Science March 11, 2005, Vol.307
磁性銀河のマッピング(Mapping Magnetic Galaxies)
宇宙の多くの銀河は複雑な磁場構造を示すが、これらは測定も困難であり、十分に
は理解されていない。磁場を精密にマッピングする一つの方法は、ファラデー効果
を用いる方法である。このファラデー効果とは、電磁波の偏光面が磁場により回転
する現象である。Gaensler たち (p.1610) は、大マゼラン星雲(theLarge
Magellanic Cloud LMC) 背後の遠距離にある電波源からの偏光した電波放射に関す
る測定を報告している。291個の電波源サーベイによると、LMC は顕著な揺らぎを伴
う軸対称な渦巻状の磁場を有していることが分かった。この観測により、磁場が宇
宙線-駆動のダイナモメカニズムにより生じ、この作用は星の形成や超新星爆発のよ
うに磁場を分断する現象の下でも、秩序ある磁場構造を生み出しうることが示され
た。(Wt, Nk)
The Magnetic Field of the Large Magellanic Cloud Revealed
Through Faraday Rotation
p. 1610-1612.
薄くて丈夫なネットワーク(Thin But Tough Networks)
表面に薄い保護層を形成する添加物は、その結果2つの可動部品間の疲労を減少さ
せるために潤滑剤へ添加されることが多い。鉄製のエンジンで主に利用されるのは
リン酸亜鉛であるが、この物質の分解副産物は触媒コンバーターに悪影響を与え、
アルミエンジンではうまく作動しない。第1原理に基づくシミュレーションによ
り、Moseyたち(p. 1612)は、エンジンの圧縮サイクルで生じる高圧下において、亜
鉛の配位数が変化し、化学結合のネットワークが形成されることを示している。こ
の説明によって、カルシウムのような他の二価陽イオンが亜鉛の代替として何故使
えないか、また、これらの添加物がアルミエンジンでは、潤滑フィルムが形成され
るほどの高い圧力が発生せず、合金強度が高くならないため、使えないことが説明
できる。(Ej, hE, Nk)
Molecular Mechanisms for the Functionality of Lubricant
Additives
p. 1612-1615.
長期的な抗原提示(Prolonging Antigen Presentation)
抗原提示細胞は、タンパク質分解の能力が異常なほどに発達しているに違いないと
考えられてきた。というのも、抗原提示細胞はタンパク質抗原を分解して、その機
能を発揮しなければならないためである。しかしながら、Delamarreたち(p.
1630)はここで、もっとも効率的な抗原提示細胞(樹状細胞およびB細胞)が、マク
ロファージのリソソームプロテアーゼ濃度と比較した場合、異常に低い濃度のリソ
ソームプロテアーゼしか保有していないことを見いだした。樹状細胞はまた、その
タンパク質分解能力をさらに弱める内在性のプロテアーゼ阻害剤をも含有してい
る。驚くべきことに、樹状細胞におけるその他のリソソーム加水分解酵素レベル
は、マクロファージで見られるレベルと同等である。このように、マクロファージ
は遭遇した抗原を迅速に分解するのに対して、樹状細胞は、正にその同一の抗原を
保護し、二次的リンパ器官へその抗原の播殖と生存を促進している可能性があ
る。(NF)
Differential Lysosomal Proteolysis in Antigen-Presenting Cells
Determines Antigen Fate
p. 1630-1634.
性と匂い(Sex and Smell)
昆虫の嗅覚系の触角においては、2種の別個の化学物質知覚メカニズムが存在する。
いわゆる"万能型"系は、食物および植物に由来する匂い物質を認識し、多様な遺伝
子を有する嗅覚受容体ファミリーから構成されている。第二の知覚メカニズムであ
る、"専門型"系は同一種の昆虫に由来するフェロモンを検出する。Nakagawaた
ち(p. 1638、2005年2月3日のオンライン出版)は、カイコガにおいて、フェロモン
受容体と万能型昆虫の嗅覚受容体サブファミリー由来の受容体とを同時に発現させ
ると、フェロモン受容体の機能発現が促進され、そしてリガンドにより刺激された
非選択的カチオンチャネル活性が付与されることを報告している。(NF)
Insect Sex-Pheromone Signals Mediated by Specific Combinations
of Olfactory Receptors
p. 1638-1642.
