Science June 3, 2005, Vol.308
鳥なのか恐竜なのか?(Is It a Bird, Is It a Dinosaur?)
雌鳥は産卵開始時に、肢の中に骨髄骨(Medullary bone)と呼ばれる特殊なタイプの
骨を沈積する。この骨組織(bone tissue)は卵にカルシウムを供給する源であ
る。Schweitzerたち(p.1456)は、ティラノサウルスレックスの後肢から、雌鳥が沈
積している骨髄骨によく似た骨組織を見つけ出した。これらのデータは、ティラノ
サウルスと鳥との間の関係を主張し、恐竜における性を区別する手段を提供す
る。(TO)
Gender-Specific Reproductive Tissue in Ratites and
Tyrannosaurus rex
p. 1456-1460.
地球温暖化の遅延(A Lag in Global Warming)
地球の気候は、太陽から放射された熱を吸収する量と地球から宇宙空間に放射され
る量とが釣り合ったとき、熱的な安定状態になる。Hansenたち(p.1431,published
online 28 April 2005)は気候モデルの結果を報告し、海洋の熱含有量における最近
の変動の計測結果よりそのモデルの妥当性を確認している。それによると今日地球
は、宇宙空間へ放出するエネルギーよりも1平方メートル当たり0.85 ±0.15ワット
多いエネルギーを太陽から吸収している。彼らの発見は、気候システムの応答が放
射強制力(radiative forcing) に対して遅れていることを確認するものである。彼
らは、気候システムの熱的慣性(thermal inertia)により、 大気中の温室効果ガス
濃度が今後増加しなくても、気候は摂氏0.5度以上温暖化することを予測している。
(TO, Ej)
Earth's Energy Imbalance: Confirmation and
Implications
p. 1431-1435.
バイオマスをバイオディーゼル用燃料に(Converting Biomass to Biodiesel)
バイオマス中の炭化水素の酸化物を飽和アルカンに変えることが出来ると、再生資
源からよりクリーンな燃料への道が開ける。最近、例えば単純な砂糖からヘキサン
のような揮発性のアルカン化合物を作るといった反応が実証されている。Huberた
ち(p.1446:Rostrup-Nielsenによる展望記事参照)は、バイオマス由来の炭化水素の
酸化物をn-C7からC15の炭素数の液状アルカンに変えた。こ
のアルカンはディーゼル用燃料として必要な炭素数であり、かつ硫黄を含んでいな
いという利点を持っている。このプロセスにおいては、グルコースやキシロースを
酸触媒による脱水反応でアルデヒドに変える。次に、この生成物に、最初交差カッ
プリング反応により他のアルデヒドにする場合もあるが、水素添加反応と固体塩基
触媒によるアルドール縮合反応を行う。ひき続いて、酸と金属の部位を持つ二機能
の触媒による脱水反応と水素化反応によりアルカンが形成される。(KU)
Production of Liquid Alkanes by Aqueous-Phase Processing of
Biomass-Derived Carbohydrates
p. 1446-1450.
CHEMISTRY:
Making Fuels from
Biomass
p. 1421-1422.
角度をもてあそんで、(Playing the Angles)
ブロック共重合体は、縞模様や市松模様とかの単純な模様を作るためにはきわめて
重要であるが、その理由は、共有結合した2つのポリマーの長さを変えるだけでパ
ターンや大きさが容易に制御できるからである。しかし、パターン寸法を変える度
に、新しいポリマーを用意する必要があり、そして、基本的パターンを変化させる
範囲には制限がある。Stoykovichたち(p.1442) は、二元ブロックコポリマーに2元
ブロックの成分であるホモポリマーを加えることで、高精度に角度制御可能な、特
異なパターンを創造した。(Ej)
Directed Assembly of Block Copolymer Blends into Nonregular
Device-Oriented Structures
p. 1442-1446.
