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Science April 20, 2001, Vol.292


ボーズ・アインシュタイン凝縮中の安定な渦(Stable Vortex Lattices in
Bose-Einstein Condensates)
巨視的量子系において、超伝導の場合の磁場とか超流動の場合の誘導回転のような外部
パラメータを導入することによって渦が発生する。これらの渦は系に浸透し、エネルギ
ーを放出するだけでなく、角運動量の量子単位を有している。Abo-Shaeer たち(, p.
476、およびVossによる23 Marchのニュース記事参照 )は、回転中のボーズ・アインシ
ュタイン凝縮中に渦が3角形の格子を形成することが観察できることを示した。この渦
は、予想されていたよりは遥かに安定な数秒から数十秒の寿命を持っていることから
、超流動中の有用なテスト手段になりうる。(Ej)
エロス:打ち叩かれた小惑星(Eros: A Beaten Asteroid)
およそ一年の間、NEAR-Shoemaker 宇宙船は小惑星 433エロスの地図を作成した。2000年
10月に、宇宙船は小惑星表面への至近距離への接近を完了し、マルチスペクトルイメージ
ャを用いて1〜5mの分解能の画像を得た(Veverka たち, p.484)。また、レーザーレイ
ンジファインダーにより、相補的な地勢上の詳細を収集した (Cheng たち, p.488)。詳細
なスケールでの観察結果には、メートルサイズのブロック、侵食作用で削剥したクレータ
ー、滑らかで平らな床面のクレーター、 小さなクレーターの欠乏、直線的な裂け目の証
拠などが含まれている。これらの特徴は、エロスは複数の衝突事象により生み出された複
雑な表土を有していることを示唆している。この衝突事象は、大きさや強さの異なるさま
ざまな衝突物体のよるものであり、それが表面の不均一な特徴を生じさせた。(Wt)
励起ボーズ・アインシュタイン凝縮(An Excited Bose-Einstein Condensate)
ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)は、ヘリウムのような液体状態であろうと、弱い
相互作用の希原子ガズ (H, Li, Na, やRbに見られるような)であろうと、冷却中にエネ
ルギーを放出する。このプロセスが成立するためには、原子は基底状態である最低エネ
ルギー状態になっている必要があるように見えるが、Robertたち(p. 461; Inguscioに
よる展望記事、および、Vossによる 23 Marchのニュース記事参照)は、準安定な20電子
ボルトに励起されたヘリウム原子雲の2 3S13重スピン状態になっており、これが撚り
合わされてBECを形成する。彼らの実験によれば、磁場が原子雲中の原子をスピン偏極
させ、逆向きのスピンを追放する。同一方向を向いたスピンの場合には、非弾性衝突が
抑制され、微妙な凝縮状態が保たれる。また、彼らは、チャネルプレートを利用して
、原子1つ1つを検出できる方法を開発した。これによって基底状態のヘリウム希ガス
のBECが可能になるであろう。(Ej)
困難な問題を量子的に解く(Quantum Solutions to Difficult Problems)
たとえば因数分解問題とか、複数の訪問点を隈無く訪れる最短経路問題(巡回セールス
マン問題)(traveling salesman problem)とかの困難な問題がある。これを古典的に解
くには因数の数や訪問点数が増加するに従って指数関数的に計算時間が増加する。nのn
乗に比例するようなこのような問題は一般的に「NP完全」問題として知られており、多
項式で表せる時間内に解を得ることができるかどうかわかってない。シミュレーション
によってFarhiたち(p.472; およびAndersonによるニュース記事参照)は、このような問
題を解くには量子コンピュータが向いていることを示した。量子状態は、これを記述す
るハミルトニアンがゆっくり変化する場合は基底状態近辺にとどまっている。このよう
な量子的断熱挙動を利用して演算をする量子計算法がある。彼らは古典的コンピュータ
を利用して、ある量子ビット(qubit)数に対して、ある種のNP完全問題は多項式時間内
に解が得られる断熱進化が存在しうることを示した。(Ej)
非常に小さなクラスター上の吸着(Adsorption on Very Small Clusters)
小さな金属クラスターは、多くの分光学的方法により特徴付けられてきたが、しかし
