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Science February 8, 2002, Vol.295


核実験と突然変異(In Brevia)
Dubrovaたちは(p. 1037、Stoneによるニュース記事も参照)、カザフスタンの
Semipalatinsk核兵器実験場周辺で放射性降下物に直接さらされた人々と、同じカザフ
スタンだが、汚染されなかった地域の人々とを比較研究したところ、生殖細胞系列の突
然変異がおよそ2倍の頻度で見られた。Semipalatinsk実験場では1949年から1963年まで
は空中と地表における核実験が、又、1963年から1989年までは地下実験と、合計470回
の核実験が行われた。主な汚染は、1949年から1956年に行われた4回の地表実験の結果
であり、この4回の実験が行われた後に産まれた両親を持つ人々の突然変異発生率が低
下していることも分かった。(Na)
自然界における塩素の取り込み(Incorporating Chlorine Naturally)
環境で見出されている有機塩素化合物は、主として工業と農業に起因していると考えられ
ている。更に、土壌中で作られる非揮発性の有機塩素化合物をその場で同定することは問
題も多く、又 自然界で生じている塩素化合物の殆どは無機物であると考えられている
。Myneni(p.1039;Caseyによる展望記事参照)は、X線吸収端近傍微細構造分光法
(NEXAFS)を用いて、様々な森林土壌や自然界の別の試料中の塩素含有化合物を同定し、そ
の構造解析を行なった。塩素含有有機化合物は落ち葉の腐食化に伴って急速に作られてお
り、無機塩素化合物より豊富に存在している。(KU)
マントルはあちらこちらに流れる(Mantle Flow, To and Fro)
プレートの相対的な動きは十分に解明されているが、その下にあるマントルの動きにつ
いてはあまり知られていない。SilverとHolt(p.1054)は、上部マントルの地震波速度
の非等方性(seismic-velocity anisotropy)と、地表の変形の観測結果を組み合わせる
ことで、北アメリカ西部の下のある マントルの動きを確定した。上部マントルは東に
向かって流れており、その反対に北アメリカプレートは西方向に動いている。上部マン
トルはそのプレートの動きと独立しており、その流れは基本的にはFarallon プレート
の沈み込みに関係している。(TO)
大気から返される(Back at You)
気象や空気特性にさまざまな影響を与える、揮発性エアゾールの多くの性質は、その表
面粒子と内部粒子との間の元素の配分のような物理化学の側面に起因している
。Kriegerたち(p.1048)は、揮発性エアゾールの性質を、それが地球の大気中にあるの
と同じ条件の元でその液体あるいは固体に対してラザフォード後方散乱分光測定法を用
いることにより、物理的そして化学的構造を変えないで作り出すことが出来た。(TO)
単一層銅塩におけるスピン共鳴(Spin Resonance in Single-Layer Cuprate)
高温超伝導体の銅塩における対形成メカニズムに隠された本質を探索する一つの方法は
、特別な化合物でのみ見られる特有な振舞を予測するような理論に制限を加えるであろ
う、さまざまな化合物に共通な特性を見分けることである。そのような特性のひとつは
、今までのところ2層あるいは3層の化合物中にのみ見られている、中性子散乱で見出
されたスピン共鳴である。単一層の銅塩中でこの特性が存在しないこと、特に、よく調
べられている La1-xSrxCuO2 で存在しないことは
、共鳴が必要なことを仮定する理論に対して強硬な反対論を巻き起こしてきた。He た
ち (p.1045; Voss による 25 January のニュース記事説を参照のこと) は、単一層の
銅塩である高品質の Tl2Ba2CuO6+d の結晶のモザ
イクを作成して、スピン共鳴の存在する明白な証拠を与えている。これは、どのような
提案理論も、スピン共鳴を本質的な要素として考慮しなければならないことを示してい