アルミニウムは5配位子をとる(Aluminum Takes Five)
水溶性の金属塩は、水中にすむ生物や水を飲む生物の化学プロセスに重要な働きを
する。特に、アルミニウムは大量に存在することと毒性のために良く調べられてい
る。強酸性中では三価のアルミニウムは6つの水分子と結合し、塩基性溶液中では
4つの分子と結合する。しかし、弱酸性条件下では自然界でもっともありふれた
Al(III)イオンは、その決定的な構造がはっきりしていない。多くの可能性のある相
互転換性の構造の中で、短寿命の5配位子の構造が提案されており、このモデルに
よって固体鉱物が示す特異な立体形状の出現理由が説明できるかも知れない。しか
し、他の水溶性金属イオンが5配位をとるという先行文献は存在しない。Swaddle た
ち(p. 1450, published online 28 April 2005)は、pH4〜pH7におけるAl(III)の圧
力依存性のプロトンと水の交換速度を測定し、コンピュータシミュレーションとの
比較により、水中では5配位子のAl(III)であることの可能性を見つけた。(Ej,hE)
Kinetic Evidence for Five-Coordination in AlOH(aq)2+
Ion
p. 1450-1453.
ビデオが捉えた(Caught Video)
アイボリー色のくちばしのキツツキ(Campephilus principalis)は、かっては合衆国
の南東部に拡がる発達した森林地帯で見出されていたが、ここ50年以上にわたって
北アメリカ大陸での生存にかんする決定的な証拠が無かった。Fitzpatrickた
ち(p.1460,2005年4月28日のオンライン出版;表紙とWilcoveによる展望記事参照)は
アーカンソー州東部のBig Woodでの精力的な探索を行い、少なくとも一羽のオス鳥
の存在を報告している。繰り返しの視覚による発見とビデオクリップの解析から、
これらの鳥がアイボリー色のくちばしのキツツキであることが確認された。22万ヘ
クタールにも渡るミシシッピー川沿い低地森林においてさらに広範な探索が行われ
たがその外の場所での発見は出来なかった。この事実は、この鳥の個体群密度が極
めて低いことを示唆している。(KU,nk)
Ivory-billed Woodpecker (Campephilus principalis)
Persists in Continental North America
p. 1460-1462.
ECOLOGY:
Enhanced: Rediscovery of the Ivory-billed
Woodpecker
p. 1422-1423.
上皮細胞の増加(Epithelial Escalator)
線形動物の鞭虫(Trichuris muris)に感染したマウスの盲腸で見られる上皮細胞の代
謝回転の増強は、腸内寄生虫や、そしておそらくは他の腸内病原菌に対する宿主防
御機構として作用している可能性がある。鞭虫の感染に抵抗性のあるマウスと感受
性のマウスを用いて、Cliffeたち(p.1463)は、感受性のマウスにおいて陰
か((crypt)上皮の増殖が増加したことを示している。陰かへの細胞移動を目安とし
た上皮細胞の代謝回転が抵抗性のマウスでより速くなっていた。かくして、感受性
のマウスにおける陰かの過形成は上皮細胞の代謝回転に不相応な上皮の増殖の増加
を反映している。(KU)
Accelerated Intestinal Epithelial Cell Turnover: A New
Mechanism of Parasite Expulsion
p. 1463-1465.
父親の後成的な問題(The Epigenetic Sins of the Father)
化学療法、放射線療法、および環境有害物質はDNA損傷を引き起こす可能性があり、
それが修復されない場合には、次世代に伝達される可能性がある。曝露の後に、
種々の作用が第一世代(F[1])において見られたが、次世代以降に影響を与えるか
どうかは不明確である。Anwayたち(p. 1466;Kaiserによるニュース記事を参照)
はここで、胚発生の重要な段階のラットを内分泌かく乱化学物質に曝露した場合、
後の世代(F[1]からF[4]まで)において、生殖能力の低下を示すことを明らかにし
た。世代を越えた雄性生殖能力の欠失は、DNAの塩基変異では無くDNAのメチル化の
変化と相関している。このように、内分泌かく乱化学物質は、雄性生殖能力に対し
て世代を越えた作用を有しており、このメカニズムには、後成的な変化が関与して
いるようである。(NF)
Epigenetic Transgenerational Actions of Endocrine Disruptors
and Male Fertility
p. 1466-1469.
