[前の号]
[次の号]
Science August 16, 1996
火星の初等生物の存在証拠(Evidence suggesting early life on Mars)
10を越える隕石が火星起源と思われているが、これらの試料に付いて、火星の歴史
に関する情報を得るために詳細な研究が成されてきた。McKayたち(p.924;ニュース解
説Kerr,864;およびLawler,p.865)によれば、これらの隕石の内の一つ(ALH84001)には
、過去、火星に古代微生物が存在していたと考えることによって最も都合良く説明で
きるいくつかの証拠が存在しているが、これら個々の現象1つ1つを無機的プロセス
だけで説明できる可能性も残している。この隕石中の割れ目には炭酸塩小球が存
在している。割れ目の表面の芳香属有機分子が同定された。この炭酸塩には、最大
100ナノメートルの微少な磁鉄鉱と鉄-硫化物粒子が含まれており、その表面は、陸生
バクテリアの化石に似た微小な組織構造を持っている。(Ej)
高分子パターン(Polymer patterns)
通常、ポリマー分子同志は、互いに不溶性である。そのため、diblock(異なる2つ
のポリマー鎖の端が互いに共有結合したもの)の共重合体は、互いに異なる2つの組
成を繰り返すことになるが、これは相分離した互相領域を形成する。Morkvedたち(p.
931)は、表面電極で作られた数ミクロンの電場によって、この互相領域を薄膜状に整
列させた。このような整列領域をテンプレートとして使い、更に複雑なナノ構造を作
ることが出来る。(Ej,Kj)
ナノチューブネットワーク(Nanotube networks)
長い中空のナノチューブは、導管とおよびそれに交差するネットワークを形成すること
ができる。
Evans たち(p. 933)は、二重層からなる小胞を表面へ結合し、そして、マイクロピペ
ットか
らの吸収力を用いて、直径が20から200ナノメートルの長いチューブを引き出した。小胞
は、光に
よる高分子化可能なポリマー[ポリエチレングリコール( PEG )1000 dimethacrylate]
を含んで
いて、レーザー照射することにより、その二重層は強固で柔軟なPEGのゲルのネットワー
クの形成の
ための鋳型として使うことができた。このようなネットワークは、バイオセンサーやデ
バイス中に
おいて、物質の輸送に用いることができる可能性がある。(Wt)
衝突している彗星(Colliding comets)
もし彗星が他の材料と混合しなかったならば、それらは、最も原始的で汚染を受けて
いない我々の初期太陽系の構成要素を代表しているであろう。Farinella と Davis
( p. 938; Yamamoto ( p. 921 )による 展望を参照のこと)は、ある短周期( <200
年)の彗星は、 Edgeworth-Kuiper ベルトから来るのであるが、 かつて考えられて
いたほどには原始的なものではないかもしれないことを示唆している。彼らは、この
領域にはより多くの天体があるという最近の発見に基づいて、ベルトの中の衝突の
割合と数のモデルを作成した。そして、ほとんどの彗星が衝突プロセスを受けてし
まったと結論している。(Wt)
運び去られて(Swept away)
Galileo探査機は、木星大気への降下のすべての期間に渡り、ほぼ一定の速度の強い
帯状の風に遭遇した。これは、太陽エネルギーの吸収が支配的なエネルギー源では
ないことを示唆している。Zhang と Schubert ( p. 941 )は、木星内部の、深い
所にある金属水素とヘリウムの流体層からの熱対流によって、速い帯状の風を発生
させるモデルを提出している。このモデルは、木星の力学にいっそうの洞察を与え
ることとなる。(Wt)
Tax規制緩和(Tax deregulation)
細胞が形質転換すると、無制限な増殖を防止する通常の制御は効かなくなる。ヒトT
細胞白血病ウイルスIは、形質転換している細胞に関わるタンパク質--Taxタンパク質
、を生産する。Desboisたち(p.951)は、細胞の形質転換を阻止すると思われていたタ
ンパク質,Int-6,は、Tax存在下で、通常の局在場所である細胞核から細胞質へと再配
分されることを示した。このことは、形質転換中は、Int-6の正常な機能がTaxによっ
て破壊されることを示唆している。(Ej,Kj)
常時チェック(Kept in check)
染色体欠損のある細胞はチェックポイントで複製が阻止される。例えば、酵母の紡錘
組立チェックポイントは、紡錘微小管を欠く、あるいは染色体を分離する際、配列し
損なった染色体を持つ細胞を阻止する。Hardwickたち(p.953)は、このチェックポイ
ントに付随するタンパク質キナーゼの1つ,Mps1p,が、他のチェックポイント成分で
あるMad1pをチェックポイント活性時にリン酸化化することを示した。Mps1pを過剰発
現する正常な細胞もまた、機能性紡錘をもつ細胞中の有糸分裂を静止することによっ
てチェックポイントを活性化する。このチェックポイントは正常細胞と腫瘍細胞で異
なっているため、この制御を用いることによって、腫瘍細胞を標的とする化学療法に
利用できる可能性がある。(Ej,Kj)
駆除された寄生虫(Parasites expunged)
主としてラテンアメリカにおいて1800万人がシャガス病の原因となっている寄生
虫の"Trypanosoma cruzi"に感染していると推定される。Urbinaたち(p.969)は、ビス
-トリアゾール,D0870,が、マウスの急性および慢性のT.cruzi感染の治癒に効果的で
あると報告している。これは、現在使用されている2つの薬剤(nifurtimox,
ketoconazole)が、病気の進行を遅らせるが寄生虫を除去出来ないのに比べて、現在
抗真菌剤として開発されているDO870は、シャガス病への追加対抗手段に成りうる。(Ej,
Kj)
未知のホルモン(Hormone unknown)
脳下垂体からの成長ホルモン(GH=Growth Hormone)の放出は、成長ホルモン=放出ホル
モン(GHRH)と脳の視床下部から放出されているソマトスタチンの拮抗作用によって制
御されている。しかし、GH放出を起こすある種の合成薬剤(成長ホルモン分泌促進物
質,GHSとして知られている)では、別の経路を使っているようだ。Howardたち(p.974
;ConnとBowerによる展望p.923)は、GHSの作用を仲介する新しい受容体を発見した。
この受容体は下垂体に局在化しているだけでなく、視床下部にも局在化しており、こ
こでGHRHとソマトスタチンの放出の制御を行っているのかも知れない。この新しい受
容体は、自然界におけるGHSの相棒でありGH放出制御の重要な役割を持つ未発見のホ
ルモンである可能性を持っている。(Ej,Kj)
薄膜技術特集(Thin films)
今週は、薄膜に関する特集記事が多数掲載されている。まず、有機LEDディスプレイ
の寿命が飛躍的に伸び、6000時間を越えてきたこと、それには、純度の向上と新構造
の採用が有効であったことが述べられている(p.878)。次に10年前にGruenbergによ
って発見された、Fe-Cr-Fe膜間の電流が磁界で劇的に変化する現象は、高温超伝導と
も絡み、様々な応用の可能性を示しており(p.880)、理論的にはまだ十分な説明はな
されなくても、特に、磁気ヘッドへの応用は確実視されている。また、薄膜の作り方
について、TiC,TiN,Al2O3などの高温材料から(p.889)、生物に学ぶbiomimetic な方
法でシリカと水、雲母と水、グラファイトと水の各界面に成長した薄膜(p.892)、
さらに、150度Cの水中で成長させたPbTiO3エピタキシャル膜(p.907)などまで、多様
な研究報告がなされている。(Ej)
[前の号]
[次の号]