Science April 8, 2005, Vol.308
三重結合のカップリング反応(Triple Switch)
過去十年の間に、アルケンのメタセシス反応は有機化合物や高分子の合成にとって
応用の多い手法となってきた。この反応は実質的な交換反応であり、金属触媒によ
るC=C二重結合の切断により、その結果としてのフラグメントと新たなパートナーと
の再カップリング反応である。アルキン、或いはC、Cの三重結合における類似の反
応は研究が遅れており、往々にして過酷な条件を必要としていた。Binoたち(p.
234;Bunzによる展望記事参照)は、2個の2-ブチンの別々の半分を持った三モリブデ
ンクラスターが、室温における水溶液中での反応によりアルキンとカップリングす
ることを示している。(KU)
Formation of a Carbon-Carbon Triple Bond by Coupling Reactions
In Aqueous Solution
p. 234-235.
CHEMISTRY:
How Are Alkynes
Scrambled?
p. 216-217.
星の再生(A Star Is Reborn )
我々の太陽とほぼ同じ質量をもつ星は高齢になると、内部の核反応が終滅する直前
までその光度が上昇し続ける。この強い輻射は星の外殻を吹き飛ばし、白色矮星と
言われる高熱で高密度の残骸を残す。これら残骸の多くはその後単に冷えて行くだ
けであるが、あるものは後遅性の爆発により核燃焼を再開して、再び巨星化す
る。Hadjukたち(p. 231; Asplundによる展望記事参照)は、1992年に燃焼を再開し、
アマチュア天体学者桜井氏によって発見された「再生した」巨星V4334Sgr(桜井天
体)に関する観測結果とその星モデルについて報告している。V4334 Sgrの温度が連
続的に下がる速度は、予測されていた値より100倍以上速い。計算によって得ら
れた星からの質量放出率は、予想外に大きな量の炭素と炭素質星間塵が再燃焼によ
り星間空間物質へ供給されたことを示している。(hk, Nk)
The Real-Time Stellar Evolution of Sakurai's
Object
p. 231-233.
ASTRONOMY:
Enhanced: A Stellar Swan-Song
p. 210-211.
くっつき、そして、薄いがために(Through Stick and Thin)
コーティングは、しばしば、基板の耐久性、濡れ性、或いは光学的特性を変えるた
めに用いられる。典型的には、バルク物体へ適切に付着することを確実とするた
め、コーティング物質の化学的性質を裁断し、最適化することが必要である。Ryu
たち (p.236) は、架橋結合可能な高分子薄膜を広範な種類の基板に付着できること
を示しており、このフィルムは、その上にさらに別種の材料の堆積を可能とする均
一な表面を与えるものである。(Wt, Nk)
A Generalized Approach to the Modification of Solid
Surfaces
p. 236-239.
雪玉状態の可能性(A Snowball's Chance)
地球は、新原生代(7億5000万年前から5億8000万年前)の期間に、極地から赤道まで
広がった氷河の氷によって4回覆われたことがあると論じられてきた。それは一般
に“スノーボールアース(雪玉の地球)”時代と言われている。これらの時代が実際
に起こったという仮定の元で、その長さの推定は10万年から3000万年の範囲にわた
る。Bodiselitschたち(p.239;Kerrによるニュース記事参照)は、地球外から来たイ
リジウムの累積に基づき、これらの時代の2つの期間をそれぞれ推定したことを報告
している。その推定では、雪玉となっている状態が300万年から1200万年持続したこ
とを示している。(TO,tk)
Estimating Duration and Intensity of Neoproterozoic Snowball
Glaciations from Ir Anomalies
p. 239-242.
PALEOCLIMATOLOGY:
Cosmic Dust Supports
a Snowball Earth
p. 181.
原始太陽星雲の再加熱(Reheating the Early Solar Nebula)
原始太陽系における重要な熱源の一つは、26Mgから26Alへ
の原子核崩壊(decay)であった。そしてまた、原始太陽系の凝縮物(condensates)は
同一の初期26Al/27Al比率を有していると想定されてい
た。Alは星雲ガスからCa-Alに富む包有物(CAIs:Ca-Al-rich inclusions)として最
初に凝縮する元素の1つであるため、この原子核崩壊系は、おそらく太陽系星雲形
成と微惑星形成との間の出来事の年代を計る最も重要な時計であった。Youngた
ち(p.223)は、原始凝縮物におけるAlの均質混入(homogenous incorporation)という
この仮説は正しくないこと、そして初期比率はおそらくかなり高いことを示してい
る。この修正では、CAIsの多くが数10万年間の太陽系星雲内で一時的な再加熱の履
歴を表していることを示唆している。(TO,tk)
Supra-Canonical 26Al/27Al and the
Residence Time of CAIs in the Solar Protoplanetary Disk
p. 223-227.