る。(Wt)
磁気X線マイクロプローブ(Magnetic X-ray Microprobe)
微視的スケールで反強磁性の振舞を理解することは、磁気メモリーデバイスにおける応
用があるため、ますます重要になってきている。Evans たち (p.1042) は、個々のドメ
インの構造とその進展状況の可視化に利用できる微視的にフォーカシングされたX線ビ
ームに基づいた新しい技術を与えている。彼らは、興味をそそられるが、しかし、ほと
んどまだ理解されていない、クロム中のスピン-フリップ遷移を研究した。この遷移で
は、スピンはそのもともとの方向から 90度回転する。遷移は、ドメインの壁面近くで
発生し、そしてドメインのバルク内部に向けて進んでいく。(Wt)
鳥の羽を見てみたら、類は友を呼んでいた(Birds of Feather, Flocking
Together)
熱帯の森林伐採は、温帯地方で繁殖しそして熱帯地方で越冬する渡り鳥の種に、悪影響
を与えているようである。しかしながら、このような種のほとんどについて、異なる越
冬地域を使用する個体群を区別しそして追跡することは困難であり、そしてそれ故、ど
の程度これらの作用が影響を及ぼしているかについて正確に指摘することは困難である
と考えられてきた。Rubensteinたち(p. 1062;Hobsonによる展望記事を参照)は、熱
帯区(北回帰線以南の新大陸)の渡りをする鳴鳥、ノドグロアオバネアメリカムシクイ
(black-throated bluewarbler)の羽毛における安定な同位元素(すなわち、炭素およ
び水素)を使用して、異なる繁殖地域に由来する鳥たちが、特徴的な渡りのパターンを
有していることを示す。たとえば、ある種の北米での繁殖地域のうち、北部で繁殖する
鳥はキューバおよびジャマイカで越冬し、一方その南部で繁殖する鳥はヒスパニオラ島
およびプエルトリコで越冬する。(NF)
バケツリレー式防御(A Bucket-Brigade Defense)
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は、酸化作用(主としてペルオキシドおよびペ
ルオキシ亜硝酸塩)に対して、アルキルヒドロペルオキシド還元酵素(AhpC)のシステ
イン残基の形での還元性等価物(reducing equivalents)を犠牲にすることにより、自
己防衛する。Brykたち(p. 1073)は、これらのシステインが、塩基性の中間代謝物に
由来する3種のその他の必須構成要素の補助を受けて、再生されることを示す。AhpCの
下流のオープンリーディングフレームによりコードされるタンパク質AhpDの結晶構造解
析により、チオレドキシンとの類似性が示唆された。この考察により、ジヒドロリポア
ミドデヒドロゲナーゼ(Lpd)およびジヒドロリポアミドスクシニルトラ
ンスフェラーゼ(SucB)が、ピルビン酸などのα-ケトカルボン酸の酸化に由来する還
元性等価物をアダプターAhpDへそして最終的には抗酸化剤AhpCへと運搬する際の媒介物
質として同定された。(NF)
時計に光を与える(Shedding Light on Clocks)
哺乳類の網膜における光受容細胞は、桿体と錐体に限られているわけではない
(Barinagaによるニューズ記事参照)。Bersonたち(p 1070)は、脳における中心の概日ペ
ースメーカを直接に神経支配する感光性の網膜神経節細胞のサブセットを同定した
。Hattarたち(p 1065)は、この細胞の内因の感光性は、メラノプシン(melanopsin)とい
う感光色素の発現に依存することをさらに示している。この結論は、概日の光受容器が
哺乳類の明暗サイクルの同調化機構の基礎であるかという長い間続いている謎を解くこ
とになる。(An)
緑内障の遺伝子がみえてきた(Glaucoma Gene in Sight)
緑内障は、世界中の7000万人に影響し、失明原因の第2位である。この障害の重大なサ
ブタイプである原発性開放隅角緑内障(POAG)の臨床的な症状は、周辺視野がだんだん
失われると共に、細胞レヴェルでの網膜神経節細胞の細胞死である。Rezaieたち(p.
