Science October 10, 2003, Vol.302
メソ多孔性ケイ酸塩の有機的な側面(The Organic Side of Mesoporous
Silicates)
メソ構造多孔性ケイ酸塩は、有機-無機のナノ構造生成の鋳型として有用である。し
かし、有機材料のうちどのくらいが骨格となるケイ酸塩にメソ多孔性を壊さずに結
合できか、という限定要因があった。Landskronたちは(p. 266)、3つの環を持つ有
機物(the cyclic three-ring silsesquioxane [(EtO)2Si(CH2)]3)から、より
多くの有機材料部分をもつ周期的なメソ多孔性材料を形成できる、SiとCH2族が交
互にあるリングをつくる方策を発見した。この材料で作ったフィルムは低い誘電率
と高い機械的安定性を持ち、微小電子回路に利用することができる。(Na,Tk)
Periodic Mesoporous Organosilicas Containing Interconnected
[Si(CH2)]3 Rings
Kai Landskron, Benjamin D. Hatton, Doug D. Perovic,
and Geoffrey A. Ozin
p. 266-269.
非ラジカル的酸化反応(A Nonradical Approach to Oxidation)
有機分子の直接酸化は、往々にして制御が難しいラジカル的反応経路により進行す
る。荷電子が対電子を持つ酸素の励起状態である一重項酸素は、非ラジカル的反応
経路を経由してスルフィドやホスフィンといった有機分子と反応する。この種の反
応経路の研究は他の非ラジカル的酸化剤を開発する上での洞察を与えるべきもので
あるが、最初に出来る化合物種が一重項酸素それ自体よりもはるかに反応性が高く
なりがちである。Hoたち(p. 259; Greerによる展望参照)は、大きな置換基(オル
トーメトキシフェニール基)を持つホスフィンが一重項酸素と反応して過酸化物の中
間体(環状のP-O-O環)をつくり、これが核磁気共鳴により特徴付けられることを示し
ている。この化合物は非ラジカル的反応を経由してオレフィンを酸化してエポキシ
ド化する。(KU)
CHEMISTRY:
Enhanced: A View of Unusual Peroxides
Alexander Greer
p. 235-236.
Phosphadioxirane: A Peroxide from an Ortho-Substituted
Arylphosphine and Singlet Dioxygen
David G. Ho, Ruomei Gao, Jeff Celaje, Ha-Yong
Chung, and Matthias Selke
p. 259-262.
動く標的からの蛍光(Fluorescence from a Moving Target)
電子移動(Electron-transfer ET) 反応は、距離依存性が非常に大きく、ある酵素中
の配座の変化は、各ステップの反応レート上にその特徴を残す可能性がある。複雑
な多重指数関数的(multiexponential) 減衰が予測されるが、しかし、アンサンブル
平均的な測定は、異種の集団が検知されているため、それらの挙動を単純なものの
ように見せる。 Yang たち (p.262; Orrit による展望記事を参照のこと) は、フラ
ビン還元酵素中のフラビン族の蛍光の失活を追跡し、単一分子からの非指数関数的
な減衰を観測した。これらの結果は、酵素は動的にさまざまな反応性を有する配座
間を変換する可能性があるという考えを支持している。(Wt)
CHEMISTRY:
The Motions of an Enzyme
Soloist
Michel Orrit
p. 239-240.
Protein Conformational Dynamics Probed by Single-Molecule
Electron Transfer
Haw Yang, Guobin Luo, Pallop Karnchanaphanurach,
Tai-Man Louie, Ivan Rech, Sergio Cova, Luying Xun, and X. Sunney Xie
p. 262-266.
遺伝子相互作用の配列(Gene Interaction Arrays)
遺伝子配列の進化的な保存から機能についての手がかりが得られることが知られて
いるが、Stuartたち(p 249; Quackenbushによる展望記事参照)は、発現パターンの
保存はもっと強力なツールにもなることを示している。ヒト、ハエ、ムシ、酵母の
マイクロアレイ3000個以上のセットによって、複数の異なっている種で共通に発現
される遺伝子グループが明確になった。遺伝子相互作用の数と型から、遺伝子機能
の進化についての洞察が得られた。例えば、遺伝子がひとつの経路だけで作用する
か、複数の機能を持つか、他の遺伝子とどの程度密に関係しているかなどについて
手がかりが得られた。(An)
GENOMICS:
Microarrays--Guilt by
Association
John Quackenbush
p. 240-241.
A Gene-Coexpression Network for Global Discovery of Conserved
Genetic Modules
Joshua M. Stuart, Eran Segal, Daphne Koller, and
Stuart K. Kim
p. 249-255.
時間を合わせる(Keeping in Time)
細胞周期と概日性時計を結ぶ機能的経路の存在は以前から疑われた。Matsuoたち(p
255; Schiblerによる展望記事参照)は、この2つの主要な制御システムの間の分子連
結を同定した。この分子連結は、増殖中の細胞がどのように概日性時計からの情報
を利用し、細胞分裂のタイミングを制御するかを説明できるかもしれない。マウス
の再生中の肝臓において、有糸分裂の3つの重要な制御因子の発現が日周期を保って
制御されたのである。この制御因子のひとつであるWEE1は、哺乳類の概日性時計の
中心成分である2つの転写制御因子によって直接に制御された。(An)
CIRCADIAN RHYTHMS: Liver Regeneration Clocks On
Ueli Schibler
p. 234-235.
