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Science July 5, 1996
ボーズ凝縮を見る(Seeing the Bose condensate)
アルカリ金属のボーズ凝縮は最近見つかった現象であるが、この新しい物質の状態は
直接観察できている訳ではなかった。この様な状態は、運動量あるいはエネルギー空
間において見ることが(識別することが)可能であり、実空間では通常の状態の物質
と共存することが出来る。しかし、不均質ポテンシャル場においてはボーズガスは
空間的に分離される。Andrewsたち(p.84)は、磁場にトラップされたナトリウム原子
のボーズ凝縮の散乱光について報告している。(Ej,Uc)
量子的な点のスペクトル(Quantum dot spectra )
ナノメートルサイズの半導体構造のような量子的な点(量子ドット)
の中で、バンドギャップを越えて電子を励起
することにより、3次元的に閉じこめられた励起子(価電子帯
に存在するホールと相互作用する電子)を形成する。
これらの励起子は原子的状態のように働くことができる。
Gammon たち (p. 87)は、個々のガリウム砒素の量子
ドットから、光ルミネセンスによる励起子スぺクトル
を測定した。そして、これらの遷移の均一な(広がっていな
い)スペクトルライン幅を測定することができた。この
結果は励起子の寿命とダイナミクスを探索することを可能
とる。(Wt)
さまざまな水( Different waters )
水は、さまざまな非晶質の固体を形成する。例えば、
100Kにおいて水蒸気を凝縮させると非晶質の固体の水(ASW)を
生成する。これは、冷却・圧縮されると、もう一つ別の相
である、高密度非晶質固体(HDA)を形成する。 Johari たち
(p. 90)は、ASWも超急冷却されたガラス質の水(水滴を急速
に冷却することにより形成される)も、136Kで高粘性
を持つ水(water A)が形成されることを示している。HDAを加熱すると、低密度
の非晶質の相を形作る。この相は、129K でもう一つのタイプ
の高粘性を有する水,B相,となる。これら2つの高粘性を持つ
水の形態は、それらが148Kにまで熱せられても、熱的に相互
に変換することはない。この液体間にある障壁の存在は、
液体の水において発生する配座の緩和にたいする洞察を与えて
くれる。(Wt)
潮汐と時間(Tide and time)
太陽に源を発する地球の潮汐は、結果として月を地球から遠ざけたり地球の1日の時
間を伸ばしたりしている。Sonettたち(p.100)は、潮汐周期の記録をとどめるいくつ
かの堆積岩を調べた。それによると、9億年前には1日の長さは18時間であり、月
は、先カンブリア紀以来、ほぼ一定の割合で遠のいている。(Ej,Nkd)
ネバダへの川(River to Nevada)
大陸における大局的な古地理は、しばしば堆積物の分布によって決定されるが、古代
の川の源流とその流域を再構成することはもっと難しい。Riggsたち(p.97;およびWue
thrichによるニュース解説p.31)は、堆積学的特徴とともに、砕岩質ジルコン中のウ
ラニューム鉛同位体の特異な特徴を利用して、三畳紀後期(約2000万年前)に、大
河が今のテキサスからネバダへと流れていたことを示し、その全体の水系をた
どって見せた。(Ej,Og)
深く、熱く(Deep and hot)
コマチアイト(komatiite)は、玄武岩に比べてMgOが濃縮した火山岩である。これは、
ほとんどの場合、先カンブリアの堆積帯に見つかることから、かつて地球がもっと高
温であったころ噴出した、高温プリューム由来の深部高温マグマを代表していると考
えられている。Richardたち(p.93)は、コマチアイト中の新鮮なオリビン(olivine)
結晶中にヘリューム3が濃縮していることを見つけた。このことは、コマチアイトが
少なくとも深部マントル由来のプリュームの成分を含んでいることを示唆している。
(Ej,Og)
核の中にカリウムが?( Potassium in the core? )
Parker たち (p. 95)は、高圧でレーザー加熱されたダイヤモンド
アンビルによる、アルカリ金属の研究を行った
。かれらは、カリウムが30Gpa以上の圧力まで圧縮されると、
遷移金属のように振る舞うことを示している。アルカ
リ金属と、鉄やニッケルのような遷移金属とは、高圧で
化合物を形成する。ある程度のカリウムは、地球の鉄の豊
富な核の部分に存在しているかも知れない。(Wt)
移植の保護(Graft protection)
一般的に移植された組織は、T細胞の非自己細胞への反応が回避されない限り拒絶さ
れる。Lauたち(p.109;およびWickelgrenによるニュース解説p.33)はマウスモデルを
使って、膵臓のランゲルハンス島移植は、Fasリガンドを発現する筋芽細胞の同時移
植(cotransplantation)によって保護されることを示した。このFasリガンドはT細胞
の細胞死のトリガーとなり、目のような免疫応答免除部位を保持するシグナルであ
るが。移植寛容性は、Fasリガンドの外来遺伝子の発現が終了するまで維持される。(Ej,
Kj)
細胞の運命共同者(Cell fate partner)
受容体LIN-12/Notchファミリーのメンバーは、個体発生の間、各細胞の運命決定に機能
する。
、Hubbardたち(
p.112)は、線形動物のLIN-12情報伝達経路の他の成分を探しているときに、
LIN-12の細胞内情報伝達領域と相互作用をし、LIN-12経路中で機能するタ
ンパク質EMB-5を単離した。EMB-5の配列決定により、これは酵母の染色質の構造に含ま
れて
いるタンパク質SPT6pの相同体であることが解った。情報伝達カスケードの中で
、EMB-5の機能は、遺伝子活性を調節するために、染色質構造を変化させることであ
ろう。(Ej,Kj)
重なったり離れたり(Overlap and disjunction)
減数分裂の間、配偶子各々が染色体の数と型を正確に保持して、分離が起きる。
相同染色体間の組換えは、正常な分離を保証するが、しかし、すべての染
色体が組換えをする訳ではない。Karpenたち(p.118;およびMarxによるニュース解説p
.35)は、ショウジョウバエのミニ染色体を用いて、組換えを行わない染色体の分離を
調べた。それによると、効率的な分離には、動原体の異質染色体に1000キロベースの
オーバーラップが必要である。異質染色体の減少は、非分離を増加させる。(Ej,Kj)
らせんビームで粒子を回す(Helical beams give particles a whirl)
長い間物理学者の夢であった分子を動かすピンセットは、レーザー光で形成された電
場に粒子をトラップすることによって実現されて来たが、今や、単に掴むだけでなく
、機械的作業か可能なスパナが可能になったとBains(p.36)が解説している。イギリ
スとオーストラリアの2つのチームは、この方法で粒子を保持、回転、移動すること
ができたと言う。イギリスチームはこのレーザースパナで、生きた細胞をつかめるこ
とを示した。この原理は、レーザービームを誘電体物質に絞り込み、誘起された電場
で対象物を保持する。もしレーザー光がドーナツ状の強度分布をしていれば、粒子を
内部に保持出来る。ビームを回転すれば、粒子を回転させることも出来る。また、粒
子を動かす速度を制御出来ることも示した。必要なビーム光のエネルギーは、従来の
レーザーピンセットより少なく、それだけ、対象物に与える影響も少なくなる。(Ej)
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