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Science February 11, 2000, Vol.287


磁性半導体のモデル化(Modeling Magnetic Semiconductors)
工学的に重要なⅢ-Ⅴ族(GaAs)、及びⅡ-Ⅵ族(ZnTe)化合物半導体は、普通非磁性
であるが、少量のマンガンを添加すると強磁性体になりうる。このような材料にお
いて、電気的スイッチングは電荷と同様にスピン相互作用によって制御される。今
まで,この強磁性体に関する知見は限られものであり,むしろ現象論的ものにとどま
っている。Dietlたち(p.1019)は、材料物性,及び系に導入された磁性イオンの濃度
の関数としてその磁気特性を表現する理論を提案することにより、この問題にはる
かに強い基礎を与えている。更に,その理論を他の材料にも拡張することにより、彼
らは未来の磁気デバイスの動作温度を高めるための方法を示唆している。(KU)
双方向に流れる有機トランジスター(Organic Transistors that Conduct Both
Ways)
有機半導体における電荷輸送は,主としてホールキャリア(p型,或いはpチャンネル)
に依存しており、電子伝導(n型,或いはnチャンネル)は通常小さい。この制限のため
に、無機半導体にもとづいた一般的なエレクトロニクスに比較して、より安価な
、そして十分に相補的な代替物として広範囲に応用されることへの大きな障壁とな
っている。Schoenたち(p.1022)は、ペンタセンの単結晶に基づくアンバイポーラ
(ambipolar)(p-チャンネルとn-チャンネル二つのモードで動作する)作動の電界効果
トランジスター(FET)を実証している。更に,この有機FETsの室温におけるキャリア
移動度が水素化アモルファスシリコンのそれに匹敵し、そしてその移動度の温度依
存性から、バンド的な輸送であることを示唆している。(KU)
移動性の細胞情報伝達(Mobile Cellular Signaling)
食物を探す微生物や獲物をおいかける食作用性免疫細胞は、化学的な信号、すなわ
ち化学遊走物質に頼って移動の道標としている。走化性細胞は、細胞表面における
受容体の分布は一様であるにもかかわらず、その前側の縁を刺激勾配方向に向ける
ことができるのである。5つの報告が、ホスファチジルイノシトール3'リン酸化酵素
(PI3K)が走化性において果たす役割に焦点を当てている(DekkerとSegalによる展望
記事参照のこと)。Hirschたち(p. 1049)、Liたち(p. 1046)、そしてSasakiたち(p.
1040)は、PI3Kg、すなわちGタンパク質結合受容体(GPCR)に反応して活性化するイソ
型の一つ、を欠くマウスの表現型について記述している。この動物たちにおける欠
陥は、試験管内および生体内における好中球およびT細胞のさまざまな機能にとって
、PI3Kgが必要であることを示している。3つのグループすべてが、炎症反応がいく
つかの点で妨害されたことを記している。変異を有する動物から得られた好中球は
、遊走に障害をもち、GPCRを介した刺激に応答して、呼吸性のバーストを示した
。Sasakiたちはまた、T細胞受容体を介してのT細胞活性化が阻害されていることを
見出した。Liたちはま
た、ホスポリパーゼC(PLC)-b2とPLC-b3を欠くマウスを作り出した。彼らは
、PI3Kgはl軽鎖を含む免疫グロブリン(Ig)の正常な産生にとって必要なのだが
、PLC経路はIglLの走化性と産生を抑制できる、と報告している。この結果は、炎症
を扱うための薬剤の開発努力を強化することになるにちがいない。内部の情報伝達
勾配が、そうした方向性のある走化性応答に適応している可能性がある。Jinたちは
、強く分極したアメーバ細胞においては膜結合型のGタンパク質サブユニットが前側
から後側へ向けて緩やかな勾配となって存在していることを示している(p.
