Science April 29, 2005, Vol.308
ライブラリからの連結した環状化合物の合成(Linked Rings from a Library)
コンビナトリな化学合成は多くの異なる化合物をすばやく作ることが出来るが、基
本構造を往々にして共有しており、化学の世界のうちのかなり小さな領域を代表し
ているに過ぎない。Lamたち(p.667)は動的なコンビナトリ手法を用いて、アセチル
コリン神経伝達物質に結合する驚くほど精緻な構造を発見した。著者たちは、可逆
的なカップリング反応が可能な条件下でアセチルコリンの溶液へ合成ジペプチドを
添加した。熱力学的な平衡状態の下で、受容体として自己組織化した主な構造体は2
個の連結した42員環であり、各々はジペプチド構築ブロックの三量体である。この
カテナン分子は65%の収率で単離され、神経伝達物質に対して100ナノモルの親和性
を示した。(KU)
Amplification of Acetylcholine-Binding Catenanes from Dynamic
Combinatorial Libraries
p. 667-669.
他人の意図を理解する(Understanding Others' Intentions)
我々は、行動をするときには、目的を達成しようとする。逆に、我々は誰かが行動
するのを観察するとき、彼らの意図をしばしば推測することができる。Fogassiた
ち(p. 662;NakaharaとMiyashitaによる展望記事を参照)は、今まさに行動を起こ
そうとしている個体の下部頭頂葉において、彼らの行動の目的(例えば、掴むとい
う行為の目的が食物であるのか、枝なのか)は、目的へと導く連続的な事象の第一
成分を信号化するニューロンの発火に反映されることを見いだした。さらに、掴む
という様な行動を信号化する多数の頭頂ニューロンはまた、誰か他の人が掴むのを
見るさいにも発火する(これを、頭頂ミラーニューロンという)。これらのニュー
ロンの大多数は、同一の観察された運動性の行動が異なる目的により行われる場合
に、区別を付けて反応する。このように、これらのミラーニューロンは、観察され
た運動性の行動を表現するのに加えて、行動の裏に隠された意図も予想するのであ
る。(NF)
Parietal Lobe: From Action Organization to Intention
Understanding
p. 662-667.
NEUROSCIENCE:
Understanding Intentions:
Through the Looking Glass
p. 644-645.
多光束をそっと押すこと(Nudging Optical Beams)
大抵の光スイッチはミラーか電気光学デバイスでできている。しかしながら、いく
つかの応用に対しては、一方の光束によって他方の光束を制御する全光学式の技術
が良いかもしれない。Dawesたち(p. 672)は、光学スイッチ媒体としてルビジウム蒸
気を用いたことを報告している。蒸気中で相互作用する強いレーザ光束により多出
力光束が作られ、これらの光束はかなり弱い制御用光束によってスイッチングされ
る。(hk),(Ej)
All-Optical Switching in Rubidium Vapor
p. 672-674.
熱帯性海洋の塩分の混合(A Salty Tropical Mix)
海洋の密度差によって分けられた隣接する層の間で起こる密度差混合(Diapycnal
mixing)は、熱の分散や二酸化炭素量そして他の多数の海洋の特性を支配している。
ソルトフィンガー(指状に伸びた対流)を形成するような二重拡
散(double-diffusion)はこのタイプの混合を高めるメカニズムであるが、ほとんど
の海洋で数量化されていない。Schmittたち(p.685;
Merryfieldによる展望記事参照)は、熱帯性大西洋の130万平方キロメートルを範囲
とする大規模な海洋トレーサー実験の結果を示している。混合は力学的な攪流だけ
から予想される以上に急速に起こっており、このことは二重拡散によるソルトフィ
ンガーの存在を考慮すると整合するものである。このような混合が明確となってい
ない高緯度地域とは対照的に、これらの結果は、このタイプの混合が熱帯性海洋の
多くの部分を特徴付けるものであることを示唆している。(TO)
Enhanced Diapycnal Mixing by Salt Fingers in the Thermocline of
the Tropical Atlantic
p. 685-688.