ホモ フローレスの脳を評価する(Assessing the Brain of Homo
floresiensis)
ホモ フローレシエンシス(Homo floresiensis)は、インドネシアのフローレス
島(Flores)の洞穴で最近発見された約12,000前の小柄な原人である。この発見は
色々な観点から見て謎が多い。まず体躯が小さくて、脳が小さく、例の300万年前の
アウストラロピテクス(australopithecines)のルーシー(Lucy)の脳と同じくらい
だ。Falkたち(p.242, published online 3 March 2005; Balterによる3月 4日の
ニュース記事も参照) は、頭蓋の内側の立体形状を仮想的に復元し、これを他の同
時代の原人と思われるホモエレクトスやホモサピエンスや、サルの頭蓋形状と比較
した。ホモ フローレシエンシスの脳は417立方センチと見積もられ、小柄のホモエ
レクタスとほぼ同じであるが、前頭葉や拡大した側頭葉などは特徴的であ
る。(Ej,hE)
The Brain of LB1, Homo floresiensis
p. 242-245.
扁桃体, 神経ペプチド,および 恐怖行動(Amygdala, Neuropeptides, and Fear
Behavior)
神経ペプチドのバソプレッシン(vasopressin)とオキシトシン(oxytocin)は、恐怖と
不安に関連した行動において、逆方向の効果を示す。細胞レベルでは、どちらの神
経ペプチドが増加しても、異なる脳領域での神経の興奮状態が増強される。この領
域とは、中心扁桃体も含まれるが、この逆方向の行動を生じさせるニューロンの
ネットワークについては充分解明されている訳ではない。Huberたち(p. 245)は、解
剖学的に分離した、別々の、オキシトシン と バソプレッシン受容体の集団を中心
扁桃体内部に見出した。彼らはオキシトシンとバソプレッシンの作動薬(agonist)
と拮抗薬(antagonist)を利用し、電気生理学的なニューロンの変化を誘発させ、オ
キシトシンとバソプレッシンが不安と恐怖において、逆方向の効果を発揮するよう
な仮想的神経回路網を構築することに成功した。(Ej,hE)
Vasopressin and Oxytocin Excite Distinct Neuronal Populations
in the Central Amygdala
p. 245-248.
LEAFYによる生活環の変化(A LEAFY Life-Style Change)
顕花植物における転写制御因子LEAFYは、主要な分裂組織が栄養組織か、または花組
織を産みだし続けるかどうかを決定する。しかしながら、ずっと原始的なスギゴケ
類において、LEAFYの類縁分子が生活環の他の側面を調節している。Maizelたち(p.
260;表紙を参照)は、この様な進化的な時間間隔におけるLEAFYの配列と機能に生
じた変化を解析した。進化を通じてLEAFYが担った様々な機能は、そのDNA結合ドメ
インの変化に起因する可能性がある。(NF)
The Floral Regulator LEAFY Evolves by Substitutions in the DNA
Binding Domain
p. 260-263.
アワノメイガの系統を維持する(Maintaining Corn Borer Lines)
同地域性の種分化の場合には、2種類の個体群が同一地域において共通の祖先から分
岐する。正確な評価のためには、遺伝的に互いに区別される同地域性の個体群間で
の生殖的隔離の視点が欠けている。ヨーロッパアワノメイガ(Ostrinianubilalis)
の同地域性の2種類の品種について、その宿主植物の同位体特性に基づくアプローチ
を使用して、Malausaたち(p. 258)は、同地域性の宿主品種間の生殖的隔離につい
ての重要な因子である選択交配を直接的にフィールドにて測定した。異なる宿主植
物上で生育する2種類の品種間での生殖的隔離はほぼ完全であり、このことから空間
的隔離および時間的隔離がなくても95%以上の選択交配が生じうることが示され
た。(NF)
Assortative Mating in Sympatric Host Races of the European Corn
Borer
p. 258-260.
