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Science July 28, 2000, Vol.289


三次元フォトニック結晶造り(Building a 3D Photonic Crystal)
完全な三次元フォトニック・バンドギャップ(PBG)結晶は、現実に作るのは大変困難で
あるが、オプトエレクトロニクス技術として大きな可能性を秘めている。このPBG結晶の
物質構造は、ある範囲の波長において光伝播を殆ど全て阻止する。現在、Nodaたち(p.
604;Yablonovitchによる展望記事を参照))は、PBG結晶を造るために薪を積み重ねた構
造を改善してサブミクロンの大きさ(0.7μm)ににまで縮小している。これらのPBG結晶は
、近赤外(光通信における波長)において機能し、波長が1.3から1.55μmの入射光の
99.99%が結晶に入ることを阻止される。(hk)
金の変わったねじれ(A Different Twist on Gold)
ナノメートルスケールの物体は、しばしばバルク材料とは異なる構造を有している;たと
えば、小さな金の粒子は、ナノメートルスケールでは、正二十面体の粒子を形成する。シ
ミュレーションによると、ナノスケールの金属ワイヤは螺旋状となる可能性があることが
示唆されてきている。しかし、実験的検証はこれまでなかった。Kondo と Takayanagi
(p.606; Tosatti と Prestipino による展望記事を参照のこと) は、カーボンナノチュ
ーブと類似の螺旋状の同心の鞘からなる金のナノワイヤを作成した。これらは、高分解能
電子顕微鏡による研究で示されている。各鞘の原子列の個数は、「魔法数」列に従ってい
るように見える。(Wt)
さらに新たな温室ガスの脅威(Still More Greenhouse Forcing)
現在大きな関心が払われている既知の温室効果ガスに加えて、Sturgesたち(p.611)は気温
上昇の脅威となる可能性を持つ新たな温室効果ガス分子、
SF5CF3を、新たな気温上昇の脅威となる可能性を発見した。この
ガスは、これまでに大気中に見つかった中では最も強力な温室効果分子であり、大気中に
存在するようになったのは最近の約40年間だけである。この濃度はまだ低いが、増加して
いておりその発生源は知られていない。具体的には、1960年以前、検出されなかったもの
が、1960年代の終わりには0.12ppt(1兆分の0.12)になり、1999年現在では、年間の増加
量が、0.12pptとなっている。SF5CF3は寿命が長いため、地球の
放熱バランスを左右する重要な要素となる可能性がある。(TO,Nk)
有機結晶を用いた注入レーザー(Injection Laser with Organic Crystals)
有機に基づいたエレクトロニクスは、特に発光ダイオード(LED)や薄膜トランジスタの応
用面でめざましく発展している。しかしながら、多くの有機材料に特徴的な電気的特性と
大きな欠陥密度により電気的な励起によるレーザ発振は、やりたくてもなかなか実現でき
ない目標のままであった。Schonたち(p. 599;Serviceによるニュース解説参照)は、こ
のようなレーザーがテトラセンの単結晶から作られることを実証している。この単結晶の
バイポーラ特性により電気的コンタクトが結晶の両側の界面で形成される。電子、或いは
ホールが個々の界面で誘導され、そして結晶に加えられた電界により電荷が再結合する
。レーザ発振が注入電流に対して実証されたが、他の有機材料では今まで得られたことが
ない。(KU)
楽々と滑べる(Easy Slider)
グラファイトのシート相互の滑べり摩擦は、かなり小さく、そして、多重壁カーボンナノ
チューブもまた容易に相互に滑る可能性があると予言されてきた。Cumings と Zettl
(p.602; Forro による展望記事を参照のこと) は、最近発展してきたアーク法を利用して
、そのチューブの端の蓋の位置で内側のカーボンナノチューブを外側のチューブから解放
した。そして、損傷のない入れ子構造のナノチューブの運動を調べた。彼らは、内側の管
束にナノマニピュレータを結びつけて、内側チューブが、ピストンのように自由に外へス
ライドすることを示している。引っぱり出された内側のチューブがマニピュレータから離
れたとき、van der Waals 力は急速にそれを管束の中へ引き戻す。このような低摩擦スラ
イディング運動は、メカニカルナノデバイスにおいて「ベアリング」として用いられる可