OCEAN SCIENCE:
Enhanced: Ocean Mixing in 10 Steps
p. 641-642.
氷河に見つかる古代の気候の痕跡((Climate Clues from Glaciers)
機器により直接測定された記録では、過去2世紀の間に地球規模での平均表面温度が
著しく上昇してきたことを示している。この温暖化により、氷河は主に氷河の後退
という影響を受けてきた。この氷河の拡がりの変化は、上空の大気温度の作用とし
て一般的に理解され、モデルが作られてきた。Oerlemans(p.675. 2005年3月3日にオ
ンライン出版)は、この順序を逆転させた。17世紀中期まで遡って氷河の長さの変
動(glacier length fluctuation)に関する大量のデータを分析することで、気温変
動の独立した記録を再現し、他の気温の再現(temperature reconstructions)よりも
地球温暖化は早くから(19世紀中ごろ)始まっていたこと発見した。
最終氷期最盛期【LGM: last glacial maximum)は、全世界的に同時に起こった現象
であろうか?あるいは、もっと複雑な進み方で氷河は時間的にうねりを持ちながら
世界中に広がっていったのだろうか?Smithたち(p.678)は、ペリーやボリビアにあ
る氷成堆積物(moraines)からの宇宙起源のベリリウム同位体10Beによる
一連の年代を示している。熱帯アンデスにおいては、局所的LGMがより早期に発生
し、以前に信じられていたほどの広範囲には起こっていなかった。氷河は、LGMの年
代として指定されている2万1千年前より遥か以前の約3万4千年前に終端位置に達
し、そして、以前のより大きな氷河が延びた終端の位置よりも峡谷上方のさらに高
い位置まで終端が達した。これらの発見は、その場所での熱帯気温の低下は、他の
多くの方法で推定された6度〜7度の半分しかなかったことを示している。(TO)
Extracting a Climate Signal from 169 Glacier
Records
p. 675-677.
Early Local Last Glacial Maximum in the Tropical
Andes
p. 678-681.
気候変化に対するハエの反応(A Fly's Response to Climate Change)
生物の地理学的範囲の全体にわたって、気候変化による対立遺伝子頻度の変化とし
て生じる遺伝的多型は、漸次的に変化する。古典的な事例は、オーストラリアの東
海岸の北部から南部までのショウジョウバエ(Drosophilamelanogaster)のアル
コールデヒドロゲナーゼ(Adh)遺伝子に見られる漸次的な変化である。Uminaた
ち(p. 691)は、東海岸全体の湿潤熱帯地域から冷帯領域にわたる多数の個体群に
おいて、この漸次的な変化を明らかにした。過去20年間のあいだに、AdhS対立遺伝
子の急激な活性化が観察され、その際、漸次的な変化と同調して、気候的変化に顕
著な変化が生じた。近年のより乾燥してより温暖な気候は、漸次的な変化における
変化の原因となっているようであり、そのことは気候上の条件の範囲に適応してい
る広範囲に及ぶ種においても、個体群の遺伝的構成が、気候に反応して変化する方
法を強調している。(NF)
A Rapid Shift in a Classic Clinal Pattern in Drosophila
Reflecting Climate Change
p. 691-693.
社会的プレッシャーと霊長類の健康(Societal Pressures and Primate
Health)
霊長類の集団は、ヒトも含め、さまざまなやり方で組織化されるが、そこではふつ
う支配の序列というものが関わっている。Sapolskyは、各社会の特異的な特徴に依
存して、より大きなストレスを体験するのが低いランクにある成員であるのか、高
いランクにある成員であるのかについてレビューしている(p. 648)。支配に関わる
このストレスは、究極的には個体の健康にとって有害な、生理学的変化を生み出
す。ヒト以外の霊長類において明らかになってきた健康に対する支配の影響は、ヒ
トにもあてはまる可能性がある。(KF)
The Influence of Social Hierarchy on Primate
Health
p. 648-652.
