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Science December 6, 2002, Vol.298


短信(Brevia)

短信(Brevia)
暗黒大洋の呼吸を溶解有機炭素が支える(Dissolved Organic Carbon Support of Respiration in the Dark Ocean) Aristeguiたち(p. 1967)によると、溶解有機炭素量と見かけの酸素消費量の比較から 、大洋の透光層以下の暗黒層領域の呼吸作用(respiration)の上限は20%あると推定され るが、これは溶解有機炭素の下方流によって支えられている。(Ej,hE)
Dissolved Organic Carbon Support of Respiration in the Dark Ocean
   Javier Arístegui, Carlos M. Duarte, Susana Agustí, Marylo Doval, Xosé A. Álvarez-Salgado, and Dennis A. Hansell
p. 1967.

地球がいかにして形作られたか(How Our Planet Shapes Up)

最近、CoxとChao(2 August,p.831)は、1998年に地球の扁平性(oblateness)が顕著に増加 したことを測定した。そして今Dickeyたち(p. 1975)は、この扁平性増加は太平洋の10年 変動(Pacific Decadal Oscillation)とエルニーニョ-南方振動とによる海洋質量の再分配 と、亜極地帯の氷河が溶け出していることとに関係していることを示した。これらの短期 的な気象効果を除外すると、後氷期のリバウンドで生じた長期的な扁平性の減少によって 、下部マントルの粘性度を詳細に推定することが出来る。(TO)
Recent Earth Oblateness Variations: Unraveling Climate and Postglacial Rebound Effects
   Jean O. Dickey, Steven L. Marcus, Olivier de Viron, and Ichiro Fukumori
p. 1975-1977.

環境にやさしい溶媒のソノケミストリー(Sonochemistry in Green Solvents)

ソノケミストリーは、キャビテーション泡の崩壊により溶液中で発生させることのできた 高温を利用している。Kuijpers たち (p.1969) は、キャビテーションにより形成された ラディカルを、高圧液体CO2 中のメチルメタクリル酸塩の重合反応の誘発に 用いうることを示している。その高分子は、これらの条件下ではほとんど溶媒和すること なく沈殿するために、高い割合の転換が生ずる。そして、低粘度状態の溶液を維持すこと ができる。(Wt)
Cavitation-Induced Reactions in High-Pressure Carbon Dioxide
   M. W. A. Kuijpers, D. van Eck, M. F. Kemmere, and J. T. F. Keurentjes
p. 1969-1971.

元オルメカ人( In the Original Olmec)

紀元前1000年間にしばしば中米に現れた書き言葉は、メキシコ南東部のオルメカ人に よって使用された。彼らは、新世界に初めて数多くの遺跡を残し、大きな都市発展させる とともに、後でマヤ族の文字体系(writing)の基礎となる言語を発達させた。しかし、中 米の文字体系の発達時期や場所、あるいは発達させた人々については、広く論議されてき た。Pohlたち(p.1984;Stokstadによるニュース記事参照)は、古代オルメカ人の中心地で あるメキシコのラベンタ(La Venta)付近から絵文字銘刻(glyphic inscriptions)が記され た印章(seal)や飾り板(plaque)を掘り出した。放射線炭素による年代測定や付随した陶器 類から、これらの人造物は紀元前650年であることが示された。これらの発見から、この 地域はメキシコ南東部の文化というよりむしろ、中米の文字体系や暦系の発祥地であるこ とを意味している。(TO)
ARCHAEOLOGY:
Oldest New World Writing Suggests Olmec Innovation

   Erik Stokstad
p. 1872-1874.
Olmec Origins of Mesoamerican Writing
   Mary E. D. Pohl, Kevin O. Pope, and Christopher von Nagy
p. 1984-1987.

火星の渓谷をつくった撃突(Heavy Bombardment Formed Martian Valleys)

35億年程前に、火星の表面は少なくとも25回の巨大な衝突現象があったことと、同時期に 数多くの広範囲な渓谷ネットワークが形成された証拠を残している。Seguraたち(p. 1977;Kerrによるニュース解説参照)は、渓谷ネットワーク形成に関する衝突現象の影響に 関してモデルを作り、直径500kmの1個の火球、あるいは12個の直径200kmの火球により渓 谷ネットワークをつくるのに必要な厚さ50mの広範囲な水の層が出来る事を見い出した 。激しい撃突後のごく短い間、衝突現象によって火星は温暖な、そして湿潤な環境につく りかえられた。かくして、生命が存在するに適した快適で平穏な環境は、つかの間の期間 に限られていたであろう。(KU)
PLANETARY SCIENCE:
A Smashing Source of Early Martian Water?