ブタの家畜化、7回も(Domesticating Pigs Seven Times Over)
DNA配列決定は、ヒトによる動物や植物の家畜化のパターン研究に急激な変化をもた
らした。考古学的な証拠から、野生イノシシの家畜化は、主としてアジアにおいて
行われたことが示唆されている。Larsonたち(p. 1618)は、(野生イノシシの自然
生息域全域にわたる)687頭の野生のブタ、野生化したブタ、および家畜ブタ由来の
ミトコンドリアDNA配列を調べ、そしてこれらのデータを系統発生解析と組み合わせ
ることにより、家畜化されたブタの起源とその広がりについて焦点を当てた。ブタ
の家畜化は、インド、ビルマ-タイ、中央部イタリア、およびウォラセア-ニューギ
ニアの以前は知られていなかった出所を含む、ユーラシア全領域において、少なく
とも7回生じていた。(NF)
Worldwide Phylogeography of Wild Boar Reveals Multiple Centers
of Pig Domestication
p. 1618-1621.
有益なノイズ(Good Noise )
地震学者は、通常、地殻構造を与える逆演算解析を実行する前に、地震観測アレイ
システムによって集められた信号中の大気と海洋からの周囲地震ノイズを除去す
る。Shapiroたち(p. 1615; Weaverによる展望記事参照)は一ヶ月、あるいはそれ以
上の長期間のノイズの相互相関を用いて、より高い空間解像度でせん断波速度の3
次元像を構築できることを示している。南カリフォルニアにある60の地震観測基
地からのデータを用いて、著者らは地殻構造の詳細像を作成し、そこでは複雑な火
成岩体由来の堆積盆層だけでなく、更に異なったタイプの岩盤を横切る断層線の輪
郭を描きだすことに成功した。ノイズの活用は地震波を発生する地震を待つ必要も
ないので、地殻構造のモデル化と地震発生の危険度にたいする大きな優位性をもっ
ている。(hk,Ej)
High-Resolution Surface-Wave Tomography from Ambient Seismic
Noise
p. 1615-1618.
GEOPHYSICS:
Information from Seismic
Noise
p. 1568-1569.
エストロゲンの割り込み(Estrogen Barges In)
ステロイドホルモンであるエストロゲンは核の外側でのシグナル伝達経路と同様
に、標的遺伝子の転写を制御する核受容体を介しても作用する。Rebankarた
ち(p.1625,2005年2月11日のオンライン出版;Hewittたちによる展望記事参照)は、
小胞体の膜にあるG-タンパク質-結合受容体が様々な細胞タイプにおけるエストロゲ
ンのシグナル伝達を媒介していることを報告している。エストロゲンへの結合によ
り、この受容体は細胞内カルシウムの移動と核のホスファチジルイノシトール
3,4,5-三リン酸の合成を刺激し、この両者が更なるシグナル伝達事象を引き起こ
す。エストロゲンは膜透過性分子であり、細胞内膜受容体へのアクセスにより、エ
ストロゲンによって開始される幾つかの速い非ゲノム的シグナル伝達を容易にして
いるらしい。(KU)
A Transmembrane Intracellular Estrogen Receptor Mediates Rapid
Cell Signaling
p. 1625-1630.
SIGNAL TRANSDUCTION:
A New Mediator for
an Old Hormone?
p. 1572-1573.