アンカーとアミロイドの作用(Anchors and Amyloid Effects)
プリオン疾患やアルツハイマー病などタンパク質の誤った折り畳みに関する疾患に
おいて、、脳内に蓄積されるアミロイドが、これらの神経変性性症候群に関連する
神経毒性の直接的な原因であるかどうかは、分かっていない。Chesebroた
ち(p.1435;Aguzziによる展望記事を参照)は、細胞から分泌されるグリコシルホ
スファチジルイノシトール(GPI)-陰性プリオンタンパク質(PrP)を発現するトラ
ンスジェニックマウスを使用したスクレイピー感染実験について記載している。ス
クレイピーの原因は、これらのマウスに感染し、そして疾患-関連プロテアーゼ耐性
プリオンタンパク質(PrP-res)が生成されたが、臨床的疾患は、600日以上の観察
期間中では検出されなかった。臨床的疾患がないことは、脳内にアミロイド斑とし
て(マウススクレイピーおよびヒト海綿状クロイツフェルト-ヤコブ病において通常
見られる散在性PrP-resとしてではなく)蓄積されるPrP-resと相関しており、そし
て超微細構造レベルでの神経病理学ではアルツハイマー病の神経病理学と類似して
いた。アミロイドPrP-resと非アミロイドPrP-resとのあいだでの脳での病原性作用
におけるこれらの顕著な差異は、アミロイドPrP-resが、実際には非アミロイド
PrP-resよりも毒性が少ないことを示唆している。さらに、PrP GPIアンカーはスク
レイピー感染の病原性作用とプリオン疾患のあいだのin vivoでのアミロイド生成に
影響を与えている。(NF)
Anchorless Prion Protein Results in Infectious Amyloid Disease
Without Clinical Scrapie
p. 1435-1439.
CELL BIOLOGY:
Prion Toxicity: All Sail
and No Anchor
p. 1420-1421.
骨形成のシグナル伝達(Signaling Bone Formation)
質量分析の改良により、今や、培養細胞由来のリン酸化タンパク質の広範囲な定量
とシグナル伝達ネットワークの比較が可能である。Kratchmarovaたち(p.1472)
は、チロシン-リン酸化タンパク質(および関連するタンパク質)を免疫沈降し、そ
して混合物中のペプチドの相対的な存在頻度を決定し、2種類の関連する受容体チロ
シンキナーゼ--すなわち、上皮成長因子(EGF)受容体と血小板由来成長因
子(PDGF)受容体--により開始されるシグナルのスペクトルを特定した。ヒト間葉
性幹細胞は、EGFによって骨形成性細胞へと分化するように誘導されたが、PDGFに
よっては誘導されなかった。また、2種類のシグナル伝達ネットワークの比較か
ら、PDGFはホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路を活性化した
が、EGFはそのような作用を持たないことが示された。PI3K経路が阻害された場
合、PDGFは、EGFと同程度に効果的に骨分化を促進することができた。(NF)
Mechanism of Divergent Growth Factor Effects in Mesenchymal
Stem Cell Differentiation
p. 1472-1477.
結核薬への抵抗性についての洞察(Insights into Tuberculosis Drug
Resistance)
抗生物質フルオロキノロンは、結核の治療に際してますます使われるようになって
きている。この抗生物質は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)における酵
素-DNA複合体への結合を介してDNAジャイレースを抑制することで作用している。マ
イコバクテリウムM.smegmatisにおける遺伝子選択によってMFpAというタンパク質が
同定されたが、これはフルオロキノロンへの抵抗性を与えるものである。Hegdeたち
は、M.tuberculosisからのMfpAの構造を2.0オングストロームの分解能で決定し
た(p. 1480; またFerberによるニュース記事参照のこと)。その構造は、大きさ、形
状、電荷分布の点で二重らせん状のDNAをまねをしたような折り畳みの右旋性四辺形
状のβ-へリックス構造になっていて、そのせいでそのタンパク質がDNAジャイレース
との結合をDNAと競い合うのである。(KF)
A Fluoroquinolone Resistance Protein from Mycobacterium
tuberculosis That Mimics DNA
p. 1480-1483.
