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Science November 16, 2001, Vol.294


ナノスケールに閉じ込めたNMR信号(NMR Signatures of Nanoscale Confinement)
気体や液体において、双極子相互作用はいたるところに遍在しているが、しかしながら
二、三の例外を除いて分析手段を用いて測定することは困難である--この種の相互作用
はバルクな状態では、通常零になる。Baughたち(p.1505;Warrenによる展望参照)は、気
体をナノスケール空間に閉じ込めると分子間相互作用が生じて、核磁気共鳴で観測可能
な双極子-双極子効果に導びくことを示している。アモルファスシリコンの微少空隙に
捕足された水素の研究により線幅が広がり、そしてピーク位置が外部磁場に対する試料
との角度の関数としてシフトする。このような効果は微少空隙の形や大きさ、そして体
積分率を特徴づけるために用いることが出来る。(KU)
反応中に捕まえられた触媒(Catalysts Caught in Action)
工業面での触媒の多くは無機物に担持された貴金属で構成されており、それ自体は触媒活
性を持たないが、反応速度を高めたり選択的に生成物をつくる「助触媒(promoter)」でも
ある。このような触媒は反応条件下で大きく変化するが、透過型電子顕微鏡(TEM)をはじ
めとして多くの表面解析技術は真空条件のもとでしか用いることが出来ない。Hansenたち
(p.1508;Cambellによる展望参照)は、環境セルと分画ポンピングを用いてアンモニア合成
の触媒(バリウム助触媒を持つ窒化ホウ素に担持されたルテニウム)に関する高分解能TEM
の研究を手際よく行なった。反応条件のもとで、彼らはルテニウム粒子が最適なサイズ(
直径〜2nm)に集合し、バリウムで部分的に被われ、このようなバリウムが電子プロモータ
として作用していることを見い出した。(KU)
有機磁性体への道に橋をかける(Bridging a Route Toward Organic Magnets)
これまで、有機物質に元とする磁性体挙動を示す材料を調整するための一般的な方法は
、磁性を有するイオンの置換、あるいは、ラディカルイオンの活用を伴うものであった
。その置換や活用の結果として、これらの孤立したスピン間に生ずる交換結合は、極低温
における弱い磁性挙動を示す。Rajca たち (p.1503) は、共役高分子中において、結合を
貫く相互作用を利用して巨大分子(ポリマー)を作るアプローチを追及した。その高分子
は、相対的に弱いスピンモーメントを有するクロスリンクにより橋渡しされた巨大スピン
モーメントを持つ大環状高分子グループを含んでいた。そして、この大環状高分子とクロ
スリンク間のスピンの結合は、反強磁性あるいは強磁性挙動を惹起するよう設計すること
が可能であった。これらの高分子は、10 K 以下の温度では小さな磁場中においてそれら
の磁化が再向されることを示している。(Wt)
ベスビアス山のマグマ源(Magma Source for Mt. Vesuvius)
ベスビオ火山の噴火災害の予測のためにはその地下構造を理解する必要がある
。Augerたちは(p. 1510)、ベスビオ火山の深さ8kmのところに、固形の岩石と入り混じ
ったマグマが400平方キロメートルの広がりをもって、水平な板状に分布していること
を発見した。この部分は張力場(あるいは引張場でもよい)でのマグマのたまりである
と考えられ、次の噴火の重要なマグマ源となるであろう。 (Na,Fj)
途方もない大きさのワニたち(Colossal Crocodiles)
白亜紀の間に体長が13メートルにもなる巨大ワニ、Sarcosuchus imperatorを含むいくつ
かの種が巨大な体格に到達した。Serenoたち(p.1516)は、その生息地、成長、そして進化
に関する情報をもたらすこの巨大な捕食動物の新たな化石について記述している。海で魚
を食していた他のほとんどの大きなワニとは異なり、この最大級のワニは川に生息し、魚
とともに恐竜も食していた。明らかに、50年から60年と成長を続けためにその大きなサイ
ズになったようだ。(TO)
破局からの回復(Recovering from Catastrophe)
ハリケーンのような大災害は、大規模で格好な生態への実験の場となりうる(Brooks と
Smithによる展望記事参照)。Schoenerたち(p.1525)は、大きなハリケーンがバハマ島弧
の66島における一般的なトカゲの種の出現に与える影響を記録している。ハリケーンが
来る前は、島の面積がトカゲの生息群の存在を予測する指標とすることができた。ハリ
ケーンが通過した直後は、標高が生息群のよりよい指標となった。しかし、その後の
2年間、徐々に島の面積によって生息数が推測できるようになった。ハリケーン中の水
害からの疎開や氾濫から生き残った卵の孵化した結果、種の生息面積の分布が回復する
