候補と比較さ
せ、その決定が妥当かどうか検討するよう指示される。この検討段階で、時には、
選択結果を入れ替えることがある。このような変更がなされた多くの場合、被験者
は、自分が行った変更を自覚してなく、意図通りの決定であると正当化しようとす
る。(Ej)
Failure to Detect Mismatches Between Intention and Outcome in a
Simple Decision Task
p. 116-119.
化学的にスイッチするトランジスター(Chemically Switching Transistors)
無機半導体の溶液ベースでのプロセスは、現在のシリコン・ベースの技術に代わる
高スループットで安い製法を提供する潜在能力を持っている。Talapinと
Murray(p.86)は液相プロセスを用いて、鉛セレン(PbSe)半導体のナノ結晶から
なる導電チャネルをもつ電界効果型トランジスターを作成した。ナノ結晶はきちん
と配列し、初期には絶縁性である。この材料をヒドラジンで処理すると、ナノ結晶
間のスペーシングが減少する。これにより電子結合が強くなり、n型の伝導体を形成
した。ヒドラジンを脱着するような穏やかな加熱処理により、n型がp型にスイッチ
した。n型とp型間を容易に可逆的にスイッチできると、この技術で相補型金属酸
化物半導体(C-MOS)回路を製作することが可能になるだろう。(hk)
PbSe Nanocrystal Solids for n- and p-Channel Thin Film
Field-Effect Transistors
p. 86-89.
分子回転腕木(A Molecular Turnstile)
目的に応じた化合物の構造をデザインしてから、その実現の反応を工夫するラショ
ナル化学合成法の進歩は、
ギアやラチェットといった巨視的な工業部品を分子スケールにまで小さく作ること
が出来る。Fletcherたち(p.80;Siegelたちによる展望記事参照)はビアリール化合
物への一連の反応を用いて、回転腕木の動きに良く似た化合物を合成した。エナン
チオ選択性のラクトン還元と結びついた水酸基の保護と脱保護の一連の反応によ
り、著者たちは片方のアリール環の周りをもう片方のアリール環が決められた方向
に360度回転させることができた。試薬の選択により、炭素-炭素一重結合軸の周り
を時計回りに、或いは反時計回りにも回転できる。(KU,nk)
【訳註】エナンチオ選択性:試薬に組み込まれた構造によって基質の左・右を識別
して反応すること。
A Reversible, Unidirectional Molecular Rotary Motor Driven by
Chemical Energy
p. 80-82.
CHEMISTRY:
Inventing the Nanomolecular
Wheel
p. 63-64.
表面下のナノフィーチャを音で探る(Sounding Out Subsurface Nanofeatures)
10nm から 100nm の分解能での表面下部の非破壊的な可視化像は、極めて困難な課
題であるが、デバイス構築から細胞生物学まで広範囲な応用においても有用なもの
となろう。Shekhawat と Dravid (p89; Diebold による展望記事を参照のこと)
は、走査型近接場超音波ホログラフィーという手法を開発した。これは、散乱され
た超音波の位相と振幅の両方を利用して、ナノスケールの分解能で内部構造の可視
化像を作り出すものである。実施例としては、SiNの浅いトレンチ構造の高分子コー
ティング中のボイドの像や、赤血球中のマラリア寄生虫の可視化像などがあ
る。(Wt)
Nanoscale Imaging of Buried Structures via Scanning Near-Field
Ultrasound Holography
p. 89-92.
APPLIED PHYSICS:
Subsurface Imaging
with Scanning Ultrasound Holography
p. 61-62.
遠方にある明るいスポット(A Bright Spot in the Distance)
土星の大きな衛星タイタンでは、メタンに富む下層大気と衛星表面との間での物質
循環が活発であることで知られている。カッシーニ探査機は、最近タイタンで非常
に明るい表面の斑点の1つを調査した。それは、その他の場所での模様や斑点とは異
なった原因によるようである。Barnesたち(p.92)は探査機のいくつかの計測器から
得られたデータ、およびケック天文台のデータを分析し、この斑点はおそらく地上
に漂うメタン性の霧、あるいは雨として降ったメタンの水溜りにであろうと推測し
ている。(TO,nk)
A 5-Micron-Bright Spot on Titan: Evidence for Surface
Diversity
p. 92-95.