   Richard A. Kerr
p. 1866.
Environmental Effects of Large Impacts on Mars
   Teresa L. Segura, Owen B. Toon, Anthony Colaprete, and Kevin Zahnle
p. 1977-1980.

CO2が多くても植物成長が減少する(More Is Less)

大気中のCO2濃度が上昇し続けるなら植物はより大量の生物資源を生産するも のと考えられているが、CO2だけが植物の生長に影響を与えるものではない 。Shawたちは(p. 1987、Morganによる展望も参照)、CO2、気温、降水量、窒 素析出などが草原の生態系に単独で与える影響と複合的な組み合わせで与える現実的な影 響について記述している。CO2上昇率変化に対する正味の一次生産量(NRP: Net Primary Production)は他の地球規模の要素の変化により著しく変化する 。CO2だけの増加は地上の植物成長率を増加するが、他の地球規模の要素と複 合するとCO2上昇はNRPを減少させる傾向がある。(Na)
ECOLOGY:
Looking Beneath the Surface

   Jack A. Morgan
p. 1903-1904.
Grassland Responses to Global Environmental Changes Suppressed by Elevated CO2
   M. Rebecca Shaw, Erika S. Zavaleta, Nona R. Chiariello, Elsa E. Cleland, Harold A. Mooney, and Christopher B. Field
p. 1987-1990.

海洋保護のネットワーク(Refuge Networks)

海洋保護ネットワークは、個々の単独で孤立した保護よりも大規模は生物多様性の保存の 方が有力な方法の一つであることを示唆している。しかしながら、適切なるネットワーク を構築する上で中規模や大規模な海洋保護における生物多様性に関する情報が充分ではな かった(種の豊富さに関するデータに加えて)。この問題を解決するために、Salaたち(p. 1991)は、約1000kmの領域をおおうカリフォルニア湾における岩礁生息地の生物多様性や 生態学的プロセス、及びこれらの関連性に関する情報を集めた。漁業権や社会経済的因子 に関するデータと同様に、この情報を用いて彼らは保護方法の選定に関するアルゴリズム を開発し、あらゆる保護の目標を満足させ、地域漁業との共存をも満たす保護ネットワ ークをつくり上げた。(KU)
A General Model for Designing Networks of Marine Reserves
   Enric Sala, Octavio Aburto-Oropeza, Gustavo Paredes, Ivan Parra, Juan C. Barrera, and Paul K. Dayton
p. 1991-1993.

容易に失われた電子たち(Easily Lost Electrons)

セシウムが極端に低いイオン化エネルギーを有することは、長い間、光電性電池の開発に 利用されてきた。Cotton たち (p.1971) は、セシウムのイオン化エネルギーをコンマ数 エレクトロンボルト凌ぐ分子固体について報告している。この化合物は、特別に束縛され たタングステン-タングステン四重結合を含んでおり、そのような低エネルギーで放射さ れるのは、最も弱い d 結合中の電子である。セシウムと全く違うことには、その分子は 通常の環境条件においても比較的安定であり、還元剤のような用途を見出せる可能性があ る。(Wt)
Closed-Shell Molecules That Ionize More Readily Than Cesium
   F. Albert Cotton, Nadine E. Gruhn, Jiande Gu, Penglin Huang, Dennis L. Lichtenberger, Carlos A. Murillo, Laura O. Van Dorn, and Chad C. Wilkinson
p. 1971-1974.

ポリ(A)テールと精子発生(Poly(A) Tails and Spermatogenesis)

精子発生の間に機能する遺伝子-調節メカニズムが、Kashiwabaraたち(p. 1999)により 同定された。精巣-特異的な、細胞質ポリ(A)ポリメラーゼ(TPAP)についての遺伝子を 標的化破壊されたオスマウスは、精子形成の円形精細胞期に停止しているため、不妊であ る。ハプロイド-特異的遺伝子のサブセットの発現が減少することにより、TPAPが精子形 成に必須であることが示される。さらに、TPAPは、円形精細胞内での特定の転写因子メッ センジャーRNA(mRNA)のポリ(A)テール伸長に関与しており、そしてTPAPを除去すると 、TAF10転写因子の核移行に影響が及ぶ。このように、TPAPは、転写後の現象および翻訳 後の現象を通じて、哺乳動物の配偶子形成の間ずっと、mRNA制御に必須である。(NF)
Regulation of Spermatogenesis by Testis-Specific, Cytoplasmic Poly(A) Polymerase TPAP
   Shin-ichi Kashiwabara, Junko Noguchi, Tiangang Zhuang, Ko Ohmura, Arata Honda, Shin Sugiura, Kiyoko Miyamoto, Satoru Takahashi, Kimiko Inoue, Atsuo Ogura, and Tadashi Baba
p. 1999-2002.