Control Mechanism of the Circadian Clock for Timing of Cell
Division in Vivo
Takuya Matsuo, Shun Yamaguchi, Shigeru Mitsui, Aki
Emi, Fukuko Shimoda, and Hitoshi Okamura
p. 255-259.
より均一な温暖化(Warming Up More Evenly)
もし全世界的な温暖化が起こりつつあるとしたら、対流圏の温暖化の仕方は、地
球上表面で観測される温暖化の様相と一致しているということが予測されるであ
ろう。しかしながら、人工衛星の測定器から得たマイクロ波データに基づく対流
圏中層温度の再構成は、明らかに地上の気象観測所における多くの測定値と矛盾
しており、対流圏中層には全く、あるいは、ほとんど温暖化が見られないことを
示している。VinnikovとGrody(p.269)は、新しい分析的アプローチを用いて人工
衛星のマイクロ波データの中に、地上と同等あるいはそれ以上に大きな対流圏に
おける長期的な温暖化傾向の形跡を見つけた。(TO)
Global Warming Trend of Mean Tropospheric Temperature
Observed by Satellites
Konstantin Y. Vinnikov and Norman C. Grody
p. 269-272.
SARSのおける動物とのつながり(An Animal Link in SARS)
重度急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすコロナウイルスSCoVは、動物ウイルスで
あって最近になって人に交差感染したと考えられている。初期のSARS発生は中国の
広東省において野生動物に接していたレストランの作業者であり、野生動物が珍し
い食べ物として料理されていた。Guanたち(p. 276;Normileによる9月5日号のニュー
ス記事参照)は、広東省の小売マーケットにおける動物のSCoVを調べた。ジャコウネ
コやタヌキ,及びイタチアナグマは人にSARSをもたらすウイルスに似たコロナウイ
ルスに感染していた証拠を示している。人からの単離体は動物の単離体と比較して
29−ヌクレオチドの欠失を示している。これらの動物がウイルスの自然界における
保菌者であるのか、或いは伝染に関与する中間媒体者であるのかははっきりしてい
ない。(KU)
Isolation and Characterization of Viruses Related to the SARS
Coronavirus from Animals in Southern China
Y. Guan, B. J. Zheng, Y. Q. He, X. L. Liu, Z. X.
Zhuang, C. L. Cheung, S. W. Luo, P. H. Li, L. J. Zhang, Y. J. Guan, K. M.
Butt, K. L. Wong, K. W. Chan, W. Lim, K. F. Shortridge, K. Y. Yuen, J. S.
M. Peiris, and L. L. M. Poon
p. 276-278.
徐々に広まる気象(Trickle-Down Climate)
最近の気象観測は、南極冠(the southern polar cap)の周りを回っている偏西風が
強まってきたように、南半球における大気循環が過去70年間に変化してきているこ
とを明らかにしている。この傾向は対流圏気象の変化を伴っており、それは主に南
極大陸上空での光化学的作用によるオゾン損失が原因となって成層圏低層の冷却化
が起こっていると考えられている。Gillett と Thompson(p.273;Karolyによる展望
記事参照)は、詳細に記録された成層圏オゾン破壊によってのみ乱れが与えられる気
象モデルを用いて、観測された傾向がシミュレートできることを示した。これらの
結果は、成層圏オゾン破壊は、地球表面における気象変化を引き起こす重要な要因
であり、そして人間の活動がこの変化に重要な役割を果たしているという仮説に対
する強い支持を示している。(TO)
ATMOSPHERIC SCIENCE:
Ozone and
Climate Change
David J. Karoly
p. 236-237.
Simulation of Recent Southern Hemisphere Climate
Change
Nathan P. Gillett and David W. J. Thompson
p. 273-275.
定規をあてて切断(Shifting the Measuring Tape Before Cutting)
哺乳動物イントロンは、大型でかつ多数存在する場合があり、そのため、イントロ
ンの切り出しプロセス(スプライシング)は迅速かつ正確なものでなければならな
い。UsnRNPとして知られる5種のRNA-タンパク質複合体は、二段階のスプライシング
反応を触媒する。イントロンの5'末端または上流末端がはじめにU1 snRNPにより認
識され、次いでU4/U5/U6 snRNPが結合する。その結果、U1 snRNPおよびU4 snRNPの
両方ともがはずれる複雑なリモデリングが生じ、受容体構造中にイントロンの5'末
端を保持するという役割をU6 snRNPが代わりに行い、最初の切り出しを可能にす
る。Chanたち(p. 279)は、Prp19と呼ばれるサブコンプレックスが、U6 snRNAがイ
ントロンの5'末端と塩基対を形成する方法における5-ヌクレオチドシフトを媒介
し、ならびに全てのU snRNPに共通する構造であるSmタンパク質の7量体環の動的な
開環および解離を媒介することを報告した。(NF)
The Prp19p-Associated Complex in Spliceosome
Activation
Shih-Peng Chan, Der-I Kao, Wei-Yü Tsai, and
Soo-Chen Cheng
p. 279-282.