デザイナーブランド表面プラズモン(Designer Surface Plasmons)
導電性の金属薄膜では、通常、表面プラズモンモードは維持不能と予想されてい
る。このモードは、電磁波放射と結びついた電子の局在励起である。しかしなが
ら、最近の理論的研究によると、導電性表面に穴を貫通させることにより、このよ
うな束縛された電磁的状態を導電性の表面上に誘起できると予測されてい
る。Hibbinsたち (p.670) は、マイクロ波領域における作用では、表面プラズモン
的なモードが、金属試料の幾何形状を制御することにより、確かに誘起されうるこ
とを実証している。これらの表面モードを調整したり、あるいは、設計できれば、
表面プラズモンの伝播を含む応用にたいしては重要な意味を持つであろう。(Wt)
Experimental Verification of Designer Surface
Plasmons
p. 670-672.
環を通って出て行く(Going Through the Ring)
イオン輸送するアデノシン三リン酸(ATPase:ATP分解酵素)のF-型(たとえばミトコン
ドリアの水素イオンATP分解酵素)およびV-型(たとえば空胞の水素イオンATP分解酵
素)は、粗っぽくいえば類似した全体的構造をもっていて、3倍対称性のATPaseの
F(あるいはV)型部分と10ないし14の同一のサブユニットからなる不可欠な膜
環(membrane ring)(FまたはV)を備えている。これらの酵素のいくつかは、水素イオ
ンの代わりにNaイオンを輸送する(JungeとNelsonによる展望記事参照のこ
と)。Murataたちは、Naイオンを輸送するV-型ATPaseの10個のサブユニットからなる
環の高分解能での構造を提示している(p.654;2005年3月31日にオンライン出版、ま
た表紙参照)。各サブユニットは、直径約83オングストロームの環に対して4つの膜
貫通らせん体を与えていて、Naイオン結合部位は、ちょうど膜の二重層の中間あた
りで、環の外側表面にさらされている。Meierたちは、Naイオン輸送のF-型ATPase
の、11個のサブユニットからなる環の高分解能での構造を提示している(p.659)。そ
こでは、各サブユニットは、直径約50オングストロームのより小さな環に対して、
ほんの2つの膜貫通らせん体しか寄与していないのである。どちらの構造も、ATP-駆
動の環の回転が結合したNaイオンを外側にはじき出し、その後でその輸送部位が内
側からのNaイオンで再び埋められる、というモデルと整合するものである。(KF)
STRUCTURAL BIOLOGY:
Nature's Rotary
Electromotors
p. 642-644.
Structure of the Rotor of the V-Type Na+-ATPase from
Enterococcus hirae
p. 654-659.
Structure of the Rotor Ring of F-Type Na+-ATPase
from Ilyobacter tartaricus
p. 659-662.
チーム構成の力(Team-Building Exercise)
成功をもたらす創造的なチームを形成するのに必要な要素は何であろうか?Guimer`a
たち (p.697; Barabasi による展望記事を参照のこと) は、ネットワーク解析を用
いてそのような要素をモデル化し、チームの多様性、協力のネットワーク構造、
チームの実行能力の間に明確な関係があることを見出した。あるサイエンスに関す
る学問分野内では、学術誌においてより大きなインパクトファクターをもたらすも
のは、チームが大きいことと強い相関関係にあり、「過剰に繰り返される」協力関
係には低い傾向を有している。そして、経験のある研究者と新参者両者の有意なる
存在とは、かなりの相関を有している。類似の特性は、この一世紀の間、ブロード
ウェイミュージカルプロダクションにおいて最も成功したチーム構成の特徴づけに
も有効と思われる。(Wt)
Team Assembly Mechanisms Determine Collaboration Network
Structure and Team Performance
p. 697-702.
SOCIOLOGY:
Network Theory--the
Emergence of the Creative Enterprise
p. 639-641.