、いまでも、これらのクラスターが小さな分子とどのように反応するかを詳細に知るこ
とはたいへん興味深い。Nauta たち (p.481) は、マグネシウムの原子と小さなクラス
ター(二三個の原子)と、液体ヘリウム液滴中の HCN との錯体を作成した。この環境に
おいて、C-H振動バンドの高分解能赤外レーザー分光を行ない、多くの構造情報を引き
出し得る回転状態の情報を明らかにした。Mg-N の結合距離の変化を反映して、
Mg2-NCH と Mg3-NCH 錯体間において、吸着体-金属のクラスタ
ー結合に定性的な変化が起きている。(Wt)
細胞の酸素検知方法(How Cells Sense Oxygen)
哺乳動物の細胞は酸素濃度の変化に鋭敏に反応する。酸素が制限されると(低酸素)、細
胞は遺伝子の転写を増加させて酸素輸送を高めたり、或いは代謝調整を促進して酸素利
用を減少させる。このような適応応答は低酸素誘導因子(hypoxia‐inducible factor
:HIF)によって行なわれており、このHIFは低酸素の条件下で安定であるが、しかし酸素
の存在下において von Hippel‐Lindau(VHL)腫瘍サプレッサータンパク質を含むユビ
キチンリガーゼにより分解される。Ivanたち(p.464)とJaakkolaたち(p.468)は
、HIF‐1サブユニットの特異的領域にある保存性アミノ酸のプロリンが水酸化されたと
きのみ、VHLがその特異的領域に結合することを見い出した(ZhuとBunnによる展望記事
参照)。プロリンの水酸化を触媒するその酵素は基質として酸素を必要とし、このこと
はこのタンパク質の修飾反応が細胞の酸素感受性に対してキーとなる役割を果している
ことを示唆している。この発見は癌、虚血性心疾患、高血圧症や発作といった低酸素が
重大な役割をしている多数の病に対して新しい治療の可能性を開くものである。(KU)
ビッグ・ママは何でも知っている(Big Mama Knows Best)
アフリカ象(Loxodonta africana)は、広い領域に分布し、そしてしばしば他の同様な
集団と相互作用する、母系の家族集団で生活している。McCombたち(p. 491;表紙と
Pennisiによるニュース記事を参照)は、最高齢のメス、あるいはメスの家長は、その
集団の社会的知識の貯蔵庫として機能する。9年間をかけて複数のプレイバック実験を
行い、声の識別能力についてテストした。より年齢の高いメスの家長がいる家族は、若
いメスの家長がいる家族と比較して、家族がよく知っている他の集団あるいはあまりよ
く知らない他の集団の連絡コールを識別することに関して、優れていた。これらの優れ
た能力と、より年齢の高いメスの家長がいる家族のより高い繁殖の成功率とが、相関し
ているようであり、このことから年齢と経験が、社会的知識を獲得することへの作用を
介して、繁殖の成功率に影響を及ぼしていることが示唆される。しかしながら、より年
齢の高い象はより大きな象牙を有しており、ハンターや密猟者により捕獲され易い;そ
のため、数頭の年齢の高い中心的な個体がいなくなることにより、全体の集団が影響を
受ける可能性がある。(NF)
親は子のために何をするか(What Parents Will Do for Children)
種によりその親の養育戦略が異なる理由を理解することは、生活史進化を研究する進化
生態学者にとって中心的な目的であった。GhalamborとMartin(p. 494;Pennisiによる
ニュース記事を参照)は、鳥類の種間で生活史に相違がある結果、親鳥たちが、その若
鳥に餌をやることと、その子孫および自分たちに対する補食のリスクを減少させること
との間のトレードオフを解決する方法に相違を引き起こしている、という予測について
研究する。ほぼ200種の鳥について研究した結果、彼らは1回に育てるヒナの数と成鳥の
生存との間には負の相関があることを示している。彼らはまた、北米および南米で系統
発生学的にペアリングした種に対する補食リスクを操作し、そして1回に育てるヒナの
数がより少なくかつ生存する機会がより高い親鳥ほど、1回に育てるヒナの数がより多
い親鳥よりも、自ら危険に立ち向かうことが少ないことを示している。(NF)
グループだと、ずっと効率的(More Efficient in Groups)
同じグルコース資源を共有する生命体同士が競合すると、皆で共有している資源の乱獲
を意味する "tragedy of the commons" に相当する進化的なジレンマを引き起こすこと
になる。Pfeifferたちは、複数のシミュレーション・モデルとさまざまな例を提示し
