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Science January 10, 2003, Vol.299


押しの強いナノ粒子(Pushy Nanoparticles)

コロイド粒子は、混じりあわない液体間に形成された流体界面で強く保持される。Linた ち(p. 226)は直径10nm以下の粒子において、熱エネルギーと界面エネルギーが同程度とな り、界面を自己組織化に利用できることを示している。大きな粒子(4.6nm)がトルエン中 の水滴で作られた界面でより小さな粒子(2.8nm)に置き換わり、粒径依存の分離の可能性 を提供している。一旦界面で組織化されると、最初トルエン可溶の粒子が光誘導変換によ り水溶性になった。(KU)
Nanoparticle Assembly and Transport at Liquid-Liquid Interfaces
   Y. Lin, H. Skaff, T. Emrick, A. D. Dinsmore, and T. P. Russell
p. 226-229.

セシウムの凝縮(Cesium Condensation)

セシウムは原子時計の一次周波数標準としての利用から微細構造定数の決定に至るまで計 量学の分野で特別なる役割を果たしている。原子の総てが同じ量子状態になって、原子散 乱から生じる雑音信号が最小となるので、セシウムのボースーアインシュタイン凝縮 (BEC)の形成は測定に好都合である。しかしながら、光学的トラップのみを用いた気化法 では、セシウム原子の冷却は困難であることがわかってきた。セシウムで見い出されたこ の特異的問題を克服するために、Weberたち(p. 232)は、光学的トラップと磁気的チュ ーニングのテクニックを組み合わせて、セシウム原子をBEC状態に冷却した。セシウム原 子の散乱長(散乱半径)も変えることが出来、このことはプラスやマイナス、更にはゼロ の相互作用エネルギーを持つ様々な形態のBECの研究が可能となる。 (KU,Nk)
Bose-Einstein Condensation of Cesium
   Tino Weber, Jens Herbig, Michael Mark, Hanns-Christoph Nägerl, and Rudolf Grimm
p. 232-235.

温室効果の推定(Greenhouse Guesses)

海洋のCO2摂取量を測定するために選択される手法は大気中の O2/N2の比率に基づいているが、しかしこの手法には多くのあい まいさを導く幾つかの仮説と制限とが含まれている。McNeilたち(p.235)は、地上の効果 と海洋上で効果について、曖昧さを含むO2/N2手法の仮定に依存 しないように、1980年から1999年にかけてクロロフルオカーボン (chlorofluorocarbons:CFC)の海洋観測のみに基づいた、全海洋における人類によって発 生されたCO2摂取の推定値を示した。彼らは海洋における人為的 CO2蓄積量を直接観測する彼らのCFC方法の正当性を示し、全海洋循環モデル を使用しその不確定な部分を推定した。(TO, Nk)
Anthropogenic CO2 Uptake by the Ocean Based on the Global Chlorofluorocarbon Data Set
   Ben I. McNeil, Richard J. Matear, Robert M. Key, John L. Bullister, and Jorge L. Sarmiento
p. 235-239.

宇宙から見た海洋流(Ocean Currents Seen from Space)

海水は電気的導電性の媒体であるため、海洋流が地球磁場を横切って移動すると、海水は 誘導電流を発生する。これらの電流は二次的な磁場を発生し、それは衛星により、宇宙か ら遠隔測定することが可能となる。Tyler たち (p.239) は、CHAMP 衛星を用いて行った M2 潮流(月による主要な半日周期の海洋潮流) の遠隔検出を報告している。これらの観測 は、宇宙からの広範囲な海洋流遠隔モニタリングを可能にするものである。(Wt)
Satellite Observations of Magnetic Fields Due to Ocean Tidal Flow
   Robert H. Tyler, Stefan Maus, and Hermann Lühr
p. 239-241.