海洋での移動を追跡する(Tracking Marine Migrations)
Weng たち(p. 104) やBonfilたち(p. 100)は人工衛星追跡テクニックを使って、北
太平洋のサーモンシャーク(和名ネズミザメ)と南インド洋のホワイトシャーク(和名
ホオジロザメ)の習性や移動を個々に明らかにした(Pennisiによるニュース記事参
照)。内温性のサーモンシャークの生息域は、亜熱帯から亜寒帯水(Subarctic
Water)まで広がっている。ホワイトシャークは南アフリカ海岸南東部に沿った通常
の移動に加え、アフリカからオーストラリアまで1万キロメートルを超える距離をす
ばやく横切ることができる。(TO)
Satellite Tagging and Cardiac Physiology Reveal Niche Expansion
in Salmon Sharks
p. 104-106.
Transoceanic Migration, Spatial Dynamics, and Population
Linkages of White Sharks
p. 100-103.
一人二役(Doing Double Duty)
シロイヌナズナにおける一つの遺伝子、AVP1は植物細胞の液胞中の酸性度を制御す
るピロホスファターゼをコードしている。Liたち(p. 121;Grebeによる展望記事を
参照)はここで、まさにこの酵素が、植物ホルモンであるオーキシンの輸送にも影
響を与えていることを報告している。オーキシンの輸送を阻害すると、結果として
茎や葉および根の発育が阻害される。オーキシンの機能に対するAVP1の作用は、
オーキシン流出促進物質の分布を介して媒介される。(NF)
Arabidopsis H+-PPase AVP1 Regulates
Auxin-Mediated Organ Development
p. 121-125.
PLANT BIOLOGY:
Enhanced: Growth by Auxin: When a Weed Needs
Acid
p. 60-61.
遺伝子と波形(Genes and Waves)
徐波の脳波図振幅、あるいはδ波は睡眠とその制御の最も重要な側面の一つを示して
いる。というのも、そのような波形は睡眠の深さ、睡眠の定着、および睡眠の質を
決定づけるからである。δ振幅はまた、睡眠の必要性についての直接的な尺度でもあ
り、そして成長と加齢の期間でしっかりと制御されている。Maretたち(p. 111)
は、ビタミンA--活性化リガンド-依存性転写因子、レチノイン酸受容体β(Rarb)を
コードする遺伝子を同定し、その機能的な特徴を明らかにした。この遺伝子は睡眠
のあいだの徐波振幅を制御している。(NF)
Retinoic Acid Signaling Affects Cortical Synchrony During
Sleep
p. 111-113.
ニューロン修復を促進(Helping Neuronal Repair)
損傷後の中枢神経系における軸索の再生は、ミエリンとグリアに由来する阻害性シ
グナルのために部分的なものに限定されている。Koprivicaたち(p.106;Millerに
よるニュース記事を参照)は、多数の低分子をスクリーニングして、そのような阻
害を軽減する可能性がある分子を特定した。その結果から、ミエリンが神経突起成
長を阻害する内在性シグナル伝達に、上皮成長因子受容体(EGFR)が関係している
ことが示された。スクリーニングされた約400個の低分子のうち、チロシンキナーゼ
阻害剤であるtyrphostinの変異型が特に有効であった。EGFR阻害剤は癌患者用に既
に臨床で使用されているため、神経損傷の治療において、これらの知見を迅速に利
用することができる。(NF)
EGFR Activation Mediates Inhibition of Axon Regeneration by
Myelin and Chondroitin Sulfate Proteoglycans
p. 106-110.
殺し屋インフルエンザの起源を探る糸口(Clues for the Origin of Killer
Flu)
1918年のインフルエンザ大流行では、第一次世界大戦の戦いでの死者数よりも多く
の人が死んだ。しかしながら、このウィルスが極めて高い病毒性を得た理由は、未
だ謎である。Tumpeyたち(p. 77;Kaiserによるニュース記事を参照)は、逆遺伝学
的方法論を使用して、流行したウィルスの8種の遺伝子セグメントすべてを保有する
インフルエンザウィルスを作製した。引き続いて、マウス、ニワトリ胚、およびヒ
トの肺細胞において病原性についての研究を行ったところ、1918年のウィルスで
は、血球凝集素遺伝子とポリメラーゼ遺伝子が、高い病毒性の原因であることが示
された。1918年のウィルスは現在の高病原性系統の分子的特性を有してはいない
が、しかしながらニワトリ胚に対しては致死的である。完全に再構築されたウィル
スは急速にマウスを殺し、培養ヒト肺細胞からはなはだしく放出される。マウスに
おける肺の病変は、高ウィルス血症、肺胞構造の破壊、そして特徴的な浮腫-出血性
病変を示す。この研究により、来るべきインフルエンザ流行の場合の、治療上の選
択肢のための予想的洞察が提供される。(NF)
Characterization of the Reconstructed 1918 Spanish Influenza
Pandemic Virus
p. 77-80.
VIROLOGY:
Resurrected Influenza Virus
Yields Secrets of Deadly 1918 Pandemic
p. 28-29.