、アデノシン三リン酸(ATP)を高率ではあるが低収量を産生する経路を利用する(嫌気
性の)生命体の方が、低率だが高収量産生する(好気性の)ものより、うまくいくとい
うことを示している(p. 504; また、CoxとBonnerによる展望記事参照のこと)。この状
況は、貴重な資源の非効率的な利用、ということになる。彼らはまた、呼吸性糖代謝の
進化には細胞間の共同作業が必要であると示唆しているが、これは、単細胞によるもの
から多細胞によるものに変わると、エネルギーの面でボーナスが得られることを意味し
ている。この研究は、生命体全体の生態学と進化に関する見方から得られるコンセプト
が、まったく別の領域、つまり生化学的反応経路の進化、についても適用可能であるこ
との例である。(KF)
タンパク質コードが21に(The Protein Code Turns 21)
すべての生命体は、20種類のアミノ酸からなる同一の集合の要素を組み合わせてタンパ
ク質を作り上げている(知られている唯一の例外は、ホルミルメチオニンとセレノシス
テインである。また多くのアミノ酸は、ポリペプチド鎖に組み込まれた後では修飾を受
けて別のものになることがあるが)。生体内で20種のアミノ酸からなる集合を拡張して
、タンパク質にあらたな化学的機能を組み込むことは可能なのだろうか? 2つの報告
が、大腸菌を対象に、この目標に向けた成功について報じている(Bockによる展望記事
参照のこと)。Doringたちは、遺伝学を用いて、valyl-tRNA合成酵素の校正機能におけ
る変異を同定した(p. 501)。これは、天然アミノ酸ではないアミノ酪酸の高レベルでの
取り込みに帰着するものである。Wangたちは、遺伝学と分子生物学を組み合わせて、部
分的に改造された基質特異性を有する直交性のチロシルtRNA-チロシルtRNA合成酵素対
を付け加え、これによってO-メチル-L-チロシンを高い忠実度で取り込むことができた
(p. 498)。 (KF)
Roundaboutの共有(Sharing the Roundabout)
ショウジョウバエとゼブラフィッシュの身体の正中線には、単なる位相幾何学的な類似
以上の共通性がある。Frickeたちは、ゼブラフィッシュが遺伝子astrayによってコード
された受容体を用いて、発達中の目から脳へ軸索を誘導し、その途中で正中線を横切り
視覚性のキアズマを形成している、ということを示している(p. 507)。そのastray受容
体は、ショウジョウバエにおいて軸索を正中線を越えて成長させる遺伝子roundaboutに
よってコードされた受容体に類似している。ゼブラフィッシュの変異型と野生型の目を
交換して作ったキメラは、astrayの発現に関与する部位は目にある、ということを示し
た。(KF)
小径の無機ナノチューブ(Small-Diameter Inorganic Nanotubes)
ナノチューブ構造の合成に関する研究の多くはカーボンをベースにしている。カーボン
ナノチューブにおける多くの異常な特性のために、グラファイトに類似の化合物からナ
ノチューブを生成する多くの研究が行われている。Remskarたちは成長プロセス中に
C60を触媒と輸送薬剤として用い、直径がナノメータサイズ以下のモリブデ
ン・ジスルフィドナノチューブが束状となった標本の合成経路について報告している
(p. 479)。MoS2の持つ磨耗に強く摩擦の少ない特性は低摩擦を必要とする
用途で役に立つだろう。(Na)
見ることと見たことを認識すること(Seeing and Being Aware of It)
眼の網膜から最も高次の脳センターに到る全体的な経路に関する視覚信号処理は、長期
にわたって非常に詳細に研究されてきた。しかしながら、認識の基礎となる大脳皮質信
号がどこで、そしていつ伝達するのかいまだ不明である。Pascual‐Leoneと
Walsh(p.510)はヒト被験者に対して、領域V1と領域MTの両方に二重経頭蓋磁気刺激法を
用いて視覚認識におけるフィードバック投影の役割を調べた。V1における刺激の強さを
調整してMTからV1へのフィードバックを遮断した。MT刺激のみを用いると被験者は動い
ている光の点滅を認識した。しかしながら、MTの後すぐに(5〜45msec)V1を刺激すると
動いている点の認識は弱くなったり、消滅したりした。このような発見は、領域V1中の
反復性の速いフィードバック連結が視覚認識に必要であることをを示している。(KU)
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