幹細胞、尾になる(Stem Cell Tails)

幹細胞についての多くの最近の研究は、幹細胞の分化についての能力が、それらの発生系 列のスイッチングを可能にするかどうかについて、注目を向けていた。Echeverriと Tanaka(p. 1993;Stocumによる展望記事を参照)はここで、再生中のサンショウウオの 尾の相対的に正常なコンテクストにおける幹細胞の運命を追跡している。個別に標識した 細胞をリアルタイムに生で観察することにより、著者たちは、脊髄中の標識された細胞が 、再生中の尾の筋肉および軟骨に対して寄与し、同時に神経細胞に対してより大きく寄与 することを見出した。両生類は、哺乳動物よりも、四肢や尾の再生についてずっと強い能 力を示すが、両生類細胞の柔軟性についてのこれらの観察により、哺乳動物細胞の柔軟性 を制御する因子についての洞察が導かれる可能性がある。(NF)
DEVELOPMENT:
A Tail of Transdifferentiation

   David L. Stocum
p. 1901-1903.
Ectoderm to Mesoderm Lineage Switching During Axolotl Tail Regeneration
   Karen Echeverri and Elly M. Tanaka
p. 1993-1996.

マラリアの突入をブロック(Blocking Malarial Entry)

数少ない有効な抗マラリア薬に対してPlasmodium falciparum(ヒトのマラリアの寄生虫で ある熱帯熱マラリア原虫)が広範な抵抗性を示すための新しい治療標的を探す必要がある 。Greenbaumたち(p. 2002)は、ケミカルプロテオミクス(proteomics)スクリーンを用い 、マラリア原虫がヒトの赤血球に浸潤するのに必要であるfalcipain-1というシステイン のタンパク質分解酵素を同定した。ケミカルライブラリのスクリーニングによって、著者 はfalcipain-1活性とマラリア原虫の赤血球への浸潤だけを特異的にブロックした阻害薬 を同定したが、他のシステインタンパク質分解酵素あるいはマラリア原虫の生活環の期間 はブロックされていない。(An)
A Role for the Protease Falcipain 1 in Host Cell Invasion by the Human Malaria Parasite
   Doron C. Greenbaum, Amos Baruch, Munira Grainger, Zbynek Bozdech, Katlin F. Medzihradszky, Juan Engel, Joseph DeRisi, Anthony A. Holder, and Matthew Bogyo
p. 2002-2006.

トランスデューシンによるWnt情報伝達(Wnt Signaling Through Transducins)

Wntは発生に重大な役割を果たす情報伝達分子であり、Frizzledという受容体によって作 用する。Frizzledタンパク質がヘテロ三量体のグアニンのヌクレオチド結合タンパク質 (Gタンパク質)と共役した受容体と類似しているのに、Wnt情報伝達がよく理解されている のはWntがβカテニン依存の情報伝達機構を用い、転写を制御する場合である。Ahumadaた ち(p. 2006)は、これとは別のWnt情報伝達機構を記述している。その機構は、ラットの Frizzled-2タンパク質がGタンパク質トランスデューシンと共役するようなものである 。Gタンパク質トランスデューシンは、光に反応する視覚組織における情報伝達の中心役 割を果たすものとしてより広く知られている。培養細胞において、グアノシン 3',5'一リ ン酸 (cGMP)依存性ホスホジエステラーゼのWnt依存的活性化とその後の細胞内のcGMP濃度 の減少と細胞内貯蔵からのカルシウム遊離の増加のためには、トランスデューシンの活性 化が必要であった。ゼブラフィッシュ原腸形成の間のWnt情報伝達は、薬理学的阻害薬が 適用された後にホスホジエステラーゼ活性が減少した時には抑制された。(An)
Signaling of Rat Frizzled-2 Through Phosphodiesterase and Cyclic GMP
   Adriana Ahumada, Diane C. Slusarski, Xunxian Liu, Randall T. Moon, Craig C. Malbon, and Hsien-yu Wang
p. 2006-2010.