農場で試された遺伝的に改変されたコメ(Genetically Modified Rice in the
Field)
中国は害虫に対して内因的抵抗性を有するよう遺伝子に改変を行なったコメの血統
を開発した。Huangたちは、2002年と2003年にそれらの血統で実施した予備的フィー
ルド試験について記述している(p. 688)。害虫抵抗性のある改変されたコメの血統
を植えた区画では、農民は農薬の使用を80%も減らすことができた。同時に、収穫は
増加し、農民の健康状態は農薬への職業被曝が減ったことで著しく改善した。(KF)
Insect-Resistant GM Rice in Farmers' Fields: Assessing
Productivity and Health Effects in China
p. 688-690.
両方の波(Both Waves)
実験室における実験において、地震は異なる剪断波速度を有する二つの物質間の界
面
で爆破ワイアを用いてシミュレートされる。Xia たち (p.681) は、界面から二つの
破壊が伝播することを見出した。ひとつは、一般化された Rayleigh波の速さで、よ
り速い剪断波速度の物質中へ伝わるものであり、他のものは、亜剪断波、あるい
は、超剪断波への遷移状態の速さで、剪断波速度のより低い物質中へ伝播するもの
である。このように、両サイドに異なる岩石の特性を有する断層では、破壊は選択
性の伝播方向を有してはおらず、超剪断波速度にまで達する可能性がある。(Wt)
Laboratory Earthquakes Along Inhomogeneous Faults:
Directionality and Supershear
p. 681-684.
きちんと時を刻む(Keeping Time)
概日性リズムは、遺伝子発現の複数のフィードバック・ループの組み合わせで生み
出されると考えられている。Period(PER)タンパク質が、この転写性フィードバック
周期の必須要素であり、また異なった時間帯への時計のフェーズシフトにとっての
必須要素であるのだが、それらが転写を抑制している機構は不明であった。Brownた
ちは2つのPER-関連タンパク質、NONOとWDR5を同定したが、これらはPER活性を違っ
たやり方で変調するものである(p. 693)。正常な時計機能にとって必須なRNA結合タ
ンパク質であるNONOは、PERに仲介される抑圧を打ち消すように働く。これに対し
て、ヒストン・メチル基転移酵素アダプターであるWDR5は、PERによって仲介される
抑圧を増強するように働く。これらの調節タンパク質は、確率論的な遺伝子発現や
環境変化による時計要素の揺らぎのもとにある概日性発振器に対して、回復力を付
与している可能性がある。(KF)
PERIOD1-Associated Proteins Modulate the Negative Limb of the
Mammalian Circadian Oscillator
p. 693-696.
機能的な脳におけるイメージ(Functional Brain Imagery)
メンタルなイメージと関連したその的確な処理と脳領域に関して、長い間種々議論
されてきた。Sackたち(p.702)は、単一のパルスと反復性の経頭蓋磁気刺
激(transcranial magnetic stimulation ;TMS)を結びつけて、特異的な脳領域を
不活性化し、それによって左右の頭頂皮質によるメンタルイメージを作る際の機能
的な寄与を評価した。左の方の反復性TMSが無い場合に、右のほうの頭頂皮質への単
一パルスのTMSにより、処理の後半にメンタルイメージタスクの遂行においてっきり
とした傷害が見られた。しかしながら、左のほうの頭頂皮質への反復性TMSの後で、
右の頭頂皮質への単一パルスのTMSを行うと、殆どの時間点でメンタルイメージタス
クの遂行に障害を示した。このように、空間的比較(処理の後半で起きると推定さ
れている)は、一義的に右のほうの頭頂皮質に依存しており、一方イメージ形
成(処理の早い段階で起きると推定されている)は、左のほうの頭頂皮質に依存し
ているが、しかしながら左のほうの頭頂皮質が機能不全になった際には右のほうの
頭頂皮質を使用する。(KU)
The Dynamics of Interhemispheric Compensatory Processes in
Mental Imagery
p. 702-704.