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Science September 21, 2001, Vol.293


一体型のドットの特徴づけ(All-in-One Dot Characterization)
量子ドットは、ナノスケールな大きさで、離散的エネルギー順位を有するため、非常に高
密度な光学的構成要素の魅力的な候補である。しかしながら、一つの量子ドットにおける
微細な空間的な位置で励起させて、しかも、それらのスペクトル的な特性の両方について
、同時に情報を得ることは極めて困難でやりがいのある課題である。Guest たち(p 2224;
Koch と Knorr による展望記事を参照のこと)は、走査型近接場光学顕微鏡と非線形光学
的なポンプ-プローブ技術の持つ空間的な高感度さとを結びつけることにより、この限界
を乗り越えた。かれらは、量子ドットの個々のエネルギー順位にアクセスし、励起すると
ともに、このような励起過程のダイナミクスを観察することを可能とした。(Wt)
水素検出用メソワイヤー(Mesowires for Hydrogen Detection)
ポリマーマトリックス中に埋め込まれたサブミクロンのパラジウムワイヤーは、水素の存
在下においてバルクなパラジウムと異なり室温で抵抗が減少することが示された。バルク
なパラジウムでは、その水素化化合物は抵抗が増加する。Favierたち
(p.2227)は、水素吸着によりワイヤー中の微結晶が拡張し、ワイヤー中の小さな゛接合破
断部”が修復されて抵抗が低くなることを見い出している。通常、水素感度を妨げるガス
、例えばO2やCOやCH4が存在してもこのような効果
が見い出されている。速い反応性(70ms以下)と低電力性は、センサーやスイィツチング素
子としての応用面を示唆するものである。(KU)
近藤効果の結合系(Coupled Kondo Systems)
量子ドットは、多体近藤効果を研究するのに理想的な系を提供してくれる。この近藤効果
とは、磁気的な不純物と周囲の電子の海との相互作用が、そのドットが存在することによ
り、伝導性を増すという現象である。このドットがないと、クーロン障壁により、伝導性
は抑えられてしまうであろう。しかしながら、量子ドットが結合すると、近藤効果はスピ
ン−スピン相互作用と競合しなければならなくなる。Jeong たち (p. 2221)は、量子
ドットの結合したペアの実験的研究を与えている。この研究では、系を通過する輸送は
、各ドットのスピン配置を含む単純なモデルによって説明することができることが示され
ている。かれらは、また、ゼロバイアスにおいて、近藤効果の共鳴ピークの分割を観測し
た。これは、多体結合−反結合近藤状態が、この
人工分子中に形成されていることを示唆している。(Wt)
原始的なメッセンジャー(A Primitive Messenger)
タギッシュ(Tagish)湖で回収された隕石は、そのカナダの凍った湖から、隕石の落下後す
る回収され、地球上で水質変成されるひまのなっかた珍しい炭素質コンドライト隕石であ
る。2つのレポートが、この隕石の起源と、その、よくに保存された炭素質
物質についての重要な情報について議論している。Hiroiたちは(p. 2234)、Tagish湖から
回収された隕石の反射スペクトルを、種種の小惑星と比較したところ、D型小惑星のスペ
クトルが最も良い一致を示した。このタイプの小惑星は主小惑星帯のカーク
ウッド(Kirkwood)ギャップ近傍に位置している。これらの小惑星のある物は木星との重力
相互作用の結果としてこのギャップに引き寄せられた可能性がある。その結果、その軌道
は無秩序なものとなり、衝突が引き起こされ、太陽系の内側に破片が飛ばさ
れて、最終的に地球に落下した、と考えられる。Pizzarelloたちは(p. 2236)、Tagish湖
で回収された隕石の有機物を分析し、その大半が水溶性のカルボキシルとジカルボン酸化
合物であり、アミノ酸は比較的少なく、芳香族形質の不溶性炭素を含むことを発見した
。この組成は他の炭素質コンドライト隕石と異なるもので、太陽系星雲と恒星間物質が集
積した始原的母天体で形成されたことが示唆される。このように、この有機物質は地球上
の科学者の研究対象のなかで、最も変性を受けてない初期の太陽系星雲物質である可能性
が高い。(Na,Tk)
クジラの足関節(Whale Ankles)
最大の海洋哺乳動物であるクジラは、約4000万年から5000万年前に地上から海中へと進化
したと考えられている。Gingerichたち(p.2239;Roseによるカバー記事と展望記事参照)は
、パキスタンのテチス海(Tethys、アフリカ大陸とユーラシア大陸とを分離
していたと考えられる大海)において、新たに2つの初期クジラの種、
ArtiocetusclavisとRodhocetusbalochistanensisを発見した。これらの種の足関節の骨は
、artiodactylsで見つかったものと似通っており、このことはクジラはMesonychiaではな
くむしろArtiodactylaに属していたことを示唆している。加えて、Rodhocetusの前肢と後
肢は、テチスの浅瀬を手足を使って渡っていたことを示している。しかし、クジラがカバ