1034)。Servantたちはまた、そうした内部の情報伝達勾配には、グアノシン・トリ
ホスファターゼのRhoファミリと好中球様細胞中のPI3Kとが含まれていることを明ら
かにした(p. 1037)。このように、情報伝達分子は走化性の感受性を決定する内部勾
配を調節しているらしい。(KF)
反強磁性体を可視化する(Imaging Antiferromagnets)
磁性体の薄層は記録メディア中に多くの応用が見出されるが、それらの磁気特性を
特徴付けるさらに特別の方法が求められるであろう。一つの今問題となっている問
題は、反強磁性薄膜中の軸の方向を決定することである。Scholl たち (p.1014) は
、X線磁性ダイクロイズム(2色性・円偏光2色性)と元素特有の光電子分光とを組
み合わせた新しい方法を発表している。このダイクロイズムでは、ある表面に入射
したX線の応答は、その層の磁化方向に依存している。彼らは、LaFeO3
薄膜中の反強磁性の磁区を20nmの解像度で可視化できている。(Wt)
ボース-アインシュタイン凝縮物質中に分子を作る(Making Molecules in a
Bose-Einstein Condensate)
レーザー光の場を用いて、ルピジウム原子のボース-アインシュタイン凝縮物質中
に、2原子分子が作られた。 Wynar たち (p.1016; Williams と Julienne との展
望記事を参照のこと) が、誘導ラマン過程を利用してこれを実現した。この誘導ラ
マン過程では、原子の近接した対がある振動数で光子を吸収し、わずかに高い振動
数で光子を放射する。そして、原子はある励起した分子状態に陥る。このプロセス
は、振動数の差に対応したある特別の回転および振動状態に対して選択される。分
子はほとんど並進エネルギーを持つことなく形成される。この結果、非常に狭いラ
イン幅のスペクトルが得られ高精度で分子の結合エネルギー測定が可能となる。(Wt)
冷たくしておく(Keeping Cold)
室温よりかなり低温で動作する改善された熱電性材料は、電子工学にとってとくに
興味深いものである。そうした、熱エネルギーを電流に転換することで冷却効果を
もたらす材料は、超伝導性デバイスを冷やしたり、トランジスターから熱を奪う助
けになったりする可能性がある。有望な材料は、高い電気伝導性、高い熱電性発電
力、そして低い熱伝導性という、普通にはない組み合わせの性質を備えていなけれ
ばならない。Chungたちは、CsBi4Te6は適切にドープされる
と、現在用いられている
Bi2-xSbxTe3-ySey合金の低温での
性能にすでに匹敵するものとなっていること、また
CsBi4Te6について、いくつか有望なドープのあるいは合金
化のシステムが探求できそうなこと、を報告している(p. 1024; また、Choによるニ
ュース記事参照のこと)。(KF)
コアの一貫性(Core Consistency)
液状外核(liquid outer core)の高圧下(140から330ギガパスカル)における鉄の融
解温度は、これまで確定することが困難であった。実験では直接融解温度を計測す
ることはできない、そして外挿により様々な結果を導き出してきた。衝撃波による
推定は、静的高圧研究よりも、より高温な融解温度を示唆してきた。Laioたち
(p.1027)は、鉄の融解温度と液体密度を決定するために、2つの理論的なアプローチ
、第一原理計算(first-principles calculations)と分子ダイナミクスシミュレーシ
ョンとを組み合わせて行なった。彼らは、内核境界(330ギガパスカル)において
5400±400Kの融解点を計算し、さらに外核境界(140ギガパスカル)における液体の鉄
の密度より6%大きい密度を計算した。こうした結果は、以前の実験結果と融合させ
るのに役に立つのみならず、地震波データとも整合している。(TO)
ナチュラルキラー細胞を回避する(Avoiding Natural_Killer_Cells)
ヒト・サイトメガロウイルス (HCMV)は、細胞毒性T細胞を回避する一連のタンパク
質をコードすることで知られている。しかし、そうすることで、ウイルスはナチュ
ラル・キラー (NK) 細胞を誘発しうる。Tomasecたち(p. 1031)は、ヒトのリンパ球
抗原-E (HLA-E)に結合する細胞性分子と同一なペプチドを含むHCMVのUL40糖タンパ
ク質のアミノ末端領域を見つけた。結合した結果、感染した細胞表面において
、HLA-Eの合成が増加し、これによってNK細胞を抑制する作用が認められた
。(Ej,hE)
胎児がアルコールへ曝されることの影響(Early Effects of Alcohol
Exposure)
ヒトの胎児をアルコールに曝すと、脳が縮小し、引き続き、機能亢進からうつ病
、精神病にいたる神経行動学的効果を引き起こす胎児性アルコール症候群を引き起
こす。Ikonomidouたちは(p.1056、Barinagaのニュース解説も参照)、アルコールの
投与が、生まれたばかりのラットの脳の発達(げっ歯類でシナプスが広範に形成され
るステージ)に対する影響を調べた。彼らは、NMDA(N-メチル-D-エステル)受容体の
遮断とGABAA受容体の過剰な活性化により前脳に広範なアポトーシスが生じているの
