Science June 17, 2005, Vol.308
チューブリン修飾酵母の同定(Tubulin-Modifying Enzymes Identified)
チューブリンのポリグルタミル化は、微小管のいくつかの機能とかかわりを持って
いる。Janke たち(p. 1758,および、2005年5月12日オンライン出版)は、ニューロン
のチューブリン・ポリグルタミラーゼが、保存型のチューブリン チロシンリガーゼ
様 (TTLL) タンパク質、TTLL1を含むタンパク質複合体である証拠を示した。単細胞
で繊毛性の淡水原虫のテトラヒメナ好熱菌(Tetrahymena thermophila)は、少なくと
も2つの保存型TTLLを持ち,これがポリグルタミラーゼとして作用する。この2つの
ポリグルタミラーゼは基質の好みと細胞内の局在化において差違があり,これがテト
ラヒメナにおける毛様体の運動と細胞分裂に寄与している。(Ej,hE)
Tubulin Polyglutamylase Enzymes Are Members of the TTL Domain
Protein Family
p. 1758-1762.
淡水化はゆっくり(Freshening Up Slowly)
大規模な海洋熱塩循環(thermohaline circulation)の強さは北大西洋の海水塩分に
一部依存している。過去30年間以上に渡り海水上層の塩分濃度が減少し続けたが、
この変化を生み出すために真水がどの程度加えられなければならないのかよく判っ
ていない。CurryとMauritzen(p. 1772)は、最近50年間でのノルディック海と亜極海
盆(SubpolarBasin)海洋において、そこに淡水が入ったことで何があったのかを明ら
かにするため、水温、塩分濃度そして密度の変化歴を再現した。彼らが計算した淡
水の流量は多いが、次の世紀あるいは200年以内に熱塩循環を弱めたり停止させたり
するほど多くはないと思われる。(TO)
Dilution of the Northern North Atlantic Ocean in Recent
Decades
p. 1772-1774.
ナノワイヤーとSQUID(超伝導量子磁束干渉計)(Nanowires and SQUIDs )
テンプレートとして分子を用いて金属ワイヤー膜が作れれば、自己組織化回路やデ
バイス形成への道が開かれる。Hopkinsたち(p. 1762)はテンプレートとしてトレン
チの端から端まで広げられた二本鎖のDNAを用いて、二本のしっかりと結合した超伝
導ナノワイヤーの薄膜を形成した。その構造は表面的には超伝導量子磁束干渉
計(superconducting quantum interference device;SQUID)に似ており、また抵
抗値が磁場の関数として変動するけれど、磁場掃引の挙動をしっかり観測すると標
準メソスコピックな超伝導デバイスの挙動といくらか異なった動きが見られ
る。(hk)
Quantum Interference Device Made by DNA Templating of
Superconducting Nanowires
p. 1762-1765.
H3O+を越えて(Beyond H3O+)
pH 測定の容易さにもかかわらず、水溶性プロトンの分子的な描像は捉えどころがな
く、最近の研究によると、標準的な H3O+構造は、精密に記
述された結合のような簡単明瞭なものではないことが示されている。Headrick たち
(p.1765) は赤外分光を用いて、ちょうど二つの水分子間で共有されているプロトン
から出発して、ボトムアップ的に構造を探索した。彼らは、1個から9個の付加的
な水分子の付加とともに生ずる、その結合構造の変化を観察した。水和の殻構造を
拡大すると、プロトンがひとつの水分子(H3O+)に束縛され
ている構造と、二つの水分子(H2OHOH2+)に等し
く共有される構造とのどちらかが優勢となった。これらの結果は、バルク中の配位
はこれらの両極端な構造の間を揺らいでいる可能性があることを示唆してい
る。(Wt)
Spectral Signatures of Hydrated Proton Vibrations in Water
Clusters
p. 1765-1769.
長命の地震(A Long-Lived Earthquake)
2004年12月26日にスマトラ−アンダマン地震は、地球上の多くの場所で注目すべき
変形を生成した。Banerjeeたち(p.1796;2005年5月19日オンライン出版)は、震源か
ら遠い位置と近い位置でGPS計測(global positioning satellite measurements)を
行い、破断がどのように進行したのか、そして放出されたエネルギー量の推定を
行った。破断の東側の観測点は西方向に移動し、逆に西側の観測点は東方向に移動
して、地震のスラスト運動と一致している。遠方変位から逆算して得られるエネル
ギー発生源を地震波からの推算と比較すると、地震発生から1時間後ですら膨大なエ
ネルギーが放出されたことを示している。(TO,nk)
The Size and Duration of the Sumatra-Andaman Earthquake from
Far-Field Static Offsets
p. 1769-1772.