と兄弟関係にあったかどうかについてはまだ疑問の余地がある。(TO)
気候と熱帯の種形成(Climate and Tropical Speciation)
初期のモデルでは、熱帯地方に豊富な種があるのは安定した気候において徐々に種が蓄積
していった結果であると示していた。しかし熱帯の気候は常に安定している訳ではない
、特に更新世の最後の200万年の間は安定していなかったという証拠から、熱
帯の多様性は最近になって始まったかもしれないこと、そして種形成(speciation)は、環
境の不安定さによって起こされて来たことという考えを導く。Richardsonたち
(p.2242;BerminghamとDickによる展望記事参照)は、近年の種形成のモデルは、新熱帯区
の熱帯雨林の木の豊富な種の属(genus)であるIngaに対してはるかに正確であることを示
した。核やプラスチドDNA配列と分子時計による研究から、海洋諸島における植物種の近
年の放散(radiations)と似ている、近年の急激なIngaの多様性を示唆している。(TO)
多くの分画地が一つに(One Out of Many)
生息に好ましい数多くの小さな分画地が、連絡路や”飛び石”分画地により結ばれるとき
には、全体として一つの大きな区画地と同じ働らきをするのであろうか?Haleたち
(p.2246;Kaiserによるニュース解説参照)はDNAマイクロサテライト変異を解析し
て、未分断の生息地で進化していた種による50年間に渡って、北ブリテンにおける小さな
生息地に分散していたアカリス生息地の飛び石分画地の役割を示している。アカリスの場
合は、北イングランドと南スコットランドの孤立していた集団を新たな森林
区画で連絡するよう計画した前後で解析された。赤リスは、スコットランドの南東からイ
ングランドの北西に至るまで、この新たな森林区画を分散していた分画地に対する飛び石
として利用していた。(KU)
均一な燃焼(Burning Evenly)
ナマケモノからリスまで、草から冬眠中のホッキョクグマまで、生態系の世界には広い様
々な代謝速度があるように思える。Gilloolyたち(p. 2248; Brownによるニュース記事を
参照)は、代謝速度の決定的要因を説明する一般化モデルを推論する
ために、植物、動物、そして微生物の代謝の計測結果を解析していた。生物学的に適切な
温度範囲内で、代謝速度は主に温度と体重によって決定される。このように、たとえば冬
眠のような異常な状況でさえ、代謝速度の調整のために付加的なメカニズム
を必要としない。(hk)
幻影のメンデルの遺伝(Phantom Mendelian Inheritance)
Bardet-Biedl症候群(BBS)は、視覚の欠損、多指症、肥満と学習障害を含むさまざまな表
現型を特徴とする遺伝性の障害である。歴史的には、BBSが古典的なメンデルの劣性の形
質として認められてきた。つまり、ひとつの遺伝子座における変異で十分に病原性がある
。Katsanis(p. 2256;Burghesたちによる展望記事参照)は、少なくともBBS患者の40%にお
ける症候群の病状には、2つの異なる遺伝子座における3つの対立遺伝子の変異が必要であ
ることを示している。この結果は、今まではっきりとしていたメンデルの形質と複合形質
との区別を不明確にし、遺伝の理論的モデルについて、再び論議することを刺激するであ
ろう。複合形質は糖尿病などのように、複数の遺伝子の相互作用によって引き起こされる
。(An)
ブドウ球菌の分析(Analyzing the Staph)
黄色ブドウ球菌は、普通の感染病因であるが、治療の選択肢がますます減ってきた。ふた
つの既存技術の新たな組み合わせによって、Jiたち(p 2266)は、テトラサイクリン誘導性
のアンチセンスRNAのライブラリを開発した。これによって、試験管内だけ
ではなく、感染したマウスでも、各遺伝子をオフとオンにすることができる。感染部位な
どのような複雑な生態系において、細菌増殖と行動における特定の遺伝子の役割を研究す
ることができ、これを用いて臨床的に関連のある薬やワクチンの標的を同定
できる。(An)
シグナルをくっつける(Making Signals Stick)
T細胞において、アダプタータンパク質は、T細胞受容体(TCR)を複数の細胞シグナル経
路に共役させる。T細胞はまた、インテグリンを介する細胞の結合に依存して、多くのそ
れらの仕事を行い、そしてPetersonたち(p. 2263)およびGriffithsたち(p. 2260)は
、アダプターSLAP-130/Fybがこのプロセスに直接的に関与していることを示す。遺伝子的
にSLAP-130/Fybを欠損するマウスを使用して、これらのグループの両方ともが、このタン
パク質がTCR-媒介性カルシウム流動およびタンパク質チロシンキナーゼ活性の誘導には必
要とされないが、しかしこれらのタンパク質が細胞接着を引き起こすインテグリン
、LFA-1のクラスター化および活性化には必要とされることを見出した。このプロセスは
、正常なTCR-誘導性アクチン多量体化が生じる場合には生じ、このことから
SLAP-130/Fybがインテグリン活性化による細胞骨格のTCR-依存性運動に共役していること