1077;FriedmanとWalterによる展望記事参照)は、遺伝性の成人発症性POAGの原因とな
る遺伝子を同定した。原因の遺伝子は、10p14染色体に位置し、optineurinという66キ
ロダルトンのタンパク質をコードする。このタンパク質の機能は以前から不明であっ
たが、腫瘍壊死因子αの情報伝達経路に関与することと示唆され、神経保護の役割を
果しているのかもしれない。(An))
ベールを脱ぐ(Lifting the Veil)
動く細胞の先端縁にあるべール状の突起物、膜状仮足はアクチンフィラメントの動きに
より推進される。Watanabeたち(p.1083)は精巧な螢光顕微鏡技術を用いて、アクチンの
重合と開裂を精度高く詳細に解析した。以前の推定とは逆に、膜状仮足内のアクチンフ
ィラメントの大部分はその先端部から離れたところで生成しており、このことは先端縁
が実際どのようにして前方に押し出されているのかという問題を提起している。(KU)
形が出来ていく(Getting into Shape)
ARC(活性化因子を伴う補助因子)やCRSP (Sp1必須補助因子)のような補助因子複合体は
いくつか共通のサプユニットを持っており、活性化因子と基本転写装置の相互作用を仲
介している。Taatjes たち(p.1058; およびMeisterernstによる展望記事参照)は、生化
学的アッセイと電子顕微鏡を用いて、より大きな複合体ARCは、ARC-L と CRSPの2つの
多サブユニット複合体から構成されており、転写活性が観察されるのはCRSPだけである
ことを見つけた。構造決定からは、CRSP複合体に多様な活性化因子によって別個のコン
フォメーションが誘導されうることを示唆している。従って、形成される特異的コンフ
ォメーションに基づいて、異なる活性化因子による異なる転写の読み出し(readout)が
可能となる。(Ej,hE)
小さく設計する(Small by Design)
製薬の研究における主要な目標の1つは、タンパク質-タンパク質相互作用を阻害する
有効な小分子を見つけることである。Gadekたち(p. 1086)は、インテグリンLFA-1のリ
ガンドの抗原決定基を真似た小分子の設計について報告している。元々はLFA-1の阻害
剤として知られていたリード化合物(オルト・ブロモベンゾイル・トリプトファン)を
、ICAM-1の非連続なペプチド抗原決定基を別個に進化させ得られた情報を利用して最適
化した。そして最終的には小分子の特徴を持ち、かつ、LFAと高親和性で結合する化合
物が得られた。この化合物は効果的にマウスのリンパ球増殖と接触過敏症も阻止した
。(Ej,hE)
拒絶反応を克服して(Overcoming Rejection)
臓器移植のためのヒトの臓器不足から、他の動物からの臓器提供を考慮するようになっ
ている。ブタの臓器を利用する場合は、ブタ細胞表面上にガラクトースα-1,3-ガラク
トース残基が存在することが問題になる。霊長類がこの臓器を使う場合には、この結合
を形成する酵素を保持してないために拒絶反応が生じる。Laiたち(p. 1089)は、生体外
において胎性線維芽細胞(fetal fibroblast)中のα-1,3-ガラクトシルトランスフェラ
ーゼの1つの対立遺伝子をノックアウトした後、これらの細胞を使って核移植によって
トランスジェニックなクローンブタを作った。次のステップとしては、これらの残基が
全く無いホモ接合性ブタを作ることである。これらのブタは、これが成功したときの異
生物移植の分野での影響の大きさだけでなく、医学用途や農業用途へのブタゲノムの遺
伝子修飾のモデルケースとなるであろう。(Ej,hE)
もっと豊かに、もっと貧しく(For Richer, for Poorer)
若い太陽は回転ガスと塵のディスクに囲まれていた。最初の固体であるセンチメート
ルサイズの集合体はコンドライト(球粒隕石)であった。そしてコンドライトは難揮
発性のカルシウム-アルミニウムに富む包有物(CAI)や、コンドルール(球粒)とか、
細粒マトリックス(基質)から構成されていた。Krotたち(p. 1051)はCAIの回りに宇
宙塵が付着成長してできた周辺にあるマグネシウムに富むかんらん石粒中の酸素同位
体濃度を測定し、またCAIに伴う不定型なかんらん集合体中の酸素同位体濃度を測定
した。これらの粒子は酸素-16に富んでおり、コンドルールの環境とは異なるガス状
の環境中で凝縮したにちがいない。コンドルールは酸素-16に欠乏しているのであ
る。このようなコンドライトの成分は、これは初期太陽の近くのX-windモデル環境に
おける質量に非依存の同位体化学分別プロセスか、あるいは、塵/ガス比率の高い領
域の蒸発プロセスのどちらかによって、酸素同位体の特徴が変化したのだろう。つま
り、X-windモデルでは、塵の中のガス成分の分別は、太陽系の降着ディスク内縁、つ
まり若い太陽側において、イオン化された星雲ガスの選択的除去が起き、続いて酸素
16に富む塵の熱的プロセスが生じたのであろう。(hk,Tk)
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