森林はどのように成長するか(How a Forest Grows)

アマゾン川流域の森林における植物相組成が、強い種による支配により均質なのかあるい は、個体の分散(dispersal)のような中立的プロセスに駆られてランダムに変動するのか 、あるいは、ニッチ(間隙)ベースモデル(niche-based models)が示唆するようなつぎは ぎ状態なのかはまだ知られていない。以前のリストでは、確たる判断基準とするには不十 分なサイト数であったが、Tuomistoたち(p. 241)はこれまでにない広さと内在的に一貫性 が保たれたデータセットの分析結果を報告する。西アマゾン流域からの163サイトのデ ータは、シダや被子植物科のノボタン科(Melastomataceae)に焦点を当てている。森林は 構造的に一様な地域内でさえ植物相は均質でないこと、そして植物相の変動の大部分は環 境決定論の観点から、そして幾分かは個体の分散のような中立的プロセスによ って説明可能であることを示した。(TO,Nk)
Dispersal, Environment, and Floristic Variation of Western Amazonian Forests
   Hanna Tuomisto, Kalle Ruokolainen, and Markku Yli-Halla
p. 241-244.

アポトーシスの小さな活性化因子(A Small Activator of Apoptosis)

ミトコンドリアのカスパーゼの活性化経路は、プログラムされた細胞死に必要なタンパク 質分解酵素であるカスパーゼ9を制御する。多様なアポトーシスの刺激がミトコンドリア からチトクロムCを遊離し、アポトーソームというプロアポトーシスのタンパク質複合体 を形成するによってカスパーゼ9を活性化する。Jiangたち(p. 223;Nicholsonと Thornberryによる展望記事参照)は、スループットの高いケミカルスクリーンの後に生化 学的分画と生物学的テストの組み合わせを用い、薬の効果の原因となる分子を同定した 。アポトーソームとカスパーゼ9の経路は、prothymosinαという腫瘍性タンパク質によっ て抑制された、PHAP(putative HLA-DR-associated proteins推定上のHLA-DR関連タンパク 質)という腫瘍サプレッサータンパク質によって促進された。この研究によれば、アポト ーソームは 薬開発の目標になる可能性がある。(An)
APOPTOSIS:
Life and Death Decisions

   Donald W. Nicholson and Nancy A. Thornberry
p. 214-215.
Distinctive Roles of PHAP Proteins and Prothymosin-alpha in a Death Regulatory Pathway
   Xuejun Jiang, Hyun-Eui Kim, Hongjun Shu, Yingming Zhao, Haichao Zhang, James Kofron, Jennifer Donnelly, Dave Burns, Shi-chung Ng, Saul Rosenberg, and Xiaodong Wang
p. 223-226.

外膜タンパク質を構築(Assembling Outer Membrane Proteins)

グラム陰性菌の外膜タンパク質(OMPs)は、細胞質から内膜を通して周辺質へ移動した後に 構築される。この構築に関与する分子機構は、よく理解されていなかった。Voulhouxたち (p. 262)は、Omp85というタンパク質のOMP構築における役割を記述している。Omp85欠乏 の細胞は生存不能であり、多様な未構築OMPを蓄積した。Omp85は、葉緑体タンパク質輸入 機構の成分に関連する。(An)
Role of a Highly Conserved Bacterial Protein in Outer Membrane Protein Assembly
   Romé Voulhoux, Martine P. Bos, Jeroen Geurtsen, Maarten Mols, and Jan Tommassen
p. 262-265.

瞳孔を制御(Instructing the Pupils)

メラノプシン(melanopsin)という網膜の色素は、神経節細胞に見られるが、この細胞は視 覚系の桿体と錐体という光受容器の下流にある。メラノプシン欠乏のノックアウトマウス を生成することによって、Lucasたち(p. 245; Menakerによる展望記事参照)は、この色素 が、視覚系の非イメージ形成機能に関与すること、特に突然強い光に反応する瞳孔縮小に 関与することを示した。(An)
CIRCADIAN RHYTHMS:
Circadian Photoreception

   Michael Menaker
p. 213-214.
Diminished Pupillary Light Reflex at High Irradiances in Melanopsin-Knockout Mice
   R. J. Lucas, S. Hattar, M. Takao, D. M. Berson, R. G. Foster, and K.-W. Yau
p. 245-247.

