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Science October 25, 1996, Vol.274
動物の出現は定説より古かった(An older first appearance of animals)
化石の記録によれば、約5億6500万年前の初期カンブリア紀に突然最初の動
物が出現する。化石の記録は一般的に数千万年に渡る急速な進化の証拠であると
思われてきた。Wrayたち(p.568;およびVermeijによる展望,p.525)は、後生動物門
における分子配列の分岐の割合を決定することによってこの現象を詳しく調べた。
このデータによると、動物は、今まで信じられていたのとは異なって、約10億
年前に出現し、動物門は長い時間をかけて放散したものと思われる。(Ej)
シリーズスイッチ(Series switches)
分子の長さのスケールで機能する電子デバイスの開発の一つの可能な道は、ドナー-アクセプタ
ー( D-A )系における光誘導による電子移動を利用することである。Debreczeny たち
(p. 584) は、D-A-A-D系列において共有結合によるユニットから成る分子を考案した。かれら
は、最初のユニット中の光によるイオン対の生成が局所的な電界を生み出し、それは同一分子
内のもう一つの光誘導による電子移動反応を制御することに用いることができることを示して
いる。(Wt)
熟考の上で(Upon reflection)
電磁気学における電界と電荷の役割と磁界と磁荷との役割とを入れ替える場合のように、理論
物理学では、ある問題に対する解は、適切な系の変換によって他の問題を解くことに用いるこ
とができる。( Girvin( p. 524 )による「展望」を参照のこと)。Shahar たち(p.
589)は分数量子ホール効果を持つ流体とその近傍の隔離された状態の電流-電圧特性を測定し
た。そして、電流と電圧とを交換すると、2つの状態に対し、その結果は本質的に同一である
ということを見出した。この電荷と磁束に対する双対対称性の存在は、量子 Hall 効果に対す
る新しい理論的な洞察を与える可能性がある。(Wt)
火山災害(Volcanic hazard)
ポンペイを破壊した西暦 79年の有名な火山爆発の原因であるベスビアス山には、多くのそれほ
ど劇的ではないが、今世紀の中頃に至る最近まで爆発があった。すぐ近くのナポリ首都圏に対
するその潜在的な危険を評価する取り組みのなかで Zollo たち(p. 592)は、そのマグマ
全体系の内部の幾何形状を理解することを目的として、ベスビアス山の人工地震による研究結果
を報告している。 その結果では、溶融地帯が火山の地下のおよそ 10 kmの深さに存在する可能
性があることを示唆している。(Wt)
HIV-1が侵入するためのfusinとCD4の役割(Fusin and CD4 in HIV-1 entry)
ヒト免疫不全症ウイルス1型がヒト細胞に侵入するためにはfusinのようなケモカ
イン補助受容体の存在が必要である。Laphamたち(p.602;およびCohenによるニュー
ス解説p.502)は、ヒト細胞がHIV-1のエンベロープ糖タンパク質gp120によって処
理されたときには、gp120とCD4の間に形成される複合体がfusinと会合する。ヒト
細胞からは、これに類似した他の複合体は単離されてない。CD4とケモカイン受容
体の正常な機能を妨げることなく、この会合を阻止することが可能な分子を設計
することによって新たなHIV-1感染を防ぐ戦略が生まれるかも知れない。(Ej,Kj)
DNAデータ配列(DNA data arrays)
ゲノム分析の重要な目的は、個体の特定配列の変動と突然変異を迅速に決定する
ことである。Cheeたち(p.610)は高密度のDNA配列を並べたチップを開発し、これ
を使ってヒトのミトコンドリアゲノム(16.6キロベース)の分析を行った。長さLの
配列をプローブとして、15-ヌクレオチドオリゴマーの4Lプローブを含む配列を並
べたものとハイブリダイゼーションさせた。このようにして、1つの染色タグ付
きサンプルと、他の色のタグが付いた対照配列を比較することによって、配列を
数分で読み取ることができる。この方法で、ポリモルフィズムを示す配列でも高
速な分析が可能と思われる。(Ej,Kj)
内部で、しかし中心をはずれて(Inside and off-center)
染色体内において、DNAはヒストンと呼ばれるタンパク質の複合体によって包まれ、
ヌクレオソームと呼ばれる構造を形成しているが、このヌクレオソームはDNAを凝
縮させるだけでなく、遺伝子を制御する役目も持つ。Prussたち(p.614;および
Pennisiによるニュース解説p.503)は、DNA配列の主溝部位に沿って光活性化した
プローブを付着させることによってヌクレオソームの構造を解析した。ヌクレオ
ソーム(GH5)を連結させるヒストンの球状領域への接触部位から、連結(リンカー)
ヒストンはヌクレオソームのコア内部に納まっているが、ヌクレオソームを包む
DNA鎖内部の非対称で、非中心な位置にある。(Ej,Kj)
伝達物質の放出抑制(Reducing transmitter release)
代謝調節型グルタミン酸受容体は脳の神経伝達物質の放出を制御するが、これに
よって受容体が伝達物質の放出を抑制するメカニズムを確認することは難しかっ
た。Takahashiたち(p.594)は、個々のシナプスの電気的活性を計測し、グルタミ
ン酸受容体の活性は前シナプス細胞中のカルシウムのコンダクタンス(伝導度)
を減少させ、その結果カルシウムに起因する神経伝達物質の放出を抑制する。
(Ej,Kj)
核の再利用(Nuclear recycling)
タンパク質がサイトゾルから核に移入される概念は既に確立されている---つまり、
サイトゾル受容体は、核タンパク質がサイトゾル中で合成された後、核タンパク
質上の核局在化シグナルに結合し、そして、受容体-核タンパク質複合体を、移入
するために核膜孔へと導く。Aitchisonたち(p.624)は、異常なクラスの核タンパ
ク質を核へと返却する役割を持った、新しい核内移行受容体について述べている--
-このタンパク質は、メッセンジャーRNAを核から搬出することを助け、また、核
へ取り込まれて、次の輸送業務へと再利用される。(Ej,Kj)
遺伝子特許に制限(Patent office puts a lid on gene claims)
バイオテクノロジー関連会社は、U.S.Patent OfficeとTrade Mark Officeに、大
量の遺伝子配列を請求範囲として申請してきたが、そのため担当部署の管理者は
悲鳴を挙げている(p.487)。これに急遽対応するため、1出願当りの請求可能な配
列の数に上限を設けることになった。今までに、2000から10,000にものぼる配列
を請求した例もあるが、これが10に制限されると言う。こうでもしなければ、
永遠に審査が終らなくなる恐れが強かった。(Ej)
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