ガラス磨き(Clearing Up Glass)
人工ガラスはメソポタミアとエジプトにおいて、紀元前1000年から1500年も遡って
見られる。職人によって加工される前のガラスの供給源は良く分かってないが、多
くの議論では、メソポタミアの方に分がある。Rehren and Pusch (p. 1756; および
Jacksonによる展望記事参照)は、エジプトのナイルデルタ東部において1250 B.C.の
ガラスで覆われたセラミック容器とスラグについて報告している。この物質の特性
から、これがかつて1000℃近くで焼かれ,この場所が未加工ガラスの主要な産地で
あったことと矛盾しない。(Ej,hE)
Late Bronze Age Glass Production at Qantir-Piramesses,
Egypt
p. 1756-1758.
ARCHAEOLOGY:
Enhanced: Glassmaking in Bronze-Age
Egypt
p. 1750-1752.
患者特異的幹細胞が現実となる(Patient-Specific Embryonic Stem Cells
Become a Reality)
患者特異的な多能性セルラインが得られたことは、特定の患者に適応した細胞治療
の第一歩である。Hwang たち(p. 1777; 2000年5月20日オンライン出版; Vogelによ
る同日のニュース記事も参照)は、体細胞の核転移法を改良して、胚性幹細胞のセル
ラインを分離した。これらのセルラインは核DNAと一致しており、試験管内で、体細
胞核の提供患者の細胞の免疫学的適合性を示した。しかし、培養中に導入された残
りの動物成分が除去され、かつ治療移植に欲しい細胞型が何であれ、安定した細胞
が高信頼性で効率的に、方向付け分化(directed differentiation)が可能になるま
では、この患者特異的な細胞は臨床前分析にしか利用できない。関連する政策
フォーラムにおいて、Magnus and Cho(p. 1747; 2005年5月19日オンライン出版)
は、治療目的以外で寄せられた卵母細胞によって問題になる倫理的側面を議論して
いる。(Ej,hE)
Patient-Specific Embryonic Stem Cells Derived from Human SCNT
Blastocysts
p. 1777-1783.
ETHICS:
Issues in Oocyte Donation for
Stem Cell Research
p. 1747-1748.
懐かしの我が家(Home Sweet Home)
マメ科植物は共生根粒バクテリアの助けを受けて、大気中窒素を固定する。根粒バ
クテリアが根に感染すると、複雑な発育プログラムが開始され、共生バクテリアを
収容する根粒を形成する(UdvardiとScheibleによる展望記事を参照)。Smitた
ち(p. 1789)およびKaloたち(p. 1786)は、バクテリアがその存在について植物
にシグナルを送るシグナル伝達カスケードの中心的な要素を同定した。構成的に発
現される植物タンパク質、NSP1とNSP2は、おそらくバクテリアの根粒形成因子のシ
グナルに対して初期に反応するように用意されている転写因子である。NSP1とNSP2
は、最初の根粒形成因子に誘導されるカルシウムシグナルに反応して、遺伝子転写
の変化を生じるようである。(NF)
PLANT SCIENCE:
GRAS Genes and the
Symbiotic Green Revolution
p. 1749-1750.
NSP1 of the GRAS Protein Family Is Essential for Rhizobial Nod
Factor-Induced Transcription
p. 1789-1791.
Nodulation Signaling in Legumes Requires NSP2, a Member of the
GRAS Family of Transcriptional Regulators
p. 1786-1789.
間接的防御(Indirect Defenses)
いくつかの植物は過敏性の反応を使用して真菌感染を防御する。感染部位では、侵
入された部位の植物細胞が細胞死を起こして取り除かれ、感染の伝播を遅らせる。
このプロセスは、病原体から導き出された遺伝子および植物内部の対応する耐性遺
伝子に依存している。しかしながら、Cladosporium fulvumがトマトの葉に感染する
場合、これら2つの遺伝子は直接的には相互作用していないようである。Rooneyた
ち(p. 1783、2005年4月12日オンライン出版)は、防御反応を媒介する際の植物プ
ロテアーゼRcr3の機能を解析した。病原体の無毒性因子、Avrは細胞外で分泌される
が、細胞外ではその因子はトマトのRcr3プロテアーゼと相互作用する。同時に、こ
の相互作用により膜結合型の宿主耐性因子、Cf-2にシグナル伝達され、植物
の防御反応が開始される。(NF)
Cladosporium Avr2 Inhibits Tomato Rcr3 Protease Required for
Cf-2-Dependent Disease Resistance
p. 1783-1786.