を発見した。一過性にエタノールへ曝されると、何百万ものニューロンが除去され
、脳の重量減少が説明出来る。(Na)
捨てられないものが蓄積(What's Not Thrown Away-Accumulates)
ゲノムサイズと生物体の複雑さと、遺伝子数との相関がないというC値の逆説は、分
子進化における主要な謎である。この謎を説明しようとするひとつの仮説は、ゲノ
ムサイズの差が生物体の非必須なDNAの減少速度の差が持続しているために生じてい
ることである。Petrovたち(p 1060;Capyによる展望記事参照)は、非常に異なってい
るゲノムサイズの2つの昆虫の属におけるDNA減少を比較し、この仮説を実験で証拠
立てている。ハワイのLaupala属コオロギはショウジョウバエより、ゲノムサイズが
一桁多く、非必須なDNAの減少速度が、約1/40である。(An)
C. elegansの分析(A C. elegans Analysis)
ゲノムの配列決定は、生きている生物体の基礎生物学の理解の最初の段階にすぎな
い。Hutterたち(p 989)は、配列決定が最近完了したCaenorhabditis elegansのゲノ
ムを検査し、細胞外基質と細胞接着のタンパク質を分析した。この研究は、進化に
よれば、新しい遺伝子とタンパク質の現れ方を示唆している。(An)
量子ドットにおけるオージェプロセス(Auger Processes in Quantum Dots)
低準位レベルが空の励起された原子はエネルギーを放出して(例えば、X線を発生す
るなど)に失うが、このプロセスは励起電子のオージェ放射と競合する。類似のオ
ージェプロセスはバルク半導体にも起きるが、一般的には効率が悪い。Klimovたち
は(p. 1011)、原子とバルク個体の中間ケースである、半導体量子ドットに起きるオ
ージェプロセスを研究した。オージェリラクゼーション(緩和)の速度はバルク個
体と同様にキャリア濃度に対する立方である。しかし、彼らはオージェ定数がサイ
ズに強く依存し、ドットの半径の3乗(バルクモデルで予測されたような6乗でなく)
により変化する性質を発見した。(Na)
クリティカルな要求(Critical Requirements)
マウスとラットにおける雌性性的受容性は、女性ホルモン受容体が仲介している
。DARPP-32は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の情報伝達のために決定的な媒体
となるリンタンパク質である。そのDARPP-32へのアンチセンス・ヌクレオチドが
、ラットに性的受容性を発揮させるプロゲステロンの効果を妨げることを、Mani ら
(p.1053)は見つけた。DARPP-32関して無変異なマウスは、また、プロゲステロンに
よって促進される最も弱い受容性を示した。(hk)
NADHシャトルとインシュリン分泌(NADH Shuttle and Insulin Secretion)
Etoたち(Reports, 12 Feb. 1999, p. 981)は、原形質からミトコンドリアへと、ニ
コチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド (NADH)を運搬するシャトルの役割につい
てテストした。これは、グルコースに誘発された代謝が増加することに相互作用を
受け、マウスの脾臓β-細胞からインシュリンの放出を増加させる。彼らの結論は
、グリセリン・リン酸シャトルも、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルも両方ともグ
ルコースに誘発されたインシュリンの分泌を抑制する。これに、SchurrとPayneはコ
メントして、もし仮に、乳酸が乳酸脱水素酵素によってピルビン酸に転換されて
、それに伴ってNADHが産生されているのならば、原形質の解糖に由来する乳酸は
、ミトコンドリアに影響を与えた可能性があると述べている。しかし、Etoたちは
、このアイデアを確かめるために、Schurr and Payneに提案された方法で実験した
結果は、乳酸が決定的な役割を果たしていることを支持してはいないと述べている
。これとは別のコメントにおいて、MacDonald and Fahienは、彼らの自信の証拠
、あるいは他の人の証拠によると、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルの阻害薬であ
るaminooxyacetate
(AOA)は、Etoたちがマウスの細胞に対して報告したものより、ラットのβ細胞に対
してより顕著な効果を示すことを報告している。彼らもまた、Etoたちが結論付けた
、シャトルを抑制しても解糖を防ぐことは出来ない、あるいは、ピルビン酸のミト
コンドリアへの輸送は「生化学的には不可能である」ことを見つけた。Etoたちは
、彼らの結論は一般的に認められている仮説の改訂を迫るものかも知れないと応え
ている。この全文は下記を参照。(Ej,hE)
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5455/931a
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