思い込みへの挑戦(Challenging Preconceptions)
自分自身のパーソナリティについてのわれわれの知識は、自分自身について長年に
わたって熟知しているところからくるが、同様にして、我々はしばしば自分がよく
知っている他人のパーソナリティについてもかなり正確に計ることができる。これ
とは対照的に、われわれが保持しているステレオタイプは、公的な人や有名人など
についての知識を寄せ集め、偶然あるいは無関係に出会った個々人についての特異
的側面を混ぜ込んでできあがった半端な知識の混合物に基づいている可能性があ
る。Terraccianoたちは、自己レーティング評価を引き出すための確立された性格目
録に加えて、およそ50カ国にもわたる国籍の特定の人たちについての観察者による
レーティング評価と、そうした国々生まれの人たちに関する神話的なステレオタイ
プについての同様なパーソナリティ評価を引き出すための性格調査を蓄積してき
た(p. 96; またRobinsによる展望記事参照のこと)。特定のレーティングについての
最初の2つのレーティング評価のセットは、それぞれのグループのサンプル全体にわ
たって統合すると互いによく相関している。しかし、そのどちらも、国民性につい
ての共通の認識とは合致していなかった。(KF)
National Character Does Not Reflect Mean Personality Trait
Levels in 49 Cultures
p. 96-100.
PSYCHOLOGY:
The Nature of Personality:
Genes, Culture, and National Character
p. 62-63.
性の戦い(Battles of the Sexes)
哺乳動物では、雄性配偶子が雌性(XX)に対する雄性(XY)という形で子孫を特殊化し
ているが、鳥類では、雌性配偶子が雄性(ZZ)に対する雌性(ZW)という形で子孫の決
定権をもっている。AlbertとOttoは、双方の性において発現している誇示(display)
形質についての対立遺伝子の進化を探求し、そして性の拮抗選択がどのようにして
性決定のモードに依存してオスに有利になったり、或いはメスに有利になったりす
るかを考察するモデルを開発した(p. 119)。XY種では、メスは息子の犠牲のもとに
娘の適応度を増加させる方向で進化し、この結果、雄性の誇示行動はあまり派手な
ものにならない。対照的にZW種では、メスは娘を犠牲にして息子の適応度の増加に
有利な方向で進化しているようで、これがオスの誇張された誇示行動の進化に導
く。このモデルは、ZWの性決定を有する鳥や蝶では、性的に選択されるキャラク
ターが一般により誇張されたものである理由を説明できる可能性がある。(KF)
Sexual Selection Can Resolve Sex-Linked Sexual
Antagonism
p. 119-121.
プロトンの動き(Protons in Motion)
水溶液中で、酸性分子(ROH)から塩基性分子(B-)へのプロトン移動は最
も速い、かつ最も一般的な化学反応の部類に入る。周りを取り囲んでいる水分子
が、明らかにこの反応を容易にしているが、水分子の関与に関するその詳細な機構
は曖昧である。Mohammedたち(p.83)は高速赤外分光法を用いて、光励起によるピレン
誘導体の酸からクロロアセテート塩基へのH+移動の際の中間体を観察し
た。100ピコ秒位存在する過渡的な複合体の吸収は、酸から塩基へとH+
が行き来するEigenカチオン(H3O+)構造の存在を示唆してい
る。この構造は、長い間仮説として提唱されていたグロットウス(von Grotthuss)の
移動機構と一致するものである。重水素化した類似化合物のスペクトルもこの同定
を支持している。(KU)
【訳註】
・グロットウス(von Grotthuss)の移動機構:非常に早いプロトン移動を水分子の水
素結合を通してのプロトンジャンピング機構で説明。
・Eigenカチオン:RO-H3O+B- のよ
うなイオン複合体によって安定化された構造
Sequential Proton Transfer Through Water Bridges in Acid-Base
Reactions
p. 83-86.
星状細胞、アデノシン、そしてシナプスの可塑性(Astrocytes, Adenosine, and
Synaptic Plasticity)
グリア細胞は、いかにして神経伝達を変調したり、制御しているのだろう
か?Pascualたちは、星状細胞からの神経伝達物質の遊離を条件的に抑制するため
に、遺伝子組み換えマウスを作り出した(p. 113)。その遺伝子組み換えマウスの海
馬では、基礎となるシナプス伝達は増加し、長期増強は減少した。薬理学的研究は
さらに、星状細胞から遊離したアデノシン・三リン酸に由来するアデノシンが、こ
の実験におけるシナプス活性の決定的なモジュレーター(modulator)である、という
仮説を支持している。(KF)
Astrocytic Purinergic Signaling Coordinates Synaptic
Networks
p. 113-116.
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