。また別の生物地理学からの貢献として、RicklefsとBermingham(p.1522)は、小アンテ
ィル諸島における陸鳥の種の構成について、進化の時間スケールにおよぶ変化を調べた
。これによると、周期的で壊滅的な痛手は繁殖と絶滅間の均衡を妨げ、トリの動物相は
決して安定した状態にあることがなかった。(TO)
植物のホルモンから遺伝子へ(From Hormones to Genes in Plants)
サイトカイニンという植物ホルモンの受容体は、ヒスチジンのキナ^ゼである。Sakaiた
ち(p 1519)は、ARR1という応答性制御因子がこの受容体のキナーゼの標的であることを示
している。ARR1は、下流の標的遺伝子を活性化するために用いられるDNA結合領域を含む
。この受容体と応答性制御因子は、2成分システムとして共に作用するが、このシステム
は、ホルモン検出を転写調節に伝達する。(An)
空間的ではなく時間的に分離(Separated in Time Rather Than Space)
光合成時に藍藻類(シアノバクテリア)が放出する酸素は、窒素固定に適さないが、ほ
とんどのシアノバクテリアは、異質細胞という特殊な細胞を分化させることでこの問題
を解決した。トリコデスミウム(trichodesmium)という遍在のシアノバクテリアは、異
質細胞を持たなくても、海の窒素固定に重要な役割を果している。Berman-Frankたち(p
1534;Pennisiによるニュース記事参照)が発見したように、トリコデスミウムでは異質
細胞の代わりに、光周期中に光合成と窒素固定を時間的に分配する。窒素固定の最大時
には、光化学系IIの活性は最小であるが、それにもかかわらず線形的光合成の電子伝達
がまだ必要である。(An)
ガンに核攻撃(Nuclear Attack on Cancer)
α粒子は、きわめて強力な細胞傷害剤である、高エネルギーのヘリウム核である。抗癌
治療として、モノクローナル抗体を媒介として腫瘍細胞にこれらの粒子を標的化するこ
とが研究されてきたが、このアプローチを成功に導くためには粒子の半減期が短いこと
が制約となっていた。McDevittたち(p. 1537)は、α粒子を放射する原子を生成する
分子サイズのジェネレーターを開発し、そしてついで内部移行型のモノクローナル抗体
にアクチニウム-225を使用して、ジェネレーターそれ自体を腫瘍細胞に標的化した。in
vitroにおいては、これらの構築物により、白血病細胞、リンパ腫細胞、乳癌細胞、卵
巣癌細胞、神経芽細胞腫細胞、前立腺癌細胞を、ベクレル(ピコキュリー)レベルで特
異的に傷害することがわかった。また、固形腫瘍または播種性腫瘍を有するマウスを
、これらの構築物のキロベクレル(ナノキュリー)レベルの単一用量で処理すると、毒
性を示すことなく、永続的な緩解をもたらした。原則として、幅広いヒトの癌の治療に
対して、このような原子“ナノジェネレーター”を使用できるだろう。(NF)
悪化に対する変化(A Change for the Worse)
樹状細胞(DC)は、感染に対する免疫を生成することに加えて、身体の自己抗原に対す
る寛容の方向付けを行っている。DCの異常な振る舞いにより、自己免疫が引き起こされ
る可能性があるが、しかし直接的な連関は確立されていなかった。Blancoたち(p.
1540)はこのたび、抗体媒介性の自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)が
DCの機能が変化することにより生じるのではないかとの仮説をたて、SLEを有する患者
血液中のDCの活性の増大を示すことにより、これらに関連性があることを示している
。自己反応性B細胞およびT細胞により培養において、SLE患者から得られた血清により
、末梢血単球が誘導されてDCに分化し、そのDCが死にかけた細胞に由来する抗原を捕捉
してナイーブCD4 T細胞に抗原提示することにより、活発な反応を引き起こすことがで
きた。この作用を誘導する可能性のある血清因子のうち、サイトカインであるインタ
ーフェロンαは必須であり、SLEに対する治療において標的となる可能性のあるものを
確立した。(NF)
先体を組み立てる(Assembling Acrosomes)
精子生成の過程(精細胞から精子に変化する出来事)において、多くの前先体小胞(
proacrosomic vesicles)は融合して、精細胞の核表面のほどんどを覆う1つの先体小
胞となる。先体の発生や機能に欠陥があると、受精に問題が生じる。Kang-Deckerたち
(p. 1531)は先体の形成に係わっているタンパク質を同定した。相同的組換えによって
、マウスのこのHrbタンパク質を取り除くと、不妊であるがその他の機能は正常なオス
が発生した。その理由は、複数の前先体小胞から1つの先体小胞を形成するのに失敗し
たからである。更に、精子数が減少し、運動性減少も観察されたが、これは中央部と尾
部の欠陥によるものと思われる。(Ej,hE)