マウスの脳とヒトの脳(Of Mice and Men)
脳の左半球と右半球との差異は、それぞれの半球が、ある程度特殊化されているこ
とを意味しており、右半球はより"芸術的"であり、左半球はより"数学的"である。
これらの差異は発生初期に生み出され、それぞれの半球と関連する技能は、人間が
成熟するにつれて磨かれる。Sunたち(p. 1794、2005年5月
12日にオンライン出版)はここで、ヒト脳の発生の初期段階における遺伝子発現を
解析し、非対称的に発現されている多数の遺伝子を同定した。これらの遺伝子の一
つ、LMO4についての徹底的な解析を行い、関連する遺伝子がマウス脳の発生に際し
てどのように発現されているのかを比較した。ヒト脳は同様の左右非対称性を一貫
して獲得するが、一方、マウスにおいては、非対称性がランダムに発生する、とい
うことを示唆している。(NF)
Early Asymmetry of Gene Transcription in Embryonic Human Left
and Right Cerebral Cortex
p. 1794-1798.
失望についての神経のサイン(The Neural Signature of Disappointment)
脳の構造のいくつかに含まれているニューロンは、ドーパミンに対して、報酬の大
きさと報酬の期待との差に正の相関をするように応答する。しかし、現実の人生に
おいてしばしば生じるように、われわれの期待が裏切られたときには、何がおきる
のだろう。Minamimotoたちは、視床の正中中心核(centromedian nucleus)におい
て、小さな報酬の期待あるいは分配と相関する報酬-関連シグナルを観察し
た(p.1798)。このシグナルは、失望あるいは不幸と特異的に関連するものであるら
しい。この核を電気的に刺激すると、タスク中の行動が異なる報酬構造を持つほう
へ変化した。つまり、失望を感じると、率直な行動過程の遂行が邪魔されるのであ
る。(KF)
Complementary Process to Response Bias in the Centromedian
Nucleus of the Thalamus
p. 1798-1801.
チャネルを介して腎臓を(TRP'ing Up the Kidney)
巣状分節状の糸球体硬化症(FSGS)においては、腎臓内の微小な血管の傷や硬化に
よってタンパク質の尿への漏出がもたらされる。FSGSは腎疾患の最終段階の重要な
原因であり、その有病率は増加しつつある。細胞骨格タンパク質や構造タンパク質
の破壊が病原性における1つの役割を果たしていることが知られている。このたび
Winnたちは、この病気への別の経路について記述している(p. 1801;2005年5月5日
オンライン出版)。FSGSのある遺伝形態を有する大家系を研究することで、彼らは、
原因となる変異が一過性受容器電位陽イオンチャネル6(TRPC6)をコードする遺伝子
に生じていることを見いだした。このTRPC6タンパク質は細胞へのカルシウム流入を
仲介すると信じられているものである。チャネルは薬理学的操作の影響を受けやす
いことが多いので、この研究は、TRPC6が慢性腎臓病における有益な治療の標的であ
る可能性を高めるものである。(KF)
A Mutation in the TRPC6 Cation Channel Causes Familial
Focal Segmental Glomerulosclerosis
p. 1801-1804.
偶発的な攻撃(Accidental Attacks)
腕足動物のほとんどすべての化石記録に見られる穿孔は、概して、持続的に捕食さ
れてきたせいだとされてきた。Kowalewskiたちは、進化の物語はそう単純なもので
はなかったことを示している(p. 1774)。文献記録に加えて、古代と現在の腕足動物
も研究することで、彼らは、穿孔で印付けられる捕食は常に低いレベルにあり、古
生代初期からほんの少しだけ増加した、ということを示している。さらに、相対的
に少ない穿孔は、サイズにおいても非常にまちまちであった。こうしたデータは、
腕足動物は、まれにしか攻撃されることはなかったし、今もないということを意味
している。攻撃されたとしてもそれは間違えてであり、腕足動物は進化の軍備競争
に巻き込まれてはいなかったのである。時間経過にともなうわずかな増加は、他の
種との共進化によってもたらされた海洋性捕食者の全体の増加に見合うものであっ
た。(KF)
Secondary Evolutionary Escalation Between Brachiopods and
Enemies of Other Prey
p. 1774-1777.
海馬への皮質性入力(Cortical Input to the Hippocampus)
海馬への主となる入力はいまだ完全にはわかっていない。Hargreavesたちは、空間
的情報と非空間的情報は、内側と外側とが機能的に分かれている嗅内皮質を介した
別々の経路を通って海馬へ到達する、ということを示唆している(p. 1792)。四角く
閉ざした場所で食物を求めて走り回るラットにつけた電極で、スパイク活性が記録
された。内側嗅内皮質のニューロンは、海馬の場所細胞にあるニューロンにおける
ものよりわずかにばらついた、高度に特異的な発火の場を有している。しかし、外
側嗅内皮質にある細胞は、たとえあったにせよほとんど空間的変調を示さなかっ
た。(KF)
Major Dissociation Between Medial and Lateral Entorhinal Input
to Dorsal Hippocampus
p. 1792-1794.