循環経路間の誤接続(Faulty Connections Between Circulatory Paths)

血液とリンパの並列的な循環系は、血管内皮の分化を通して、発生の間に分離される 。Abtahianたち(p. 247;JainとPaderaによる展望記事を参照)はここで、この分離が 、正しいリンパ球機能および血小板機能のために必要とされることが知られている特異的 細胞内シグナル伝達タンパク質--SLP-76およびSyk--に依存していることを示す。血管と リンパ管との異常な接続は、いずれかのタンパク質を欠損するマウスにおいて発生し、そ して重度の循環異常および出血を引き起こした。驚くべきことに、SLP-76の発現は内皮細 胞上では検出されず、そして放射線照射されそしてSLP-76-欠失骨髄を移植された野生型 マウスにおいて、異常な接続が発生した。これらの結果から、2種の脈管システムの協調 的な分離を補助するために造血系列の細胞が必要とされることが示唆される。 (NF)
DEVELOPMENT:
Lymphatics Make the Break

   Rakesh K. Jain and Timothy P. Padera
p. 209-210.
Regulation of Blood and Lymphatic Vascular Separation by Signaling Proteins SLP-76 and Syk
   Farhad Abtahian, Anastasia Guerriero, Eric Sebzda, Min-Min Lu, Rong Zhou, Attila Mocsai, Erin E. Myers, Bin Huang, David G. Jackson, Victor A. Ferrari, Victor Tybulewicz, Clifford A. Lowell, John J. Lepore, Gary A. Koretzky, and Mark L. Kahn
p. 247-251.

ロード・オブ・DNA・リング(Lord of the DNA Rings)

細菌のDeinococcus radioduransは、非常に高いレベルの放射線およびその他のDNA損傷性 攻撃に対して耐性を示すことができるが、この細菌は、通常のDNA修復酵素群をコードす る。Levin-Zaidmanたち(p. 254)はここで、放射線耐性にとって重要なことは、細菌ゲ ノムがパッケージされる方法が通常とは異なることである可能性があることを示唆する 。D. radioduransのゲノムは、きつくパックされた環状-様の形態を採用し、それにより 放射線照射により産生されるDNA断片の拡散を制限し、そして放射性照射により生じた遊 離DNA末端が接着し、その結果テンプレート-非依存性の正確なDNA断片の再結合を生理学 的に促進することができる。(NF)
Ringlike Structure of the Deinococcus radiodurans Genome: A Key to Radioresistance?
   Smadar Levin-Zaidman, Joseph Englander, Eyal Shimoni, Ajay K. Sharma, Kenneth W. Minton, and Abraham Minsky
p. 254-256.

調子はずれ(Out of Rhythm)

一般的な心拍のリズムの乱れである心房細動 (AF)は、人間社会の高齢化が進むに従って 、この症状を持つ割合も増加傾向にある。しかし、その分子的病理メカニズムはほとんど 分かっていない。Chenたち(p. 251)は、中国において、遺伝性AFを有する大家族に付いて 調べ、染色体11p15.5上の遺伝子KCNQ1が原因であることを突き止めた。KCNQ1はカリウム チャネルのサブユニットをコードしているが、このサブユニットは、以前は家族性心室細 動と遺伝性QT延長症候群の病因と関連づけられていたものである。重要なことは、後者の 不具合ににおけるKCNQ1の変異は、チャネルの機能不全を生じるが、AFファミリーの変異 は機能獲得型(gain of function)である。このように、たった1つのイオンチャネルの変 化で、異なる心臓不整脈を誘起するという発見は、これらの病気の薬理処置 のための重要な意味合いを持っていよう。(Ej,hE)
KCNQ1 Gain-of-Function Mutation in Familial Atrial Fibrillation
   Yi-Han Chen, Shi-Jie Xu, Saïd Bendahhou, Xiao-Liang Wang, Ying Wang, Wen-Yuan Xu, Hong-Wei Jin, Hao Sun, Xiao-Yan Su, Qi-Nan Zhuang, Yi-Qing Yang, Yue-Bin Li, Yi Liu, Hong-Ju Xu, Xiao-Fei Li, Ning Ma, Chun-Ping Mou, Zhu Chen, Jacques Barhanin, and Wei Huang
p. 251-254.