朝の目覚めの臭い(Wakeful Smells in the Morning)

家族が起きていて、夜明けごろである場合、寝付く事が難しい。このように社会的影響が 概日性リズムに影響を与えることが他の動物にも見られることが知られているが、これら のシグナルがやり取りされる方法は知られていない。 Levineたち(p. 2010)は、野生型の 規則性を有するショウジョウバエと、規則性が乱れた短期間ショウジョウバエの個体群を 研究し、乱れた規則性のショウジョウバエが、野生ショウジョウバエの規則性を乱すこと を発見した。このときの情報は、化学受容性を手がかりとしているらしい。この化学シグ ナルを感じることができないショウジョウバエは、隣接ショウジョウバエの活動を無視し た。(Ej,hE)
Resetting the Circadian Clock by Social Experience in Drosophila melanogaster
   Joel D. Levine, Pablo Funes, Harold B. Dowse, and Jeffrey C. Hall
p. 2010-2012.

幼児ことばが終わるところ(Where Baby Talk Ends Up)

発話の理解をわれわれはどのようにして学習しているのだろう。Dehaene-Lambertzたちは 、ヒトの大脳における言語獲得の起源を、月齢3か月の乳児を対象に機能的磁気共鳴法を 採用して探究を始めた(p. 2013)。彼らは、成人における言語処理の促進に寄与すること が知られている脳の領域、主として左側に、発話に応答して活性が生じる証拠を発見した 。(KF)
Functional Neuroimaging of Speech Perception in Infants
   Ghislaine Dehaene-Lambertz, Stanislas Dehaene, and Lucie Hertz-Pannier
p. 2013-2015.

珪藻の腐食(Diatom Decay)

海洋にいる珪藻は、自分自身のシリカ(opaline)骨格を溶解から守るために、保護性の有 機性細胞間質によってそれを取り囲んで保護している。珪藻が死ぬと、それらは沈んでし まうが、その間にそのopalineと有機性炭素部分は異なった比率で溶解する場合がある 。Bidleたちは、珪藻におけるSiとCの相対的な保存効率が、温度の関数であると報告して いるが、この温度がオパールの周囲の有機性細胞間質の崩壊に関わっている細菌の活性を 制御しているのである(p. 1980)。彼らは、海床へのオパールの堆積の地理的パターンだ けでなく、多くの海洋性システムで生じているSi/C比率の領域による違いや深さに依存し た違いをも説明する助けになる機構を提案している。そうした結果は、海洋における古代 の生産性についてのよりよい再構築像を生み出す助けとなる可能性がある。(KF)
Regulation of Oceanic Silicon and Carbon Preservation by Temperature Control on Bacteria
   Kay D. Bidle, Maura Manganelli, and Farooq Azam
p. 1980-1984.

一般から特異へ(From General to Specific)

試験管内研究と酵母を使った研究で、転写因子DRAP1が、TFIIBとTBP(TFIIBのTATAボック ス-結合タンパク質)との相互作用を妨げることで転写を抑制する「一般」転写制御因子と して機能しているということが示唆されている。Iratniたちは、マウスの発生の初期段階 におけるDRAP1の機能を調べ、その変異体胚が、Nodalの活性の増加と関係する原腸形成欠 陥を示すことを発見した(p. 1996)。このNodalは、原腸形成の際の中胚葉の一次誘導物質 であるトランスフォーミング成長因子-βファミリの分泌モルフォゲンである。Nodal情報 伝達は、初期胚においてはDRAP1によって、おそらくはFoxH1との相互作用を介して、抑制 されている。このように、従来は一般転写制御因子の1つと考えられていた因子が 、Nodalの正のフィードバック・ループの制御を介して、モルフォゲン情報伝達制御の機 構を提供することで、胚のパターン化におけるある特異的な役割も示すのである。(KF)
Inhibition of Excess Nodal Signaling During Mouse Gastrulation by the Transcriptional Corepressor DRAP1
   Rabah Iratni, Yu-Ting Yan, Canhe Chen, Jixiang Ding, Yi Zhang, Sandy M. Price, Danny Reinberg, and Michael M. Shen
p. 1996-1999.

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