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Science May 7, 1999, Vol.284


CO2の水中埋葬(A Watery Grave for CO2?)
大気から二酸化炭素を除去するために、深海に二酸化炭素を
注入するという1つの提案がある。Brewerたち(p.943)は、
潜水艇を使用して、このアプローチに基づいた幾つかの直接
実験を指揮した。そして,CO2と水とが反応して、直ちに水
和物(ハイドレート)を形成することを示した。浅い深度
(300メートル)では,CO2水和物は急速に溶解した。より深
い深度(3600メートル)では、水和物はよりおそく形成され、
そしてゆっくりと溶解した。水和物は、純粋なCO2液体に比
べて大きな容積になるという、1つの問題が見つかった。こ
のことは、放出されるCO2を抑えるという試みを厄介にする
かもしれない。(TO,Og)
水銀の古温度計(A Mercury Paleothermometer?)
過去4000年間における大気から降り積もった水銀
(atmospheric deposition)に関する詳細な記録が、スペイ
ン北西部の泥炭地から得ることができた。
Martinez-Cortizasたち(p.939,Koenigによるニュース記事
参照)は、この泥炭地に保存されていた水銀化合物の種類と量
が、主として気温とそして幾分湿度と共に、変化することを
示した。この地域において放射性炭素年代で約2500年前に、
人為的な水銀の析出が多くなった。そしてそのころ、イベリ
ア半島において水銀の採掘が始まった。(TO,Nk,Og)
小さなスケールにおける組織化
(Small-Scale Organization)
固体に関する化学者は、多くの無機物や多くの多孔質材料を、
特定の辺や面で分子多面体どうしを連結したものとして考えて
いる。Breen たち(p.948) は、この考えを敷延して、メゾスケ
ール(mm からcm サイズの)の物体の自己組織化にも適用でき
ることを示している。そのような多面体の特定の面を低融点合
金でコートしたポリウレタンからなる鋳型物体が作られた。合
金を再溶融するに十分なほど熱い塩の溶液中で攪拌されると、
その断片は決まった手順で延伸された固体中で組織化した。キ
ラルな断片は螺旋体に組織化することができた。(Wt)
すべてが足し合わされている(It All Adds Up)
私たちはどのようにして足し算を行なっているのだろう?数や
算術記号のイメージを用いているかもしれないし、数や記号を
言葉に変換しているのかもしれない。Dehaeneたちは、 私たち
がそれらのどちらをも行なっているという証拠を、行動的また
機能的な脳イメージング実験から明らかにしている(p. 970; ま
たButterworthによる展望記事参照のこと)。ある言語で正確
に和を計算することを学んだとしても、第2言語で同じ足し算
を行なったり、もとの言語で新しい足し算を行なう際には、大
した助けにならない。この知見が示唆するのは、言葉が利用さ
れているということであり、これは主として左半球の活性化が
観察されているということと整合している。しかし、概算を行
なうのは第2言語においても同じように容易であり、これは、
数量が心象となっているという見方や、このタスクを行なって
いる際に観察される脳の視覚および空間領域の両側性の活性化
と整合するものである。(KF)
IL-12を呼び起こす(Calling IL-12)
一酸化窒素(NO)は、感染の間に生成され、免疫応答を変調する
ことのある良く知られた抗菌性分子である。インターロイキン
-12(IL-12)は、レーシュマニア症などにおける、細菌や寄生
虫への感染に対して、宿主を防御する重要な役割を果たすもの
である。Diefenbachたちは、2型のNO合成酵素を欠いたマウ
スがレーシュマニアに対する感受性が高くなると報告している
(p. 951)。この動物のナチュラル・キラー(NK)細胞は細胞障害
性ではないし、IL-12に応答してインターフェロン-γ(IFN-γ)
を産生することもない。NK細胞は微生物への免疫応答における
非常に早い時期に、IL-12へ応答してシグナルする(Stat4をリ
ン酸化し、Tyk2を活性化し、IFN-γ産生を誘発する)ためにNO
を必要とするらしく、これは直接的に抗菌性をもつというNOの
役割とはまったく別の機能である。(KF)
密航の手助け(Releasing the Stowaway)
ジフテリア毒素は、触媒作用をする領域をもつA鎖でできていて、
これと対となる、膜貫通(T)領域をもつB鎖の助けを借りて細胞の
中に入り込む。B鎖は、毒素の結合とエンドサイトーシスの経路
に従っての細胞への侵入とを仲介するものだが、細胞のエンドソ
ームにおいて、低pHによって誘導される立体配置変化をこうむる。
このプロセスによって、B鎖は膜を通って膜貫通形態に挿入される
ことになり、これによってまた、A鎖が膜を通ってサイトゾルへ転
位置されることになるのである。このジョイント膜浸透経路の正
確な機構は今まではっきりしていなかった。Renたちは、エンド
ソームの低pH環境において部分的に折り畳まれていない「モルテ
ングロビュール[訳注](molten globule)」を形成するタンパク質