能性がある。(Wt,Nk)
ダイアモンドの急激な上昇(Diamonds' Rapid Ascent)
キンバーライト(Kimberlites )はダイヤモンドなどを含む火山岩で、数100kmの深さから
ガスや液体に富むマグマの急速で爆発的な噴出によって形成されたと考えられている。キ
ンバーライトは、周囲の上部マントル岩石から剥がれた断片を含んでおり、そしてゼノリ
ス(xenoliths :捕獲岩)は、その後の変質を受けないほど急速に表面に運ばれたのであれ
ばマントルの構造の情報を提供することができるはずである。Kelley と Warthoは
、40Ar/39Arを用いてキンバーライトゼノリス中の金雲母(phlogopite)粒が2-3時間から数
日の間で、地表面に急速に運ばれてきたことを示した。アルゴンや他の不活性ガスがその
粒子のコアに残留していて、それにより上部マントルの不活性ガス含有量を推定できる可
能性がある。(TO,Tk,Og,Nk)
酵母における直接的なプリオンの増殖(Direct Prion Propagation in Yeast)
プリオン仮説によると、感染性のタンパク質構造が細胞から細胞へと伝幡すること、そし
てこの伝幡形態がクロイッフェルト・ヤコブ病と似た或る種の致命的な神経性病の原因で
あるということが示唆されている。酵母中で、〔PSI+〕表現形がプリオン病をもたらすと
考えられているが、しかしながら特殊なタンパク質をコードする遺伝子というよりもむし
ろタンパク質が体内でプリオン表現形を引き起こすという直接的な証明が欠如していた
。Sparrerたち(p. 595;Tuiteによる展望参照)は、正常な酵母細胞の中に酵母プリオ
ンタンパク質である、Sup35pの「病原性」型をリポソームを通して導入し、そして
[PSI+]表現型を生じしめた。このように、タンパク質のみで表現型を増殖できることを
実証した。(KU)
成長点を形成(Making Up the Meristem)
シロイヌナズナの植物成長点の分化におけるCLAVATA(CLV)遺伝子の役割が、2つの報告の
焦点となっている。Trotochaudたち(p 613)は、小さなペプチドであるCLV3と受容体リン
酸化酵素であるCLV1との相互作用を研究した。生体内のCLV3のほとんどは、CLV1と複合し
ている。CLV1と複合していないCLV3の分画は、より小さな多量体の複合体の一部である
。同様に、CLV1は、2つの異なっている複合体に含まれており、そのひとつだけがCLV3を
含む。他のリガンド受容体情報伝達系と同様に、他の成分が非結合のリガンドを隔離する
のかもしれない。Brandたち(p 617)は、必要に応じて再生できる交換細胞の資源を提供す
る幹細胞の供給と需要の平衡を保たせる情報伝達経路を発見している。幹細胞の蓄積は
、CLV3活性によって制御され、CLV3活性は、制御フィードバックされている。(An)
転写伸長複合体のマッピング (Mapping the Transcription Elongation Complex)
最近、転写に関与する酵素であるRNAポリメラーゼの構造が原子解像度で決定された。今
回、Korzhevaたち(p 619)は、RNAとDNAのタンパク質クロスリンクのデータを用い、転写
伸長複合体(TEC)を通る核酸の経路をマップした。下流にある二本鎖DNA(まだ転写されて
いない部分)は、β'サブユニットで形成されている谷に囲まれており、蓋がβサブユニッ
トで形成されている。RNA/DNAハイブリッドは、酵素活性部位からβ'サブユニットにおけ
る舵型(rudder-shape)の構造まで伸びるチャネルにある。舵は、DNA鋳型鎖が別のβサブ
ユニットチャネルを通して出る前に、RNA転写物をDNA鋳型鎖から分離させるかもしれない
。
(An)
精子による炭酸水素塩の検出(Bicarbonate Sensing by Sperm)
哺乳類の精子が前立腺や膣の液体に触れると運動性が増加し、受精能を獲得し、先体反応
を生ずる。これらのプロセスは炭酸水素塩イオンが誘引になっており、cAMP(環状アデノ
シン3’,5’一リン酸)の産生増加に依存している。Chenたち(p. 625; およびKaupp と
Weylandによる展望記事参照)は、この炭酸水素塩センサーは、最近クローン化された可溶
性アデニリルシクラーゼ (sAC)であるらしいと報告している。sACは炭酸水素塩の存在下
で活性化され、より多くのcAMPを産生すると報告している。哺乳類のsACタンパク質はラ