火急の選択(Hot Choices
動物は利益と不利益を秤にかけて合理的判断を下すが、この決断能力を与える神経経路
については、あまり分かっていない。ショウジョウバエを使ったフライトシミュレータ
による一連の実験によって、Tang と Guo (p. 1543)は、マッシュルーム体と呼ばれて
いるハエの脳の一部は、これら生物が決定を下すために必要であることを見つけた。ハ
エは、熱を罰とした訓練によって、色、または、形状刺激に反応して、特定の飛行経路
を選択するように条件付けられて、その後、この条件とは矛盾したテストを受ける。色
や形状の特徴が変化した場合、野生型のハエは、色や形状の刺激に従って選択を変更で
きるが、マッシュルーム体の変異体、あるいは、除去されたハエは、選択を変更できな
かった。(Ej,hE)
記憶を作る事象?(Memory-Making Events? )
神経細胞はシナプスと呼ばれる分化された細胞と細胞の結合部を通してお互いに情報交
換している。そしていかにこれらの結合部を通って効率的に情報が伝達されているかと
いう変化は、記憶の基礎をなすと信じられている。Antonovaたち(p.1547)は、模擬的な
学習を受けたときの培養中のシナプスにおける蛋白質のクラスター形成を調べた。 与
えた刺激の数分内に、情報を送るために必要とされるキータンパク質であるシナプトフ
ィジンの量が、シナプスのシナプス前側において増加し、そして情報を受け取るシナプ
ス後レセプタであるGluR1においても平行して増加があった。その変化は5から10分以
内に現れ予想外に急速であり、完全なアクチン細胞骨格に依存していた。そしてそのこ
とは、このクラスター形成はサイレントなシナプスをアクティブなシナプスに転換する
ことを反映ているのかもしれない。(hk)
サン・アンドレアス断層についての見方を正す(Straightening Out the San
Andreas)
地殻のもっとも浅い部分における大きな断層の断裂帯の位置を正確に知ることは難しい
が、地震のエネルギーがどのようにして地表に伝わるかを理解するために重要である
。Holeたちは、高密度で配置した受信機と、データ解析のための改良アルゴリズムとを
用いて、Parkfield近くの浅いサン・アンドレアス断層の垂直方向の断裂の反射派画像
を得た(p. 1513)。この断層は、0.5キロメートルの深さまでは垂直で、そこから
、0.5キロから1キロメートルの深さまでは、およそ70度ほど南西に傾斜しているのであ
る。(KF)
つきとめられたカーゴ受容体(Cargo Receptor Nailed)
細胞内膜輸送を理解するにあたって古くからある疑問の1つとして残っているのは、可
溶性のタンパク質の輸送が膜に関連したカーゴ受容体によって促進されている割合が
、バルクな流れによるものに対してどの程度であるのか、ということである。Beldenと
Barloweは、このたび、小胞体から出る特定の可溶性分泌性タンパク質の輸出において
、あるカーゴ受容体が重要であるというあいまいさのない証拠を提示した(p.
1528)。この受容体Erv29pは、酵母フェロモンのpro-alpha因子と、空胞ペプチダーゼの
1つに特異なものであった。その他の可溶性分泌性タンパク質の大部分は、この受容体
を欠く酵母細胞において、影響を受けなかった。(KF)
内皮細胞と放射線GI症候群(Endothelial Cells and Radiation Gastrointestinal
Syndrome)
Parisたちは、微小血管の内皮のアポトーシスが腸の幹細胞の損傷を導き、それによっ
て、癌照射治療の主要な有害な副作用である胃腸(GI)症候群が引き起こされる、という
ことを、マウス・モデルを用いることで示唆した(2001年7月13日号の報告 p.
293)。SuitとWithersはコメントを寄せ、そうしたアポトーシスは苛酷な低酸素状態か
ら帰結するに違いないと論じている。これは、腸の細胞死曲線からのデータからは支持
されないシナリオであるのだが。これとは別に、Hendryたちは、胃腸管にある上皮細胞
と内皮細胞のどちらの集団も、GI症候群に対するParisたちの仮説とは異なり、照射に
よる損傷に対して同じように影響を受けるはずである、と示唆している。Kolesnickた
ちは、上皮性の細胞が内皮細胞よりも照射に対してより抵抗性が強いことを示す自分た
ちのデータを示すことで応じ、組織全体が低酸素になるというより限定された領域だけ
が低酸素状態になるという考え方を示している。彼らはまた、マーカーが存在しない
GI幹細胞の研究の難しさを強調し、完全な解答を用意するためには、新しい遺伝子性な
いし分子性の試薬が必要であると強調している。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/294/5546/1411a
で読むことができる。(KF)
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