が、T領域を、膜会合(membrane-associated)形から実際の膜
貫通タンパク質にどのようにして変換するかを示している
(p. 955)。この結果が示唆するのは、T領域がA鎖に付き添ってエ
ンドソームの膜を通るようにする、ということである。(KF)
[訳注] モルテングロビュールとはタンパク質の変性過程での中間
状態の一種であって、天然状態と同程度にペプチド鎖がコンパク
トに凝集し、二次構造を同程度に保つ一方、側鎖原子の運動性は
変性状態と同程度に大きいという構造的特徴をもつ。
老フクロウに古い仕掛を教える
(Teaching an Old Owl Old Tricks)
メンフクロウ(Barn owl)は、視覚系から入力された空間的地図情
報と、聴覚からの入力、及び、聴覚信号の差分情報から計算した
地図情報を併用している。もしフクロウの目にプリズムが装着さ
れ視覚場が右や左にずらされると、これらの重なった地図も、右
や左にずれる;ずれた場所に新たな興奮性神経接続が形成される。
ZhengとKnudsen(p.962;およびStrykerによる展望記事参照)は、
この様な眼鏡をかけたフクロウには古い地図情報は引続き存続し
ているが、神経の抑制によって効果的に古い部分がマスキングさ
れることを示した。更に、このフクロウからプリズムを取り除く
と、機能退化が起き、ずれて学習した地図の神経が抑制され、一
方抑制されていたもともとの正常な地図が今度は興奮されるよう
になるように見える。(Ej,hE)
自然な方法に抵抗して(Resisting a Natural Approach)
有害昆虫に対する作物のもつ固有の抵抗性遺伝子操作で変えよう
とする努力は、桿菌の一種Bacillus thuringinensis Berliner
からの天然の細菌性毒素Btを利用して実用化されてきた。昆虫が
抵抗性株に適合するように進化すると言う自然の傾向を妨げるた
めの戦略というのは、Btに晒されない、感受性のある昆虫が繁殖
できる避難所(refuge)に隣り合わせて高濃度のBt領域を用意する
ことによってなされてきた[訳注]。この戦略は、Btに対する抵抗
性をコードする遺伝子が劣性であることを前提にしていた。
Huangたち(p.965)は、ヨーロッパトウモロコシ孔虫(植物に孔
を開ける虫の総称)においては、Btに対する抵抗性は遺伝的に優
勢であることを発見した。このBt抵抗性が優勢であることの発見
によって、Bt発現作物の殺虫値を保持するためには別の戦略を開
発する必要性のあることを示唆している。(Ej,hE)
[訳注]自然界ではどんな薬剤にも耐性をもつ昆虫が生じてくるが、
それでも実害を最小限に押さえるための戦略についての説明であ
る。まず、high-doseの作物と、Btを生じない作物(refuge)を隣
り合わせに栽培する。この距離は、昆虫が自由に行き来できる距
離である必要がある。もし、Btに耐性をもつ昆虫が生じてきても
(これをRと記す)、最初は少数であろう。Rは、high-doseで
もrefugeでも生きられる。しかし、耐性のない昆虫(これをSと
記す)は、Btのない、refugeにしか生きられない。Sの個体数は
圧倒的に多い。両者が隣り合っていると、ほとんどの場合は、耐
性のあるRは、耐性のないSと交配する(RSの雑種)。もし、
Rが遺伝子的に劣性であれば、雑種は耐性を持たないから、耐性
のある昆虫が生じてくるのを押さえることができる。
サルモネラ菌をせき止める(Damming Salmonella)
サルモネラ菌は世界中のヒトや動物において胃の疾病や死をもた
らす細菌である。ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)の
抗生物質に対する耐性は重要で且つ大きな問題である。Heithoff
たちは(p. 967、Enserinkのニュース解説も参照)、DNAのアデニ
ン残基をメチル化する酵素であるDNAアデニンメチラーゼ
(Dam: DNA anenine methylase)がネズミチフス菌の病原として
必須であることを発見した。Damはサルモネラの感染により誘発
される遺伝子の少なくとも20の遺伝子の発現を制御している。
Damの内に突然変異を持つ細菌は無毒であり、マウスの野生型細
菌による感染に対する保護を誘発しうるので、この遺伝子はワク
チンの有望な候補である。この無毒な菌株が抵抗力を提供する能
力を持つのは、変異体細菌が腸管粘膜内で増殖するが、他の組織
に対し侵入したり定着したりしないからである。(Na)
糖尿病治療の合理的なアプローチ
(A Rational Approach to Diabetes)
西側世界の人口のおよそ10%は何らかの程度のインシュリン非依
存性糖尿病(NIDDM:non-insulin dependent diabetes mellitus)
にかかっており、より効果的な治療法が切望されている。NIDDMは
インシュリン耐性に関連しており、インシュリン情報伝達経路に欠
陥があるために生じていると考えられていた。薬の開発のアプロー
チとしてZhangたちは(p. 974、Guraのニュース解説も参照)、細胞
ベースのアッセイを用い大量の小さい分子からインシュリンの作用
を模倣する化合物の選別を行っている。この選別によって、彼らは、
ヒトのインシュリン受容体であるチロシンキナーゼの活性化を選択