リボソームの変形による健康(Health Through Ribosomal Modification)

先天性異常角化(dyskeratosis congenita (DC))は遺伝性障害であり、骨髄異常、皮膚欠 陥、ガンへの高感受性などを伴う。ヒト遺伝子の研究によって、これに関係する2つの遺 伝子が示唆されている:リボソームRNA(rRNA)を修飾する推定のプソイドウリジン合成酵 素をコードするDKC1と、テロメラーゼのRNA成分をコードするTERCの2つ。DKC1の欠損性 対立遺伝子を発現するマウス変異体の研究から、Ruggeroたち(p. 259)は、腫瘍形成を含 むDCの臨床特徴は、rRNA修飾の欠陥によって生じ、ずっと後に生じるテロメア機能の欠陥 からは一時的に分離していることを示した。このように、DCはリボソームの異常な産生に よって誘起されるらしい;テロメアの欠陥が病気を和らげたり悪化させたりする 。(Ej,hE)
Dyskeratosis Congenita and Cancer in Mice Deficient in Ribosomal RNA Modification
   Davide Ruggero, Silvia Grisendi, Francesco Piazza, Eduardo Rego, Francesca Mari, Pulivarthi H. Rao, Carlos Cordon-Cardo, and Pier Paolo Pandolfi
p. 259-262.

二本鎖断裂とBloom Syndrome(Double-Strand Breaks and Bloom Syndrome)

ブルーム症候群(BS)の患者は、ゲノムの不安定性を示し、癌になりやすくなる。ショウジ ョウバエでは、Blm変異体が同様のゲノムの不安定性を示すので、BlmすなわちRecQヘリカ ーゼの細胞における役割を理解するためのよいモデルとなる可能性がある。ショウジョウ バエでは、DNA二本鎖断裂の大部分は合成-依存的鎖アニーリング(SDSA)と呼ばれる相同的 組換え経路によって修復される。Adamsたちは、ショウジョウバエBlmがないと、よりエラ ーを起こしやすい経路によって修復がなされ、結果として大きな欠失が生じることになり うる、ということを示している(p. 265)。(KF)
Drosophila BLM in Double-Strand Break Repair by Synthesis-Dependent Strand Annealing
   Melissa D. Adams, Mitch McVey, and Jeff J. Sekelsky
p. 265-267.

量子力学的な塩類(Quantum-Mechanical Salts)

量子的相転移では、ある物質は、絶対零度において外部パラメーターによる刺激の元でひ とつの相から他の相への遷移が可能となるのであるが、それらは他の高度な相関系に対す るより深い洞察を与える可能性があるため、活発に研究されている。それらの多くの研究 では、新しいテストシステムを設計し、実装し、特徴付けることに注力されてきた 。Horiuchi たち (p.229) は、広がった格子状電荷輸送塩に関する結果を与えており、圧 力温度依存性によると、外部の圧力により量子的臨界点を調整できる可能性があることを 示している。彼らは、その系が、中性−イオン型量子相転移を見せるという証拠を提示し ている。この相転移では、中性相にある共有結合分子が、塩の複合体のドナーとアクセプ ター分子上に電荷とスピンが局在したままイオン系に変換され うる。(Wt)
Quantum Phase Transition in Organic Charge-Transfer Complexes
   Sachio Horiuchi, Yoichi Okimoto, Reiji Kumai, and Yoshinori Tokura
p. 229-232.

酸化のストレスとパーキンソン病の早期発症(Oxidative Stress and Early-Onset Parkinson's Disease)

パーキンソン病では、脳の黒質線条体経路にあるドーパミン作動性ニューロンが死んでい くにつれ、運動性の異常が進む。Bonifatiたちは、パーキンソン病の早期発症型常染色体 性劣性形態を有するイタリアとオランダの各1家族で、DJ-1と呼ばれる遺伝子における変 異を同定した(p. 256)。遍在的に発現し、高度に保存されているタンパク質であるDJ-1の 機能は未知であるが、それが酸化のストレスに対する細胞の応答に関与していることの間 接的な証拠はあるのだ。(KF)
Mutations in the DJ-1 Gene Associated with Autosomal Recessive Early-Onset Parkinsonism
   Vincenzo Bonifati, Patrizia Rizzu, Marijke J. van Baren, Onno Schaap, Guido J. Breedveld, Elmar Krieger, Marieke C. J. Dekker, Ferdinando Squitieri, Pablo Ibanez, Marijke Joosse, Jeroen W. van Dongen, Nicola Vanacore, John C. van Swieten, Alexis Brice, Giuseppe Meco, Cornelia M. van Duijn, Ben A. Oostra, and Peter Heutink
p. 256-259.

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