ン藻類のアデニリルシクラーゼと密接に関連しており、これも炭酸水素塩イオンによって
刺激を受けている。このようにcAMP情報伝達を、炭酸水素塩に鋭敏なsACで制御する方法
は進化の過程で保存されている機構であり、sACが存在し、炭酸水素塩が制御する他の動
物組織においても機能している可能性がある。(Ej,hE)
一度噛まれると、2倍鋭敏になる(Once Bitten, Twice Sensitive)
手術のテクニックが進歩し、他の医学的処置が進歩したおかげで、未熟児や、さもなくば
医学的に損なわれたであろう新生児の生存確率が増加してきた。生まれたばかりでこのよ
うな組織の損傷や痛々しい介入を受けることが、長期的には有害な影響を与えているので
あろうか?Ruda たち(p. 628;およびHelmuthによるニュース解説)によれば、ラット新生
児の後肢炎症があると、脊髄の後角中に小さな範囲で、疼痛伝達性軸索の成長が見られる
。成体になって炎症を起こすと、これらの変化によって足の感受性が増加する。これらの
ことから、発達初期における痛い刺激は、その後長くニューロン回路網中に変化を生じさ
せることがある。(Ej,hE)
作用の中に進化を捉える(Evolution Caught in the Act)
進化を典型的に示す形態変化の多くは、異なった種になるほどにかけ離れるようになった
複数の血統の分析を行なうことを通じて、知られるものである。眼の見えない洞窟魚とそ
れと類縁関係にある眼の見える魚とを研究することで、YamamotoとJefferyは、このたび
、暗闇に住む生命のもつ興味深い特殊化の基礎となっている発生過程に関する洞察をえた
(p. 631; また、Pennisiによるニュース記事参照のこと)。発生初期における視覚性レン
ズのアポトーシスに、その後の形態は依存している。レンズを相互に取り換えて移植する
と、レンズのオーガナイザによって形態的な順応が進むことがわかった。(KF)
不均衡を埋め合わせる(Redressing the Imbalance)
基底核と呼ばれる脳の構造への損傷は、パーキンソン病などいくつかの神経変性疾患の根
底にある原因である。線条体神経細胞の活性は、通常ドーパミン作動性及びコリン作動性
の入力によって調節されている。Kanekoたちは、初めて、マウスの脳の一方の半球の線条
体的コリン作動性介在ニューロンだけを選択的かつ高度に特異的に切除(ablation)するこ
とに成功した(p. 633)。急性の切除後期(the acute postablational phase)において観察
されるすべての徴候は、ドーパミン作動性のシステムが急に優位に立ったことで説明でき
た。しかし、慢性期(the chronic phase)における代償性の機構は、ドーパミン作動性入
力の減少によるよりは、むしろ、シナプス後ドーパミン受容体の下方制御によっていちば
んよく説明できたのである。(KF)
更新世中期の中国におけるテクタイトと年代のパラドクス(Tektites and the Age
Paradox in Mid-Pleistocene China)
Hou Yameiたちは、南中国のBose盆地で見つかったアシュール文化期のものらしい石器と
一緒に見つかったテクタイトを40Ar/39Ar法で年代測定することで、その人工物が80万年
前のものであるという推定を行なった(3月3日号の研究論文 p. 1622)。これは、従来考え
られていたよりずっと以前から東アジアには相当洗練された道具の技術があったことを意
味する。KoeberlとGlassは、テクタイトは「もとの場所で見つかることはあまりなく、む
しろ同位体年代よりはずっと後の堆積物中に見つかることが多い」と指摘した。これは
、ある場合には人間によって場所を移されるためである。Keatesは、別のコメントで、川
の流れのせいで、テクタイトが別の場所に運ばれ、そこに残された可能性もある、と付け
加えている。それらに応えて、Pottsたちは、堆積学と層位学、テクタイトの形状、地形
学的形状の分布に基づいて、「テクタイトはもとの場所に石器と一緒にあり、その年代を
石器の年代であるとすることができる」という議論を提示している。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/289/5479/507a
で読むことができる。(KF,Nk)
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