ノッチを途中で助ける(Helping Notch on Its Way)
ノッチタンパク質は多数の細胞運命の決定に影響する保存シグナル伝達経路におけ
る受容体として作用している。ノッチでのグリカンのフコシル化がその機能に対し
て重要であると考えられている。Okajimaたち(p.1599, 2005年2月3日のオンライン
出版;Loweによる展望記事参照)は、フコシル転写酵素(OFUT1)がノッチを含めた
種々の基質のフコシル化の促進に加えて、分離可能なノッチ-特異性のシャペロン活
性を持っていることを見出した。OFUT1は小胞体において新たに合成されたノッチ受
容体に結合し、そこでは折りたたみと、それによるノッチ受容体の分泌を促進す
る。ノッチ機能の維持において重要なのはこのシャペロンの機能であって、受容体
のフコシル化の能力ではない。他のグルコシル転写酵素も別の膜や分泌タンパク質
の質の制御において類似の役割を果たしている可能性がある。(KU)
Chaperone Activity of Protein O-Fucosyltransferase 1
Promotes Notch Receptor Folding
p. 1599-1603.
CELL BIOLOGY:
Does Notch Take the Sweet
Road to Success?
p. 1570-1572.
シグナル伝達ネットワークの解明(Unraveling Signaling Networks)
複雑なシグナル伝達ネットワークを理解するには、新たな改良された技術を必要と
する難しい仕事である。Barrios-Rodilesたちは、シグナル伝達タンパク質とおぼし
きタンパク質同士の相互作用の包括的なマッピングを可能にする、タンパク質への
タグ付け方法の1つを記述している(p. 1621)。1万回以上の高効率の実験を行うこと
で、900以上の相互作用を行う、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)によって活
性化されるシグナル伝達ネットワークが得られた。そのネットワークの動的性質に
は、TGFβに細胞が応答する際に、消滅したり新たに得られたりするコネクションが
含まれている。TGFβは、発生の間に生じたり、また上皮性の悪性腫瘍(carcinoma)の
浸潤性の特徴に寄与する上皮性から間充織への転換を制御する。Ozdamarたち
は、TGFβの緊密な接合の制御と極性タンパク質Par6の役割を探求した(p.
1603)。TGFβ受容体によるPar6のリン酸化が、乳腺細胞の上皮性から間充織への転換
に必要であった。Par6の機能はE3ユビキチン連結酵素(Smurf1)の補充であるらし
く、これが小さなグアノシン・トリホスファターゼRhoAの分解と密接な接合の溶解
に導くのである。(KF)
High-Throughput Mapping of a Dynamic Signaling Network in
Mammalian Cells
p. 1621-1625.
Regulation of the Polarity Protein Par6 by TGFß Receptors
Controls Epithelial Cell Plasticity
p. 1603-1609.
ブラシノステロイドのシグナル伝達経路(Brassinosteroid Signaling
Pathway)
ある型のステロイド、ブラシノステロイドを欠く植物は、暗いところでは巻いた葉
をもつ矮小なものになり、役に立たない成長パターンを示しやすい。ブラシノステ
ロイドは植物細胞表面にある受容体と結合し、BZR1とBZR2などの核因子を含むシグ
ナル伝達カスケードを起動する。Heたちはこのたび、ブラシノステロイドのシグナ
ル伝達経路を詳細に特徴づけ、BZR1が転写リプレッサとして機能するDNA結合タンパ
ク質の1つであることを見いだしている(p. 1634;2005年1月27日のオンライン出版;
またSablowskiとHarberdによる展望記事参照のこと)。(KF)
BZR1 Is a Transcriptional Repressor with Dual Roles in
Brassinosteroid Homeostasis and Growth Responses
p. 1634-1638.
PLANT SCIENCES:
Enhanced: Plant Genes on Steroids
p. 1569-1570.
応答と報酬の結びつき(Linking Responses to Reward)
報酬の大きさと確率が可変であるとすると、効率的な神経コーディングは、我々の
応答がありうる報酬の大きさの真ん中あたりのどこかに調整され、その応答は報酬
のありそうな範囲がどれだけ広いかを勘定に入れて変調される、ということになる
のかもしれない。Toblerたちは、そのような調整された応答が実際に、変化する報
酬のスケジュールに適応したサルのドーパミン・ニューロンの活性化のパターン内
にコードされている、ということを示唆するデータを提示している(p. 1642)。(KF)
Adaptive Coding of Reward Value by Dopamine
Neurons
p. 1642-1645.