一番最初の影響力(Earliest Influences)
免疫系において、胸腺細胞の発生は、本質的に、主として胸腺上皮細胞から構成さ
れる胸腺の組織化された間質の微小環境との密接な関係に依存している。Akiyamaた
ち(p. 248、2005年2月11日にオンラインで出版)は、T細胞寛容に対するこのよう
な関与の重要性を示した。RINGドメインユビキチンリガーゼである腫瘍壊死因子受
容体-関連因子6(TRAF6)が欠損すると、組織化された胸腺上皮構造の喪失が引き起
こされた。その後、T細胞発生のひどい機能障害が起こると、自己免疫性が引き起こ
される。(NF)
Dependence of Self-Tolerance on TRAF6-Directed Development of
Thymic Stroma
p. 248-251.
古い受容体への新たな見方(A New View of an Old Receptor)
γδT細胞は、それぞれ特異的な免疫機能の範囲を引き受けるT細胞の別の系列を表わ
している。しかし、それらに対応するαβT細胞と比較すると、それらT細胞による抗
原認識のモードは相対的に不十分にしか理解されていない(Garbocziによる展望記事
参照のこと)。特異的マウスγδT細胞受容体(TCR)とその非古典的クラスI主要組織適
合複合体リガンドとの間の複合体の3.4オングストローム構造を分析すること
で、Adamsたちは、γδT細胞認識の新しいモデルを生み出した(p. 227)。それは、生
得的免疫受容体認識と、生殖系列セグメントの組換えによる順応性認識の双方を特
徴とするモデルである。Shinたちは、単細胞レベルでのTCRの用法をサーベイして、
同様の結論に到達している(p. 252)。これから彼らは、γδT細胞は抗原性リガンドの
比較的狭い範囲に焦点を絞っていると示唆するに至っている。(KF,hE)
STRUCTURAL BIOLOGY:
"D" Is
Not for Diversity
p. 209-210.
Structure of a γδT Cell
Receptor in Complex with the Nonclassical MHC T22
p. 227-231.
Antigen Recognition Determinants of γδT Cell Receptors
p. 252-255.
共感のマスター(Mastering Empathy)
ヒトは、他者が考えたり感じたりしているということ、また他者の信念や意図が自
分自身のものと一致していないかもしれないということを、認めることができ
る。20年前、WimmerとPernerは、子どもには3歳か4歳になるまで、しばしば心の理
論と呼ばれるこのような表象能力が発達していないことを示す証拠を示し
た。OnishiとBaillargeonは、月齢15か月の幼児が少なくとも行動-作用規則への理
解を示しており、この課題をマスターする能力を有していることを示す証拠を提示
している(p. 255; またPernerとRuffmanによる展望記事参照のこと)。(KF, Nk)
Do 15-Month-Old Infants Understand False Beliefs?
p. 255-258.
PSYCHOLOGY:
Infants' Insight into the
Mind: How Deep?
p. 214-216.
ニンジンを食べよ(Eat Your Carrots)
カロテノイド合成酵素のファミリーには、30-炭素の前駆物質(βカロテン)を半分に
切断して2個のレチナール分子(視覚性色素の必須成分)を作り出す酵素と、βカロテ
ンを植物ホルモンのアブシシン酸と発生因子であるレチノイン酸に転換する酵素が
含まれている。Kloerたちは、このファミリーに属する酵素の1つの構造を提示し、
その活性部位がいかにして基質の異性化を引き起こすかを記述している(p. 267)。
これによって、O分子の隣にトランス-二重結合が配置されて切断を効率的に行うの
に役立っている。(KF)
The Structure of a Retinal-Forming Carotenoid
Oxygenase
p. 267-269.
単生昆虫から社会的昆虫へ(From Solitary to Social Insects)
働きの違うものを産み分けること、すなわちカースト分化を説明することは、昆虫
の社会的進化を理解するための中心的課題である。HuntとAmdamは個体ベースのモデ
リングを用いて、生殖能力のある「女王」と機能的に生殖不能な「働きバチ」への
polistine wasp(スズメバチ)の分化が、かつて条件的休眠経路を制御する調節回路
の社会的取り込みを介して生じたさまを示している(p. 264)。この発生経路はスズ
メバチの単生の祖先の生活環においてキーとなる調節領域であり、二世代にわたる
生活史のパターンを生み出すものである。単生の昆虫における特異的な調節要素か
ら、いかにして社会的カーストが出現しうるかの解明は、社会性昆虫の起源につい
ての機構的説明を提供するものである。(KF)
Bivoltinism as an Antecedent to Eusociality in the Paper Wasp
Genus Polistes
p. 264-267.