内耳の形態と機能(Form and Function in the Inner Ear)
魚は、内耳に耳石という炭酸カルシウムの小さな結晶をもっているが、ゼブラ
フィッシュは、耳石がない場合、円を描くように泳ぐ。これらの耳石により、内耳
は、現実の世界での運動および方位を判断することができる。Soellnerたち(p.
282;Feketeによる展望記事を参照)はここで、Starmakerと呼ばれるタンパク質を
同定した。このタンパク質は、ゼブラフィッシュの耳石の形成を方向付け、それに
より耳石が有効的に機能するために必要とされる結晶格子構造を有するようにな
る。Starmakerタンパク質は、変異がある場合に難聴や歯の異常を引き起こすヒトタ
ンパク質と、配列レベルで似ている。(NF)
DEVELOPMENTAL BIOLOGY:
Rocks That
Roll Zebrafish
Donna M. Fekete
p. 241-242.
Control of Crystal Size and Lattice Formation by Starmaker in
Otolith Biomineralization
Christian Söllner, Manfred Burghammer,
Elisabeth Busch-Nentwich, Jürgen Berger, Heinz Schwarz, Christian
Riekel, and Teresa Nicolson
p. 282-286.
保存された古代の生物活動(Ancient Activities Retained)
光合成の間、酵素のRuBisCOは二酸化炭素を有機炭素に変換する。面白いことにいく
つかの非光合成細菌はRuBisCOと配列相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子
を持っている。Ashida たち(p. 286)は、枯草菌(Bacillus subtilis)から得られた
RuBisCO様タンパク質(RLP)はメチオニンのサルベージ経路中の必須反応の1つを触
媒することを示している。RLP遺伝子の破壊に起因する成長障害は、光合成酵素
RuBisCOの遺伝子によって救済される。この発見によって古細菌(archeal)型タン
パク質と光合成タンパク質RuBisCOの進化上の関連が確立する。(Ej,hE)
A Functional Link Between RuBisCO-like Protein of
Bacillus and Photosynthetic RuBisCO
Hiroki Ashida, Yohtaro Saito, Chojiro Kojima, Kazuo
Kobayashi, Naotake Ogasawara, and Akiho Yokota
p. 286-290.
除外されることの痛み(The Pain of Being Left Out)
社会的に排除されることに伴う痛みの体験には、肉体的な痛みへの情動性応答を
仲介する脳の構造(前側帯状皮質)と同じ部分が関わっているだろうか?
Eisenbergerたちは、この仮説を、被験者に他の人とコンピュータ・ゲームをする
よう告げることで検証した(p. 290; またPankseppによる展望記事参照のこと)。
被験者は、次に、観戦しているうちに(技術的な問題があるからと言われることで
)ゲームから受動的に排除されるか、あるいは、参加後にゲームから積極的に排除
される。積極的に排除される際と、仲間に入れてもらえる場合との活性を比較す
ると、前側帯状皮質におけるより大きな活性が明らかになったが、これは排除さ
れている間の悩みについての後からの自己報告と相関するものであった。(KF)
NEUROSCIENCE:
Feeling the Pain of
Social Loss
Jaak Panksepp
p. 237-239.
Does Rejection Hurt? An fMRI Study of Social
Exclusion
Naomi I. Eisenberger, Matthew D. Lieberman, and
Kipling D. Williams
p. 290-292.
いつ分枝するか知っている(Knowing When to Branch)
ニューロンの軸索は、自分のターゲットとの正確な接続を確立するために分枝を形
成するが、分枝の制御についてはあまりわかっていない。Colavitaと
Tessier-Lavigneは、線虫(C.elegans)において、分枝の形成を停止し、その終結を
安定化させるためにBAM-2(branching abnormal)と呼ばれる膜タンパク質を必要とす
るニューロンのサブセットを同定した(p. 293)。BAM-2が失われると、分枝はその正
常な終結部位をオーバーシュートする(行き過ぎる)ことになる。BAM-2は、ニューロ
ン・シナプスの安定性を制御していると考えられているneurexinと類似した配列を
示している。(KF)
A Neurexin-Related Protein, BAM-2, Terminates Axonal Branches
in C. elegans
Antonio Colavita and Marc Tessier-Lavigne
p. 293-296.
活動中の脳のプログラムを見る(Seeing the Brain's Program at Work)
ミツバチの行動が、巣箱での世話役としての労働から捕食行動に変わるとき、ミツ
バチの脳における遺伝子発現パターンもまた変化する。Whitfieldたちは、60匹のミ
ツバチの脳における遺伝子発現を調べた(p. 296)。マイクロアレイ分析によって、
行動を予測するのに使える発現のパターンを有する50の遺伝子からなる集合を同定
することができた。(KF)
Gene Expression Profiles in the Brain Predict Behavior in
Individual Honey Bees
Charles W. Whitfield, Anne-Marie Cziko, and Gene
E. Robinson
p. 296-299.