[前の号]
[次の号]
Science May 3, 1996
追い越し帯なし( No-passing zone )
2車線道路の走行は遅い可能性もあるが、しかしあなたの前の車を追い越すことが許されていない
時はずっと遅くなってしまうであろう。互いに追い越すことができないように制限された経路の中
を拡散する分子もまた、遅くなってしまうだろうことが予想される。しかし、この効果を測定する
のは困難であった。Kukla たち (p. 702)は、ゼオライトの経路の中を「一列で」拡散する分子の
、核磁気共鳴による直接的な測定手段を与えている。このタイプの拡散は、細胞膜中のイオンの経
路の中でもまた起きている可能性がある。(Wt)
汚染のピーク(Peaks in pollution)
南半球における対流圏大気汚染の長期的な地域別データがTOMS衛星のデータから取り
出された。JiangとYung(P.714)はTOMSの柱状領域全体(地表から上空まで)のオゾン
値を、頂上が対流圏を突き抜けるほどのアンデス高地と、近くの海洋地域とで比べて
みた。得られた信号から言えることは、1979年から1992年にかけて、熱帯太
平洋のオゾンレベルは上昇したと言うことである。対流圏オゾン濃度の上昇が空気汚染と関
連があることを考慮すると、この汚染原因として考えられるのは生物資源の焼却であ
る。(Ej)
イオの中の鉄( Iron in Io )
イオ-----硫黄が豊富で、火山活動の活発な、木星の、奇妙な内側の衛星-----は、その質量の20%の
にもなる金属の核を持っている。 Anderson たち (p. 709)は、イオに最接近する時のガリレ
オオービターにより発生されたドップラー波を用いてこの核を探知した。鉄の豊富な核を持つよう
な分化した地球型の、このより小さな同類はどのように進化したのか、また、なぜそれが木星系の
一部分なのかは、なお判ってはいない。(Wt)
層状模様( The layered look)
コロイド粒子の懸濁液は、秩序だった結晶を作ることができるが、このプロセスを制御し、表面上
に2次元的な層に閉じこめることは難しい。Trau たち (p. 706)は、ある電気流体力学的に、電
極表面に2次元または3次元的なコロイドの結晶を成長させる方法を開発した。この方法は、ミク
ロンからナノメーターの範囲のパーティクルに用いることができ、ナノメーターサイズの粒子を構
造ある形に組み立てる道を提供している。(Wt)
会合による刷り込み(Imprint by association)
刷り込みとは、発生期において区別して発現される、特定の母系や父系の染色体領域を識別化するプロセ
スである。LaSalleとLalande(p.725)は、「ヒト染色体15」の母系と父系相同染色
体は、刷り込みに関連している領域(15q11-q13)において優先的に会合し、しかも、
セルサイクルの後期Sフェーズのみにこの会合は起きることを見いだした。この相同染色体会合は、父
系または母系からの15q11-q13領域への寄与が無いことによる遺伝的に障害がある患
者(父系ではPrader-Willi症候群、母系ではAngelman症候群)の細胞中には見られない。これらのこと
から、刷り込みにはトランスに働くエレメントが重要であると思われる。(Ej)
樹状の刺状神経の相互作用(Dendritic spine coupling)
樹状突起棘(dendritic spine)は、神経中枢に存在する特徴的なもので、樹状突起幹(
dendritic shaft)から飛び出してくっついている。このspineが、電気的、化学的に
、どの様にshaftと結合をしているか--これは神経の伝達を理解する上で重要な
プロセスである--を理解するために、Svobodaたち(p.716)は、蛍光イメージング法に
よって直接、デキストランの拡散を測定した。彼らの見つけたことによれば、spine
とshaftは、神経伝達の間、化学的には分離しているが、電気的に分離した隔室では
ない。(Ej)
心臓病のネズミ(Heartsick mice)
家族性肥大心筋症(FHC=Familial Hypertrophic Cardiomyopathy)は、臨床的に多様性
のある遺伝性障害であり、呼吸が短いと言う、軽度の症状から、心不全や突然死と言
ったものまで様々である。FHCのあるものは、β心臓ミオシン重鎖(MHC)遺伝子の突然変
異が原因である。Geisterfer-Lowranceたち(p.731)は、臨床的に定義されたβ心臓MH
Cの突然変異体を、マウスα心臓MHC遺伝子に導入することによってFHCのマウスモデルを
作った。突然変異体にホモ接合体のマウスは生後7日で死亡した。ヘテロ接合体は1
年間生き延び、年齢に応じた血液動態と組織病理学的異常を示し、その中でオス
の方がメスより大きな影響を受けていた。予備試験の結果では、運動許容量はヘテロ
接合体の場合弱められた。心血管病理に関する特集(p.663-693)では、心臓病に関す
る知見と治療について論じている。(Ej)
開かれてこわれる(Broken open)
細胞外のアデノシン3燐酸(ATP)は、細胞膜に大きな膜穴を作ることによってマクロフ
ァージの溶菌を起こすことが出来る。この穴はP2Z受容体として知られているが、そ
の属性はハッキリしない。Surprenantたち(p.735)は、ラットの脳から取り出した2
つの機能を持つATP受容体について述べている。これは、従来の、リガンドに開閉さ
れるイオンチャンネルとしての機能の外に、P2Z受容体から期待されるような特徴--その
受容体タンパク質を発現する細胞に溶菌性穴を作ることが出来る能力--を持っている。(Ej & Kj)
老いも若きも(Both young and old)
進化している間には、2つの両親の種の雑種化によって新たな種が生じうる。Rieseb
ergたち(p.741;Coyneによる「展望」p.700)は、古代のヒマワリ雑種と、実験室で作
られた3つのヒマワリ雑種系統のゲノム組成を詳細に調べた。実験的に作られた3つ
の系統はそれぞれ異なった交差によって生じたが、これらは類似の遺伝子の組合せを
持っていた。驚いたことに、これら実験的に作られた系統は古代の雑種と極めて似て
いた。(Ej & Kj)
ピヨピヨガア(Chick chick duck)
脊椎動物の指の発生の過程で、プログラム化された細胞死(アポトーシス)は指
を形成するために、指の間の組織を除去する(殺す)。ZouとNiswander(p.738)は、
指の間に存在するアポトーシスにおけるの骨形態発生タンパク質(bone morphogenetic prot
ein=BMP)の役割を調べた。優勢な陰性BMP受容体の発現により、発生中のヒヨコの
四肢内のBMPシグナルトランスダクションを阻止することによって、アポトーシスが
減少した。その結果、水かきのある脚が出来たのみならず、鱗が変形して羽が形成され
た。(Ej)
[前の号]
[次の号]