的に誘発し、様々な生化学的および細胞アッセイの中でインシュリ
ンもどきとして作用する、真菌代謝生成物のL-783と281を同定し
た。L-783と281の経口投与はNIDDMの2種類のマウスモデルでグ
ルコースのレベルを低下させた。これらの結果は、いつの日か糖尿
病治療用のインシュリン経口薬が開発される可能性を示している。
(Na)
グループ努力(Group Effort)
高リン酸濃度環境においては、発芽酵母のPho4タンパク質は5つの
異なる部位でリン酸化され、そしてこの因子は標的遺伝子の発現の
スイッチが入らないように核から取り出される。KomeiliとO'Shea
(p.977)は、タンパク質が色々な部位でリン酸化されてもこれらが1
つの包括的機能を果たすのではなく、個々のリン酸化部位が固有な
機能を提供しているということを示した。リン酸化されると、2つ
の部位では核からPho4の搬出が促進され、1つの部位ではタンパク
質の搬入を阻止し、標的遺伝子を制御するためのもう1つの転写制
御因子と相互作用するために、4番目の部位が必要となる;しかし、
5番目のリン酸化部位の役割については未だに分からない。この様
に、タンパク質中の複数のリン酸化部位は、多様な段階の制御を行っ
ている。(Ej,hE,SO)
水を記述する(Describing Water)
見かけ上の単純な分子構造にもかかわらず、水のクラスターとその
特性を理論的に記述することは、トンネル効果、分極率、水素結合
のような効果のため、やっかいなものであった。 Fellers たち
(p. 945) は、重水(D2O)2の二量体のマイクロ波、テラヘルツ波、
赤外スペクトルを用いて、水の分極可能な対ポテンシャルを決定し
た。高度な第一原理分子軌道計算を用いて、必要となる水の二量体
の固有状態を計算した。このポテンシャルは、水の二量体ばかりで
なく、三量体、四量体の特性を厳密に再現している。これは、微妙
な効果を除いては、このポテンシャルは、小さなクラスターおよび
バルクの両方における水のキー(鍵)となる特性を捉えていること
を示唆している。(Wt,SO)
DNAの修復機構(DNA Repair Dynamics)
DNA損傷の多くはヌクレオチド除去修復
(NER;nucleotide excision repair)として知られている複雑なつ
ぎはぎ(cut-and-paste)のメカニズムによって除かれる。生きて
いる哺乳類の細胞内でNERによる核の編成と挙動を研究するために、
Houtsmullerたち(p.958)は修復エンドヌクレアーゼERCC1を緑
の蛍光性タンパク質で標識し、その動きを顕微鏡で追跡した。DNA
損傷の無い時には、ERCC1は核内に気ままに拡散している。DNAの
損傷が誘発されると、エンドヌクレアーゼの一部がDNAの修復作業
を反映して一時的に静止する、。このような結果は、NERの各々の
成分がDNA損傷の場に個々独立した形で機械的に集まること、及び
巨大なゲノムのセグメントを段階的に走査するというよりもむしろ
拡散によって移動するというモデルを支持している。(KU)
7カ月の乳児による規則の学習と神経回路網
(Rule Learning by Seven-Month-Old Infants and Neural Networks)
G. F. Marcusたち(Reports, 1 Jan., p.77)は、「7カ月の乳児は、
既知の文章よりも、新規な文章にはより長く注意を向ける」と報告
した。Marcusたちは、Dienes,Altmann, Gao. G. T. M.のモデルを
引用して、彼らの実験的な構成からは乳児らによって示された違い
は「遷移確立や、単純なニューラルネットワークモデルによる高頻
度クラスによるシステムによって計数されるだけでは、遂行できな
い」ことは確かであると述べている。AltmannとZ. Dienesはこれ
にコメントして、彼らの使ったニューラルネットワークは「報告で
述べられたような乳児によって示された抽象化の一般化を正確にモ
デル化している」のみならず、「それよりずっと複雑なデータ...」
もモデル化している、と。Marcusはこれに応答して、報告の中で、
この特別なニューラルネットワークモデルを誤解していたことを認
めた上で、これの「一般化と信頼性」に疑問を呈している。このモ
デルを彼自身利用した簡単な実験について述べている。この文章の
全文は以下を参照:(Ej,hE)。
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5416/875a
極めて小さな押し出し機(Nano Extruder)
三元系の金属窒化物は異常な機械的、熱的及び電気的性質を示し、
このようなバルクな材料の合成が活発に行なわれている。
BarsoumとFarber(p.937)はCr2GaNを合成し、そして新たな
異常な性質を見出した---この材料の表面を磨いた後空気中に
1〜2日放置すると、数mm長さのガリウムの微少なフィラメント
が結晶の細孔からひとりでに出現してきた。著者たちは酸素、或
いは窒素との反応によって結晶格子からガリウムが層間脱離して
きた事を示唆している。(KU)
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