コアの地震の特徴を掴まえる(Capturing the Core's Seismic Signature)
地震動におけるP波は圧縮波であり、地球内の液体状の鉄からなる外部コアも含め
て、このP波は液体中を通過するが、S波は通過できない(剪断波の信号が存在しな
いことは、この外部コアが液体であると判る理由のひとつである)。一方、地球の外
部コアを通過するP波は、固体状の内部コアを通過するときにS波に変換され、そ
して、内部コアから抜け出るときにP波に戻る。地球の内部コアは固体である
が、PKJKP波として知られている、この特性波を探知することは困難で、さまざまな
論争を呼んできた(PKJKP波におけるKは外部コアを、Jは内部コアを指してい
る)。Cao たち (p.1453, 2005年4月14日にオンライン出版) は、ドイツにある地震
計アレイを用いてこの検出困難な波の検知について報告しており、地球の固体中心
における剪断波のいくつかの特徴について推論している。(Wt)
An Observation of PKJKP: Inferences on Inner Core Shear
Properties
p. 1453-1455.
実空間における酸化物の真の姿(A Real Space View of an Oxide)
ニッケル-アルミニウム合金の(110)面上に成長した極薄アルミニウム酸化物は、有
用なモデル系を考察するのに良く利用されてきたが、回折解析データに基づく薄膜
構造が最近報告された。Kresseたち(p. 1440) は、走査型トンネル顕微鏡実験で得
られた種々の構造と、初期(ab initio)モデルについて議論した。その結果、以前考
えられていたAl2O3構造ではなく,全体的には
Al10O13の構造で、、最上のアルミニウム原子はピラミッド
形状や4面体形状に配位しており、すべてのバルクのアルミナ相とも異なる。彼らに
よれば、電子結合エネルギーと振動スペクトルはこの実験結果と整合する。(Ej,hE)
Structure of the Ultrathin Aluminum Oxide Film on
NiAl(110)
p. 1440-1442.
アロステリックなタンパク質制御の展望(Allosteric Protein Regulation in
Perspective)
生物学的な制御は、大部分タンパク質機能の制御によって生じる。酵素が調節性分
子に結合したとき、あるいはホルモンや神経伝達物質が受容体に結合したとき、あ
る構造レベルでの制御がいかにして生じるかについての基礎的理論の1つは、40年前
にMonod、Wyman、そしてChangeuxによって示されている。ChangeuxとEdelsteinは、
この理論の応用とその成功、さらにその限界についてレビューし、タンパク質機能
についてのわれわれの理解を広げるための新しいアイディアを企図するよう読者に
奨励している(p. 1424)。(KF)
Allosteric Mechanisms of Signal Transduction
p. 1424-1428.
より多くのモーターでさらに速く(Going Faster with More Motors)
キネシンとダイニンは、細胞小器官を細胞の微小管路に沿って移動させる。キネシ
ンはそれらを細胞の末梢に運び、ダイニンはそれらを内側に運ぶ。Kuralたちは、緑
色の蛍光性タンパク質によって標識されたペルオキシソームの移動を、生きた細胞
内で1.5ナノメートルの空間解像度と1ミリ秒の時間解像度で追跡した(p.
1469;2005年4月7日にオンライン出版)。キネシンとダイニンの双方とも、生体内で
8ナノメートルのステップ・サイズを示した。2種類のモーターは単一のペルオキシ
ソームに対して同時には作用しなかったが、複数のキネシンあるいはダイニンは協
同的に働き、試験管内で観察されたより10倍もスピードアップすることがあっ
た。(KF)
Kinesin and Dynein Move a Peroxisome in Vivo: A Tug-of-War or
Coordinated Movement?
p. 1469-1472.
サイトカイン-サイトカイン受容体構造(Cytokine-Cytokine Receptor
Structure)
インターロイキン-2(IL-2)は免疫応答において中心的役割を担うものである。それ
は3つの細胞表面受容体、IL-2Rα、IL-2Rβ、IL-2Rγとともに複合体を形成し、下流の
チロシンキナーゼ、JAK3とSTATの活性化を介して信号を送る複合体を形作
る。Rickertたちは、IL-2とIL-2Rαとの間で作られる複合体の2.8オングストローム
の結晶構造を決定した(p. 1477)。このIL-2Rα構造は古典的なサイトカイン受容体の
折り畳み構造を欠いており、IL-2との結合様式は既知のサイトカイン認識モードと
は別のものである。この構造はよりよいIL-2薬物療法を工学的に作り出すための枠
組みを提供するものである。(KF, hE)
The Structure of Interleukin-2 Complexed with Its Alpha
Receptor
p. 1477-1480.