が示唆され。(NF)
独立系樹状突起(The Independent Dendrite)
多数のニューロンの樹状突起は決して受動的な受け手ではなく、シナプス入力のプロセシ
ング、および変換に積極的に関与する。Weiたち(p. 2272)は、個々の樹状突起末端部分
がその興奮性入力に対して起こす受動的な変換および能動的な変換を調べ
た。器官型培養における海馬錐体ニューロンの細胞体での電気物理学的記録と、トラップ
されたグルタミン酸を樹状突起上に視覚的にガイドする局所投与とを組み合わせることに
より、遠位末端が、限定的な樹状突起領域に広がる全か無かの再生性反応
を引き起こすことができることを彼らは示した。これらの結果から、樹状突起が個々の機
能的サブユニットに分割される可能性があり、そして電位-依存性カルシウムチャンネル
がこの分割において中心的な働きをしていることが、直接的に示される。
(NF)
火山性圧力によってS波を予測する(Volcanic Pressure Redirects Shear Waves)
安山岩質火山では爆発が急激で、その予測の困難なことで有名である。地殻に於けるS波
は、通常、最大圧縮応力に平行な方向に高速成分を持つような異方性を示す。Miller と
Savage (p. 2231) は、ニュージーランドのRuapehu山での1994年の噴火後
に、最大応力に垂直な方向へのS波伝搬速度が向上したことを観察した。これは空孔の流
体圧力、あるいは、マグマ溜まりの過剰加圧によって、火山性応力が局所的な応力場を上
回ったことが示唆される。従って、異方性が変化するかどうかで、噴火を予
知できる可能性がある。(Ej,hE)
RNAiにおけるDicerと発生(Dicer in RNAi and Development)
RNA干渉(RNAi)とは、それによって二本鎖RNAが配列-特異的な転写後遺伝子サイレンシン
グを引き起こすプロセスである。遺伝子サイレンシングのエフェクターと考えられている
短い干渉RNA(siRNAs)の産生には、酵素Dicerが関与しているとされてきた。
KnightとBassはこのたび、生体内のRNAiにとってDicerのリボヌクレアーゼIII活性が重要
であるということ、またdicer-1遺伝子の変異が生殖不能を引き起こすということを示す
線虫(C.elegans)における遺伝的証拠を提供した(p. 2269)。このように、
Dicerは生殖系列の発生あるいは生理機能、あるいはそれら双方において役割を担ってい
るらしい。(KF)
時計に従うだけでなく(Not Following the Clock)
定常的に暗いところで生活している齧歯類やハエは、その動物の内在性分子時計によって
駆動される24時間以下の周期のうちの一定の期間、物理的に活性化状態にある
。Williamsたちは、神経線維腫症-1(Nf1)に無発現変異のあるショウジョウバエは、リズ
ム性の行動を現さず、MAPキナーゼ(MAPK)経路にも欠陥を示すが、時計そのものには欠陥
がない、と報告している(p. 2251)。著者たちは、ハエの時計の下流遺伝子の1つがNf1で
あり、Nf1が、おそらくは色素分散因子(PDF)によってトリガーをかけられて、Ras/MAPK経
路を介して情報伝達を行なっている、ということを提唱している。こうした結果は、ハエ
の慨日性時計の出力経路を部分的に定義するものだが、ヒトNf1が腫瘍サプレッサーとし
て働く機構にも説明を投げかけてくれる可能性がある。(KF)
STI-571によるガン治療への臨床上の抵抗の原因(Roots of Clinical Resistance to
STI-571 Cancer Therapy)
慢性の骨髄球性白血病の患者で、初めはキナーゼ阻害薬STI-571による処置で治療に成功
したが、その後再発した11人を調べて、Gorreたちは、薬剤抵抗性を、3人の患者について
は「進行性BCR-ABL遺伝子増幅」に結び付け、6人の患者についてはCR-ABL
キナーゼ領域の点変異に結び付けた(2001年8月3日号の報告 p. 876)。Bartheたちと
Hochhausたちは、それぞれ別のコメントとして、総計44人の再発患者の誰においても
、Gorreたちによって引き合いに出された点変異は見出されなかったとする2つの研究の結
果を報告している。Gambacorti-Passeriniたちは、第3のコメントで、Gorreたちの「細胞
性」の機構への焦点化が、薬剤bya1酸糖タンパク質の結合と不活性化のようなSTI-571抵
抗についての「全体性」の説明、に十分なウエイトを与えていない、
と論じている。Gorreたちは、それらに応じて、Gambacorti-Passeriniたちによって示唆
された代替モデルについて疑問を提起し、BartheたちやHochhausたちによって報告された
自分たちとは異なる結果は「患者集団ないし用いた変異検出手段の違い」に
よる可能性がある、と示唆している。これらコメント全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/293/5538/2163a
で読むことができる。(KF)
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